ある女性にたのまれて失せ物占をした。
ぼくは占い師じゃない。
一応お断りする。
あてにならないですよ。
ふだんはほとんど占いなんかしてませんし。
あまり気はすすまなかったが占った。
それでも、とおっしゃるので。
☆
なぜ気がすすまなかったというと、
失せ物などの具体物をピンポイントで占うのはとても難しいからだ。
ゴマカシもきかない(もちろんゴマカそうと思って占うわけじゃない)。
失せ物占がうまい占者もいると思う。
だけどぼくは得意じゃない。
易で観るよりダウジングでもした方がいいんじゃないか。
だけどあいにく、そんなスキルは持ちあわせていない。
なくした物はA4サイズの卒業文集で薄いものだったそうだ。
借りて、持ち出して、なくした。
落としたのか。
どこかに置いてきたのか。
わからない。
行った店、歩いた場所、自宅。
考えられるところはすべて探したという。
どのあたりからなくなったか記憶も定かでない。
気がついたらなかった。
お店や駅や寄ったお宅、警察にも問い合わせたが、サッパリ。
☆
占って出たのは「目癸」(←1文字として見てください。これを打っている環境(ポメラ)では出てこない字です。「ケイ」と読みます)。
変爻は、ない。
「目癸」(ケイ)の不変。
ぼくがこのブログで推奨しているサイコロを使った無筮立卦では不変ということはありえない。
上下卦を示す八面サイふたつとふつうの六面サイひとつ、合計3つのサイをいっぺんに振るからだ。
六面サイが必ず本卦の変爻をあらわす。
筮竹を使った場合の略筮法、中筮法と同じことである。
三枚のコインを使う無筮立卦、擲銭法ではままありえる。
老陰または老陽がでなければ、本卦に変爻はなしということになる。
筮竹を使った場合の本筮法と同じことである。
☆
このブログの「六十四卦雑想」のテーマでずっと紹介しているゼンタングル(易タングル)を描いたカードを使って占った。
タングルは全部描き終わっている(*1)。
今は自分で試験的に使っている。
このツールではカードを2枚ひいて占う。
最初に引いたカードがあらわしている卦を本卦にする。
カードには卦の象(カタチ)の他に漢数字が描かれていて、これが変爻をあらわす。
2枚目のカードではこの漢数字をみる。
その数を1枚目の本卦の変爻にする。
爻は初爻〜上爻まで全部で6つある。
大成卦は全部で64ある。
対応したカードも64枚。
そこに初(一)、二、三、四、五、上(六)の6つの数を均等にわりふっていけば4つの大成卦があまる。
易タングルのカードでは「乾」「坤」「泰」「否」の4枚のカード(大成卦)にはこの漢数字が描かれていない。
つまり、2枚目に引いたカードが「乾」「坤」「泰」「否」いずれかのカードであったときには「変爻なし」ということになる(*2)。
☆
今回の占例では「目癸」(ケイ)が出たが2枚目に引いたカードは「坤」だった。不変(変爻なし)ということになる。

【「目癸」(ケイ)のタングル】

【「坤」のタングル】
失せ物占の場合、要点ははっきりしている。
1、なくしたものが出てくるのか、こないのか。
2、出てくるのであればどこから出てくるのか。
または、どこにあるのか。
2の「どこ?」という点については変爻のある爻位がヒントになることがある。
たとえば変爻が内卦にある場合は家の中にあって、変爻が外卦にある場合はどこかほかのところにある、といった観方をする。
初爻から上爻へと、その場所はおおむね相談者から遠ざかっていく。
ホームからアウェイへ。
不変だとピントをどこに合わせていいかわからないようなもので、ピント……フォーカスが合っていないということ。
フォーカスが合っていない写真は、何を撮りたいかよくわからない写真で、つまり捜し物はどこにあるかわからないという、大変困ったことになるのである。
☆
フォーカスが合わないのはカメラ(システム)が安いからでも壊れたからでもない。
変爻がないということ自体がひとつの情報なのだ。
変爻がないということは、動きがないということで、状況は変わらないと観ることもできる。
断易では「動爻」というそうだが、同じ様な観方をすることもあると聞いたことがある。
逆に動爻が多すぎると百家争鳴、シッチャカメッチャカ、収拾がつかない状態であるといったふうに観ることも。
変爻がないということは動きがないということ。
動きがなければ出てくる物もでてこないのである。
「失せ物占で不変を得た場合は出てこない場合が多い」
というのは定石だと易の本で読んだこともあるような気がする。
だが、「出てこない」という回答もありだということは、特に相談者が必死であればあるほど意外と忘れがちである。
なんとかして見つけなきゃ!
と、思うのが人情だからである。
でも、出てこないこともある。
☆
不変という結果を見たとき、
『出てこないんじゃないか』
とすぐに思った。
くりかえすが、使ったツールは易タングルのカードで、このツールでは不変というのは64枚中たったの4枚。
そのうちの1枚が出てしまっている。
易システム(筆者独自の易解釈)では対象となっている大成卦を構成する各爻の陰陽を反転してできた大成卦、「裏卦」もあわせて観ることにしている。
「目癸」(ケイ)の裏卦は、「寒」の点の代わりに「足」と書く、「ケン」である。
「ケン」は身動きがとれない、動けないことを意味する難卦である。
動けない、ということはつまり動きがない、ということとほぼ同義。
失せ物は失せたところから「動けない」。
不変と裏卦という象(シルシ)は双方とも「出てこない」を指さしている
(ように観えた)。
だけど無下に「出てきませんよ」とは言えなかった。
ここらへんがアマチュアなのである。
射覆(せきふ)(*3)や失せ物占の場合、大成卦よりも大成卦を構成する八卦のイメージをふくらませて応用することが多い。
アマチュアはイメージを的確に絞れないものだから、いきおい回答は玉虫色になる。
ええと、次を参考に再度さがしてみてください。
二女(ふたりの女性。若い女性とちょっと歳の女性)が同居する家(「目癸」(ケイ))の象意)
西南(「目癸」(ケイ))の上下卦、兌と離から。坤の卦辞にも西南の字がみえる)
低いところ(床、地面)袋の中、暗いところ、ナニカの下敷きになっている(この辺は坤からの連想)
キッチン(兌=水、離=火から)
下手なテッポウも数打ちゃ当たる。
「『出にくい』というサインも出ています」
というタマも付け加えて。
聞かされる側からすればワケのわからない回答だ。
出ないと思うけど探せって言ってるのである。
まあなんていうか……
そもそもぼくが占いを依頼されること自体、
たぶんなにかのまちがいなのだろう。
☆
と、ここまで書いて、ブログ原稿を放置していたら、
当の女性からやっぱり出てこなかった、という連絡をもらった。
文集の貸し主に謝ったそうだ。
でも在庫というか予備が数冊あって事なきを得た、ということで。
ついでに占例のブログ掲載の許可もいただく。
当たった……ということなのだろうが、
よろこんでいいのか、よくわからない。
一件落着ではあるけど。
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(*1)「タングルは全部描き終わっている」
「ゼンタングル」、「易タングル」については、「六十四卦雑想——はじめに」を参照。「六十四卦雑想」のテーマは、後追いで書いているこのカードの解説(というかエッセイ)。
(*2)「2枚目が『乾』『坤』『泰』『否』では変爻なし」
この配当は易システム(筆者独自の易解釈)の「後天動因図」依拠しているが説明は省略。
(*3)「射覆(せきふ)」
易者の腕試し。
目隠しして置かれたものが何か易占で当てる。
通常まったくのノーヒントで出題されることはない。
歳時記にちなんだ季節の物や、
答えとして「なるほど!」と思わせるようなものが選ばれる。
出題する側にもセンスが要求される風流なゲーム。