【書籍情報】
若い読者に贈る 美しい生物学講義 感動する生命のはなし
更科功
出版社: ダイヤモンド社 (2019/11/28)
ISBN-13: 978-4478108307

【概要・コメント】
本書のタイトルが示すように,まさに美しい生物学の話が詰まった書籍である。

生物という科目は,単なる暗記ばかりが多くなりがちであるが,それはやはり「なぜ生物はそのような性質を持つようになった(進化した)のか?」の議論が足りないせいだということが分かる。

生物の性質は長い間の進化(自然選択)によって決まってくるので,その流れを意識(想像)すれば,生物の性質同士の繋がりが理解でき,まさに生物学という知識体験を味わうことができるようになるのである。

本書は「若い読者に贈る」と書いてあって,どこまでが「若い」か不安に思う読者もいるかもしれないが,「生物学を専門としない全ての人に贈る」と書いて良い内容だと思う。

一方で,生物学が好きな方にとっては,やや物足りない内容だと思う。
各トピックも最先端の研究を漏れなく紹介するというよりは,生物にはこんな神秘があるよということを,軽快な言葉で,非専門家にも分かりやすい例えを用いて表現してくれている。

その意味で,類書を読んだことがある人にとって,評価が下がってしまうのは仕方が無いように思う。

自分のようなロボットの専門家にとっては,非常に刺激に溢れ,かつ読みやすい良書であった。


以下,本書の中で気になった記述を抜粋する。

  • P.044 科学の正しさというのは,要するに仮説の正しさのことである。<中略> 仮説形成も検証も,論理の向きが演繹とは反対になっている。つまり演繹の「逆」になっている。<中略> ある主張が正しくても,その逆は必ずしも正しくない。<中略> 新しい事柄を知るためには,100パーセントの正しさは諦めなくてはならない。
  • P.068 少し汚い話だが,私たちの大便は,栄養を吸収された食べ物の残りカスだけではない。その固形成分の三分の一は,小腸から剥がれた細胞だ。
  • P.162 動物が動くのは,消化管の中に食物を入れるためだ。<中略> 口がある方が前なのである。
  • P.174 ヒトの四つの特徴の中で,どれが最初に進化したかは,化石から推測できる。それは「直立二足歩行」と「牙を失ったこと」である。
  • P.178 ヒトの方が(チンパンジー,ゴリラなどと比べて)活動的な理由の一つは,同じ距離を歩くために少しのエネルギーしか使わないからだといわれている。
  • P.179 直立二足歩行の主な利点(の候補)
    • 1) 太陽光に当たる面積が少なくなる
    • 2) 頭が地面から離れるから涼しくなる
    • 3) 遠くが見渡せる
    • 4) 大きな脳を下から支えられる
    • 5) エネルギー効率がよい
    • 6) 両手が空くので武器が使える
    • 7) 両手が空くので食料が運べる
      ※このうち,「両手が空くので食料が運べる」が最も有力な利点だと著者は述べている。
  • P.225 爬虫類や鳥類にいたる系統では,さらに陸上生活に適した特徴が進化した。尿素を,尿酸に作り変えるような進化が起きた<中略> 哺乳類は両生類よりも陸上生活に適応しているが,爬虫類と鳥類は哺乳類よりもさらに陸上生活に適応している
  • P.232 生物の進化に目的地はない。目の前の環境に,自動的に適応するだけなのだ。こういう進化なら明らかに進歩とは無関係(である)
  • P.286 これまでは,がんに対するおもな治療法は三つだった。抗がん剤の投与と外科手術と放射線治療である。<中略> がん細胞にキラーT細胞のブレーキを踏ませないというこの治療法は,これらの三つ以上に有効な治療法になる可能性がある。
  • P.290 飲んだアルコールのだいたい30パーセントは胃から,残りの70パーセントは小腸から吸収される。

【書籍情報】
だれでもデザイン 未来をつくる教室
山中俊治
出版社: 朝日出版社 (2021/11/27)
ISBN-13: 978-4255012551

【概要・コメント】
この書籍は,東京大学 生産技術研究所 教授の山中先生が中高校生向けに開いた特別授業(複数回の体験型授業)を書籍化したものである。

学生の頃,山中先生のお話を聞く機会があったが,その頃を思い出させられる内容である。
山中先生のお話を聞いて,自分はインダストリアルデザイナーという職業の存在を知り,憧れ,その道を志すも挫折し,ロボット研究者の道を歩むこととなった。

この本を読んで,あの挫折でキャリアの方向転換をするようでは,やはりインダストリアルデザイナーには,なれなかったのだなと,しみじみと感じた。

それくらい,この書籍の内容は,山中先生の苦労と試行錯誤が詰まっており,そして,それを若い人(中高生)に伝えたいという熱意が詰まったものである。

Amazonで「薄っぺらい単なる技術論だった。」と批評している人がいるが,これがどうして「単なる技術論」に見えるのか,自分には理解できない。

ましてや技術論に対して否定的な修飾語を付ける理由も良く分からない。

山中先生の授業で一番,感銘を受けたのは,デザインの大部分が「才能・センスではなく技術」であり,よいデザインが生み出せるかどうかは確率論である,というところである。

つまり,山中先生の主張によると,まずは技術を身に付けなければデザインのスタートラインに立てない。
そして,スタートラインに立った後は,ひたすらに汗をかき手数を持ってして,当たりを狙いにいくしかない,ということになる。

この主張が正しいかどうかを,デザイナーではない読者としては検証する術を持っていないため,すなわち我々がやれることは,まずは技術を身に付けることではないのだろうか?

この論理展開は,非常に簡潔で明解な多段論法であり,よって,この教科書で議論すべきは,まずは技術ということになる。

さて,このように書くと「この書籍は教科書のような位置づけのものでは」と勘違いしてしまうかもしれない。
たしかにスケッチの書き方から,発想の広げ方などの基本的な教科書の要素も含んでいる。

しかし,残念ながら教科書としては少し物足りない。
スケッチの書き方にしろ,発想法にしろ,それを専門に扱った教科書は,このブログでも他に複数紹介しているので,
それらの専門書に目を通すべきである。

むしろ,この書籍で学ぶべきは,

  • 技術がデザインの中でどのように活躍するか?

そして,

  • インダストリアルデザインで非常に大切な役割である,モノの作り方(量産方法と言ってもいいかもしれない)の変革が,我々の生活にどのようなものをもたらすか?

であると思う。

作り方が考え方を変えるのでは本末転倒だろう,との意見もあるだろうが,我々の世界では結局どう作るかによって何を作るかが変わってしまうように思える。

新しい作り方が,新たに作るべきものを生み出す世界。
そんな逆転が合っても良いのではないかと,技術者としてしみじみと思う。

 

 

 




 

【書籍情報】
情報を正しく選択するための認知バイアス事典
情報文化研究所(山崎紗紀子,宮代こずゑ,菊池由紀子)著,高橋昌一郎 監修
出版社: フォレスト出版 (2021/4/10)
ISBN-13: 978-4866801230

【概要・コメント】
最近,この手の認知バイアスに関する研究もしているので,入門書として本屋に平積みされていた本書を手に取ってみた。

認知に関する雑学の書籍としては良く出来ている。
参考文献も明確に書かれており,論理学・認知科学・社会心理学という3つのアプローチによる整理も面白い。
この手の話を一度も書籍で読んだことが無い人にとっては,興味を持つための入口としてはお薦めできる。

一方で,「結局これらのバイアス同士にはどのような関係がある(と推察される)のか?」という視点で項目が整理されていないので,これらのすべてのバイアスを記憶するのはなかなか難しい。
この手の複数のバイアスが,どのようにお互いに強め合うのか,または弱めるのか,そのような関係こそ実際の社会で,バイアスという知識を生かすのに必要な知識ではないだろうか?

本書を手に取ったときには,そのようなバイアスの地図とも言えるような存在を期待したのだが,期待が大きすぎたようだ。

また,この事典は逆引きができないという欠点がある。

つまりこのようなバイアスが存在すると思うのだけど,世の中ではどのような研究が成され,知見があるのか知りたいときに,本書を最初から最後まで1つ1つ辿るしかない。

例えば,フローチャートで複数の質問に答えていくと,各項目に繋がるなどこの事典に書かれたものを"検索"する方法を提供して欲しかった。

ちなみに,人間の認知の仕組みを明らかにするための実験は,どれも設定が人工的すぎるまたは演出が強すぎると感じる。
論理的に考えて,各実験の意図するところは理解するのだが,わざとらしい演出がされた実験における実験協力者の反応を見て,本当に我々人間の本質を表していると言って良いのだろうか?
もっと日常的でありつつ,そこから導き出される人の心の動きを簡潔に説明できるような実験設定の開発に期待したい。