「ウーバーイーツ配達中に死亡事故」の記事で考えた。弱い立場で働く者を保護する法制度が必要では? | 野良猫の目

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Uber Eats」のカバンを背負った配達員が、車道、歩道を問わず傍若無人に走る姿をよく見るようになりました。

 一月ほど前に、横断歩道を歩いていた人が、赤信号で停車していた自動車の右側を抜け出してきたウーバーイーツ配達人の自転車にぶつけられそうになるのを目撃しました。もしこの自転車が歩行者にぶつかったら、ウーバーはどのように責任をとってくれるのだろうかと気になっていましたが、この心配していた事故が既に現実のものとなっていたことを毎日新聞の「ウーバーイーツ配達中に死亡事故 自転車運転の28歳を在宅起訴」の記事で知りました。

 

上の毎日新聞の記事に次のようなウーバーのコメントがあります。

 

○事故で亡くなられた方のご冥福をお祈りするとともに、ご遺族の皆様に心からお悔やみ申し上げる。当該配達パートナーのアカウントを停止する措置をとった。配達パートナーに対する交通安全の啓発活動を強化する。

 

「当該配達パートナーのアカウントを停止する措置をとった」ということで、「当社と配達員とは何の関係もなくなった。」と主張しているようにも読めるのです。

 

この新聞記事を初め、報道記事では第三者への賠償問題まで踏み込んだものは見ておりませんウーバーは「配達人は独立した事業者であって、ウーバーの従業員ではない」との主張が、同社から配達人の労働組合に対してなされていることは報道などで知っています。そして今回の事故も、ウーバーは「配達員は独立し個人事業者だから、当社に責任はない。」と決め込んでいるのではないかとの心配が湧いてきます。

 

そこで、ウーバーのサイトから資料を集め、気付いた問題点を書き出してみました。なお、外部から資料を集めることだけでは全体像を掴むことは出来なかったこと、そのために、以下の内容に事実と違うことがあり得ることを最初にお断りしておきます。

 

 

1.自社の社員が加害者になった場合とウーバー配達員が独立した事業者の場合とでどう違う。

この事故を一つの事例として、会社の社員が業務上で第三者に損害を与えた場合と、ウーバーイーツの配達員のように個人事業主であった場合とで、第三者への賠償の取り扱いがどのように変わるかを図にして考えてみました。

 

 

(1)会社の社員が業務中に事故を起こした場合

一般論として、会社の社員が業務中に事故を起こした場合であれば、会社が被害者に賠償することになります(図-Aの①)。通常は会社として職業上の賠償責任をカバーする保険を掛けていますので、この賠償金は保険金でまかなわれることになります。また、社員への内部求償(図Aの②)も、社員が余程酷い事(故意と思われるようなこと)でなければ通常は行われません

 

 

(2)ウーバーイーツの配達員が個人事業主だった場合(ウーバーがこう主張するかも知れないと思われるもの)

ウーバーのサイトに外からアクセスするだけでは入手できる情報には限りがあります。配達料の支払い基準が分からないことなどから、“労働”の実態が分からなかったので、下の図がどこまで実態を反映しているか私にも分かりませんが、第三者への賠償の仕組みは概ね次のようになると思います。

 

 

ウーバーのサイトによれば、配達中に生じた賠償事故に対して1億円までの保険が手当てされているようです(図-Bの①:配達パートナー向けサポートプログラム)。

「配達員は独立した事業者であって……」という主張に徹するのであれば、このような“保険で裏打ちされた補償”は必要ないのでしょうが、敢えてこのような制度を設けたのは、おそらくウーバー自身も、実際に事故が起きれば「当社に責任はない」では済まされないとの危惧があったのでないかと私は推測するのです。

 

この場合でも、被害者への賠償額が1億円を超えた場合にどうなるのか不安が残ります。

配達員だけが賠償責任を負わされるのであれば、1億円を超える部分の賠償金は配達員が被ることになると思われます(図-Bの③)。この場合、配達員が十分な賠償能力が無ければ、配達員がウーバーの社員であったと仮定した場合と比較して、被害者にとっても不利な結果にならないとも限りません。

 

 

賠償問題とは別に、配達員自身に生じた傷害等による損害はどうなるという疑問があります。配達員がウーバーの社員であったなら適用になったと思われる労災も、個人事業主であれば適用になりません。その代わりとでも言っていいのかどうか分かりませんが、ウーバーは配達中の事故で配達員が事故で傷害を被った場合に生じた損害について、補償制度(保険によって裏付けされたもの)を手当しています(この内容につては今回は省略します。)。

 

 

2.弱い立場の者にリスクを集中させないような法制度が必要ではないか。

ウーバーのサイトを外からみて得られる情報の範囲では、ウーバーイーツの配達員、商品を預ける飲食店等の業者、注文客の3者間の契約内容がどうなっているのか充分には分かりませんでした。しかし、これらの契約関係がどうあろうとも、第三者から見れば、配達員が自前の「○○配達」のような独自の運送業者としての看板を掲げて配達しているわけではなく、「Uber Eats」の看板で仕事しており、それによってウーバーが利益を上げているのですから、当事者間の形式的な契約を前提とした法律論はともかく、一般庶民の感覚としては、ウーバーが第一の当事者となって被害者に対して責任を取るべきだと考えるのですがいかがなものでしょうか。ウーバーに限らずギグワークなどで仕事を依頼する事業者が、被害者に対して「当社の従業員ではないので、当社に責任はない。」と主張されたとしても、何か納得できないものが残ると思うのです

 

第三者への加害事故では、刑事責任の問題とは別に、被害者に対して十分な賠償が確保できない事態が予想できるなど、いうなれば何の関係の無い第三者がそのとばっちりを受けることになりかねないという問題があります。そして、例え賠償の問題は保険で解決がついたとしても、加害者となった者にも心の傷が残るものです。

 

この事故の賠償が今後どのように進むのか見当が付きませんが、弱い立場の人間(配達員)が一人で苦しみを抱えるような結果にはなって欲しくないものだと思います。そのためにも、法制度を整えて事業者(事実上の雇用主)から被害者に対して十分な補償・賠償が保障されるような制度を維持し、かつ弱い立場の者にリスクを集中させないような働き方を保障することが必要だと考えます。そしてそのことは大きな社会利益になると考えます。

 

 

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