お付き合い頂きましてありがとうございます、一葉です。
こちらは現代パラレル蓮キョです。お楽しみいただけたら幸いです。
■ 創生の森 ◇6 ■
翌日の出勤直後。
俺は情報改復センターの作業場で大きなあくびを浮かべた。
「 …っ…ふっくわぁぁぁ~~~~ 」
「 蓮。腑抜けすぎ! 」
眠気覚ましの缶コーヒーを持ち上げると社さんのげんこつが飛んできて側頭部に鈍い痛みが走る。
「 痛っ!危ないじゃないですか、社さん。依頼品の修復媒体にコーヒーがかかったらどうしてくれるんですか 」
「 ンなもん、お前の責任に決まってる。そもそも依頼品の近くで飲食をするな。何のためにこの狭い事務所兼作業場にわざわざ休憩室を設けたんだ 」
「 ……でした。すみません 」
「 わかりゃいい。取り敢えずコーヒーは飲んでいいから、今だけ媒体は棚の上に避難させとけ。
そんで?どうだったんだ、昨夜は。晩飯も食わずに送るとか。お前って案外積極的だったんだな 」
「 ……食べましたよ。あのあと、彼女と一緒に 」
「 は?どこで?…まさか、お前…初対面の女性の家に図々しくも転がり込んだのか? 」
「 違います。飛躍し過ぎです。公園で食べたんですよ。彼女の家の近くにある…。
夜のピクニックみたいでちょっと新鮮でした 」
「 ふっ。なんだ、それ、青春かっ。なんだ? 一緒にコンビニ弁当でも買ったのか? 」
「 残念ながらそれも違います。社さん、気付きませんでした?彼女、だるまやに寄ったあとだったんですよ。それで帰り際におかみさんがお土産を持たせてくれたとかで、一緒にどうですか?…って聞かれたので、ありがたく頂きますって… 」
「 そうだったんだ?気付かなかったな。それでなんでお土産? 」
「 聞くところによるともともとランチの時間にアルバイトをしているそうです。昨夜はその相談に来ていたみたいで 」
「 へえ、そうなんだ。そりゃ意外な繋がり。けどそっか。良かったじゃないか。…青春か 」
「 どうぞ、もう好きなだけ笑って下さい 」
それ以上の会話を避けるため、俺は敢えて社さんに背を向けコーヒーを口に含んだ。
昨夜のことを思い起こすと自然と眉間に皺が寄る。
「 ……っ……失敗、したな…昨日は… 」
楽しかったんだ。昨夜は本当に。
初対面だとは思えないほど会話が弾んだ。
それだけに、最後に自分が踏んだ轍を俺は強く悔やんでいた。
「 ……え?あの、ですから……遅くなってしまいますからどうぞ電車でお帰り下さい~ 」
そう言いながら俺を追いかけてくれた彼女に向かい、俺はどうってことないよ、と目を細めた。
実は歩いて帰るのは初めてではなかったのだ。
仕事帰りの散歩気分。
3駅などどうってことない。
運動不足解消も兼ね、時々俺は歩いて帰宅していた。
そのときあの公園を見つけたのだ。
自宅から徒歩10分程度の、遊具など一つも備えていないただ木々と芝生があるだけのその公園を俺はとにかく気に入っていた。
「 心配しないで。俺、ここから何度も歩いて帰ったことがあるから 」
「 え? 」
「 ここから2駅分ほど過ぎたあたりに割と大きな公園があるの知ってる?俺、あそこが気に入っていてね。仕事が早く終わった日とか、上手くいかなかった日とか、そこに立ち寄ってのんびりしたり気持ちをリセットしたりとか…してるんだ 」
「 へ?そうなんですか? 」
「 うん 」
「 それ、すごい偶然です!実は私の家、その公園の裏手なんです。あの公園、いいですよね。あそこの木々を見ていると何故か私、インスピレーションが刺激されて…。何となく新鮮な気持ちになるんです! 」
「 …――――――― …そう、なんだ。君も? 凄い奇遇 」
「 ふふっ。本当ですね!嬉しいです 」
はにかんだ顔が可愛くて
同時に俺は、やっぱりあの話に出て来る森の入り口って、あの公園をイメージしたものじゃないのかって、そう考えるだけで嬉しくなった。
「 ……あのぉ、伺ってもいいですか? 」
「 うん、なに? 」
「 もしかしたら、先ほどあそこにいらしたのは、だるまやに夕食を食べに行ったからじゃないですか? 」
「 ん?……ん……ん 」
「 だっておかしいですもん。あの場所、改復センターから駅に向かう通りじゃありませんし、何より同僚と一緒にいらしたのにお一人だけこれからご飯って…。変だなって思ったんです 」
「 ……あーっ……ん……ん 」
鋭い。さすが、話を書いているだけあるかも。
こういう場合、なんて返せばスマートなのか全く分からなくて
俺はただ喉を鳴らすしか出来なかったんだけど
そんな俺のバツの悪さに気付いてくれたのか、最上さんは小さく笑った。
「 …という訳で、もしよろしかったらその公園のベンチで一緒に夕食を食べませんか?だるまやのご飯 」
「 え? 」
「 私、ランチの時間にあそこでバイトをしているんですけど、帰り際にいつもおかみさんが賄いを持たせてくれるんです。今日は仕事じゃなかったのにさっき夕食にどうぞって頂いたので 」
「 え?え?……いや、でもそれは君の為のものだから 」
「 大丈夫ですよ。おかみさん、いつも多めに下さるし、私がおっちょこちょいだからお箸も必ず二膳入れてくれるんです。送って下さったお礼…っていうと元手がゼロ円なので却って私の方が恐縮ですが。一緒にどうですか?美味しいですよ 」
「 えっと、じゃあ有難く… 」
「 はい!良かった。お茶ぐらいなら自販機のを私がご馳走しますので! 」
公園に到着してすぐ、俺たちはベンチに腰掛けだるまやのご飯を囲んだ。
彼女が興味深そうに俺の仕事の話を聞いて来るものだから、箸を進めながら俺は彼女の質問に答えて、時々は自分から問いかけたりしていた。
本当に楽しかった。
そんな話なんて誰としたって同じような気がするのに、あの子との会話は初対面だとは思えないほど明るく弾んだ。
だからなのかも。
俺の気持ちはいつの間にか緩んでいたのだ。
「 ……俺、良かったな。この仕事を選んで。こうして君に逢えたから 」
「 へっ?! 」
「 正直に言うけど、俺、好きなんだ 」
「 …っっっ……え……? 」
「 創世の森って、君が書いている話だろ?
俺、あの話の中に出て来る森の入り口の様子が、俺が気に入っているこの公園と似ている気がしたんだ。それで強く惹かれて、読み始めたのはそれがきっかけで、今は先が気になって仕方が無い。
あの話、凄く好きだと思った。言っておくけど、特に読書好きでも何でもない俺がだよ?
ずっと考えていたんだ。一体、どんな人がこれを書いているんだろうって 」
突然の告白だったから、もしかしたら俺の言葉が彼女に伝わり辛かったのかも知れない。
信じられないほど目を見開いた彼女はグッと息を飲み込んで…
「 だからUSB、絶対俺が回復させてあげるから、信じて待ってて?取り敢えず不具合調査が終わったら必ずこっちから連絡するけど… 」
……話の途中で急に顔を真っ赤に染めると勢いベンチから腰を上げた。
「 …最上さん? 」
「 わ…たし、帰ります!!! 」
「 え?ちょっと待っ… 」
「 来ないで下さい!大丈夫です、家はこの裏なのでもう一人で帰れますから!! 」
「 ちょっ…最上さん!あっっっ、ごめん!俺…… 」
…―――――――― 失敗した…
逃げる様に走り去って行く彼女の後姿を見ながら俺はそう思っていた。
仕事上知り得た情報は一切口外しない。
それは最低限のルールだったはずなのに。
それを理解していて、だけど俺はそれでも彼女に伝えたかった。
自分が京子のファンだということを。
彼女が綴る物語を楽しみにしていることを。
彼女なら許してくれると思った。
いま俺たちは二人きりだし、だからいいよな?
そんな甘えがつい出てしまったのだ。
「 …俺、嫌われたかも…。常識ない奴って思われたかも…… 」
せっかく楽しかったのに……
仕事を始めようと作業場の定位置に座った社さんは、地にのめり込むように作業机に突っ伏した俺を見て眉間に深い皺を刻んだ。
⇒創生の森・7 へ続く
キョーコちゃんが何を誤解したのかはピンと来ますよね?
ふふふ♡かわいい。
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