横山秀夫全作品再読プロジェクト!は、残りあと2作になっていますが、他に全作品を再読して記事にできそうな作家は誰かなーと考えてみました。

 

・その作家の大ファンであること

・作品数がそんなに多くないこと(なので東野さん、宮部さんなんかは無理)

・新作はもうそれほど書いていないこと

 

という条件で考えてみると・・・・いました、井上夢人さん!

 

主な作品14作はすべて読み、そのうち8作は記事にしていました。 残り6作。

 

今回はその中で、最も大作と思われる「オルファクトグラム」を再読しました。

 

姉を殺害した犯人に事件現場で襲撃された片桐稔は、その後遺症から通常の“匂い”を失い、イヌ並みの嗅覚をもつことに・・・・。

 

まったく違う世界に戸惑いながらも、失踪したバンド仲間を、嗅覚を頼りに捜し求めてゆく。 新たな能力を駆使することで、姉の仇を討てるのか? 新感覚の大長編異次元ミステリー。 (BOOKデータベースより)

 

人間の五感である視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚、の中で臭覚は最も研究の遅れた分野であり、視覚や聴覚なんかと比べると、それほど重要視されてませんね。

 

そんな嗅覚をとことんまで突き詰めて、ミステリ小説に仕立て上げるという、まさに井上夢人さんならではの離れ業をやってのけた小説です。

 

姉を殺した犯人に殴られたことがもとで、普通の人の数百万倍から数十億倍の嗅覚を獲得した主人公・片桐。 膨大な”匂い”の情報量に最初は戸惑いますが、やがて”匂いを嗅ぐ”のではなく、”匂いを視る”という能力を獲得することになります。

 

片桐の能力の凄さはバイト先の日本料理店で発揮され、大学で科学的に定量的に測定され、やがてその能力を使って姉を殺したシリアルキラーを追って行くことになるのですが・・・

 

膨大な取材と参考文献をベースに、嗅覚についてわかりやすく説明しながら、物語を膨らませていく井上さんの語り口が素晴らしい! ”匂いを視る”ということの理論的説明も納得感があります。

 

ラストはシリアルキラーとの対決になり、緊迫感満点のクライマックスを迎えます。

 

ただ、あまりにも嗅覚に関する記述に重きを置いたため、シリアルキラーの背景説明がちょっと足らなかったかな。 何故血を抜くのかもわからなかったし・・・

 

それでも、嗅覚という厄介なテーマで、文庫1000ページ近くを面白く読ませる筆力は凄いです。 「クラインの壷」や「パワー・オフ」というSFミステリの傑作をものにした井上夢人さんの本領発揮でしょう。 お勧め!