【場面緘黙と不登校】④背景にある要因を考える | 場面かんもく相談室「いちりづか」

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場面緘黙と不登校の背景にある要因

 

前回は、場面緘黙と不登校の背景には両者に共通する要因と、主にどちらかに影響する要因があることを述べました。

今回はそれらの要因について詳しくみていきましょう。

 

場面緘黙の背景にある要因

 

場面緘黙の背景にある要因を理解するために、「氷山モデル」という考え方で説明します。

 

氷山の上に出ている部分が、周りから見えている子どもの行動や状態です(=緘黙症状)。

一方海面より下には、表には出てきづらい様々な要因が存在しています。

この背景にあるものを、「本人側の要素」と「環境側の要素」に分けて考えてみましょう。

 

 

 

 本人側の要素 

場面緘黙は不安や緊張の感じやすさのような本人の気質の要因が大きいと考えられています。

 

人によっては、言語やコミュニケーションの能力に苦手さがあることもあります。

(もともと話すのが苦手、文を作るのが苦手、人と関わるのが苦手、声が出しにくい、その国や地域の言語が十分に使えない、など)

「吃音」や「構音障害」のような言語障害が関わっているケースもあります。

「自閉スペクトラム症」のようなその他の発達障害が背景にあるケースも少なくありません。

「社交不安」や「分離不安」といった不安症を併存しているケースも多いです。

 

また、本人自身の意思や考えも緘黙症状には強く影響します

一般的に場面緘黙は「本人が話さないことを選択している訳ではない」と考えられています。

ですが、場面によって「話したくない」と本人が思っている場合もあります。

 

「人と関わるのが苦手」「一人でいたい」といった対人的な好みも緘黙症状に影響します。

「話せるようになりたい」という意思が本人にないと、緘黙症状は長期化しやすいです。

 

もちろん一人の子にすべてが当てはまる訳ではありません

またこれ以外にも知的能力や認知機能、心身の状態など様々なものが要因となり得ます。

 

 環境側の要素 

またこのような本人側にある要因だけでなく、本人の外側にある「環境側の要因」も重要です。

 

特に緘黙症状に強い影響を与えるのは「人」の環境です。

話す相手の態度や話し方や相手との関係は、緘黙症状に直接的な影響を与えます。

中でも、学齢期の場合は「担任の先生」と「クラスメイト」の影響が大きいです。

 

また学校やクラスなどの環境によっても緘黙症状は異なります。

適切な支援や配慮の有無、音や匂い、話し声等の環境の刺激、など様々な条件が影響します。

 

「環境側」と言えば、家庭の環境はどうでしょうか。

「親の育て方が場面緘黙の主たる原因ではない」というのが一般的な考え方ですが、育て方や養育環境が緘黙症状に全く影響しないということはあり得ません。

むしろ「あらゆる環境因子が何かしらの影響を与える」と考えた方がよいでしょう。

 

 「本人側の要素」と「環境側の要素」の相互作用の結果 

こういった様々な要因が相互作用した結果が「緘黙症状(話せなくなってしまうこと)」です。

 

もちろん、どの要因がどの程度影響しているかは人によって異なります。

不安が強い場面緘黙の子もいますし、言語の問題が大きい子もいます。

自閉スペクトラム症の症状と捉えた方が適切なケースもあります。

本人側ではなく環境側の要因によって、緘黙症状が続いているケースも少なくありません。

 

 

不登校の背景にある要因

  

では次に不登校について考えていきましょう。

 

場面緘黙と同様、不登校の背景にある要因も多様です。

不登校の要因や背景については多くの解説が存在しますので、ここでは詳しくは述べません。

この記事で注目したいのは「場面緘黙との関係」ですので、そこに絞って考えてみましょう。

 

 場面緘黙と不登校に共通する要因 

上記の場面緘黙の背景にある要因のうち、不登校の要因にもなり得るものはどれでしょうか?

 

<本人側の要因>

・「不安や緊張の感じやすさ」「繊細さや敏感さ」といった、本人の気質や性質の要因

・「自閉スペクトラム症」のような、その他の発達障害

・「社交不安」や「分離不安」といった不安症

・本人の意思や考え

など

 

<環境側の要因>

・仲のよい友だちなどの人間関係

・相手(教師やクラスメイト)の態度や話し方

・適切な支援や配慮の有無

・音や匂い、話し声等の環境の刺激

・家庭の環境

など

 

このように整理してみるとどうでしょうか。

場面緘黙と不登校は背景にある要因がかなり共通している

ことが分かります。

もちろん影響の仕方が異なるものもありますので、「全く同じように」ではありません。

 

 場面緘黙の要因のうち、不登校の要因にはなりにくいもの 

一方、場面緘黙の背景にある要因のうち不登校に当てはまらないものはどれでしょうか。

 

「言語やコミュニケーションの能力の苦手さ」と「言語障害」ではないかと私は考えています。

(もちろん吃音や構音障害が不登校の要因になることもあるので、完全に除外はできません)

その他で「不登校の要因にはなり得ないもの」はあまり思いつきません。

 

 不登校の要因のうち、場面緘黙の要因にはなりにくいもの 

では、反対に不登校の要因であって場面緘黙の要因にはなりにくいものは何でしょうか。

 

こちらは色々なものが考えられます。

・上記以外の心身の問題:起立性調節障害、過敏性腸症候群、適応障害、パニック症、など

・学校生活に起因する過剰な負担や刺激:学業や部活、その他の学校生活上のできごと、など

・本人の意図的な怠学や学校の拒否、など

 

不登校の背景にある様々な要因のうち、「話すこと」に直接関わらないものが該当します。

 

  

背景にある要因:まとめ

 

ここまでの内容を図にまとめると、以下のようになります。

 

 

かなり単純化してあるので、すべての場面緘黙と不登校を説明できる訳ではありません。

よく当てはまらないケースもあるでしょう。

 

それでもこれからこの問題を考えていくための大まかな見取り図にはなると思います。

※なお、ここまでの考えはあくまで高木個人の仮説です。

 

 明確な違いもある 

さて、ここまでは場面緘黙と不登校がいかに密接に関係しているかについて説明してきました。

 

しかし両者には明確な違いがあります。

それは「何をゴールにするか」です。

 

「場面緘黙の問題の解決」は、明らかに「話せるようになること」です。

ほとんどこれ以外の答えはありません。

 

一方で「不登校の問題の解決」の在り方は多様です。

次回はこの点について、より詳しく検討していきましょう。