今年最後の記事になると思います。マニアックなDTMでのクラシック音楽の再生、他の作曲は年二、三曲にとどまり、たまーに映画音楽やスタンダードナンバーも打ち込んできたこのnoteにもたくさんの皆様からのアクセスやコメントをいただきました。
あらためましてお礼申し上げます。そして来年もよろしくお願いします。
フンメルの代表作の一つをDTMで作りました。録音も多い曲ですので今更拙いDTMで聴く必要性は正直全くないんですが😛、今回は春に購入してようやく慣れてきた楽譜作成ソフトDorico5で規模も大きな作品を、しかもさまざまなサンプルとなる演奏が存在する規模の大きな作品で、自分の打ち込みのレベル感とか方向性を試すために取り組みました。
ヨハン・ネポムク・フンメルの「ピアノ協奏曲 第2番 イ短調 Op. 85」は、古典派からロマン派への過渡期を代表する傑作の一つです。
1816年頃に作曲(1821年出版)され、同じく傑作とされる「ロ短調 Op.89」と並ぶ、フンメルの円熟期を代表する作品として知られています。
モーツァルトの弟子であり、ベートーヴェンとも同時代にウィーンで活躍した彼の、魅力あふれる協奏曲Op.85を打ち込んでみました。
Programming Music
J.N.Hummel/Piano concerto No.2 in A minor,Op.85
楽曲の構成(全3楽章)
18世紀後半から19世紀初頭にかけて、ピアノは急速に発展し、その音域と表現力が増していました。モーツァルトがピアノ協奏曲の形式を確立した後、ベートーヴェンがそれをさらに発展させ、ドラマティックな要素を加えました。フンメルは、この豊かな伝統の中で、自身の独自のスタイルを確立しました。彼はモーツァルトの弟子であり、ハイドンやベートーヴェンとも交流があったため、彼らの影響を受けつつも、独自の道を歩みました。伝統的な協奏曲の形式である3楽章で構成されています。
第1楽章: Allegro moderato (アレグロ・モデラート) イ短調
重厚で情熱的なオーケストラの序奏で始まります。ピアノが登場すると、華麗なパッセージや技巧的な跳躍が繰り広げられます。短調ならではの劇的な緊張感と、フンメルらしい優雅な旋律が巧みに織り交ぜられています。
第2楽章: Larghetto (ラルゲット) ヘ長調
非常に美しく、穏やかで叙情的な緩徐楽章です。ピアノが奏でる旋律は、まるでオペラのアリアのように歌い上げられます。繊細で夢見るような雰囲気が特徴です。
第3楽章: Rondo. Allegro moderato (ロンド. アレグロ・モデラート) イ短調
活気に満ちたロンド形式のフィナーレです。リズミカルで一度聴いたら耳に残るような、やや異国情緒(エキゾチック)な雰囲気を持つロンド主題が印象的です。この主題が華麗な変奏を伴いながら何度も現れ、ピアニストの卓越した技巧を披露する場となり、輝かしく曲を閉じます。
古典派とロマン派の「橋渡し」とショパンへの影響
この協奏曲の最大の特徴は、モーツァルト譲りの古典的な形式美と、次世代のロマン派を先取りするような華やかなヴィルトゥオーソ(超絶技巧)的なピアノ書法が、見事に融合している点にあります。
ピアニスト=作曲家による革新
構成は古典的ですが、ピアノの使い方は非常に革新的です。流麗なアルペジオ、きらびやかな高音域のパッセージ、重厚な和音の使用などは、フンメル自身が当時のヨーロッパで最も偉大なピアニストの一人であったからこそ。ピアノという楽器の性能と表現力を最大限に引き出す書法を知り尽くしていました。
ショパンへの決定的な影響
この革新的なスタイルは、間違いなくショパンやメンデルスゾーンに多大な影響を与えました。
特にフレデリック・ショパンへの影響は決定的です。ショパンは若い頃フンメルを深く尊敬しており、彼自身の2つのピアノ協奏曲(第1番 ホ短調、第2番 ヘ短調)は、フンメルのこのイ短調協奏曲とロ短調協奏曲を直接的なモデルにしたと広く考えられています。
きらびやかなピアノの装飾音型や、管弦楽が伴奏に回りピアノが主役として輝く書法は、まさにショパンの協奏曲のスタイルそのものです。
DTM制作ノート
この曲はフンメルの作品の中でも特に人気が高く、多くの名演が存在します。そのため、これまで「録音されていない(または稀少な)曲」をメインにDTM制作をしてきた私としては、あえて取り組む必要性は低いと考えていました。
しかし、フンメルの本格的なピアノ協奏曲の打ち込みは、今回が初めての試みとなります。(※過去にモーツァルトの「戴冠式」用のカデンツァや、ピアノと管弦楽のための小品はいくつか制作しています。)
多くの理想的な名演録音があるため、今回の演奏表現はそれらを大いに参考にしています。
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DAW&Sequencer: Dorico 5
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Sounds: Note Performer 5, GARRITAN PERSONAL ORCHESTRA (Piano)
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Thumbnail images: CyberLink PowerDirector (AI生成)
【動画内の楽譜について】
動画に表示されている楽譜はDorico 5の再生画面です。これはMIDIデータの入力と調整(ダイナミクスやテンポの指示)を目的としており、自然な演奏表現を最優先にしているため、オリジナルの出版譜とは細部が異なります。あらかじめご了承ください。
名演紹介(おすすめCD・音源)
この曲には優れた録音がいくつもありますが、特に評価の高いものと、ご質問で挙がった録音をピックアップします。
1. スティーヴン・ハフ (Stephen Hough) - 決定盤
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ピアノ: スティーヴン・ハフ (Stephen Hough)
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オーケストラ: イギリス室内管弦楽団
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指揮: ブライデン・トムソン (Bryden Thomson)
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レーベル: Chandos
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特徴: おそらく現在最も高く評価されている「決定盤」です。ハフのテクニックは完璧で、水晶のような透明感と輝かしい音色が特徴です。ブリリアント様式に必要な「華麗さ」と「優雅さ」を最高水準で両立させています。迷ったらまずこれをおすすめします。
2. マティアス・キルシュネライト (Matthias Kirschnereit)
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ピアノ: マティアス・キルシュネライト
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オーケストラ: フランクフルト放送交響楽団 (hr-Sinfonieorchester)
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指揮: ミヒャエル・ザンデルリンク (Michael Sanderling)
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レーベル: cpo (または Berlin Classics)
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特徴: アルバム「ピアノと管弦楽のための作品集」などに収録されています。ハフ盤と並び、現代の高性能なモダンピアノとオーケストラによる充実した演奏です。力強さとロマンティックな情熱の表現に優れており、作品のシンフォニックな側面も感じさせます。
3. アレッサンドロ・コンメラート (Alessandro Commellato) - 古楽器
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ピアノ: アレッサンドロ・コンメラート (フォルテピアノ)
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オーケストラ: ソリメンティ・ナトゥラーリ (Solamente Naturali)
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指揮: ディディエル・タルパイン (Didier Talpain)
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レーベル: Brilliant Classics
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特徴: こちらはモダンピアノではなく、フンメルが生きていた時代の楽器であるフォルテピアノを使用しています。モダンピアノの輝かしさとは異なる、軽やかで明瞭な打鍵のニュアンスが特徴です。古楽器オーケストラとのバランスも絶妙で、ショパンが聴いていたであろう響きを追体験できます。
その他の主な録音(ディスコグラフィー)
この協奏曲を録音したその他の主なピアニスト(および指揮者・オーケストラ)の一覧です。
(※網羅的なものではなく、現在比較的入手しやすい、または歴史的に知られている録音を中心に掲載しています)
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チャン・ヘウォン (Hae-Won Chang)
(指揮: パール / ブダペスト室内管弦楽団) - Naxos ※入手しやすい -
ダナ・プロトポペスク (Dana Protopopescu)
(指揮: ガイイ / ベルギー新室内管弦楽団) - René Gailly
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(※以下は比較的古い録音です。中には楽譜の一部が省略(カット)されている演奏も含まれます)
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ミヒャエル・ポンティ (Michael Ponti)
(指揮: マーニャ / フィルハーモニア・フンガリカ) - Vox -
マルティン・ガリング (Martin Galling)
(指揮: バンベルガー / シュトゥットガルト・フィルハーモニー管弦楽団) - Turnabout -
アルトゥール・バルサム (Artur Balsam)
(指揮: スウォボダ / ウィーン室内管弦楽団) - Rosenthal (1956年の歴史的録音)
