主人公はスパイ活動を行う劇作家。

自分のことを密告したかもしれない相手の誘いに「楽しそうだから」という理由であえて乗るなど、自分すら一人の登場人物としてみなし、俯瞰的に状況を楽しむ人物である。


この人物像は著者の最も有名な作品である『月と六ペンス』の「私」と似ている。


さて、本編の内容に移ろう。

スパイ小説と聞いてまず頭に浮かぶのはアクション要素だが、全く無い。

さらに、策略を巡らせることもない。

簡単に言えばハラハラドキドキは無いのである。

ただただ、スパイの活動を通して、人間性を淡々と追っていく。


それはそれで悪くはないのだが、短編集という構成が私には合わなかった。

話が一区切りする度に、場所や登場人物をインプットし直すことは、1からに近い形で物語に入り込むエネルギーを要する。

だから私は最近短編集が苦手なのだが、そのエネルギーの捻出が苦ではないくらい話が面白かったかというと…


『月と六ペンス』に似た作風である本作だが、やはり『月と六ペンス』が別格。






正直、読んでも内容を理解することはできない笑


ただ、この本の真価は「用語を理解するため」ではなく「用語に慣れるため」に使用することにある。


物理に限った話ではないが、あまり触れたことのない分野を勉強しようとすると、初めて聞く言葉や意味の分からない言葉が次々に目に飛び込んでくる。

大抵の人はこの段階でやる気を無くすのではないだろうか。


一方、「なんか聞いたことある」言葉だと、少しとっつきやすくなる。


本書は宣言通り数式がほぼ登場しない。また、どの用語にもイラストが描かれており、内容は理解できずとも流し読みはできる。

この「流し読み」できることがポイントであって、いくつかの言葉は脳に刻まれるはずだ。


すると、物理に対する抵抗感が少し薄まる。

物理に慣れるための最初の一歩という意味では、本当の入門書と言えるだろう。





原子分子、力、仕事、圧力…


こんなこと、中学時代に習ったっけ?

自分の中学生時代から教育内容がだいぶ変わったのか…?


それはさておき、「密度」「浮力」「圧力」といった、なんとなく分かった気になっている現象を改めて学べ直せる良い機会になった。

(ちなみにこれらの定義は自分が認識しているものとは全然違った)


中学理科は、多くの身近な日常の法則を学ぶことができる大切な教科だったのだ。


学んだ当時よりも、色んな現象を体験したり目に触れた経験が蓄積された今こそ、内容がスッと頭に染み込むはずだ。


中学理科なんて…と思わずに一度読んでみてほしい。

タメになったと本書に感謝するはずである。





これでもかなり削ったんだろうが、数式がそこそこ出てくるため、文系100%の自分には少し読みにくい。


とはいえ、そもそも波長とは等、定義について端的に説明してくれるのはありがたい。

(言い換えれば、説明の肉付けがされていないため、頭に刷り込むまで持っていくことは難しい。)


表紙の紹介文にある「5〜6時間で理解」は無理。

読み切るならその時間でも可能だが、理解するためには何周かする必要がある。


本書だけで物理を学ぶには限界があるため、他の入門書と組み合わせるのが効果的だ。







時間の流れが変わる、時空がゆがむ…

これらSFお馴染みの事象、実は「相対性理論」で証明されている。


「相対性理論」は難解と聞くし、文系100%の自分には縁もゆかりも無いと思っていたが、SF好きであれば押さえておきたい内容だったのだ。


本書はそんな自分にぴったりだった。

理系アレルギーの人はあるあるであろう、ページをめくる手が確実に止まってしまう数式がほとんど登場せず、イラストや会話形式の文章で「なんとなく」内容を把握できる。


この「なんとなく」が大事だ。SFを楽しむための知識として知っておきたい程度であれば、これくらいがちょうど良い。


また、光速宇宙船で地球を発った場合、戻ってくるまでに宇宙船内と地球上ではどちらが時間が経過しているかといったSF的テーマを設定して解説してくれるのも嬉しい。

本書も自分のようなSF作品で興味を持った層を意識しているのだろう。