82:臨
17:遯
TP18:変容
長々と続けてきた「六十四卦雑想」のテーマも、最終回である。
各爻の陰陽が反転した関係にある大成卦どうしを「ツイストペア」と銘打って、大成卦ふたつづつを紹介してきた。
大成卦は全部で64あるから、ふたつづつで32回。
易タングル(*1)には、どの大成卦にも対応しない「ブランク」が一枚あるから、全33回。
「TP」はツイストペアの略で記事の冒頭にある「TP18」は18番目のツイストペアであることをあらわす。
この番号は、ここで紹介した順番ではなくて別のルールでふられた番号。
この番号ももちろん全部で32、TP01〜TP32までがある。
☆
「遯」と「臨」。

【17:遯】

【82:臨】
シンプルなタングル。
水平線だか地平線だかのようなものがあって、なんだかヒラヒラしたパターンがそこから去っていくように見えるのが「遯」だ。
逆に、ヒラヒラがそこへ向かっていくようにみえるのが「臨」だ。
このヒラヒラは、ゼンタングルで「ケイデント」と呼ばれるパターンで、一連の「易タングル」では、なんとなく、「風」のようなものをあらわしている。
「風」は去り、またやってくる。
☆
「遯」は、のがれる、しりぞく、の意味。
引退の意味もある。
爻辞にはのがれ方のいろいろ、引退のスタイルについて書かれている。
大成卦のカタチを観ると、一番下、初爻とその上の二爻が陰で、あとは陽である。
易の場合、原則、変化は下から起こってくる(周易、十二消長卦の原則。易は逆数なり)。
陰は「おおむね」悪いものとされていて(これもどうかと思う。だけど、レガシーではそう)、この二陰は小人(しょうじん)、つまらない人、モノ、事。
それらが、だんだん下からあがってくる、というわけ(十二消長卦)。
しかももう一段上の爻、三爻も陽から陰に転じてしまえば、これは全体として「否」という卦になってしまう。
否は否塞、ふさがるという意味で、天と地の往来が(一時的にではあるものの)完全に途絶えてしまう状況をあらわしている。
これじゃやってられんわ、というわけで、賢人はつまらぬ争いから逃れ、引退する。
この世を「つまらない争い」とひとくくりにするのはあまりに乱暴すぎるけど、やがて皆、この世を引退するときがくる。
ケイデントは「風」だ。
「遯」では、
「風」はこの地上から離れようとしている。
「風」という文字を見ると、
亡くなった現代詩の先生を思い出す。
ペンネームだったのだろう。
手紙の末尾にはいつも、
「風」と記されていた。
☆
何かに臨む、向かって行くのが「臨」。
臨海学校の「臨」。
臨む方向。
ふつうは下から上を臨むわけだが、
上から下を見下ろせば「君臨」になる。
勢いのある卦だが、
臨む方向が終わりの方だと、
これを「臨終」という。
人生の一大事は終わりだけじゃない。
はじまりだってある。
いよいよ生まれる。
「臨月」。
臨み方のいろいろが、
この大成卦の爻辞になっている。
幕末の軍艦、「咸臨丸」の名はこの卦の初・二爻辞からとられたというのは有名な話。
日本人の操艦により初めてアメリカに臨んだ。
爻を二つづつまとめるやりかたで観ると、「臨」は、でっかいひとつの八卦、「大震」であり、全体としても勢いがある。
☆
ツイストペア全体の意味としては「変容」とある。
なぜ「変容」なのかというと、「遯」と「臨」を並べて観たときに、陽爻のカタマリが上から下へと、かつての女子高生のルーズソックス(古い)のようにズリ落ちていくようにみえたからである。
このズリ落ちていく陽爻群が「皮」にみえた。
つまり、「脱皮」である。
生まれ変わる。
だから「変容」。
古い形態の終わりは、(「遯」)。
新しい次元の始まりは、(「臨」)。
「風」は去る。
そしてまた、やってくる。
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*1
「ゼンタングル」、「易タングル」については、「六十四卦雑想ーーはじめに」を参照してください。
*2 「go die go」
昔、「ゴダイゴ」というバンドがあった。