2015年10月30日:パート2

ユネスコによる「南京事件」の世界記憶遺産登録:その2~記憶遺産って何?!世界遺産とどう違う?!

 10月23日のブログに、「『世界記憶遺産』(Memory of the World)は、日本語訳として正しくない。英語の正式名称にheritage(遺産)などという言葉はどこにもない。直訳すれば『世界の記憶』だ。そもそもこの呼び方が誤解のもとだ」と書いた。

 この事業が始まった20年前、当時の文部省がどうして「記憶遺産」という名称にしたのかは定かでない。 今度、役所に聞いてみようと思っている。 当初、日本国内で関心の低かったユネスコの新しい制度を少しでも普及させたいという思惑があったのかもしれない。

 ユネスコの遺産関連制度で最も有名なのは世界遺産。 次が無形文化遺産だ。 世界記憶遺産(ユネスコ記憶遺産)は、世界遺産や無形文化遺産と根本的に違う。 ひとことで言うと、ずっと軽い「お墨付き」なのだ。

 最大の相違点は、制度の根拠となる多国間の条約があるかどうかだ。 世界遺産は世界遺産条約、無形文化遺産は無形文化遺産保護条約に基づいて創設された。 これに対して、ユネスコ記憶遺産に関する条約は存在しない。 記憶遺産は「ユネスコの事業の1つ」に過ぎない。

 世界遺産の目的は、顕著な普遍的価値を有する遺産の保護、保存。 無形文化遺産の目的は、無形文化遺産の保護となっている。 他方、ユネスコの事業である記憶遺産は、歴史的資料の保護、アクセス等の確保等を目的としている。 加えて言うと、記憶遺産の制度は、登録した資料等の記載内容の1つ1つに関して、その歴史的事実を認定するようなものではない。

 記憶遺産では、2年に1度、文書保存の専門家(国際指紋委員会)が登録の可否を審議し、ユネスコのトップである事務局長に勧告することになっている。 事務局長はこの勧告を追認するのが慣例だ。

 10月10日の未明、ユネスコは新規の登録申請があった88件のうちの47件の登録を決定した。 この中に「南京事件に関する資料」(写真、日記、裁判記録等)が含まれていた。

 今回の問題の構図をひとことで言うと、こういうことだ。 「中立・公正であるべき国連機関の制度が、中国政府の思惑によって制度の設立当初には想定していなかった形で政治利用されようとしている」のだ。

 あ、大事な電話がかかって来た。 この続きはその3で。

追伸:11月2日の午後、馳浩文部科学大臣と岩城光英法務大臣の大臣室を訪問することになった。


◇山本一太オリジナル曲:
「素顔のエンジェル」
「マルガリータ」
「かいかくの詩」
「一衣帯水」
「エイシア」