井上夢人さんは、1950年福岡県生まれで本名は井上泉。徳山諄一さんとコンビを組んだペンネーム”岡嶋二人”として、1982年から1989年まで創作活動し、数々の傑作を世に送り出しました。

 

1989年にコンビを解消後はペンネーム”井上夢人”として、現在まで活動を続けています。 その作風はSF&ホラー色の強い独特の世界観を持っていて、嵌まると抜け出せません。 私のように(笑)

 

ただ、岡嶋二人時代は10年足らずで20作以上刊行した実績があるのに、井上夢人となってから30年以上経つのに作品数はエッセイも含め14作のみ。 ちょっと寡作なんですよね。

 

そんな井上夢人作品の私的ベスト3を選んでみました。

 

第1位: 「ダレカガナカニイル…」(1992年)

岡嶋二人が解散した後、井上夢人としてのデビュー作です。 新興宗教の教祖が謎の死を遂げて以来、主人公の頭の中で他人の声が聞こえ始める・・・。 ミステリーであり、ホラーであり、恋愛小説でもあるというジャンルミックスな作品でありながら、物語の最後の収束点に向けて、緻密に計算されています。 切ない余韻の残るラストも素晴らしい!

 

第2位: 「パワー・オフ」(1996年)

コンピュータ・ウィルスを扱った小説です。 30年近く前の作品なので、パソコン通信全盛であったり、インターネットやWindowsなどが、まだ一般的でなかったりしますが、物語の本質には何の影響もありません。 現実に根ざした「ありえない世界」を描いて、最後は人間にとっての根源的な問いである「生命とはなんぞや」「進化とはなんぞや」にまで言及した作品です。

 

第3位: 「ラバー・ソウル」(2012年)

幼少の頃の病気と整形手術の失敗から、誰もが顔をそむけるような醜い要望となった鈴木誠。 そんな彼が、美しい女性と出会い、惹かれていき、やがてそれがエスカレートしていって・・・。 直線的なストーリーで長編をぐいぐい読ませる抜群のリーダビリティー。 そしてそれが反転した時の切なく哀しい幕切れは、胸が苦しくなると思います。

 

次点: 「オルファクトグラム」(2000年)

姉を殺した犯人に殴られたことがもとで、普通の人の数百万倍から数十億倍の嗅覚を獲得した主人公。 嗅覚という小説にするのが難しいテーマも、膨大な取材と参考文献をベースに、物語を膨らませていく井上さんの語り口が素晴らしい! ”匂いを視る”ということの理論的説明も納得感があります。 ラストはシリアルキラーとの対決になり、緊迫感満点のクライマックスを迎えます。

 

長編小説ばかり選んでしまいましたが、短編集も井上さんの個性が感じられる面白い作品が多いです。 インチキ霊媒師とそのサポートチームの活躍を描く「the TEAM(ザ・チーム)」、全編が男女の会話のみで構成される「もつれっぱなし」あたりは是非読んで欲しいですね。

 

今年の本屋大賞「発掘部門」に、1994年作の「プラスティック」が選ばれているように、井上夢人作品ならどれ読んでも面白い!

 

刊行されている14作の内、10作は記事にしてありますが、残りの4作も再読&記事化する予定です。

 

2015年の「the SIX(ザ・シックス)」以来、新刊が出ていない井上さんですが、今年で74歳とまだまだ老け込む年ではないので、新作を期待したいと思います。