【書籍情報】
世界最先端の研究が教える すごい心理学
内藤誼人
出版社: 総合法令出版(2019/4/10)
ISBN-13: 978-4862806734

【概要・コメント】
心理学の本としては,とても売れている本らしい。

著者が,あとがきで書いているように,この本はまさに「幅広い心理学の領域からデータをかき集めて,雑多なごった煮のようにして出来上がった」本である。

縦書きの,一般向けの本としては,それなりに分かり易くデータを示そうとするなど工夫もみられるが,ロボット工学という自然科学を専門とする自分からすると,ずいぶんイイカゲンな本だなぁとの印象である。

まず,扱っているトピックに規則性が無いため,読者が知識を構成するのが難しい。
結局,この本を読んで何を頭に残せば良いのか,そのメッセージ性が弱いため,印象が薄い書籍という扱いを受けてしまいがちであろう。


取り扱っているトピックは,なかなか面白いので,それらがどのような関係にあり,結局我々は人の心をどのようなものだと思って理解すれば良いのか,
その理を示すのが"心理学"と銘打つ書籍には大切なのではないだろうか?

沢山の論文を読みこなすのも,なかなか大変だと思うので,
是非そのあたりのところを解決して頂きたいものである。

 

またデータに基づく事実(と期待されること)と著者の感想の境目が曖昧なところも,大変残念である。


話は本書の構成とは離れるが,心理学の実験方法を読んでいて,いつも不思議に思うことのが,「本当にその実験は,仮説を検証するのに適切な設定なのだろうか?」ということである。

人間の心という非常に抽象的なものを扱うために,それを抽象化(モデル化)した実験が必要になるのは十分に理解するが,それにしても,実験方法に結果が大きく依存して,普遍的な結論とは程遠いある特定の事象における知識しか得られないのではないかと心配になることがある。

例えば,人が鳴れていることと,慣れていないことのモデリングとして,鳴れていることには,自分の靴を脱いでもう一度履くという行動を設定し,鳴れていないことに,自分の靴下の上から,フリーサイズの靴下をもう一枚重ねて履いて,さらにテニスシューズを履くという行動を設定している実験があった。

確かに,行動の設定が誤りだとは思えないが,慣れている・慣れていないの行動を代表するのが靴下を履く行動というのが,しっくりこない。

論文本体を読んでいないなか否定するのは,宜しくないがそれにしてもこの書籍を通じて行動・タスクの設定に全体的に違和感を感じざるを得なかった。
ほとんどの実験が米国(一部は欧州)で行われているために,このような違和感が生まれているのかもしれない。
是非,これらの論文と同じ実験を日本やアジアでも行って欲しいものである。

いろいろと書いたが,本書ではいくつか興味深い人間の特性が書かれていたので,それを列挙する。

  • P.32 私たちは依頼者の服装を見て,従うかどうかを決めているのです
  • P.45 ビューティープレミアム ①美人は自信があることが多い。②美人は周囲の人から「有能だ」と(誤って)評価されやすい。③美人はコミュニケーション・スキルが高いことが多い。
  • P.50 たいていの人は,複数のサイトで検索などしていなかった
  • P.56 私たちの知能はかなり自動化されているので,意識間違えるのはけっこう難しい
  • P.65 人の話を何度聞いても覚えられない人は,聴覚ではなく,視覚をもっと使いましょう。
  • P.80 単純接触効果:相手と接触しているだけで,好意が高まってしまう
  • P.130 私たちは,自分がたくさんやらされていると感じやすい
  • P.141 私たちが感じる幸福感というものは,人によってだいたいの数値が決まっている
  • P.155 看護師は,医者の言うことなら素直に従ってしまう<中略>医者の指示が間違いだったとしても,看護師はいちいち確認しようとはしない
  • P.198 「罰としての運動」は,それなりに効果があるようなのです。
  • P.224 奇抜な服装をしているときのほうが,レディ・ガガのアーティストとしての才能は高く評価される

 

 




 

【書籍情報】
失敗学 実践編 今までの原因分析と対策は間違っていた!
濱口哲也・平山貴之
出版社:日科技連出版社 (2017/12/19)
ISBN-13:978-4817195999


【概要・コメント】
元東大機械工学科 特任教授の濱口先生の失敗学と創造学の続編である。
本書は濱口先生のセミナーの内容を書籍として書き起こしたもので,基本的な内容は前作と大きく変わりが無い。
一方で,前作に無かった医療業界の実例などが追加されているため,その文体の平易さもあって読みやすい書籍ではある。

前作はかなり芯を食った新しいモノの見方に限定されていたため,内容が理解しずらかったかもしれないので,こちらの書籍に目を通すと理解が進む読者もいるであろう。

しかし,やはりセミナーの内容を書籍化しているので,書籍として洗練されているかというと,やや疑問が残るところではある。
セミナーの参加費は非常に高価だと聞いているので,まずはこちらの書籍で聴講の価値を吟味するのも良いかもしれない。

以下,この書籍の中で興味を持った記述を列挙する。

  • P.3 失敗の主語は人間である。このことを強く意識してほしい。
  • P.22 動機的原因やワナをつかんで失敗行動自体を最初からしないことが最も重要なのである。
  • P.25 (事故や失敗による損失が)起こらなかったありがたみは,誰にもわからない
  • P.29 読む人はなぜあなたが書いた書類をわざわざ時間を使って読んでくださるのか? そこに書かれている何らかの情報を,自分の仕事に役立てようと思うから読んでくださるのである。
  • P.33 会社内のすべての活動に,その意義や設計根拠を取り戻してほしい。
  • P.39 「言い訳」を「言い逃れ」と勘違いしている
  • P.44 成功のカラクリは失敗のカラクリの論理的反転(である)
  • P.47 対策を考えるのが難しいと言う人がよくいるが,そのような人の多くは失敗のカラクリを考えていないのだ。
  • P.54 (書類の情報を)転記することが目的であり必須であると考えている間は,ダブルチェック,トリプルチェックというアイデアしか生まれてこない。
  • P.70 失敗の定義は当事者が意識下で行った行動を書いて欲しい
  • P.75 「正解行動を出来なかった理由(お詫びの言葉)」を聞いているのではなくて,「後に失敗と定義される行動をした理由(原因分析に役に立つ情報)」を聞いているのである。
  • P.77 (動機的原因を正しく書くコツは)「だったんだもん」を語尾に付ける(ことである)
  • P.79 マニュアルがなかったのが原因で,今回マニュアルを作りました!と(言うのは)<中略>完全に時系列が逆転しているのである
  • P.110 失敗のカラクリ(は起承転結で考えると説明がしやすい):「起」のように考えて「承」の行動をとると,「転」というワナが待ち構えていて,「結」という失敗・事故につながる
  • P.115(失敗の対策において)事実や行動だけに対策を打つと,対策が功を奏する範囲が狭すぎる
  • P.119 流用・転用・実績という言葉が浮かんだら変更点と読み替えろ。なぜならそれは今回のために設計されたものではないのだから。
  • P.121 一般的な「なぜなぜ分析」は,すでに解明されている物理現象を論理的に整理・説明する際に有効な手法といえる。
  • P.132 失敗学の特徴は<中略>事例事象平面で物事を考えるのではなく,一般化平面という概念の世界で演算して事例事象平面に再び降りてくるのである

 

 

【書籍情報】
メインテーマは殺人
アンソニー・ホロヴィッツ (著)  山田 蘭 (翻訳)
出版社 : 東京創元社 (2019/9/28)
ISBN-13 : 978-4488265090

【概要・コメント】
久しぶりに技術書ではなく,推理小説を読んでみた。
しかも著者は珍しく日本人ではない。

さて,いきなり辛口の批評から入るが,一人称視点の探偵モノ?の推理小説としては,標準的な作品だと思われる。

Amazonのレビューなどで,しっかりと伏線が回収されていることを素晴らしいと誉めているが,そんなことは推理小説としては当たり前な条件なので,この小説を称賛するのに十分な条件とは言えない。

この小説の作者自身が主人公であるというのは,小説の中では珍しいほうではあると思うが,世の中に全く無いというわけでもないだろう。

この小説を褒めるとしたら,とにかく描写が細かいことであろうか?登場人物が比較的多い方であるが,伏線を張る(張った伏線を見えにくくする)ためにとにかく,人物およびその周辺環境の描写が細かい。

イギリス人の生活に関心がある人は,その描写だけでも楽しめるかもしれない。

 

一方で,"推理"小説としてみると,話の根幹で読者に驚きを与えるのではなく,文字遊びで読者に驚きを与えているような印象があるのが少し残念である。

とはいえ,文字遊びこそが小説の醍醐味であるとも言えるのだが,最近技術系の書籍や文書ばかり読んでいるせいか,
"結局何なのか?"を早く知りたくなってしまう。。。

小説を楽しむには,心の余裕が必要だと思い知らされることにもなってしまった。