「場面緘黙が治ったきっかけ」
これまで数多くの「緘黙症状が治った方」「話せるようになった方」に出会ってきました。
場面緘黙の症状が人それぞれなように、緘黙症状が治ったきっかけも人それぞれです。
このテーマではそんな、「話せるようになったきっかけ」を紹介していきます。
【きっかけ】「転居と小学校への入学」
このテーマで最初に紹介するのは、私が相談を受けたケースでも最も古い方の一人です。
もう10年以上も前に出会った子で、当時彼は幼稚園の年長さんでした。
今ではきっと高校生くらいでしょう。
彼は、不安が強いタイプの、わりと典型的な場面緘黙の症状のある子でした。
緘黙症状の背景に自閉スペクトラム症などはなく、「家ではよく話す普通の子」でした。
また「トイレに行けない」「食事ができない」などの行動の抑制もありませんでした。
私が関わったのは年中から年長の1年半くらいでした。
小学校に入るタイミングで県外に転居することが決まっていたので、
「小学生になったときに、新しい環境で話せるようになること」を目指しました。
具体的な対応としては、次のようなことを1年かけて丁寧に行いました。
・入学前に小学校を見学し、建物に慣れたり、中で話す経験を積んだりする
・春休み~入学式までの間は特に小学校との連携を密にとり、入学式の予行なども行う
・初対面の人や知らない人に声が出せるように、買い物などの際に無理のない範囲で練習する
・現在通っている幼稚園では、無理せず楽しく過ごすことを優先する
・転居等に伴う不安を軽減するように、事前に現地の見学をするなど、時間をかけて移行を行う
・友人関係が作りやすいように、地域の活動や習いごとなどの情報を収集する
その結果、彼は小学生になるタイミングで緘黙症状を改善させることができました。
引っ越してからは一度も会っていないですが、何度かメールで保護者から報告をもらいました。
新しい環境での小学校生活で、クラスの子に声を出して自己紹介をすることができたそうです。
やはり「自分のことを知らない環境」というのが大きかったようです。
それから10年以上が経ちました。
本人はもしかしたらもう、話せなかった頃のことを覚えてないかもしれないですね。
【解説】
「転居」というのは、場面緘黙の症状を改善させるための非常に強力なカードになります。
何度も使える訳ではないですが、効果的に使えれば一気に緘黙症状が治ることもあります。
特に「転居」と「進学」が重なることがあれば、もうロイヤルストレートフラッシュです。
この千載一遇のチャンスを上手く活用して、緘黙症状の改善を目指しましょう。
こういうケースで大事なのは、「運任せにしないで入念に準備すること」。
「小学生になったら話す」と本人が言っていても、実際には上手くいかないこともあります。
すでに保育園からの友人関係ができあがっていて、中に入りづらいことも少なくありません。
せっかく新しい環境でスタートできるんだから、準備できることは何でもしましょう。
少しでも成功する確率を高めるために、時間をかけて準備に取り組むことが大切です。
【注意点】
事例の紹介にあたっては、本人・家族等の同意を得ています。
ただし個人に関わる情報ですので、転載は絶対にしないでください。
また必要に応じて細部を改変していますので、事実と異なる場合もあります。
この「場面緘黙が治ったきっかけ」は、あくまで個別のケースで上手くいったものです。
同様の方法を行っても、他のケースに対しては上手くいかない場合もあります。
緘黙症状改善の方法は、様々な要素を考慮した上で、慎重に判断してください。