【書籍情報】
知的文章術入門
黒木登志夫
出版社: 岩波書店 (2021/9/21)
ISBN-13: 978-4004318972

【概要・コメント】
文章術入門というタイトルからは,文章作成術を期待するかもしれないが,この書籍が書いていることはもう少し幅が広い。

日本語を大切にすることから始まり,もちろん知的な文章の書き方,そのための情報収集方法,そしてそれを発表資料にまとめる方法,最後に英語での知的文章の書き方で締めくくる。

この書籍を読むと,文章が人の智を構成するのだということを改めて認識させられる。

このような書籍を大学一年生の時に読み込み,これから4年間で大きな成長を遂げるのだと学生が自ら意識を高めれば,大学の過ごし方,そしてその価値も変わるような気がする。

ザ・理系の筆者としては,大学一年生の時に目を通し,そして卒業論文執筆前に改めて熟読して何のために,そしてなぜ卒業論文を書くのか,そしてどう書くのかを一度しっかりと考えて欲しいと思う。

自分で書いた文章が自らの智を構成すると考えると,恥ずかしい文章はかけないはずである。

理系とか文系とか定義の曖昧な区別に躍らせらずに,皆が知的な文章を書けるような教育を目指したいものである。


以下,本書の中からいくつか心に響いた文章を抜粋する。

  • P.2 そもそも,われわれは,きちんとした文章を書くための日本語教育を受けていないのだ。
  • P.11 (日本語では)一番大事な述語が文末に来るため,長い文では,最後に到達するまで何を言いたいのか,肯定か否定か分からない
  • P.18 知的文章を書くためには,話すのとはレベルの違うエネルギーが必要
  • P.21 簡潔は知恵の要 (brevity is the soul of wit)
  • P.23 声に出してすらすらと読め,自然と頭に入ってくるようなら,よい文章であると言ってよい。
  • P.26 やさしく書く:むずかしいことをやさしく,やさしいことをふかく,ふかいことをおもしろく,おもしろことをまじめに,まじめなことをゆかいに,そしてゆかいなことはあくまでゆかいに。
  • P.27 英語のパラグラフは,一つのテーマをもった一つのセクションである。
  • P.63 読む人を意識することが大事だ。
  • P.77 最初にタイトルを決めなければならない。(中略) 著者と所属を書いたら,定型的な文章で材料と方法を書いて,頭の中を論文執筆モードにしよう。
  • P.112 フェイズブックを使うほど孤独になり,幸福感は減っていったという。なぜだろうか。それは「デジタルな嫉妬」のせいだ。とハンセンは言う。
  • P.130 プレゼンテーションには,原稿を書くとき以上に簡潔・明瞭・論理的の「知的三原則」が必要である。
  • P.162 よい論文は,筆者の言いたいことをわかりやすく図にまとめているはずだ。

 

 


 

【書籍情報】
「面白い!」のつくり方
岩下 智
出版社: ?CCCメディアハウス(2019/6/27)
ISBN-13: 978-4484192215

【概要・コメント】
電通クリエータの書籍である。

著者が本書の最後で述べているように,本書は面白いものを作る「方法論」を示そうとするものではなく,「心構え」を表したものである。面白いという言葉の意味をその関連するキーワードとともに辞書を参照して,丁寧に考察し,それをマップというカタチでまとめて議論している。よって,面白いものを作る「方法」を知りたいと思って本書を読んだ読者は肩透かしをくらったように思うかもしれない。

本書を読むと
技術 v.s. 芸術
という比較を強く意識させられる。

技術とは,「科学の原理を役立てて、ものを生産したり組織したりするしかた・わざ」※1であるが,原理・原則を大切にし,それに基づけば誰でも同じ品質のものを作ることを重んじる。特に工学は同じものを作る生産性を大切にしている。

一方で,芸術は「独得の表現様式によって美を創作・表現する活動」※1であるが,そこには生産性という概念はない。むしろ,これまで世の中に無かった唯一無二のものを生み出すことを大切にしている。

本書で議論されているのは,技術ではなくむしろ芸術的モノの見方に関するものであると感じる。

つまり,本書の「作り方」に従うと誰でも面白いモノが作れることになるという議論をしているわけではなく,面白いモノを作るようになれる人間になるための活動基準=「心構え」が書かれている。

本書を技術書として読もうとすると,期待とは異なる内容かもしれない。一方で,芸術書?(適切な表現が分からないが…)として読むと,クリエータが大切に(しようと)している基準がしっかりと書かれており,非常に興味深いと思う。

※1:グーグル日本語辞書・Oxford Languagesを参照

さて,話を各論に移そう。

  1. 「面白いことコンプレックス」に陥っている人は実は「笑えることコンプレックス」に苦しんでいるだけかもしれない,との議論があり,これはまさにその通りだと思う。笑えることは一言も言っていないのに,面白い話をしている人は沢山いる。一方で,面白い話には局所的または大局的に何か強いメッセージを聴衆に送り込む力があるのは間違いないであろう。
     
  2. 著者は「面白さ」を「言語化」することの大切さを強調している,一流のクリエータになるとビジュアル化・画像化するのが得意なため,おそろかにしてしまいがちになるが,なぜ面白いのかの理由を考え・伝える上で言語の大切さを述べている。
     
  3. 「冗談みたいなことを本気で具現化することの面白さ」は,まさにその通りだと思う。結局は,本気で取り組んだものこそが相手に伝わる何かを持つのは間違いないであろう。
     
  4. 著者が提案しているように,自分が好きな面白さを言葉にすると
    「技術」を「無駄遣いする」と面白くなる
    であろうか。
    技術は前述の言葉の定義のように,本来は生産性を重視するものであるが,それを逆手にとって,無駄遣いしているものは,エンジニア魂を感じて面白いと思う。
     
  5. 著者は面白さの法則を「抽象化」することの大切さを述べているが,抽象という表現が自分には馴染めなかった,むしろ「上位概念化」するという表現の方が適切ではないだろうか?
     
  6. 中央集権 対 分散の対立についての議論は,本当に興味深く,これから世の中がどのように変わっていくのか楽しみである。自分としては分散化することによって,結局問題がシンプルになると考えている。つまり,万民に面白いと思って貰える平均的なものを作るよりも,あるグループに面白いと思って貰える尖ったものを作る方がシンプルだし,結局はみんなが幸せになるのではないかと思っている。

    これはロボットでも言えることで,産業用ロボットアームのような汎用的(平均的)なロボットも役に立つし,人型ロボットのように中央集権的に一台で全てをこなそうとするロボットも興味深いが,タスクを分散化したときに必要とされる尖ったロボットとは何か?今後も考察を深めていきたい。そのような意味で,世の中全体が適切なサイズへの分散化が進むことを期待している。

【書籍情報】
ヒューマンエラー防止の心理学
重森雅嘉
出版社: 日科技連出版社 (2021/1/21)
ISBN-13: 978-4817197283

【概要・コメント】
人間やはり失敗はしたくないし,周囲の人間に失敗をして欲しくないのか,ヒューマンエラーの書籍はたくさんあり,その目的・アプローチも多様である。

本書籍は心理学をベースとしてヒューマンエラーについて記述している。
ヒューマンエラーは認知の問題が大きいとされており,素直なアプローチであると言える。

書籍の前半で,心理学分野で有名な基礎的な実験(マジックのようなもの?)が複数紹介されており,ヒューマンエラーを理解するために,基礎的な心理学の知識を得るためには有用な内容であると思う。

また事故(ヒューマンエラー)分析についても,詳しく書かれており,分析において気を付けるべきポイントなどは非常に有用である。

一方で,心理学に基づくとヒューマンエラーは絶対に無くせないというのが,この著者の主張であり,その主張には賛同するものの,もう少しヒューマンエラーを削減したり,その影響を小さくしたりするアプローチについても詳細に記述して欲しいと感じた。

以下,本書の中で興味深いと思った記述を抜粋する。

  • P.3: 管理的安全の問題は大きく分けると,以下の2つになる。
    完璧性問題:いくら完璧な手順を想定しようとしても想定しきれないものが必ず存在すること
    効率性問題:完璧な手順書を作るために手順を加えれば加えるほど効率が低下すること
  • P.4: 事故が起こるたびに,管理的安全に従って作業手順の不備が指摘され,より詳細で複雑な作業手順を作ることにより,随分効率が悪くなり不便にな(る)
  • P.14: 私たちの思考パターンは基本的に日常のルーチンに過剰に適応している。→正常性バイアス(normalcy bias)
  • P.23: 結果に対しての批判を恐れることを評価懸念といい,評価懸念があると自主的な行動が妨げられる。
  • P.29: 心理的安全を高めるリーダーの行動 ①直接話のできる親しみやすい人,②知らない・分からないことを認める,③自分も間違えると示す,④まわりに意見を求める,⑤失敗は学習する機会であると強調,⑥具体的な言葉を使う,⑦望ましいこととそうでないことの境界を明確にする,⑧境界を越えたメンバーには責任を負わせる
  • P.37: 認知心理学者のリーズン(Reason)はこのような(お金持ちになれなかったというような)ものも知識ベースのミステイクとしてヒューマンエラーの1つとして扱っていた
  • P.51: 少なくとも「自分には思い込みがあるかもしれない」と知っているだけでも,気付ける可能性は高まる。
  • P.52: 知っているはずなのに思い出せないという<中略>現象をそのまま「喉まででかかる現象(Tip-Of-the-Tongue phenomenon:ToT)」と呼(ぶ)
  • P.53: 間違っているかもしれないという情報は無視されやすい(確証バイアス)
  • P.61: 未来に実行すべきことを覚えておく記憶のことを認知心理学では,展望的記憶と呼んでいる
  • P.70: すでに自動化された処理に,向けなくてもいい注意を向けることを再投資(reinvestment)と呼ぶ
  • P.70: 身に付けた自動処理に余計な注意を再投資すると逆に自動処理を邪魔し,行為がぎこちなくなる。このような現象は「分析による麻痺(paralysis by analysis)」と呼ばれる
  • P.71: 不安に思っていることを具体的に<中略>書き出すことで,限りある注意資源の中から不安事が消えていくそうである →expressive writing
  • P.87: コメンタリー・ドライビング(自分が考えたことを声に出して運転する安全運転訓練法)を行うと危険に気づきやすくなり,危険行動が減る
  • P.93: 集団(社会)で作業を行うと,個人で作業を行うときに比べて,1人ひとりの作業成績が落ちてしまうという問題(社会的手抜き)が発生する
  • P.105: 私たちの心に響くのは統計的なデータではなく,より具体的に関係者が目に見えるようなストーリーなのである
  • P.111: 本当に大事故を防ぐためには,逆に世の中が細かな事故にあまり厳しい目を向けない余裕も必要なのかもしれない
  • P.116: ヒューマンエラー防止の基本法則の1つは,効率を下げることなのである
  • P.117: できるだけ作業をシンプルにすることがヒューマンエラー防止には重要である
  • P.118: ヒューマンエラー対策の基本法則の3つ目は,完璧な対策はないということである
  • P.120: 安心は安全を脅かすものであり,安全の敵といっても過言ではない
  • P.131: 機器に関してはその専門家に聞くのが当たり前のところを人に関して人の専門家に聞く必要性を感じて貰えない
  • P.155: 事故分析の注意点(まとめ)①すべてを明らかにすることはできない,②複数の直接原因を明らかにする,③想定されている手順と実際に行われた手順を比べる,④事故発生時の様子がイメージできるくらい具体化する,⑤自分も同じ状況なら同じ事故を起こすかもと思えるくらい掘り下げる,⑥原因は多様である,⑦後知恵バイアスを避ける