【書籍情報】
だれでもデザイン 未来をつくる教室
山中俊治
出版社: 朝日出版社 (2021/11/27)
ISBN-13: 978-4255012551
【概要・コメント】
この書籍は,東京大学 生産技術研究所 教授の山中先生が中高校生向けに開いた特別授業(複数回の体験型授業)を書籍化したものである。
学生の頃,山中先生のお話を聞く機会があったが,その頃を思い出させられる内容である。
山中先生のお話を聞いて,自分はインダストリアルデザイナーという職業の存在を知り,憧れ,その道を志すも挫折し,ロボット研究者の道を歩むこととなった。
この本を読んで,あの挫折でキャリアの方向転換をするようでは,やはりインダストリアルデザイナーには,なれなかったのだなと,しみじみと感じた。
それくらい,この書籍の内容は,山中先生の苦労と試行錯誤が詰まっており,そして,それを若い人(中高生)に伝えたいという熱意が詰まったものである。
Amazonで「薄っぺらい単なる技術論だった。」と批評している人がいるが,これがどうして「単なる技術論」に見えるのか,自分には理解できない。
ましてや技術論に対して否定的な修飾語を付ける理由も良く分からない。
山中先生の授業で一番,感銘を受けたのは,デザインの大部分が「才能・センスではなく技術」であり,よいデザインが生み出せるかどうかは確率論である,というところである。
つまり,山中先生の主張によると,まずは技術を身に付けなければデザインのスタートラインに立てない。
そして,スタートラインに立った後は,ひたすらに汗をかき手数を持ってして,当たりを狙いにいくしかない,ということになる。
この主張が正しいかどうかを,デザイナーではない読者としては検証する術を持っていないため,すなわち我々がやれることは,まずは技術を身に付けることではないのだろうか?
この論理展開は,非常に簡潔で明解な多段論法であり,よって,この教科書で議論すべきは,まずは技術ということになる。
さて,このように書くと「この書籍は教科書のような位置づけのものでは」と勘違いしてしまうかもしれない。
たしかにスケッチの書き方から,発想の広げ方などの基本的な教科書の要素も含んでいる。
しかし,残念ながら教科書としては少し物足りない。
スケッチの書き方にしろ,発想法にしろ,それを専門に扱った教科書は,このブログでも他に複数紹介しているので,
それらの専門書に目を通すべきである。
むしろ,この書籍で学ぶべきは,
- 技術がデザインの中でどのように活躍するか?
そして,
- インダストリアルデザインで非常に大切な役割である,モノの作り方(量産方法と言ってもいいかもしれない)の変革が,我々の生活にどのようなものをもたらすか?
であると思う。
作り方が考え方を変えるのでは本末転倒だろう,との意見もあるだろうが,我々の世界では結局どう作るかによって何を作るかが変わってしまうように思える。
新しい作り方が,新たに作るべきものを生み出す世界。
そんな逆転が合っても良いのではないかと,技術者としてしみじみと思う。