【書籍情報】
ビジュアルでわかる江戸・東京の地理と歴史
鈴木理生・鈴木浩三
出版社: 日本実業出版社 (2022/11/25)
ISBN-13: 978-4534059611

【概要・コメント】
まず,この本が取り扱っている内容は非常に興味深い。
江戸が一大都市としてどのように成立し,どのように東の京へと発展していったのか,そこにはどのような問題・課題があったのかの全体像を把握できるという意味で,優れた書籍である。

江戸が海を埋め立てて作られた人工の土地であること,そして周りが塩水に覆われているため,飲み水となる真水を手に入れるために多大な労力と犠牲が払われたこと,これが本書の中で最も印象的な内容であった。
こんな低湿地をよく世界有数の都市に仕上げたものだと,江戸を作った人々の辛抱強さに驚嘆するばかりである。

一方,荷物の運搬が水運から自動車などの陸運に代わったにも関わらず,道路の道幅や構造そのものを大幅には変えることのできなかった東京の残念さが際立つ。
首都高速道路を川の上にはい回すという考えは,道にする土地のない東京での苦肉の策だったわけである。
その結果,もはやレースサーキットのような,カーブだらけの”高速”道路ができあがってしまい,運転な苦手な人を苦しめているのである。

武蔵野はもともとも,原生林が多い茂っていた場所において焼畑農業を行った結果,水が乏しい本当の野になってしまい,水利技術が向上するまで本当の"野"となってしまったのは皮肉なものである。

江戸の町名は,明示になって無理やり付けられたもののようだが,武蔵野のような地名は,その土地が持つ特性を表していることが分かり,本当に興味深い。

東海道の品川宿や奥州街道の千住宿など江戸から一番近い宿が,非常に活気があったというのも興味深い。
遠方から江戸に来るお客を出迎えたり,遠方に出向く知人を見送ったりと,宿には様々な人間ドラマがあったようである。
その結果,宿の近辺では性風俗を取り扱う業者が発達したというのも,人間の愚かさをよく表しているという意味で興味深い。
旅の恥は掻き捨てというが,何も江戸からたった1つ先の宿で,恥をかく必要はないのではないだろうか・・・。

ところで,せっかくたくさんのカラーの図があるにも関わらず,それらの図をうまく活かし切っていないのが大変残念である。まずもって図の参照方法が乱暴すぎる・・・。
図にたくさんのマーカや補助線などを加えて,図のどの部分についての説明をしているのか,丁寧に説明して欲しかった。

この図と本文の対応のわかりにくさを除けば,非常に興味深い内容をとり扱った本だと思うので,少々残念である。

 

 

 

【書籍情報】
今だから知りたいワクチンの科学
中西貴之 著,宮坂 昌之 監修
出版社: 技術評論社 (2021/3/8)
ISBN-13: 978-4297120016

【概要・コメント】
新型コロナウィルス感染症のパンデミックの中で,出版されたワクチン本の1冊である。
このコロナ禍にテレビなどで,ワクチンの情報はたくさん流れたが,自分の中にしっかりと知識として定着した感じがしなかったため,本屋でジャケット買いした。

結論から言うと,ワクチンに関して総合的な知識が増えたので,読んでよかった。
ただ,他のワクチン本を読んでいないので,この本がベスト,ベターなのかは判断がつかない。

本書のスタンスとして,難しいことは一切抜きにして,ワクチンを接種すべき理由を述べている。

著者の表現には,ワクチン接種を推奨するあまり,やや偏ったものがあり,一般の出版社の本にしては珍しい論調である。
それくらいワクチンを推奨していると捉えることもできるかもしれない。

本書を要約すると,適切な治験を経て市場に出回っているワクチンは,個別の副反応などのリスクは否定できないが,確率論的には有効なものである,ということになるだろう。

人間は個別の利害(ワクチンの場合は副反応)に目をやらず,世の中の動きを俯瞰的かつ確率論的に(主に期待値で)考えることができないのは,行動経済学が示している。
そうでなければ,あれほど宝くじが売れ続けるわけがない・・・。

ということで,確率論で行動できない人間 vs. 確率論で進化するウィルスという対立構造は永遠に続くということになるのであろう。

一般に科学論文や工学の教科書の場合は,難解な本文を補助すべく図表が用いられるが,本書は逆である。
本書における本文において,ワクチンの仕組みなどの科学的・技術的な説明は非常に軽く・薄い,本文では細かなところは一切説明せずに,やや詳細な図表を用いて技術的な説明を補足している。
※個人的には,このような表現方法にはあまり馴染めなかった。好みが分かれるところであろう。

以下,本書の中で興味深いと感じた記述or内容である。

  • P.12 ワクチン接種は,病原体に侵入されっる前の健康な段階で,<中略>あたかも病原体に侵入されたかのような環境を体内に作り出し,実際の感染経験なく,獲得免疫を構築することが目的です。
  • P.42 アジュバント<添加物のこと>が自然免疫を刺激し,獲得免疫が動きやすい状況を作る
  • P.52の解釈 ワクチンの有効率とは,ワクチンを接種することで発症する確率を減らせる割合のこと。→有効率30%ならば,接種しない場合よりも30%は発症を減らせるということ。
  • P.55 ワクチンの効果持続期間は永久ではない。おたふく風邪~20年,インフルエンザ~4か月 ※インフルエンザの株は変異しやすい
  • P.60 体重1kgあたりわずか3グラムの食塩を食べさせただけで50%の確率でネズミは死亡する。
  • P.104 混合ワクチンと多価ワクチン 免疫系は数十万~数百万の抗原に対して常に稼働,あるいは待機状態にあり,そこにわずか数種類の抗原(ワクチン)が接種されてても混乱など起こすはずがありません。
  • P.108 この(ウィルス組み換え)ワクチンは体内で,<中略>持続的に液性免疫と細胞性免疫の柳雄法の免疫刺激を引き起こすことが可能です。したがって,従来のワクチンよりも高い免疫反応が期待できます。 ※P.113の図がとても分かりやすい
  • P.112 「ウィルス様粒子ワクチン」は,ウィルスの遺伝子を含まず,無害な外殻タンパク質だけをワクチンとして接種するものです。
  • P.117 毎年,膨大な人数が(インフルエンザの)予防接種を繰り返しても根絶できないのは,動物にも感染するため<中略>ウィルスが常にどこかの動物に潜んでいてヒトに感染するからです。
  • P.118 複数種類のウィルスが同時感染していると,感染された細胞の中で雑種のウィルスができあがってしまい<ます>。<中略>このような現象のことを「抗原シフト」と呼びます。
  • P.120 日本の人口を1億人とすれば,<インフルエンザ>ワクチンの効きが<有効率30%と>悪くても,<発症者を>300万人も減らすことができる
  • P.133 生ワクチン由来ポリオウィルスの糞口感染がアフリカ,東南アジアで頻発する事態となっています。
  • P.146 デング熱ワクチン 初回感染時には症状が出ない人がほとんどです。ところが,再感染した場合には命を落とすことがあり,これは「抗体依存性感染増強」と呼ばれている現象です。
  • P.162 根絶可能な感染症の特徴 ①有効なワクチンがある,②ワクチンの接種率が世界全体で高い,③有効な治療薬がある,④有効な検査方法がある(感染者を特定できる),⑤ヒトにしか感染しない,⑥発症していない段階では,感染源にならない,⑦感染しても症状がでない,不顕性感染がない
  • P.196 エイズワクチン HIVは一年間で1%もの高い割合で変異を起こしている<中略>ため,弱毒生ワクチンが使え<ません。>理由は,<中略>強毒型に先祖返りするリスクが高いからです
 

【書籍情報】
すばらしい人体 あなたの体をめぐる知的冒険
山本 健人
出版社: ダイヤモンド社 (2021/9/1)
ISBN-13: 978-4478113271

【概要・コメント】
すごく売れている書籍と評判だったので,購入してみた。
まず,縦書きの本としてはよくできていると思う。

人体の仕組みについて,特に難しいことは書かずに,理解しやすい咀嚼した形で説明を仕上げている点は素晴らしい。

一方で,16万部も売れるほど,素晴らしい本かと言われると・・・。
やはり出版社の宣伝が大変上手なのだろう。
表紙やまえがきも,なかなかキャッチーで,途中の挿絵も豊富なので,売れる教養本・豆知識本の条件はすべて満たしていると思われる。
でも,すべて読み終わった後に,何かが残っているかと言われると,残念ながらその感覚はない。

いかんせん,通勤の隙間で1週間で読み終えられるのだから,その程度の内容でしかない。
1つ前の制御の本は,トータルで1か月ほどかかっているのだから,それと比べると内容の(密度の)違いは仕方がないだろう。

トータルとして,人体や人間工学に関して他の本を読んだことがないのであれば,この本を読んで損はないと思う。
これ1冊で,人体の神秘に触れたと感じ,次の1冊を手に取りたく内容化と言われると・・・,である。

最近の出版社は,Webサイトやnoteでバズった人を見つけてきて,本の執筆を進めるのが常套手段のようである。
この著者も「外科医の視点」というWebサイトに記事を書いていて,その際とに出版社が目を付けたということであろう。

この「外科医の視点」というWebサイトの記事は,結構面白いので,本書を購入するのをためらわれた人も,まずはサイトを見てみるとよいかもしれない。

以下,本書で気になった内容を列挙しておく。

  • P.55 頭にタンコブができやすいのは,頭皮は血が出やすいうえに,すぐ下に頭蓋骨があるために溜まった血液が内側に広がれず,外側に広がって皮膚が膨らんでしまうからである。
  • P.073 ピロリ菌は,アルカリ性であるアンモニアを産生するため,自らの周囲の強酸を中和できるのだ。
  • P.076 胆汁に含まれるビリルビンが,腸内細菌の作用でウロビリンに変化し,これが便を茶色くしているのだ。
  • P.091 なぜ食後に便意を催すのだろうか? 実は,「食べ物が胃に入ると大腸の蠕動が促される」というしくみがあるからである。
  • P.167 すべての妊娠の70~80パーセントは,主に染色体異常によって気づかれないうちに流産として終わるともいわれる。
  • P.177 鎌状赤血球症の異常な赤血球は壊れやすいため,マラリア原虫が侵入すると赤血球が破壊され,原虫が増殖できなくなる。
  • P.242 麻酔の安全性を高めたのが,イギリスの医師ジョン・スノウである。先に述べた通り,コレラの原因を見抜いた医師だ。
  • P.255 2019年の国際糖尿病連合(IDF)の調査では,世界で4億6300万人,すなわち11人に1人が糖尿病にかかっているとされる。
  • P.259 アスピリンの主な副作用は,(P.260 胃や十二指腸の粘膜を保護する作用を持つ)プロスタグランジンを産生する酵素,シクロオキシゲナーゼを阻害することである。
  • P.261 NSAIDs (非ステロイド性抗炎症薬)を長期に使用する際に,消化性潰瘍の予防効果が証明されているのは,プロトンポンプ阻害剤,プロスタグラジン製剤,H2受容体拮抗薬と呼ばれるタイプの胃薬だけである。
  • P.333 へそはもともと腹腔の中と外がつながる出入り口だったために,硬い筋肉や筋膜が部分的に欠損している。したがって,もっとも壁が薄く,腹腔内に安全に到達しやすい。
  • P.362 学びによって高まるのは,「知識の量」よりむしろ「知識がないことへの自覚」だと私は思う。