あなたに響く ◇6 | 有限実践組-skipbeat-

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 前のお話はこちら⇒あなたに響く【15】



■ あなたに響く ◇6 ■





 公式ファンサイトを通じて公開された敦賀さんのメッセージはほどなくメディアで取り上げられ、全国民が知る事となった。

 以降、テレビをつけてもこの話題。ラジオをつけてもこの話題。


 その際、どの番組でも必ずあちらこちらで見たことがあるような、あるいは初めて見るような色んな専門家を据え置いて、彼らを交えながら敦賀さんの意図を推察する番組に編成していた。



「 大切なご報告ってなんでしょうね?先生はどうお考えになりますか? 」


「 そりゃあ、連日これだけ騒がれていますからね。やはりその辺の話題についてじゃないんですか 」




 ――――――― 残念でした、違います。




 どの番組でも大差なく、敦賀さんのメッセージを今回の騒動に関する釈明に違いない・・・と勝手に決めつけている不思議。

 私はそれを冷めた目で見ていた。


 …っていうか。

 その推理だか推論だか推察だか予想だか憶測だか知らないけど。

 第三者が敦賀さんの行動意図を先読みすることにどれほどの意味があるっていうのかしら。当てっこゲームでもあるまいし。


 あとで見当はずれなことを言っていたと、真実を知って吠え面かかなきゃいいですけどね。



 一部の熱狂的な敦賀さんファン達の中には、敦賀さんのことをただひたすらに信じ、しばらくの間は敦賀さんのために頑張っていた姿も見受けられていたけれど。

 どれほど検索してもやはりビフォー写真を手に入れられた人は一人もおらず。それで徐々に情熱を失くしてしまったのか。それとも己の無力さを思い知ったからなのか。


 ファンの心が次第に離れて行っていることを、誰よりも強く社さんが実感していたと思う。



「 実は、以前から俺がちょくちょくチェックしていた非公式ファンサイトが最近はどれも意気消沈しているんだよ 」



 私はそれに苦言を呈した。

 いま運転手をしてくれている社さんの後頭部に向かって。



「 みんなおかしいですよ!特にマスコミが!敦賀さんが偉業を成し遂げたのはつい最近のことですよ?それなのに、その報道で過熱するならともかく!! 」



 いくら大衆の関心がそちらに傾いているからって、憶測だけで湧き出た確証の無い整形疑惑に食いついて騒ぎを仰ぐなんてどうかしている。



 いつまでたっても大人がそういう態度だから、子供もそれを真似るのだ。


 だからイジメはなくならないし、出る杭はビシビシ打ち込まれるし、少しでも平均の枠からはみ出してしまうと異端の目で見られる挙句、でっち上げの風評被害でとばっちりを受ける人すら後を絶たないことになるのだ。




『 京子さんってずるいわよね。敦賀さんと同じ事務所だからって・・・ 』


 そのときふと、人に言われたセリフを思い出してしまった。私は急いで頭を横に振った。


 これは風評被害とは言わないわ。

 だって本当のことだもの。



 LMEプロダクションビル地下駐車場入り口を目指してハンドルを握っていた社さんが、目前に見え始めた人だかりの山を見て、おーっと声をあげる。それを受けて私も視線をそちらに向けた。



「 おー、すごい人。さすが蓮だな。香凪さんと噂になったあの時を思い出すよ 」


「 そういえば、あの時も凄かったんですよね、マスコミの追っかけが 」


「 あははは。そうそう。でもあれは予想ついていたからなー。特に蓮は平然としていたでしょ、そこは 」


「 平然どころか、すごい技を繰り出していたように記憶しておりますが 」


「 技ぁ?あはははは。あの笑顔ねー。キョーコちゃん、ナイス! 」



 私の目の端に、LMEビルに正面から入ろうとしたのだろう、いまや誰もが実力派美人女優と認めているモー子さんの姿が映った。

 獲物を見つけたハイエナの如くマスコミがモー子さんめがけて一斉に群がる。瞬間、世界中の騒音を集めたかのように人の声が沸き上がった。


 数多くのフラッシュとマイクがモー子さんに襲い掛かっていた。



「 琴南さんは敦賀さんと同じセクションに所属しているんですよね! 」


「 敦賀くんはどんな様子なのかな? 」


「 後輩として、今回の敦賀さんの発言を琴南さんはどう受け止めているのか教えていただけますか? 」


「 LME事務所内ではこの話題をどう扱っているのかな? 」



 たぶん、質問は矢継ぎ早に飛び出していたことだろう。

 それに対してモー子さんは特に鬱陶しがるわけでもなく、口元で小さく笑みを浮かべながら足を止め、可憐に後ろ45度を振り向いた。その優美な様にその場にいた誰もが釘付けとなって、息を飲み込んだ気がしたのはきっと気のせいではあるまい。



「 さぁ。私には分かりかねます。何しろ私は現在、親友の行く末を心配している最中ですので、他のことは眼中にありませんの。お役に立てなくてごめんなさい 」



 このとき私はまだ車の中にいたから、モー子さんが何を言ったのかは知る由もなかったけれど、少なくともこのあとモー子さんはすんなりビルに入って行けたようだった。



 さっすがモー子さんだわ。そしてごめんね、モー子さん!!私のせいで迷惑かけちゃって。

 ・・と心の中で車窓越しに謝罪を送った直後、車が地下に降りたことで景色が遮られた。



「 それじゃ、キョーコちゃん。俺は社長室に行くから、キョーコちゃんはラブミー部室で待っていて 」


「 はい、了解しました 」



 実は社さんはこれから、先日私が敦賀さんから聞き及んだことを社長さんから聞かされる予定なのだ。


 どこまで話されるのかは知らないけど、敦賀さんが日本人じゃないことを知らされるのは必至だろうから、多分だいぶ驚くことになるだろう。

 しかも敦賀さんがクー・ヒズリの息子だって知ったら、社さんはどんな顔をするんだろ。



 そして、敦賀さんが発した事前告知の意味を知って、私をどう思うのかな。



 同じエレベーターに乗り込んだ社さんとは途中で別れ、私はラブミー部室に向かった。

 扉を開けるとモー子さんは先に到着していて、新たな仕事のものだろう台本をちょうど手にしたところだった。



「 モー子さん 」


「 あら、めずらしいじゃない。昼間にあんたが事務所に来るなんて 」


「 うん。実は移動の途中なんだけど、社さんが社長さんに呼ばれたから 」


「 あら、そう 」


「 ここ、いい? 」


「 どうぞご自由に 」




 そう言えば私、モー子さんには敦賀さんとのことをまだ何も話してないのよね。

 敦賀さんには言っていいよって言われていたけど。いざとなったらどう切り出していいか判らなくて、結局言えず仕舞いになっていたのだ。



 驚くほどの速さでパラパラとめくられてゆく台本が、あっという間に最終ページに辿りつく。


 何度目撃しても羨ましい限りの特技だな、と思った。

 すると私の視線に気づいたのだろう頬杖をついたモー子さんが、流し目を浮かべて私を見据えた。



「 なによ。何か言いたい事でもあるわけ? 」


「 あ、ううん、別に。台本の内容、いまモー子さんの頭の中に全部入っちゃったんでしょ?すごいよね、相変わらず 」


「 そうね。私はね、相手の土俵に乗らないようにしているから 」


「 はい? 」


「 だって時間の無駄じゃない、そんなの。リンク先も名前も書かず、匿名でコメントを書いて来る人っていうのは、つまり人の顔を見て物が言えない人なのよ。そんな相手とはどうせ分かり合えないって分かっているんだから、無視するのが一番よ 」


「 ・・・それ、何の話? 」


「 あら。あんたのことだからいまの敦賀さんの状況をまるで自分のことのように腹立てているかと思ったんだけど。違った? 」


「 違わない。 辟易している 」


「 でしょ。私はそういう感覚だから、自分とは関係のないことでマスコミに囲われた所で何とも思ってないわ。でも笑っちゃうわよね。敦賀さんが整形していたらどうだって言うのかしら(笑) もしあの人が本当に整形しているのなら、どこの医者にお願いしたのか聞いておきたいぐらいだわ。30年後にその医者がまだ健在ならお願いすることもあるかもだし 」


「 ・・モー子さんは 」


「 顔の良い男はみんな整形しているかっていうとそうじゃないでしょ。そんなことは良識ある大人なら誰でも分かりそうなことだけど。その割にこの世の中には理解に苦しむほど幼稚な大人が掃いて捨てるほどいるのよ。そしてこの機に乗じて攻撃する者、無関係でもひとこと言わずにはいられない人っていうのもいて、そういうのが過剰に口を開きたがる。今はそういう世の中なの。そういう風に割り切っちゃえば案外楽よ 」


「 なにそれ、ちょっとカッコいい 」


「 この前、飛鷹くんと共演したドラマで言ったセリフよ。正しくは、犯罪者の子供が必ず罪を犯すかっていうとそうじゃない・・・って出だしだったんだけど 」


「 あはははは。すごい応用力 」


「 でしょう?お芝居って面白いわよね。役を通してそれまで自分が思いもしなかった考えに触れるときがあるんだもの 」


「 うん、分かる!! 」


「 芝居はいいわ。だから、それを知っている敦賀さんはいま辛いでしょうね。なかなか仕事が出来ない状況になってしまって 」



 それはどうかな。

 でも、そうかもしれない。



「 ・・・ん 」



 これは後から知ったこと。

 実はこの時モー子さんは、私と敦賀さんのことを全て知っていたらしかった。

 どうやら敦賀さんが例の事前告知を出す前にモー子さんに報告していたらしい。


 それを聞いたとき、モー子さんは全然驚かなかったんですって。



 モー子さんはそれ以前からとっくに敦賀さんの気持ちに気付いていたから。

 私との関係変化も敏感に察知していたのだとか。



「 あんた、変なことに拘っているとタイミングを逃すわよ 」



 私に言いたいことなんて

 きっと一杯抱えていたでしょうに。


 モー子さんは自分のうちにある疑問にも欲求にも一切触れず、私に何も訊ねて来ず。



 ただ笑顔で、私の背中を思い切り押し出した。




「 怖れること。他者と比較すること。罪悪感を持つこと。悲観的な希望を見出すこと。この4つの思考を手放すと人の心は軽くなるらしいわよ。あんた、知ってた? 」


「 ・・・っっ 」



 なんて意外なところから光明を挿し込ませるのだろう。

 言われて何故か私の心がスーッと軽くなった気がした。


 同時に蘇ったのは、先日の敦賀さんからの言葉。




『 俺たちのことをいつ発表するかについては、君が決めてくれていいからね 』




 重荷だと感じていたそれが、実は信頼から来るものだったことに

 そのとき自然と気づけた気がした。







 ⇒ ◇7 に続く


次がラストです。



⇒あなたに響く◇6・拍手

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