弊宅500記事を記念して、ゆきひめ様からお与かり致しましたリクエストをお届け致します。
前のお話はこちらデス⇒破壊神がやって来た【1・2・3・4・5・6・7】
■ 破壊神がやって来た ◇8 ■
あんぐりと言った体で蓮の幻を見ているかのようなキョーコに向けて蓮は満面に笑みを浮かべた。
「 最上さん、丁度良かった。いま君、少し余裕があるだろう? 」
「 ……っ…な……なん……なんで敦賀さん、LMEに…… 」
「 なんで? なんでって、聞く方がおかしくないか? 俺の所属事務所はここだろう 」
「 そ…んなのは知っています。私が聞いているのは、どうしていま敦賀さんがここにいるのかってことで… 」
「 ああ、なんだ、そういうこと。それはね、ちょっと気が向いたから? 」
気が向いた?……なんてそんな気まぐれを起こすのはお願いだからやめて欲しい。
この想いが真剣であればあるほど告白出来ることなど一つも無いのに。
軽々しく返って来た蓮の返答にキョーコの意識は遠のきかけた。
彼女なりに防御態勢…いや、攻撃態勢に入ったつもりでいたのだが、やはり蓮の方が一枚も二枚も上手だったということか。
なんの断りもなく蓮が入室してくるとキョーコは慌てて腰を上げた。床とイスが同時に叫んでキョーコの緊張がハゲタカる。
「 ど…どうして気なんて向かせちゃったんですか! 」
「 どうしてだろうね。もしかしたら君がいるような気がしたからかも知れない。…ってことで、ちょっと俺と話そうか? 」
「 いやぁぁぁっっっ!!! 」
当たり前に伸びて来た蓮の手をキョーコが寸での所で避けた。
全面的にキョーコの味方になることを公言した奏江が素早く腰を上げたと同時に蓮の腕をガシッと掴む。
奏江の邪魔だてが蓮には予想外だったのか、刹那キョーコから視線を外した蓮は驚き顔で奏江を見つめた。
「 キョーコ、今のうちに逃げなさい!! 」
「 あ…ありがとう、モー子さん!! 」
「 …っ…最上さん!!!っ……琴南さん、君は… 」
「 敦賀さん!あなたは確かに実力派の役者だと思います!その技量も才能も私は認めています!なのに事務所の後輩の成長を穏やかに見守る度量はお持ちにはなれないんですか?! 」
「 ………どういう意味?君が言わんとしていることが俺には良く分からないんだけど 」
「 キョーコはキョーコなりに自分で紅葉の役作りをしたんですよ!いくら才能ある先輩だからって、共演する訳でもないのにそれに口を出すのはどうかってことです。
あの子を信じて見守って下さってもいいと思います。どうしてそんな…… 」
気のせいかも知れないが、奏江はこのとき自分の周りの温度が二度下がった気がした。
「 なにか、誤解しているようだけど 」
「 どこら辺が誤解…なんですか 」
「 確かに、俺が最上さんに聞きたいのは紅葉の役作りに違いない。
俺はね、知りたいんだ。最上さんが作り上げた紅葉の役どころである、成就されない恋の演技ってやつについて 」
「 え? 」
「 これはあの子からじゃなく第三者から聞き及んだことだけど、紅葉の恋に関する役作りに彼女自身のリアル体験が反映されているらしいんだ。だから俺はそれが真実かどうかを知りたい。どういう訳か逃げられっぱなしだけどね 」
「 …っ?! 」
「 だいたい、おかしいと思わない? 俺、あの子には何も聞いていないのに何かを察したみたいにあの子は逃げてばかりなんだ。何かあるって俺が勘繰っても仕方ないだろう。
……琴南さん。それでもまだ俺の邪魔をする? 」
「 …っっっ!!! 」
見下ろす蓮の視線を受けて、奏江はビクリと肩を揺らした。思わず蓮から手を離す。
蓮の眼差しに含まれた冷気を敏感に感じ取った奏江は、けれど蓮から目を逸らすことはしなかった。
「 …まさか…… 」
「 ありがとう、琴南さん。
社さん、ギリギリまで待っていて下さい!! 」
了解と言おうとした社の返事を待たずに蓮は駆け出し、ラブミー部室を後にした。
残された社は奏江を見つめて軽めに息を吐き出した。
「 ごめんね、琴南さん。ふざけている風に見えるだろうけどあれで蓮、割と本気だから。もしかしたらちょっと怖かったんじゃない? 」
「 ……っ…本気…って…… 」
「 蓮がここに足を運んだのはね、キョーコちゃんがここに居るって情報が入ったからなんだ。実はアイツ、いま携帯を二つ持っているんだ 」
「 は? 」
「 プライベート用と、それからキョーコちゃん用でね 」
そう。蓮はキョーコのリアル位置情報を得るにあたり、あとくされが無いようにとそれ専用の携帯を用意していた。
なぜなら、いくらキョーコを拿捕するためとはいえプライベートの連絡先を多くの人に教える気にはなれなかったのだ。
キョーコの位置情報を得たいのは、あの子を捕まえられるまでの短い期間だけなのだから。
ラブミー部室にかけられた時計で社は現在時刻を確認した。
次の仕事があるので事務所に居られる時間はごくわずか。今日の蓮はあくまでもキョーコの反抗心を削ぐことが目的であって、彼女を捕まえることではないのだ。
そうとは知らずに奏江の助けを得、慌てて逃げて行ったキョーコは皮肉なことに足止めを食らっていた。
「 ラブミー部員さん 」
キョーコに声をかけてきたのはまさかの受付嬢だった。
彼女はキョーコ曰く、破壊神の忠実なるしもべと化していたのである。
かつてキョーコの幼なじみのショータローが、キョーコを捕まえるためにベロチューなるものをご褒美として未森を使いに飛ばしたことがあったが蓮のそれはレベルが違う。
そんなのをご褒美にぶら下げずとも、破壊神は己の笑顔一つでいとも容易く女を動かすことが出来たのだ。
「 えっっっ??? 」
「 良かった、やっと会えたわ。この前お願いした荷物の配達、それのハンコをまだ押していなかったでしょう? 」
「 あ…… 」
奏江の機転により脱兎のごとく逃げ出して来たキョーコは見事なことに自分の荷物をきちんと持って来ていた。
しかし手帳とハンコはラブミー部員専用コスチュームと共にロッカーに入ったままである。
蓮がいるラブミー部室に戻る訳にはいかず、眉尻を下げて結構ですと断ったキョーコを逃がすまいと、受付嬢はキョーコの左腕をがっちり掴んだ。
「 あの、ごめんなさい、いまは結構ですぅぅぅ!!今度!今度会った時にお願いします!! 」
「 そんな、困るわ!!いまわざわざ受付から離れてあなたを探しに来たのよ!いまお願いしたいの、ラブミー部員さん! 」
「 俺もお願いしたいな、最上さん。いい加減、少しの時間を俺にくれてもいいと思う 」
「 ぎゃあぁぁぁっ!!出たあぁっっっ!!! 」
「 ごめん。彼女、俺が先に借りてもいいかな? 」
「 ええ、敦賀さんがそうおっしゃるなら。じゃ、ラブミー部員さん。あなたのご希望通り、私の用事は今度会った時にお願いするわね。では私はこの場から失礼します 」
「 そう?ありがとう、悪いね 」
「 いいえ~ 」
キョーコの左腕はバトンのように受付嬢から蓮に託され、九死に一生を得たのも束の間、いまの彼女は危急存亡、絶体絶命、電光朝露の新境地。
やはり世の中は優勝劣敗なのだろうか。自分のような愚かな女は生きる余地さえ与えられないのだろうかとキョーコは思った。
「 ……さて、最上さん 」
「 っっっ!!!! 」
問答無用で壁ドン仕様に施され、遠目からチラチラと自分達を眺める人の気配を感じつつ、誰も助けようとはしてくれないこのシチュエーションにキョーコは涙が出そうになった。
……キョーコ。
もし敦賀さんに追い詰められて絶対絶命に陥ったときは、この奥の手を使えばいいわ。
奇しくも数分前、奏江が自分に教えてくれた必殺技を思い出し、キョーコは恐る恐る蓮を見上げた。
『 奥の手?それってどうやるの、モー子さん!! 』
『 まずね、出来るだけ大きく目を見開いて、瞬きを我慢するの 』
『 へ? 』
『 そうすると段々と目が痛くなってきて涙が出て来るでしょ。それを更に我慢して、涙を滲ませながら上目遣いでこう言うのよ 』
冗談ではなく
見開かずともいま奇跡的に自分の目には涙の波が押し寄せて来ている。
後は決して目をそらさず、けれど少しだけ控えめになって、親友奏江が教えてくれたセリフを口にすればいいだけの状況だった。
聞いたときはそんな手が通用する?!…と思ったけれど、今のキョーコは藁にも縋りたい気分だった。
「 つ……敦賀さん… 」
「 なに?ようやく観念する気になった? 」
「 敦賀さん。……こ……こんなに激しく求愛されちゃったら、キョーコ、身体が壊れちゃう…… 」
言った途端、何故か蓮の動きが止まった。まるで電池が切れた人形のように瞬きひとつすらしない。
『 モー子さん、嘘でしょ?!そんな恥ずかしい事を言うの??? 』
『 恥ずかしいからこそ効果があるのよ。騙されたと思ってやってごらんなさい。確実に5秒は止まると思うから 』
5秒…というリミット思い出したキョーコは勢いそこからダッシュした。
運よく蓮の動きは未だに停止したまま。
キョーコと入れ違いになるように蓮を迎えに来たマネージャーは、またしても逃げてゆくキョーコの背中を見つけて感心したように腕を組んだ。
「 どうした、蓮?確か、キョーコちゃんの戦意を削ぐのが目的だったんじゃなかったか?なのにまんまと逃げられるなんて連敗記録更新だな。
抱かれたい男ナンバーワンのくせに 」
キョーコが居なくなっても壁ドン姿勢のままの蓮はもはや壁に向かっていじけているだけの大男のようにしか見えない。
自分を戒める様にまっすぐ壁にゴツンと額をぶつけた若手トップ俳優は、わざわざ迎えに来てくれたマネージャーに向けて心からの冷笑を浮かべた。
「 社さん。やけに俺に挑戦的ですね……? 」
「 っっ!!!お前、ひょっとしなくてもいまブチ切れ寸前だろう? 」
「 ブチ切れ?なに言ってるんです。俺はキレてなんていませんよ。言うなればプチ切れです 」
「 なにがプチだ。お前ね、気持ちは判るけどもう少しキョーコちゃんには優しく接してあげなさいよ。この前キョーコちゃんに、敦賀さんはいじめっ子ですぅぅぅ…って言われたのがショックだったってのは分かるけど 」
ふと、社は蓮から発せられるどす黒い何かを察知した。
「 社さん。なに言ってるんです?俺、あの子にはすごく優しく接していると思いますよ。なぜなら本当に仕留める気であの子を追っていたのなら、いまごろ瞬殺しているはずですから… 」
「 た・た・確かに!! 」
「 所で社さん。折り入ってお願いがあります 」
「 え?いま?いまなのか? 」
――――――――― 敦賀さん。
こんなに激しく求愛されちゃったら、キョーコ、身体が壊れちゃう…
まさか、そんな手を使って俺から逃げようとするなんて。
あの子を逃すくらいなら、いっそ壊れてしまえばいい。
『 あの年頃の子なんて、恋愛対象が変わればおのずとそうなるだろうって判るだろ? 』
変わるなんて許さない。
絶対に捕まえてあの子の口から真実を吐露させてやる。
敦賀蓮と書いてサタンとルビふる男が
真の破壊神へと変貌を遂げた瞬間だった。
⇒◇9 に続く
関係ないですけど先日、長年愛用していた電子辞書がとうとう壊れてしまいました。たぶん、落としたのがいけなかった。
お話を書いている間は電子辞書が欠かせないアイテムなので本当に困りました。買って来ましたけどね。
このお話は次がラストになる予定です。
たぶん、完結出来ると思います。
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