H30技術士二次試験解答例(Ⅲ-1 解答例) | 技術士を目指す人の会

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2008年に技術士合格後、「技術士を目指す人の会」を立ち上げ、多数の技術士を輩出。自身も勉学ノウハウを活かして行政書士、世界史検定2級、電験三種に合格。

H30年度の技術士二次試験で実際に出題された試験問題の解答例を作成しました。

上下水道部門の上水道及び工業用水道に関するもので、今回は【Ⅲ-1】。

 

問題とその読み込みについて見たい方は、 こちら をどうぞ。

 

【解答例

1 水道の抱える課題

我が国の水道は、2017年現在で普及率約98%となり、水道の普及促進による公衆衛生の向上と生活環境の改善は高いレベルに到達している。

しかし、近年、水道を取り巻く環境は変化しており、多種多様な課題が顕在化している。具体的には以下のような課題である。

少子化による人口減少

②高度成長期に整備した水道施設の老朽化(事故リスク増大と支出増大)

③水需要が低下するに中での資金の確保の困難化

④自然災害の多発(大規模地震、津波、集中豪雨、土砂災害)

⑤工場排水等による水源の汚染(また、クリプトスポリジウム等の含有が懸念される水源を利用しているにもかかわらず、無対策の事業体が数多く存在する。)

⑥地球温暖化に起因する渇水の影響による利水の安定性低下

⑦水需要低下による施設の効率性低下

⑧職員数の減少(技術力の低下と非常時の人員不足)

 

2 水道の理想像

水道の理想像は、将来に渡って安全・強靭・持続を確保している状態である。①安全とは、全ての国民が、いつでもどこでも水道水をおいしく飲める状態で、②強靭とは、自然災害等による被災を最小限にとどめ、被災した場合であっても、迅速に復旧できるしなやかな水道を確保できている状態で、③持続とは、給水人口や給水量が減した状況においても、健全かつ安定的な事業運営が可能な水道を確保できている状態である。

この理想像を実現するため、水道関係者は連携して取り組んでいく必要がある。

 

3 理想像に到達するための取組とこれを実現するための技術的提案

(1)安全について

良好な水源を確保し、水源から給水栓までを捉えた統合的な視点に立ち、水道水の品質管理と水道施設の維持管理を適切に実施する。また、飲用井戸等の設置者に対する衛生指導等の取組を進める。

技術的な提案としては、水源における異臭味物質の将来的な上昇度を推定した上で、目標水質に応じて高度浄水処理を導入する。豪雨により河川水の濁度上昇が懸念される場合は、原水調整池や高分子凝集剤を導入する。また、取水場の更新時には、浄水処理困難物質の流出対策として取排水施設の再編を検討する。

(2)強靭について

大規模地震、豪雨災害、その他自然災害の場面にあっても、必要最低限の水の供給できるよう水道施設を強化する。水道施設の耐震化の推進、バックアップ体制の確立、応急給水や応急復旧に用いる水道用資機材を備蓄等の取組を進める。

技術的な提案としては、想定地震に対する耐震診断を実施し、配水池等の構造物に耐震壁、可とう管等を設置する。管路は、地盤の性状、継手の種類、管路の老朽度等から推測される「震災時の漏水可能性」と、供給ルートにおける重要給水施設の有無、管路の口径、種別等から決定される「断水時の影響度」を勘案して、優先順位を決定した上で、計画的に耐震化を進める。

(3)持続について

水道事業者、専用水道や簡易専用水道の設置者、民間事業者、関係行政機関等が持続的に存在し、水道の健全な供給できる基盤を確保する。水源から給水管までを適切に管理・運営するために必要な資金と人材を確保する取組を進める。

技術的な提案としては、水道施設の更新を適切に実施するため、アセットマネジメントを実施する。特に、資産の大半を占める管路については、管種、口径、土壌、ポリエチレンスリーブの有無、漏水履歴等を勘案して、最大限使用できる年数を設定した上で、更新時期を設定するともに、人口減少を勘案し、口径が過大にならないよう配慮する。

 

4 技術的提案の実行時の取組面と技術面の留意点

中小の事業体が施設整備やアセットマネジメントを構築することは、財政的、組織的に困難であることに留意する必要がある。

このため、広域化や官民連携を実施することが重要である。特に、広域化にあわせて隣接した水道施設の統廃合を進め、安全な水源の確保、耐震化された施設への系統切替、更新費用の抑制を実施するべきである。

また、安全・強靭を確保するための施設整備において、今後の人口動向により、計画給水量、最適な施設能力は変わってくる。これにあわせてアセットマネジメントの内容も変更するべきである。また、水道を維持管理するエンジニアの数も減少することに留意する必要がある。

このため、人口予測、水需要予測を実施する体制を確保し、施設能力の再精査等の対応策をPDCAサイクル化する必要がある。また、施設更新時にはメンテナンスフリー化、長寿命化を進めるとともに、維持管理の省力化を図るためICTを有効活用することが重要である。

 

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