場面緘黙と不登校の「関係」
「緘黙症状があるから不登校になる」のか?
「原因」と「結果」の関係を考える
前回の記事では、不登校になってしまう場面緘黙の子は非常に多いことを説明しました。
しかし単純に「場面緘黙があると不登校になりやすい」という結論に飛びついてはいけません。
両者の間の「因果関係(原因と結果の関係)」はまだよく分かっていないからです。
これについては客観的なデータはありませんので、私の臨床経験から考えてみたいと思います。
原因と結果の組み合わせ
「どちらが原因でどちらが結果か」は、論理的に考えて以下の4つのパターンがあります。
1.AがBの原因(場面緘黙があるから不登校になる)
2.BがAの原因(不登校だから場面緘黙になる)
3.AとBに共通する原因Cがある(他の要因があり、場面緘黙にも不登校にもなっている)
4.AとBとに共通する原因はない
(両者は因果関係がなく、たまたま場面緘黙にも不登校にもなっている)
論理的には4.もあり得ますが、考える意味がないので除外します。
ここからは1.~3.のケースについて考えていきましょう。
(ただしこれは話を整理するための単純化したで、実際に1.~3.を区別するのは困難です。場面緘黙も不登校も明確な1つの原因がある訳ではなく、様々な要因が相互に影響し合って現在の状態となっているものだからです)
3つのうち最も多いのはどれか
私は「3.AとBに共通する原因Cがある」が最も多いと思います。
※「共通する原因」には「強い不安症状」や「繊細さや刺激の受けやすさ」、「環境側の要因」などが考えられますが、詳細は次回の記事で述べます。
「1.AがBの原因(場面緘黙があるから不登校になる)」の傾向が強い子もいます。
わりとはっきりと「話せないから○○が嫌で学校に行きたくない」という子です。
この場合は緘黙症状が原因な訳ですから、緘黙症状の改善から取り組むと上手くいきます。
一方「2.BがAの原因(不登校だから場面緘黙になる)」は比較的稀です。
これは「不登校の子のほとんどは場面緘黙にはないっていない」ということからも明らかです。
とは言え、場面緘黙を中心とした臨床ではこのケースに出会うこともあります。
「以前は普通に話していたが、学校に行けなくなってから話せなくなった」という子です。
ただし1と2のいずれも、「共通する原因C」が全く存在しないということはないと思います。
どちらかの原因になり得る要素は、ほとんどの場合もう一方の原因にもなり得るからです。
1の場合も「場面緘黙だけ」を原因にして不登校が生じたと考えるよりは、学校に行きづらい複数の要因の中で緘黙症状が特に大きな要因となったと捉える方がよいと考えています。
「共通する要因」とは何か
ここまでの内容を整理すると、図のようになります。
なお、ここまで話を分かりやすくするために「原因」ということばを使ってきましたが、場面緘黙にも不登校にも単一の分かりやすい「原因」が存在している訳ではありません。「場面緘黙の原因」「不登校の原因」というのは大きな誤解を招く表現なので、ここからは「原因」は使わずに「要因」で統一して使っていくことにします。
図では「共通する要因」が大きく描かれています。
これはどちらかだけに関わる要因よりも、両者に共通する要因が多いと考えているためです。
場面緘黙の要因になることの多くは不登校の要因にもなると言えます。
もちろん、「主に場面緘黙に関わる要因」や「主に不登校に関わる要因」もあります。
次回の記事で、これらの要因について詳しく見ていきましょう。