弊宅500記事を記念して、ゆきひめ様からお与かり致しましたリクエストをお届け致します。
前のお話はこちらデス⇒破壊神がやって来た【1・2・3・4・5・6】
■ 破壊神がやって来た ◇7 ■
抵抗の意思を掲げ、蓮から逃れるためにキョーコが実行すべしと心得たのは、自己スケジュールの意図的変更だった。
泥中の蓮はオーディションに合格したからこそ入って来た、京子にとっては新規の仕事。
それまで欠かさず入っていた仕事と言えば、LMEで同セクションに所属している3人グループの先輩方、ブリッジロックが司会を務める番組で坊に扮するそれのみ。
しかしこちらは放送回で言えば数日分に相当するそれを一気に収録する為、一度呼ばれれば時間はかかるがスケジュールとして占めている割合は極めて少ない。
つまり、キョーコの日々の予定を埋めているのは学校と、泥中の蓮の撮影の二つだった。
だが、いくらメインキャストとはいえまさか映画の撮影スケジュールをキョーコの都合に合わせて変更できるはずが無い。何しろキョーコ自身、そのスケジュールに合わせて学校を遅刻、あるいは早退しているぐらいなのだ。
ではどうすべきか、は考えるまでもなかった。それ以外の空き時間を変更すればいいのだ。
学校が休みの日は朝早く撮影所へ出向くこともあるにはあったが、泥中の蓮の主役はあくまでも坂上志津摩であり、またストーリー的に主演を務める古賀弘宗氏と比べればメインキャストとはいえ紅葉はそれほど頻繁に登場する訳ではなかった。
彼を中心にして繰り広げられる色恋沙汰はあくまでも観客を惹きつけ、時代劇を魅力的に観せるためのストーリーエッセンスに過ぎない。その証拠にキョーコのスケジュールには所々に空き時間が存在していた。
「 だからね、ココ!!こういう所に予定外の予定を入れちゃえばいいのよ!! 」
自分の予定表に視線を落とし、割と大きく開いている空き時間をあちら、こちらと指さしながらキョーコはコクコク頷いた。
「 例えば、行くつもりなんて無かったけど事務所に顔を出してみちゃうとか、泥中の蓮の撮影現場へ足を向けちゃうとか、思い切って買い物に出かけたりするとか! 」
自分のスケジュールが把握されているというのなら、そこにはない予定をガンガン入れてしまえばいいのだ。
そうすればどんなに敏腕なマネージャーだろうと把捉には至るまい。
加えて、今までは次の仕事のために早めに行動していたそれを今度はギリギリの時間となるように行動変更してしまおうとキョーコは考えた。
なぜなら、今までの蓮の行動パターンから推測するに、自分に時間的余裕がないとき彼は決して自分を追わない。
そして、出会い頭に人とぶつかる可能性が高い場所でも大先輩はやはり追ってはこないのだ。
つまり、その二つの条件をいつも保持できるように心がければ、自然とキョーコが蓮に捉まる可能性が低まるということだ。
「 ふっふっふ。そうよ!把握されているのなら逆にそれを利用してやればいいのよ!! 」
腰に手を当てキョーコは不敵に笑った。
抵抗の意思を伝えるために、社へ…と託された泥中の蓮の撮影スケジュールはもちろん自分が持ったまま。
手渡す気など微塵も無かった。
なぜならキョーコは逃れたいのだ。
どんなことをしてでも、蓮が伸ばしてくる絶対的な魔の手から……。
ひと気のないラブミー部室でキョーコが密やかにほくそ笑む。すると、誰もいないはずだと思っていたのかラブミー部室に入って来るなり奏江は真顔で両目を瞠った。
「 ……やだ、なんでいるのよ 」
「 あ、モー子さん、おはよ…って、もう昼過ぎだけど 」
「 オハヨ…じゃなくて!アンタ今日はここに来る予定じゃなかったでしょ。敦賀さんに捉まりたくないからなるべく事務所には近寄らないようにするって言っていた癖にどうしたのよ? 」
「 ふっふっふ。そうだけどね。今日は敦賀さん、LMEに来ないって情報を入手したから♡
むしろこっちに来た方が安全かなって思って。攻撃は最大の防御なりってことで 」
キョーコは自信満々に胸を張ったが、そんなキョーコを見て奏江は目を細めた。
「 あのね、それのどこが攻撃なのよ。攻撃っていうのはね、仕掛けたそれがどれ程の威力があって、どれぐらいの打撃を与えたのかを確認して、実際に効果があったものをそう呼ぶのよ 」
浅く溜息を吐きながら、自分のロッカーに荷物を放り込んだ奏江は親友キョーコの隣に腰かけた。
「 分かった? 」
「 でもモー子さん。現実問題として私が敦賀さんに打撃を与えるっていうのはちょっと無理があると思うの 」
「 なにを言っているのよ。案外イケると思える手があるわ。それを伝授してあげるわよ 」
「 え?なにそれ、何か有効な手があるの?! 」
「 たぶんね。深い打撃にはならないかも知れないけど、最悪、逃げる隙を作るぐらいは出来ると思うわ 」
「 それ!!何かあった時の為に教えて、モー子さん!! 」
「 ええ。あのね…… 」
キョーコが安全だと信じて疑わないラブミー部室で、味方となってくれた親友、琴南奏江から必殺技を伝授されている間に蓮の元には複数のキョーコ情報が寄せられていた。
普段と何も変わらない穏やかな様子で、ようやく次の仕事先へ移動しようと腰を下ろした運転席。ハンドルを握る直前にブルブルと震えた携帯に手を伸ばした蓮は甘い微笑を浮かべた。
「 ……なんだ。何かいい情報でも入ったのか。やけに嬉しそうだな、蓮 」
「 そう見えます?ん……どうやら最上さん、いまLMEにいるみたいです 」
「 LME?キョーコちゃん、今日はその予定じゃなかったはず 」
「 おおかた変更でもしたんでしょう。俺達がスケジュールを把握していることに気付いて予定外の行動に出たって所でしょうね 」
「 気付いて?いや、違うだろ。ADからどうしましょうって相談されて、それならいっそ暴露しちゃいましょうってお前が言ったからそうなったんだろうが。俺は反対したのに。
だいたいそんな事をしたらキョーコちゃんの動きが見えなくなる可能性が高まるだろうに、なんでわざわざ………っていうか、今のお前のそれ、どこ情報? 」
「 最上さんリアルニュース情報です。
お言葉を返すようですが社さん。遅かれ早かれ同じ事です。表に出ているスケジュールを俺達がどれほど把握した所であの子ならいつかそれに気付いたと思います。
重要なのはそこじゃない。本当に大切なのは、リアルなあの子のスケジュールを把握すること。それが出来なければ表のスケジュールを知る意味も無い訳ですから 」
「 リアルなスケジュール? 」
「 ええ。予定外の行動をされたところで今どこにいるのかを逐一把握できるのなら何の問題も無いじゃないですか。
ハッキリ言ってあと俺に必要なのはあの子を捕まえる時間だけです 」
「 どういうことだ?逐一把握?…ってことは、もしかしたらいまLMEに居る誰かがキョーコちゃん情報をくれたってことか? 」
「 ご名答。協力者の存在はもちろんLMEだけじゃありませんよ。有難いことに各テレビ局はもちろん、同業者にもご協力の意を頂いています。あの子が何処にいても業界内にいるのならほぼどこにいるのかをリアルで分かるようにしたんです。
もちろん、泥中の蓮の現場にいても 」
「 ……うわ。いつの間に 」
「 なにが、うわ…ですか 」
「 俺、お前がキョーコちゃんを追いかけるのはキョーコちゃんの隙を見抜くためだと思っていたけど、本当はその周りとのやり取りが重要だったのか! 」
「 残念。違いますよ、社さん。俺としてはどっちも同じぐらい大切なことですから一挙両得を取ってみただけです 」
「 ……っ…!! 」
再び携帯が振動し、画面を一瞥した蓮は己が巡らせた神算鬼謀の利を実感したのか嬉しそうに目を細めた。
「 ……ということで、社さん 」
「 あん? 」
「 そんな訳でちょっとだけLMEに寄ってもいいですか? 」
「 次の仕事があるっていうのにキョーコちゃんを捕まえに行くのか 」
「 そう出来ればいいんですけど時間的にそれはちょっと難しいですよね。でも最悪、俺があの子の前に現れることであの子の戦意が少しでも削げるならそれでもいいと思いますのでね 」
そう言って前を向いた蓮は、社の返事を待たずにLMEを目指した。
さて、ここまで来ればもうお察しだろう。
予定外にLMEへ足を運んだキョーコのリアル位置情報を蓮にもたらしたのは、少し前にキョーコに荷物を託した受付嬢である。
それだけではない。
彼女はキョーコに偽の蓮情報も与えていたのだ。
さすがは芸能界で一二を争うLME芸能事務所の受付で、数多の客を笑顔でさばく受付嬢だけのことはある。
彼女は先日、蓮のお願いを快く引き受けた。その時から彼女は蓮の協力者となっていたのだ。
蓮の依頼により松島へ…とキョーコにお願いした荷物の配達。それが完了した報告を彼女はキョーコ本人から貰っていたが、シンデレラになり切った掃除をする…に心を奪われていたキョーコはそのとき彼女からハンコを貰うのを失念していた。
そこで、受付嬢は丁度いいとばかりにその出来事を糸口にしてまんまとキョーコに話しかけ、会話の中にさりげなく蓮が希望していた偽の蓮情報を盛り込んでキョーコに口伝えたのである。
人を疑う事を知らないキョーコはすっかりそれを鵜呑みにし、本日ご丁寧にもLMEへ足を運んだということだった。
だから当然、キョーコは気を抜いていて、唐突に蓮が自分の目の前に現れたことを上手に受け入れることが出来ず、現状を認識するのに10秒間ほど微動だにしなかった。
⇒◇8に続く
ごめん。言い訳にしかならないけど、眠くてここまでしか書けんかった…。
⇒破壊神がやってきた◇7・拍手
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