【若年の佳作】ヤーダスゾーン:ピアノ三重奏曲 第1番 ヘ長調 作品16 | 室内楽の聴譜奏ノート

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室内楽の歴史の中で忘れられた曲、埋もれた曲を見つけるのが趣味で、聴いて、楽譜を探して、できれば奏く機会を持ちたいと思いつつメモしています。

Salomon Jadassohn : Piano Trio No.1 in F-major, Op.16   

 今まで無料でクラウド・ストレージを利用していたのが、急に「容量制限オーバーです。追加購入してください。」というメッセージが頻繁に出るようになった。調べてみると何年か前までは、プロモーションと称して基本の3倍の15GBまで使えていた容量をいつの間にか基本レベルの5GBまで落としたためとわかった。これまで自分の過去データをクラウドに乗せて「収納」していたのも、今後は金がかかる。つまり貸倉庫業と同じになったのだ。
 「いや、そんな金は出せない!」という貧乏人の私が取った行動は、クラウドからデータを引き出して、余っていたUSBメモリーに移すことと、大量の過去メールとその添付ファイルの消去を行うことだった。
 

 クラウドサービスが使えるようになってから10年以上は経ったかもしれない。メールのデータも貯まる一方であまり削除はしなかった。今回は境界線を引くことにした。2019年以前の古いメールを全部削除することにしたのだ。残すのは2020年以降の4~5年分になる。

 選択削除にしたので時間がかかった。過去のタイトルやサムネイルを見ると走馬灯のように思い出が頭をかすめて行く。これも自分の過去を葬る行為の一つだった寂しく哀しい感覚だが、自分を重く引きずる過去を切り離さなければ、新しい情報も感動も入って来ないのだと割り切るしかないのだろう。

 

 

 ザロモン・ヤーダスゾーン (Salomon Jadassohn, 1831~1902) は名前および風貌からしてユダヤ系の人物とわかるが、ブラームスとほぼ同年代でライプツィヒ音楽院の教授として多くの後進を育てた。滝廉太郎も留学先で指導を受けた一人だった。峻厳な指導で有名だったらしいが、作品はドイツロマン派の伝統を踏襲した穏健な作風に思われる。今回取り上げたピアノ三重奏曲第1番は彼が28歳の時に出版されたもので、全体的に「苦労知らず」の幸福感に満ちている。若々しい年代でないとこうした曲は書けないもので、傑作とは言えなくとも、明朗快活な「佳作」としては親しまれてもいいように思う。
 

楽譜は IMSLP に独ジーゲル(Siegel) 社版のピアノ・スコア譜が弦のパート譜と共に収容されている。
Piano Trio No.1, Op.16 (Jadassohn, Salomon)



第1楽章:アレグロ・トランクィロ
Piano Trio No. 1 in F Major, Op. 16: I. Allegro tranquillo

         Syrius Trio

 2分の2拍子と4分の6拍子の2重表記になっている。冒頭は2分の2拍子で、ピアノのトレモロ風のささやきに乗ってヴァイオリンが最初のゆったりとしたテーマを奏で、チェロがその3度下をなぞる。


 第2主題に入ると同じテンポを保ちながら、4分の6拍子に変わり、ピアノと弦とで歌い交わす。5つの同じ音が続くテーマの音型は、どこか庭園の中を乙女たちが美しい花を見つけてあちこち小走りに動き回る姿を連想する。


第2楽章:アンダンティーノ
Piano Trio No. 1 in F Major, Op. 16: II. Andantino

        Syrius Trio

 ピアノのスタッカートで刻まれた4分の2拍子の行進曲風のリズムに乗って、ヴァイオリンが童謡風のテーマを歌い出す。親しみのある素朴なメロディで印象に残る。リズムが似ているのは「おもちゃのマーチ」なのだが、ここの曲調は寂しいイ短調なので、その曲調からすると「こがね虫は」(これもなぜかニ短調)の雰囲気と合っている。



 ところで「こがね虫」の曲はどうして短調になったのかと疑問に思う。「金持ち」を恨みがましくひがむ心情だったのだろうか?


 中間部はイ長調に転じて明るくなる。ピアノは細かい3連符で装飾しながらテーマの音をヴァイオリンと合わせて行く。チェロはここでも3度下を支える役目だ。


第3楽章:アレグロ・グラツィオーゾ
Piano Trio No. 1 in F Major, Op. 16: III. Allegro grazioso

        Syrius Trio

 2分の2拍子の軽快なフィナーレ。水玉をころがすようなピアノの可愛らしいテーマが美しい。


 スタッカートを効かせた副次的なテーマも軽妙だ。


 中間部には♭5つの変ニ長調に転じ、テンポも4分の6拍子でやや抒情的になる。これまで目立たなかったチェロにようやく独奏の番が回ってきて、メロディックなテーマを歌う。この辺はメンデルスゾーンの流れを感じる。

 

*参考wiki ザーロモン・ヤーダスゾーン


*「おもちゃのマーチ」に似たリズム曲のついての過去記事
【チェロの足取り】モーツァルト:弦楽四重奏曲 第18番 イ長調 K.464 (2021.08.15)
https://ameblo.jp/humas8893/entry-12692393684.html
 

 

 

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