「話せるようになるよ」と保護者から伝えたら、本当に短期間で学校で話せるようになった小学生 | 場面かんもく相談室「いちりづか」

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場面緘黙専門のオンライン相談室

「話せるようになる」と本人に伝えたことで、

短期間で緘黙症状が解消に向かったケース

 

【対象】

なぎささん(仮名)女性

小学5年生

 

【概要】

保育園年中の頃から緘黙症状があり、小学校でも話せない状態が続いていました。オンラインの相談で保護者と話し、保護者から本人に「話せるようになるよ」と伝えてもらいました。

その後は保護者と本人とで相談し、話す練習を始めることができました。その結果、学校で話せる場面が増えていき、相談開始から半年ほどで顕著な改善が見られました。

 

 

【相談開始時の状態】

<生育歴>

・保育園年中の1学期、園で一言も話していないことを保育士から知らされる。
・その後地域の病院を受診し、場面緘黙症、自閉スペクトラム症の診断。
・自分の話を急にしだすなど、家庭でのコミュニケーションにも少し気になるところがある。

・牛乳瓶のふたが捨てられない、何回も感触を確かめるなどのこだわりもある。

・勉強はよくできる。日記や作文などは定型文が多いが書ける。

 

・小学校入学後は一言も話せない状態が続いている。

・登下校は母が付き添う。1年生の途中までは授業中も付き添っていた。

・小学3年生で病気で数日休んでから、登校渋りが始まる。


<緘黙症状>

・学校では一言も話せない(必要に迫られて声を出したことは数回ある)。

・家では普通に話す。外出時も話せるが、周りに人がいるときは緊張する。
・習字、ピアノ、塾では、最低限の聞かれたことに声で答えられる。

 

【本人に「話せるようになるよ」と伝えてもらう】

オンラインで保護者だけと面談しました。

なぎささんにはこの相談について事前に話したそうですが、特に反応はなかったそうです。

はじめに30分ほどかけて保護者から詳しく聴き取りを行いました。

 

なぎささんは学校では話せませんが、それ以外の場面では声が出せているようです。

こういう子の場合は、学校で話せるように積極的にアプローチしていくことが有効です。

学校以外で話せるのですから、学校でも話せる状態にしていける可能性が高いです。

 

今回は本人が同席していませんので、保護者から以下の内容を伝えてもらうことにしました。

・専門家に相談したところ、「必ず話せるようになるよ」と言っていた(資料を参照)

・今から(2学期の途中)練習を始めれば、6年生ではクラスで声が出せるようになるかも

・練習をする場合は、まず「ターゲット」を明確にすると上手くいきやすい

 

こちらはいつも相談で使っている資料の1ページ目です。

まずは「話せるようになるよ」ということを知ってもらうことから始めます。

 

 

【その後のなぎささん】

その後の様子を何度か保護者からメールで教えてもらいました。

 

なぎささんは「話せるようになる」と聞いて、練習に対する意欲が湧いてきたそうです。

保護者となぎささんとで相談して、次のような練習に取り組むことにしました。

・担任の先生に放課後時間をとってもらって、教科書の音読の練習

・遠方に住んでいるおばあちゃんと電話で話す練習

・ピアノや習字の先生と、今よりも大きい声で話す練習

 

担任の先生と話す練習をしたおかげで、2学期の間に学校でも声が出せるようになりました

そこで3学期には、授業中の発表や、委員会活動で他の学年の子に話すことに挑戦しました。

3学期の参観日では、保護者も見ている前で発表ができたそうです。

 

3学期に2回目の面談をオンラインで行いました。

このときは、カメラには映りませんでしたがなぎささんも隣で聞いていたようです。

ここまでの顕著な改善の様子を改めて伺い、今後の練習についても話しました。

6年生になったらもう話せそうとのことだったので、これで相談は終結としました。

 

【解説】

保護者から本人に「話せるようになるよ」と伝えたことが、顕著な改善につながりました。

2回目はほとんど報告だけなので、実質的には1回の面談で解決したケースと言えます。

 

相談がある方の中で、これまで何も取り組みをしてこなかったケースに出会うことがあります。

こういうケースの場合、少し背中を押してあげるだけで顕著に改善することがよくあります。

前回紹介したこちらのケースも、似たような例と言えます。

 

 

なぜこれが上手くいくのかと言えば、多くの人は「緘黙症状が治る」ことを知らないからです。

治るということを知らなければ、治そうという意欲もわきづらいです。

知らないことにはなかなか挑戦することはできません。

 

ですので緘黙症状の改善の第一歩は、「話せるようになるよ」と教えてあげることなのです。

 

 

 【注意点】

事例の紹介にあたっては、本人・家族の同意を得ています。

ただし個人に関わる情報ですので、転載は絶対にしないでください

また必要に応じて細部を改変していますので、事実と異なる場合もあります。

 

この事例の紹介はあくまで個別のケースに対して上手くいった方法です。

同様の方法を行っても、他のケースに対しては効果がない場合もあります。

練習メニューを考えるにあたっては、様々な要素を慎重に考慮した上で、個々に応じた方法を選択するようにしてください。