「場面緘黙が治ったきっかけ」
これまで数多くの「緘黙症状が治った方」「話せるようになった方」に出会ってきました。
場面緘黙の症状が人それぞれなように、緘黙症状が治ったきっかけも人それぞれです。
このテーマではそんな、「話せるようになったきっかけ」を紹介していきます。
【きっかけ】「担任の先生との「話す練習」」
これまで私が出会った緘黙症状のある方の「治ったきっかけ」で、最も多いのはこれです。
思い出すだけでも何十人も浮かびます。
ただこれは、一般的に場面緘黙の治るきっかけとしてこれが多い、という意味ではありません。
私が出会う緘黙症状のある方は、ほとんど相談やカウンセリングにくる方だからです。
【事例】
ある小学5年生の子の例を紹介します。
小学校入学時から緘黙症状があり、最初に会った時は学校では一言も声を出せない状態でした。
「話せるようになりたい」という思いはある一方で、今の学校では無理だとも思っていました。
こういう高学年のケースでは「中学校入学時に話せる」状態を目指すことが多いです。
ですがこの子の場合、小学生のうちにできるかもという気もしました。
そこで本人とよく相談して、担任の先生と放課後に話す練習に取り組むことにしました。
本人がやる気なら、「話す練習」はだいたい上手くいきます。
小学校に入ってずっと話せていなくても、別に問題ありません。
どういう条件なら声が出せそうかを本人とちゃんと相談できれば、声を出すことはできます。
この子の場合、最初の練習で担任の先生に小さい声を出すことができました。
そしてそこから、話せる相手や場面を少しずつ増やしていくことができました。
【解説】
担任の先生との「話す練習」がきっかけになる理由を考えてみましょう。
普段の学校生活ではなく、「話す練習」であることが必要なのでしょうか。
それにははっきりした理由があります。
普段の学校生活では、「先生と話しやすい条件」が揃わないからです。
「話しやすい条件」というのは、以下の3つの要素に分解することができます。
1.人
2.場所
3.話す内容や活動
この3つの要素はセットになっていて、普通は場面ごとに連動して変化します(これは重要)。
「担任の先生」がいるのは、いつも「学校」で「集団で学校生活を過ごす」ときです。
家に担任の先生がくることはほとんどないし、学校以外で会うこともありません。
それだけではありません。
「担任の先生が一人でいる」こと自体が、ほとんどないのです。
(ここがとても重要!)
ですので、もしある子が「担任の先生と二人だけでなら話せそう」と思っていたとしましょう。
しかし「担任の先生が一人でいる」場面に出会うことはありません。
偶然「話しやすい条件」が揃う機会は、小学校6年間の中で一度もないかもしれないのです。
だからこそ、話しやすい条件を意図的に作るのです。
これが、「話す練習」が緘黙症状改善のきっかけになる理由です。
「たった10分だけ、担任の先生と二人だけで話す機会を作る」
それだけのことで場面緘黙は治るかもしれない、ということを覚えておいてください。
【注意点】
事例の紹介にあたっては、本人・家族等の同意を得ています。
ただし個人に関わる情報ですので、転載は絶対にしないでください。
また必要に応じて細部を改変していますので、事実と異なる場合もあります。
この「場面緘黙が治ったきっかけ」は、あくまで個別のケースで上手くいったものです。
同様の方法を行っても、他のケースに対しては上手くいかない場合もあります。
緘黙症状改善の方法は、様々な要素を考慮した上で、慎重に判断してください。