効果的な「引継ぎ」のための最大のポイントは、
「完全な引継ぎは不可能」と知ることこと
「引継ぎが難しい」は永遠のテーマ
おそらくすべての保護者が経験があることだと思いますが、「引継ぎ」は難しいです。
「毎年、担任が替わるたびに「0から」説明し直さないといけない」
こういう話は本当によく聞きます。
これは緘黙症状のある子だけではありません。
特別な支援や配慮が必要な、すべての子に言えることです。
なぜ引継ぎは難しいのでしょう。
これを理解するには、「先生側」の立場から考えてみるとよいでしょう。
先生側から見た「引継ぎ」
引継ぎと言っても個々の状態により千差万別です。
例えば次のようなケースを想定して考えてみましょう。
【架空のケース】
・緘黙症状のある小学3年生(来年度4年生)、男児
・1学年は約70名で2クラス、毎年クラス替えがある
・新担任は外の小学校から異動してきた方(4月になってからの情報)
新担任は、移動してきた初日(4月1日)に業務の説明とともに子どもの情報も知らされます。
このときに特別な支援や配慮が必要な子に関しては個別のファイルなども渡されるはずです。
個別の指導計画や教育支援計画もその時点で確実に引き継がれます。
そして新担任は当然、始業式で子どもに会うまでの間にこれらの情報を読み込んでおきます。
実はこの段階で、いくつかの壁が存在します。
1.把握しておくべき子の数が多い
まず、個別の支援や配慮が必要な子の数が多いです。
35名程度の学級なら、少なくとも2、3人は特別支援教育の対象になっているはずです。
それ以外にも不登校傾向や心身の不調、家庭の事情、その他様々な問題があります。
この時点で担任が把握しておくべき「要配慮児」は相当な数に上ります。
2.実際に子どもを見ないと分からない
どんなに事前に情報を読み込んでも、やはり実際の子どものことを見ないと分かりません。
紙で書いてある情報から推測したことと、実際の子どもの様子は違っていることも多いです。
情報の引継ぎが有効に機能するのは、新学期が始まってからになるのです。
3.新学期が始まってからは、前の担任からの引継ぎの時間がとりづらい
2.の事情があるため、本当は新学期が始まってから前任者との引継ぎができるのが理想です。
ですが前任者は前任者でクラスをもっていたり、他校に異動していたりすることもあります。
なかなか新学期が始まってから改めて引継ぎをすることはできません。
4.子ども自身も変化する
子ども自身の様子も、春休みをはさんで変化します。
またクラスや担任といった「環境」が変われば、当然子どもの様子も変わります。
以上のような事情により、どんなに丁寧に引継ぎをしようとしてもやはり限界があるのです。
これが保護者から見ると「引継ぎがされていない」と感じてしまう大きな理由です。
「完全な引継ぎはできない」という認識が出発点
上記のような事情があるため、「完全な引継ぎ」というのは不可能です※。
※ここでの「完全な引継ぎ」とは、「その子に適切な対応をするために必要かつ十分な引継ぎ」という意味です
担当が替わる以上は、年度の変わり目でどうしても不十分なところができてしまうのです。
そして不十分なところがあれば、100点満点の対応はできません。
そうすると、「伝えたはずなのにやっぱり分かってくれない」につながるのです。
ですので私は「完全な引継ぎは不可能」という認識に立つことが出発点だと考えています。
完全な引継ぎができない以上、新年度が始まってから改めて説明するしかありません。
最初に出てきた「担任が替わるたびに「0から」説明」は、実は必要なことなのです。
上手な引継ぎをするために保護者ができること
私が考える「上手な引継ぎをする工夫」は、1つだけです。
それは、新年度のなるべく早い時点で担任と相談をすること。
他にも工夫や小技は色々あるのですが、とにかくまずはこれが重要です。
新年度になってからのことは、やはり新年度になってからしか分かりません。
担任の先生やクラスの子との相性もあります。
春休み中の本人の心身の変化もあります。
ですので、結局4月になってから、改めて相談するしかないのです。
そしてこれは、できるだけ早い時期に行うのがお勧めです。
学校側の用意する「個別懇談」の期間を待つよりも、保護者から働きかけましょう。
5月の連休明けでもダメではないのですが、私のお勧めは4月中です。
その理由はシンプルに「早ければ早いだけいいから」。
3月中にしておくこと
4月の早い時期に引継ぎの機会を作ってもらうなら、3月中に動いておくことがお勧めです。
個別懇談でも支援会議でも、3月中の引継ぎの機会に次の情報を残しておきましょう。
「4月になったらできるだけ早く担任の先生と相談がしたい」
細かいことは言わず、これだけでいいです。
あれこれ要望があるよりも、シンプルな方が学校側も対応してくれやすいです。
保護者からの唯一の希望が「4月に担任と相談」なら、機会を設定してくれるはずです。
あとは新年度になってから、ちゃんと考えましょう。