【書籍情報】
思いどおりになんて育たない 反ペアレンティングの科学
Alison Gopnik
出版社: 日科技連出版社 (2021/10/22)
ISBN-13: 978-4817197412
【概要・コメント】
子供は育てるのではない,子供は良い環境の中で育つのだ。
それが,本書の主張である。
米国で広まった,ペアレンティングという考え方,すなわち,親の行動によって子供の育ち方は変わるし,変えられるという考え方に対して,まっこうから反対した書籍である。
子育てにおいて親は庭師(Gardener)のような存在,つまり子供が自ら育つ環境を整え,時に大きな危険から子供を助ける役割を担うべきである。
ペアレンティングで謳われているような,木工職人(Capenter)のように,どのような子供を育てるべきかという目標に向かって,親が子供との接触方法を変え,子供に与えるものを変える必要はないとの考えを提唱している。
この考え方自体は非常に興味深いし,科学的に分かっていないことが多い中で,何かを確信的に行う危険性を指摘しているのは良いことだと思う。
一方で,書籍としては非常に読みづらい。
まず文章が長く,しかも物語調でも無いので途中で何度も挫折しそうになった。
一方で,ときおり出てくる自分が知らない事実や,興味深い考え方に励まされて,やっと最後まで読んだというところである。
本書は複数の随筆を1つの書籍としてまとめたようであるが,そのため,章立て(構成)もなんとなく,バラバラな印象があり,
書籍全体として表現したいことが簡潔な割には,主張の論理展開に弱さを感じる。
その意味では,興味を持った章だけを読むのでも十分かもしれない。
本書の最後にある森口 祐介 先生(京都大学)の解説は,本書をきれいに要約しているので,どの章を読むべきか決めるのに参考になるであろう。
ところで,本の解説と言えば,その本を褒め称えるのが通常であろうが,この森口先生の解説は,なかなか辛辣であり,著者のGopnik先生の節の弱さを指摘したりもしていて,なかなか興味深い。
どのAmazonの書評よりも,知識が十分な専門家のキレキレのコメントであり,とても参考になる。
以下に,本書の中から感銘を受けた文章をいくつか引用する。
- P.18 庭師の国のイギリスでは"ホットハウジング(温室栽培)"という言葉は,中産階級の過保護な親を意味する。アメリカで言うヘリコプター・ペアレントだ。
- P.23 ペアレンティングに関する本が山のように売られているアメリカの乳児死亡率と子どもの貧困率は,先進国最高である。
- P.24 食事療法に熱心な社会は肥満率が高い。ペアレンティングに熱心な社会は,子どもの貧困率が高い。
- P.26 生物学者たちは,"進化可能性"という考え方にも注目し始めている。これは他の生物よりも新しい形態を生み出すのが
- P.34 最近の研究では,変わりやすいからこそ子どもたちは多くを学べるということが示唆されている。
- P.35 若い脳は探索するようにできている。年配者の脳は利用するようにできているのだ。
- P.36 私たちはその新しい秩序とは何か,正確には予想できない。それが世代ごとに新しい人間が生まれることの意義にほかならない。
- P.51 ただ座っているだけでも,カロリーの20パーセントが脳に行く。一歳の子ではそれよりはるかに多く,四歳で脳の消費カロリーの割合が最も高く,六六パーセントを消費する。
- P.68 つがいの絆を持つ種は,<中略>一夫多妻制の動物よりも,体の大きさの雌雄差が小さい。<中略>つがいになる種の雄は睾丸も小さい。
- P.86 自分が協力したいと思う相手,そして自分と協力したがっている相手を確かめて,その後ずっと(よいときも悪いときも)協力を続ける。<中略> 囚人のジレンマをもっと効率的に,そしてもっと長いタイムスケールで,解決する手段を与えてくれる。
- P.88 他の動物たちよりも,人間は世話をするという行為自体に反応する
- P.89 愛する人に特別な思い入れを持つということは,裏返せば愛していない人にはそのような気持ちを持たない
- P.91 人間の目指すところが,ある決まったタイプの大人を世に出すことだとすれば,周りでそのような大人になりそうな子どもを探しだし,その子たちを教育なり訓練なりすればいい。<中略> 子どもを愛しているから世話をするのではない。世話をするから愛するようになるのだ。
- P.103 幼児は何でも真似をするというわけではない。面白い結果がもたらされる行為を真似するのだ。
- P.113 子どもたちは教師の意図を敏感に察知すると,少なくとも察知できないときよりも,愚かに見える行動をする。<中略> 教える人が何を望んでいるか理解する賢さを持つと,実際の学習がうまくいかなくなったのだ。
- P.114 厳格に決められた特別な行動を行うことで,自分のアイデンティティを築き,属している集団の一員であることを確認できる。
- P.139 三歳児と過ごしたことがある人なら,この果てのない「なぜなぜ攻撃」を経験したことがあるだろう。<中略>子どもたちは本当に質問に対する答えが欲しい,本当に納得のいく説明が聞きたいと思っていて,本当にそこから学んでいる
- P.156 子どもたちは親密で自由うで生き生きとした会話に参加することで学習する。
- P.165 遊びは何か一つのことができるようになるのを助けるというわけではない。多くのことをより柔軟に,違うやり方で行えるようになるのを助けるのだ。
- P.182 ごっこ遊びを多くすることは,他人を理解するのに大いに役に立つ。<中略> 大人にとって,フィクションの小説や演劇はごっこ遊びや想像上の友達に当たる。そして小説を読むことは,他者のふりと同じ利点がある
- P.206 学齢期前の子は<中略>ちゅいを向けないことが下手だ <中略> 子どもはさまざまなものに注意を向けずにはいられない。
- P.208 学校はADHD[注意欠如多動性障害]の診断を増やす方向へ進んだのだ。その理由は得点が低い子に薬を投与して成績を向上させられる,あるいはADHDの診断を受けた子を試験から除外できるからだ。
- P.218 思春期の少年少女が向こう見ずなのは,危険を過小評価するからではなく,報酬を過大評価するから―――というより,大人よりも報酬を大きく感じやすいから
- P.260 どちらにしてもこの国[アメリカ合衆国]で子どもの世話をする人は,どうしても最低レベルの収入しか得られないということになる。