お付き合い頂きましてありがとうございます、一葉です。
こちらは現代パラレル蓮キョです。お楽しみいただけたら幸いです。
前話こちらです⇒ 創生の森【1 ・2 ・3 ・4 ・5 ・6 ・7 】
■ 創生の森 ◇8 ■
情報改復センターの作業場で、俺は今日も
藁にも縋る思いを抱いて可能性に挑んでいた。
「 ……っっ!! これもダメだ。なんでだよ…っ…… 」
彼女が依頼してくれたUSBの状態は、今まで引き受けたどの媒体よりも困難な状況で、正直、見通しは限りなく暗かった。
修復依頼でやってくる記録媒体の殆どは、必ず復旧見込みが存在している。
最上さんから渡されたUSBの見た目は何ら正規品と変わりなく、PCに差し込むときちんと動作反応があった。しかし表面上、データを確認することは出来ない。
つまり、何も入っていないか
読み出しエラーが発生しているかのどちらかということ。
預かる前に本人の前で検証をするのはその可能性を探る意図があり、また調査費用として五千円を請求するのは、本当に復旧したい意思があるのかどうかの有無を計るためでもある。
当たり前のことだけど、状況が同じでも発生するエラーの原因は一様ではない。
原因の究明をすることに意味は無く、俺たちはただひたすらエラーの門をかいくぐることを目標にする。
何しろそれさえ出来れば失われた情報を取り戻すことはほぼ100%出来るのだ。
しかし彼女から預かったUSB記録チップは相変わらずの無反応で、現実の厳しさに俺は頭を抱えていた。
「 ……っっ……なんで…… 」
まるで、あの子に良い顔なんてさせないと釘を差されているかのよう。
俺達が立ち上げた情報改復センターでは、不具合調査の状況を、預かってから10日以内に必ず現状報告することとしていた。
彼女に渡した預かり証にも記載があるそれを無視することは出来ないし、そもそも何も知らせない訳にはいかない。
作業の手を止めた俺は、深い溜息をつきながら壁時計を見上げた。
……ランチの時間。聞いた話によれば彼女はだるまやでバイトのはずだけど。
それが出来なくなるという申し出をおかみさんにしていた所を俺は目撃していた。
――――――― もう少し後で連絡を入れてみよう。
そうだな。帰り際がいいかも…。
情報改復センターの営業時間が終わる午後8時少し前。
俺は彼女の携帯に電話をかけた。
コールは4回。
つながったと同時に何やら騒がしい音が聞こえて、けれど確かに聞き覚えのある声が受話器から響いた。
「 ……はい、もしもし? 」
「 最上さん? えっと、先日USBの不具合調査をご依頼いただいた情報改復センターです。いま平気ですか? 」
「 ええ、はい 」
「 ……あの、本当に平気? いまなんか… 」
「 あ、ごめんなさい。ちょっと騒がしいですか?平気ですよ。実は今だるまやに居るんです 」
「 だるまや? もしかして夕食とか? 」
「 じゃなくて、ランチ時間にバイトが出来なくなった代わりに、夜に入れるならおいでって言われて、お言葉に甘えていまバイトに入っているんです 」
「 ……じゃ、いま仕事中? 」
「 そうですけど、いまは休憩中ですから平気です 」
「 そっか。ごめんね。それじゃ手短に報告させてもらうね 」
俺が現状を説明すると
受話器の向こうから彼女の乾いた笑いが聞こえた。
それが余りに切なかったってことと
自分が役に立たないままなのがあまりにも悔しくて……
「 ふふ…。やっぱりですか? 私って自慢じゃないですけど運の悪さは筋金入りなんですよ。だからそうなるだろうなってちょっと予想していました。そう…。はい、判りました 」
「 いや、判らないで欲しい! 」
「 はい? 」
「 あの……本来ならここで続行しますかって聞く所なんだけど、もう少し俺に頑張らせてくれないかな? 進捗状況はそうだけど、とにかく今まで以上に全力を尽くしてやってみるから。だからもう少しだけ…… 」
俺は、二度目のルールも難なく破り、もう一度のチャンスに縋り付いた。
「 ……っ…じゃあ、お任せしたいと思います 」
「 うん、良かった!!じゃあ引き続き調査をさせてもらうね。もう一度連絡するまで待っていて下さい! 」
「 はい。お願いします 」
電話を切った俺を見て社さんは苦笑い。
俺の頭にコツン…と控えめなげんこつが飛んだ。
「 蓮。ルール違反 」
「 ……すみません 」
「 ま、それだけ真剣だってことか? 」
「 お…俺はいつだって真剣ですよ!真面目に仕事に向き合っているつもりです! 」
「 ……バッカ。そういう意味じゃないよ 」
翌日から俺達は、最上さんのUSB回復作業に二人で当たった。
抜き出したコントローラーの書き込みチップ、読み出しチップをそれぞれ別々に持ち合わせ、そこに蓄積されているはずのデータを引き出すことに情熱を注ぐ。
俺たちは、自分達が持ち得る知識と技術の全てを用いた。
一日、二日…と、時間が過ぎてゆくのはあっという間で
三日目の夕刻。
結果が出た時の落胆は口では言い表しようも無かった。
結局、俺たちはデータを拾う事が出来なかったのだ。
「 ……くっ…そ……っっ!!! 」
あらゆるデータが電子化されている現在、情報漏洩が大きな問題となっている。
パソコンやUSBメモリなどを破棄、または譲渡などで手放す場合、漏洩を恐れるデータほど完全消去に至っていることが望ましい。
なぜなら単純にファイルを削除しただけではデータ復旧の技術により情報を取り戻すことは可能だからだ。
最も確実で且つ短時間でデータを読めなくするなら、記録メディアの破壊が推奨される。
SDなどのカード系メモリならハサミやペンチで破壊する。
USBメモリならばケースを壊し、基板上の黒い記録チップにヒビを入れれば読み出しは完全不可に出来る。
データ復旧に携わる人間ならば誰もがそう口を揃えるに違いない。
依頼書を記入してくれていたとき、彼女が言った言葉を思い出した俺はなんて皮肉な事態なんだと思った。
――――――― 実は…ノートパソコンに差しっぱなしで場所移動をしました。そのときUSBが棚にぶつかってしまって…
軽くぶつかったように見えても、該当品にとってはそれが過度の衝撃だった場合もあるだろう。
本人はそれと意識していなくても、乱暴に扱われたUSBの記録チップに致命傷が入ることは、すなわち破壊と同じ行為なのだ。
つまり、情報回復は不可となる。
「 これ以上の打つ手はない。……しょうがないじゃないか、蓮。そういうことだって無いとは言い切れない。残念だけどね 」
「 そう…ですね…… 」
最上さんのUSBは、書き込み、読み出し、どちらのチップにも致命的な損傷が入っていて、そのため動作データにアクセスすることが出来なかった。
本当に、なんて皮肉なのだろうと思う。
漏洩してしまう情報がある一方で、取り戻したいと切望する持ち主のデータを復旧させることが出来ないなんて……。
情報改復センターの営業が終わる午後8時少し前。
社さんは気を使ってくれたのか先に退社をしてくれて、一人職場に残った俺は、彼女の携帯に電話をかけた。
⇒創生の森・9 へ続く
このお話では、当初から多くの方にキョーコちゃんのUSB、戻りますようにと祈って頂きました。有難うございました。
残念な結果ですが、嘆かないで下さいね。
予告通りこのお話は10話で完結いたします。
最後までお付き合い頂けたら幸いです。
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