【書籍情報】
知ってますか理系研究の“常識“ 研究・論文・プレゼンの作法
掛谷 英紀
出版社: 森北出版 (2020/7/31)
ISBN-13: 978-4627973619

【概要・コメント】
新人さんに毎年研究ガイダンスを行っているのは,いかにも非効率なので,少しは楽できる方法はないかと,本書を手に取ってみた。

内容は極めてコンパクトである。
読書に不慣れな新人さんに向けて内容を厳選しており,しかもクイズ形式なので,前のめりに読める点が素晴らしい。

とはいうものの,この手の書籍を読んで,本当に新人さん自ら理系研究の基本を学んでくれるのだろうか?という疑問も残る。
勘ジニアリングをしても仕方がないので,新人さんに本書を渡してみて,どれくらい効果があるのか,これから実験をしてみたい。


以下,章(トピック)ごとに感想を書いてみる

※章のタイトルは本書からの引用である。

  • 1章 研究の“常識”
    研究者として持つべき倫理感,価値観などについて書かれている。

    どれも至極当たり前な内容だが,新人さんを指導すると,いつも悩まされるポイントである。つまり,ほとんどの新人さんは「自分は正しい"常識"を本書を読む前から持っていた」と勘違いしやすいが,実際にはそれを実績するのがなかなか難しい項目ばかりである。

 

  • 2章 卒論・投稿論文の“常識”
    この本の中では,この章が最も新人さんに響くのではないだろうか。大学の卒業論文を書くまで(下手をすると社会人になるまで?)まともに自分が作成した文章を添削して貰ったことがない人もいるだろう。そもそも科学技術としての日本語教育の機会は,(学位)論文執筆までは訪れないのだから,ほとんどの技術者が発達途上である可能性が否めない。
    是非,本章に目を通して,正しい文章を書けるようになって欲しい。
     
  • 3章 科学技術英語の“常識”
    どれも非常に良いポイントを押さえた記述だと思う。特に日本人がおこしがちな間違いに焦点を当てている点が素晴らしい。

    英語の文書を未経験者に書かせると添削がとても大変なので,細かく書きたくなるのはもっともだが,本書で取り扱う内容でどれほど新人さんに響くか,やや疑問も感じる。
     
  • 4章 研究発表・プレゼンの“常識”
    発表,プレゼンのポイントをこちらもかなりコンパクトにまとめている。

    コンパクト過ぎて物足りないくらいだ。
    もっと人間工学的に分かりやすいスライドにするための工夫を徹底して欲しい。例えばP.144の棒グラフでは,棒が横方向に並んでいるのに,凡例が縦方向に並んでいて読みにくい。

    この手の分かりやすい発表資料作成方法については,最近は他にもイロイロ良書が出ているので,それらをお薦めしたい。

 

 



 

【書籍情報】
154-失敗百選 41の原因から未来の失敗を予測する
中尾政之
出版社: 森北出版株式会社 (2005/11/2)
ISBN-13: 978-4627664715

【概要・コメント】
機械工学を中心に,技術的視点で分析すべき失敗の事例を集めて,それを分類し紹介している書籍である。

何よりこれだけの失敗事例を集めたの素晴らしい。
そして,本書を読むと,今後も技術的な失敗は無くならないだろうな,と思う。

正直,これを執筆している著者にとっては当たり前な工学的知識かもしれないが,実際の設計現場にいる技術者たちが,これらの知識をどれだけ保有して実際の設計にあたっているかは疑わしい。

そして計算機科学という新たな技術分野が著しい速度で発展する中で,これらの古き工学をベースとする知識を技術者が学ぶ機会がどれほどあるのかという疑問もある。

科学技術が万能でないことは,昨今の戦争や自然災害への対応がお粗末なことを見ても分かるが,それにしても,本書を読み,今後も類似の事故が起こってしまうという予測がおそらく当たるだろうことは,技術者として悲しいことであるし,やるせない気持ちになる。

そのような半分諦めがありつつも,ひたむきに過去の事実と向き合い,知識を吸収するしか我々には方法がないのであろう。
※少なくとも人工知能が失敗を予測してくれる世の中は,しばらくは来てくれそうもない。


ところで,失敗百選をただ見たいのであれば,以下のWebサイトに情報が掲載されている。
http://www.shippai.org/fkd/lis/hyaku_lis.html

ただ,それをある程度カテゴライズし,「読者にとってどのようなカテゴリが予想外なのか?」を問いただしてくれるのが本書の重要な役割であろう。

本書は(機械工学を中心とする)技術者としての基本知識を見直す良いきっかけを与えてくれるに違いない。

ちなみに,本書は技術的視点を中心として分析をしているため,人間中心的な視点での分析は,巻末に少しだけ書かれているに過ぎない。

全ての失敗が人間の周りで起こっていることを考えると,もう少し人間中心の議論が展開されても良いのではないかと感じた。

 

 

 

【書籍情報】
11ステップ 制御設計 PIDとFFでつくる素性のよい制御系
酒井英樹
出版社: 森北出版 (2021/3/31)
ISBN-13: 978-4627676312

【概要・コメント】
PID制御は産業用途で最も使われている制御則の1つだと思われるが,その詳細な構成法やパラメータ調整に書かれた書籍は少ない。

本書や"難解な"制御理論はひとまず横に置いておいて,実際にPID制御を使えるようにしようとする解説本である。
特に,使うセンサの選び方から,PID制御とFF(Feed Forward)制御を組み合わせ方など,実際の実装を強く意識した教科書である。

この手の制御解説本を初めて読んだが,制御の教科書と比べると非常に実践的なことが書かれており興味深い。
特に理論背景よりも,実際に制御をするためには何を考えるべきかに注力しようとしている点が面白い。

しかし,やはり制御の教科書をある程度理解してからでないと,本書で紹介している方法が,なぜ,どのような仕組みで上手く行くのかを理解するのは難しいであろう。

ということで,例えば吉川先生の「古典制御論」の教科書を7割程度理解し,それから本書を読むと,実際に制御を使いこなせるようになると思われる。

また,本書で1点残念だったのは,FF制御を推奨しているのに,制御対象の伝達関数を求める手法についてほとんど書かれていない点だ。

単純な積分系などはラプラス変換の仕方も書かれているが,対象が複雑な運動方程式で書かれるものになったときに,どのように伝達関数を導出するのか,運動方程式の例やシステム同定のようなトピックも,(せめてAppendixでは)触れて欲しかった。

ということで,制御の教科書はある程度理解したけど,実際に制御器を構成するのに「次に何をしたら良いか分からない」人にはお薦めの書籍である。