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主人公はスパイ活動を行う劇作家。
自分のことを密告したかもしれない相手の誘いに「楽しそうだから」という理由であえて乗るなど、自分すら一人の登場人物としてみなし、俯瞰的に状況を楽しむ人物である。
この人物像は著者の最も有名な作品である『月と六ペンス』の「私」と似ている。
さて、本編の内容に移ろう。
スパイ小説と聞いてまず頭に浮かぶのはアクション要素だが、全く無い。
さらに、策略を巡らせることもない。
簡単に言えばハラハラドキドキは無いのである。
ただただ、スパイの活動を通して、人間性を淡々と追っていく。
それはそれで悪くはないのだが、短編集という構成が私には合わなかった。
話が一区切りする度に、場所や登場人物をインプットし直すことは、1からに近い形で物語に入り込むエネルギーを要する。
だから私は最近短編集が苦手なのだが、そのエネルギーの捻出が苦ではないくらい話が面白かったかというと…
『月と六ペンス』に似た作風である本作だが、やはり『月と六ペンス』が別格。