あなたに響く ◇3 | 有限実践組-skipbeat-

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 前のお話はこちら⇒あなたに響く【1 ・2】



■ あなたに響く ◇3 ■





 とはいえ、映画とドラマと2本撮りの仕事量では思いのほか身動きが取りにくかった。

 ドラマは主演だからほとんどのシーンに私はいなければならなかったし、映画もメインキャストということでほぼカメラの前に出ずっぱり。


 撮影は毎日のように早朝から行われ、どちらの仕事もメインキャストに新人さんが複数起用されていたこともあって、NGによるリテイクが繰り返されたり、急遽変更がかけられたり、時にはシナリオが書き換えられることもあって、深夜にまで及ぶことがほとんどで、なかなか時間を空けることが出来なかった。



「 お疲れ様でしたー!! 」


「 おつかれさまでーす 」


「 やっと終わったぁぁ!! 」


「 明日もよろしくお願いしまーす 」



 やっと終わった。いま何時?!!



「 社さん!! 」


「 ダメだよ、キョーコちゃん。もう夜中の1時半。深夜を回った時点で諦めなきゃ 」


「 そんな!私なら平気です!だって明日は9時入りですよね?だったらまだ7時間以上ありますから… 」


「 ダメ。移動にだって時間はかかるし、第一、5分で終わる話じゃないでしょ。マネージャーとして許可できません。睡眠時間の確保が優先 」


「 社さぁぁん! 」


「 そんな顔でしないでキョーコちゃん。あと3日。あとたった3日だよ、キョーコちゃん 」


「 あと3日なんて長すぎます!返事をしてからもう4日も経っているんですよ。なのに、結局、半日オフまで待ってもらわないといけないんですね 」



 なんて皮肉なんだろう。

 アメリカで名を馳せてきた敦賀さんには時間があるっていうのに、やっと主演のお話を頂けるようになった私に余裕がないなんて。



「 ほら、帰る支度をして 」


「 ・・・・・はい 」



 敦賀さんの整形疑惑は、デビュー前の写真がどこからも一枚も出てこないことから、ますますヒートアップの様子を見せていた。


 最近では、あらゆる局でこの話題が取り上げられているらしく、番組によっては偽の卒アル写真が公開されたり、スタイル抜群のブ男写真を公開したり、名前が被っている男性の写真をそれらしく見せたりしながらコメンテーターたちの自力推理をメインにコーナー展開したりしているようだった。


 そのうち、デビュー前の敦賀さんを彷彿とさせるような、ハイトールなスタイルの男性写真に限っては私も撮影現場で遅い昼食を頂いている時に共演者の皆さんやスタッフさんたちと一緒に偶然見るに至ったけれど、その骨格は冗談でも妖精基準になど達していない男の人のものだった。


 番組ではこれがそうじゃないの?なんて冗談めかして言っていたけど。

 そんなの、絶対に敦賀さんじゃありませんから!!・・・と、声を大に出来ないのが悔しい。




 手早く身支度を整え

 社さんと足早に駐車場に向かった私は、運転席に乗り込んだ社さんに後部座席から前のめりに声を掛けた。



「 社さん。どうしてLMEは・・・ 」


「 ん? 」


「 どうして事務所は公式見解を示さないんですか。ほぼすべての番組でこの話題が取り沙汰されているのに、静観を貫いているのは何故なんですか 」


「 それなんだけど、どうやら蓮が止めているらしいんだ。考えていることがあるから待ってくれって、そう言っているらしい 」


「 らしい・・・って 」


「 ごめんね、不確かな言い方で。俺も直接蓮から聞いた話しじゃないから、らしいとしか言いようがないんだ。ただ、そうなんだろうなとは思っている。というより、確信してる。それで、これは俺のカンなんだけど、キョーコちゃんとの事が関係しているんじゃないかなって。それについてキョーコちゃんは何か心当たりない? 」


「 心当たり…? 」



 そう質問されて、もしかしたらと思った。



 もしかしたら

 敦賀さんが目標を成し遂げたことと

 私が実力派女優と言われて始めていることと

 なにか関係があるのだろうか。



 2年前、私たちはお互いの気持ちを確認し合ったにもかかわらず、互いの関係性を変える選択をしなかった。




『 こんな恵まれた状況に身を置きながら

 俺は君との関係を大きく変えたいとは考えていない 』


『 承知しています。

 私も、目指す目標の途中なので 』




 でも今はその時とは状況が変わっている。

 心当たりと言ったら、それぐらいしか思いつかなかった。

 でも、本当に?




「 キョーコちゃん。着いたよ、だるまや 」


「 はうっ!すみません、私ったらボーっと考え事をしてました 」


「 うん。一瞬、寝てるのかなって思ったけど、分かってた 」


「 送ってくださってありがとうございました、社さん。また明日、よろしくお願いします 」


「 はい、了解。また明日 」


「 お疲れ様でした! 」



 自分の荷物を持って車外に出、一礼して社さんを見送った。


 だるまやを見るとさすがにもう閉店していたけれど、中に入ると大将もおかみさんもまだ片づけをしていた。



「 ただいま戻りました 」


「 おう 」


「 キョーコちゃん、おかえり。今日も遅かったねぇ 」


「 はい。予定より今日も撮影に時間がかかっちゃいました 」


「 お疲れ様だね。ところで、キョーコちゃんにお客さんが来ているんだけど 」


「 お客? 」



 こんな時間に?

 まさか、またショータローじゃないでしょうね!?


 そう考えて笑顔をひきつらせると、おかみさんは大将の様子を窺いながら、こそっと私に耳打ちした。



「 敦賀さんなんだけど… 」


「 ひえっ?! 」



 その瞬間、目の前のふすまが開いて、敦賀さんが現れた。

 あまりに突然のことでびっくりしちゃって、私の頭の中がいま漂白剤で洗われたばかりの白タオルのように驚きの白さになってしまった。



「 こんばんは、最上さん。仕事、お疲れ様。遅くにごめんね 」


「 な・・な・・なん・・・ 」


「 あれ、そんなに驚いた? 」


「 なんで敦賀さんが・・なんで・・・ 」


「 君が忙しそうだから? 」


「 …っっっ…い・・・一体いつからお待ちに 」


「 さて、何時からだったかな 」


「 すみません、そんなことになっていたとはつゆ知らず!!ひとまず私の部屋に行きましょう!! 」


「 え?いや、いいよ。顔を見に来ただけだから 」


「 そんな訳にはいきません!それに、せっかくですし話したいことがあるんです!すぐ済みますから! 」


「 話したい事?なるほど、じゃあそうさせてもらおうかな 」


「 はい、行きましょう!いま行きましょう! 」


「 あっ、その前にキョーコちゃん!! 」


「 はい? 」


「 これ、今日来ていた手紙だよ 」


「 あっ!はい、ありがとうございました! 」


「 ん?今日来ていた・・ってことは、もしかしたら毎日届く手紙があるの? 」


「 そういう事もあるかもですねっ。とにかく、上に行きましょう、敦賀さん!! 」



 おかみさんの手から4~5通ほどの手紙を素早く受け取った私は、何の手紙?と聞いてきた敦賀さんの背中を押しやり、わざと話題をうやむやにした。

 そして・・・。



「 はいどうぞ!いらっしゃいませ 」


「 やあ、初めて来た。ここが君の部屋なんだね。実力派女優と言われ始めた京子のプライベートルームに入れるなんて、特別感を覚えるよ 」


「 そんなのどうでもいいです。そんなことより、聞きたいことがあるんですけど、敦賀さん!! 」


「 え?なに、すごい熱量で迫って来るね、君 」


「 なに?じゃありません!社さんが言っていたんですけど、LMEが公式見解を示さないのは敦賀さんがそれを止めているからだって話は本当ですか?! 」


「 ああ、そのこと。そう、本当だよ 」


「 そんなことをしてどんな意味があるんですか!そもそも私は不思議に思っていたんです。仕事が白紙になっちゃったのに、どうして敦賀さんはこの話題を放っておくんだろうって。

敦賀さん本人が自分のビフォー写真をお披露目しちゃえばそれで済むことじゃないですか!なぜそうしないんですか 」


「 そうだよね、それが一番手っ取り早いことは俺も分かっているんだけど。残念ながら写真なんて持ってきてないから 」


「 ご実家に置きっぱなしってことですか?だったら送ってもらえばいいじゃないですか 」


「 そうはいかないんだ。いま両親とは疎遠になっているからね 」


「 こんな状況で疎遠だご縁だって言っている場合ですか。それとも、連絡を取りたくない理由でもあるんですか?ひょっとしたら敦賀さんは相当の苦労人で、お父さんがどうしようもない飲んだくれだったりして、家族に暴力ふるっちゃうような人で、お母さんは食事も碌に作ってくれずに毎夜の如く遊びに行っちゃうような人だったりして、それで写真を取り寄せる気にならないとかですか? 」


「 最上さん。相変わらず、想像力豊かだね、君は。敢えてここでツッコミを入れさせてもらうけど、そんな父が母に花で作った指輪なんて贈ると思う? 」


「 花で?…あっ!ガチムチ細マッチョお花リングプロテク・フラワーアレンジメント! 」


「 ぷっ!!・・そう、そう、よく覚えていたね 」


「 そりゃ・・・ 」



 覚えていますとも!

 あの時のお花リングはちゃんと保管してありますから!美麗な状態で。



「 とはいえ、最上さんの想像は当たらずとも遠からずなんだけどね 」


「 そうなんですか?あっ、分かった!指輪うんぬんの話は幼き日の良い思い出ってことなんですね?!なんておいたわしい… 」


「 いや、違うから。ただ単にうちの父は物凄い量を口にする人だってだけ。どれほど飲んだって暴れることはないよ。対して俺の母もね、とても忙しい人だったから、最上さんが言うように毎日出かけてばかりだったけど、でもその割にはちゃんとご飯を作ってくれる人だったんだよ 」


「 そう、なんですか。それは良かったです、けど 」


「 ・・・と、ここまで話した所でもうそろそろ帰るよ、俺。君の睡眠時間を削りたくないから 」


「 え、もう?ちょっと待ってください。そもそも敦賀さんは今日、私に話しがあっていらっしゃったんですよね? 」


「 いや、違うよ。ちょっと思う所があって、取り敢えず試練を受けにね。でも本当は、純粋に君に会いたかったから 」


「 え・・ 」


「 君に、会いたかったんだよ。最上さん 」



 甘い笑顔でまっすぐに見つめられて、射すくめられてしまった。

 ほんの少し小首を傾げて私を覗き込んだ敦賀さんが、私の目の前に立って更に顔を近づける。



「 あの時の約束、覚えているだろう?俺は自分の目標を果たしてきた。褒めてくれる? 」


「 もちろんです!そうだ、それずっと言いたかったんです!敦賀さん、おめでとうございます!!本当にすごいです。でも、いまの敦賀さんの状況はそれどころじゃ・・・ 」


「 そうだよね。だからそのことも含めて、この先について君に話したいことがあるんだ。俺が動くのはそれから 」


「 すみません、私のせいで!!すみません、思うように時間が取れなくてお待たせしてしまって 」


「 気にする必要は無いよ。約束通り3日後、社長の自宅で会おう 」


「 え?社長さんの、ですか? 」


「 そう 」



 オウム返しをした私に肯定の意を示した敦賀さんは、私の顎を片手で持ち上げると、額に不意打ちキスを落とした。

 少し離れて微笑んで、私を見つめて目を細め、敦賀さんが踵を返す。



 その笑顔に曇りはひとつも見えなかった。



「 じゃあね、おやすみ 」


「 っっっ!!! 」


「 ・・・くす。見送りはいらないよ 」



 むきいぃぃぃぃ!!!なんてことなの、最上キョーコ!!こんなことで、こんなことでっっ!!




 お見送りしたかったけれど

 不意打ちキスに腰が砕けてしまって

 私は全身真っ赤になりながらその場にへたり込んでしまった。







 ⇒◇4  に続く


ショートカットはイヤ~ン、というお声を頂いたので、カットをせずちょいラブラブを入れてみました♡



⇒あなたに響く◇3・拍手

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