【甘美な夜想曲】ボロディン:弦楽四重奏曲 第2番 ニ長調 | 室内楽の聴譜奏ノート

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室内楽の歴史の中で忘れられた曲、埋もれた曲を見つけるのが趣味で、聴いて、楽譜を探して、できれば奏く機会を持ちたいと思いつつメモしています。

Borodin : String Quartet No.2 in D-major

 今となっては、楽器を抱えて合奏の場にノコノコ出かけて行ける体力は喪失しているのに、夢の中では若い頃のように行動的に動いている自分がいた。同窓なのか地域なのかは不明だが、あるイベントのために寄せ集めのメンバーでオーケストラを編成することになった。猛者たちということでもなく、趣旨に共感した老若男女が集まっていた。私も腕に自信があるわけではないが、弦パートの一員になると思うと気分が高揚していた。「後輩のあいつも来ているのか」と気づくと、急に自分の年齢と体力を気にし始めて、「これで後列で気楽に奏けるな」と安堵したところで目が覚めた。夢は自分でコントロール出来ない。過去に葬った思考が亡霊のようによみがえることもあるものだと思った。
 

 

 ロシア五人組の一人ボロディン(1833~1887) は化学者と作曲家の二足のわらじだった人だが、出身地がコーカサス地方のグルジア(ジョージア)なのを知り、昔は有名だった交響詩『中央アジアの草原にて』や『韃靼人の歌と踊り』で感じる純然たるスラヴとは異質の、エキゾチックな響きの根源に思い当たるような気がした。彼は室内楽曲も多く残しているが、この弦楽四重奏曲第2番は傑出しており、ロシア物としては一二を争う人気曲として親しまれていると思う。

 

楽譜は IMSLP に独オイレンブルク版のスコアとパート譜が収容されている。
Borodin : String Quartet No.2 in D-major


第1楽章:アレグロ・モデラート
Quartet No. 2 in D Major: I. Allegro moderato

             Borodin Quartet

 冒頭の2拍目からチェロの独奏でメロディが始まる。2分の2拍子で曲のテンポが速そうに見えるが、表情はしっとりしていて夕べの歌といった感じがする。合奏の場では最初の音出しが重要で、ここでは第2ヴァイオリンの1拍目の「ブー」が始まらないと他の全員は動けない。それは金縛りの瞬間に近い。


 次に第1ヴァイオリンに出てくるテーマは最初のテーマの発展形で装飾音が加わったエキゾチックな風合いに聞こえる。この所のチェロは和声の基低音をしっかりと伸ばして抑え続けるので気持がいい。


 3番目のテーマも前の変形だが、共通のモティーフのように各パートで応答、反復されることで親しみが深まっていく。


 場面の転換用に行進曲のような挿入句も入る。


 また終結句としてアニマートの半音階下降のパッセージが加わってくる。単調さを感じさせない各テーマの処理法は見事だと思う。


第2楽章:スケルツォ、アレグロ
Borodin: String Quartet No. 2 in D - 2. Scherzo

          Emerson String Quartet

 ヘ長調、4分の3拍子。かなり速いスケルツォ。第1ヴァイオリンが主導し、第2ヴァイオリンが追従する。2小節で1区切り。ヴィオラの伴奏音型は実は伏線で、中間部のテーマのリズムを秘めている。


 中間部は少しテンポがなだらかになり、チェロの延々と続くアルペジオの上に甘さのあるメロディを乗せていく。


第3楽章:ノットゥルノ、アンダンテ
Borodin: String Quartet No. 2 in D Major - III. Notturno

          Borodin Quartet

 甘美さに満ちた超有名な「夜想曲」。正直言ってこれを奏かせてもらえたチェロ弾きにとっては至上の喜びを思い出の中にとどめている。チェロの旋律は2拍目から始まるので、内声部の伴奏のシンコペーションの最初の刻み「タター」を聞いてからでないと動けない。この旋律の中の装飾音符もまたボロディン特有のエキゾチシズムを感じずにはいられない。


 メロディは第1ヴァイオリンの高音へ引き継がれるが、これに色を添えるのがヴィオラの伴奏音型になる。ここはヴィオラの聞かせ所の一つで、ドヴォルザークの「アメリカ」の第2楽章の伴奏音型に匹敵する美しさだと思う。ただしここはあくまでも伴奏なので、第1ヴァイオリンの歌を見失ってはならない。(腕の立つヴィオラ奏きでも自己陶酔して合わなくなった例もあった。)


 中間部で曲を引き締めるのが上昇音型のパッセージになる。これも各パートに分担が回ってくる。

 
第4楽章:フィナーレ、アンダンテ~ヴィヴァーチェ
Borodin: String Quartet No. 2 in D Major: IV. Finale. Andante - Vivace

        Cleveland Quartet

 冒頭のアンダンテの序奏部で2つのモティーフが提示される。1つは高音部の起伏のある動き、もう1つは低音部のうねりのような動きである。ただ聞いているだけだと拍子やリズムがわかりにくい。それがボロディンの狙いでもあって、錯乱する様相から整然と統一されるまでを描き出していると思われる。


 主部に入るとチェロの駆け足のパッセージの上にヴィオラ、第2ヴァイオリン、第1ヴァイオリンがフーガのように順次加わってくる。この辺の機械的な無機質さを思うと、ベートーヴェンのラズモフスキー第3のフィナーレに似ている。そのモティーフは皆序奏部から由来しているのがわかる。


 第2主題は4小節を一区切りにした半音階の浮遊するテーマで、冒頭の序奏部のモティーフと絡まって発展する。内声部の伴奏は疾駆するような反復音型が激しく続く。4楽章ともバランスよく書かれ、完成度が高い作品だと思う。

 

 

 

 

 

 

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