お付き合い頂きましてありがとうございます、一葉です。
こちらは現代パラレル蓮キョです。お楽しみいただけたら幸いです。
前話こちらです⇒ 創生の森【1 ・2 ・3 ・4 ・5 ・6 】
■ 創生の森 ◇7 ■
ルールを破った自分の愚かさを恥じつつ
それを一刻も早く謝罪したくて
俺はそれから毎日、昼食もそこそこに修復依頼のスケジュールをこなしながら、隙間時間を作っては彼女のUSBに向き合った。
一般的にUSBは、安価で大容量なNAND型フラッシュメモリが搭載され、それによってデータ記録が為されている。
フラッシュメモリには一ビット~数ビットのデータを記録できる『セル』が多数搭載されていて、さらにセルが複数セットになった『ページ』と呼ばれるものがデータ記録及び読み取り時の最小単位となっている。
一般ユーザーのほとんどは知らないことかも知れないが、フラッシュメモリには、データの書き込みや消去は出来るが『書き換えは出来ない』という特徴がある。
日常的に行われるだろう上書き処理。
実はこのときメモリー内部では、書き換え対象のブロックデータが全削除され、修正後のデータが新規に書き込まれているのである。
ブロックは複数のページで構成されていて、一つが数キロバイトから数十キロバイトという容量がある。
書き換え作業が出来ないフラッシュメモリでは、例えば10KBの文章のたった一文字、または一万分の一の修正をする場合でも、やはりブロック単位で丸ごと書き換えられる仕組みなのだ。
この一連の流れには更に特徴的な仕様が加わる。
書き出し処理が行われたデータは元のブロックには書き戻されず、必ず書き換え回数が少ないブロックが優先的に選択されて書き込み処理が行われている。
そのためデータは書き込み日付順に規則正しく整列している訳ではなかった。
書き込みと読み出し。USBには二つのコントローラーが存在していて、情報がどこに書き込まれたのか、あるいはどこから読み出すのかはコントローラーに蓄積されていた。
つまり、どちらか一方が生きていればデータが書き込まれた場所を特定できる訳で、その情報を引き出すことが出来れば、すなわちそれがデータ復旧のとっかかりになるのだが。
そこに至るまでには長い作業が必要だった。
「 ……っ!!これもダメか。…ったく、万能プログラミングってのがあれば便利なんだけど…って、それが出来るなら誰かがとっくにやっているよな 」
作業工賃がどうとか
会社の評判がどうとか
そんなものはどうでも良かった。
俺が絶対回復させてあげるって、彼女にそう言ったんだ。
それだけが他人に誇れる、自分が持ち得る技術だった。
せめて、その約束ぐらいは守りたい。
そんなことを何日も繰り返していたからだろう。
さすがに目に余ったのか、社さんは一週間が経った頃、一時的に作業の手を止めた俺を見つけて苦笑を浮かべた。
「 ……ったく、何がどこかの営業さんだったら贔屓にしてもらえるかも…だよ。お前の方がよっぽどこの子だけをエコ贔屓しているじゃないか 」
「 っ!!!…すみません! 他の依頼品もちゃんと期日通りにこなしますから 」
「 バッカ!いいよ、別に。どっちにしろそれだって規約に則った期日までにはこなさないといけない訳だし。それに、そういう出会いってあるだろ?
お前がそれだけ頑張っているのが何よりの証拠じゃないか 」
「 ……出会、い? 」
「 立派に出会いだろ。しかもかなりドラマチックな。俺、最初からそう思ってたんだ。
特に本好きでもないお前が夢中になった話があって、その作者がお前にしか出来ないお願いをしに来た。
これだけでもう、運命を感じないか? 蓮 」
「 運命って……そんな大袈裟な…… 」
正直なところ
そんな大袈裟なものはさすがに感じてはいなかったけれど
ただ、確かに俺は
会ったことも無い彼女に強く惹かれていたのかも知れない自分のそれは自覚があった。
自分が気に入っている公園によく似た森の描写。
最初から読んでみようと思い立ち、遡った一話目の日付を見て、俺はなんて奇遇なんだ…と胸を高鳴らせた。
創世の森の連載が始まった日付と
俺が社さんと起ち上げた情報改復センターの営業開始日がまるで同じ日付だったのだ。
信じられないことに、営業開始時間と公開時間も全く同じ。
スタートが互いにリンク。
それが信じられないほど面白い偶然だと思った。
それからずっと読んでいた、彼女が綴る物語。
いつもいつも、味わうたびに心が激しく揺れ動いた。
更新されなくなったことを気に病み、どうしたんだと考えた矢先に目の前に現れたリアルな彼女。
それは、本当になんてドラマチックな……
「 ……いい、のかな…… 」
運命だって、考えてもいいだろうか。
素直にそう受け止めてしまっても良いのだろうか。
「 社さん。俺、しばらくこっち優先でやっててもいいですか? 」
「 ああ、やってやれ。俺の手が回らなくなったらお前に声をかけるから 」
「 ありがとうございます 」
直したいと思った。
一刻も早く元通りにしてあげたい。
最上さんは依頼者なのだ。
焦りは確かにあるけれど、でもまだ俺には彼女と言葉を交わせるだろうチャンスが用意されている。
前よりもっと強い気持ちを抱いて
俺は彼女のUSBに向き合った。
⇒創生の森・8 へ続く
USBの仕組みについてはちゃんと調べたつもりですが、表現方法で適切ではないと思われる箇所があったら教えていただけるととても助かります。
ちなみに、今回のUSB不具合を受け、修復依頼をした会社に少しですが電話取材を入れました(笑) いやん、図々しい。
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