「頭巾をとってほしい」

男性2人から頼まれるグリート。

精肉店の息子が言う。

「髪を下ろした君が見たい。

髪は何色?巻き毛?長さは?」

画家は言う。

「君の顔の輪郭が見えにくい。

頭巾をとってくれ」

しかし、彼女には分っている。

髪をみせればどうなるか。

渋々、頭巾をとると…

質素で純情な使用人から

豊かな長い髪の女性へと変わった。

輝く茶色の巻き毛がミルク色の肌を縁取る。

物陰から覗いていた画家は息をのみ、

まばたきもせず魅入られていく。

 

 

真珠の耳飾りの少女

ピーター・ウェーバー監督

2003年

スカーレット・ヨハンソン

コリン・ファース

トム・ウィルキンソン

キリアン・マーフィー

 

  引き算アート

芸術の秋らしい1本を選びました。

一枚の絵画から着想を得た物語で、

史実に基づいた話と勘違いするほど

時代考証を丁寧に再現しています。

は、高校・大学・企業それぞれの美術部で

油絵をやってたけど、どこでも顧問の言葉は同じ。

「画は引き算だよ。

どこで筆をおくか、

完成のタイミングを見極めなさい」

この映画はまさに引き算アート

セリフで説明せず映像で語ります。

 

 

  3人の女優さん

ヒロインはスカーレット・ヨハンソン

絵から抜け出た妖精のような透明感。

微かな表情から何を考えているのかわかる。

ずっと見ていたい…

画家役のコリン・ファースと同じ目つきに

なっちゃいました(笑)

 

一方、妻役のエシー・デイヴィス

この女優さんがとにかく素晴らしい。

リボンやアクセサリーで飾っても

純白の頭巾をかぶった少女に敵わず、

喉元まで上がってくる苛立ちを覚えます。

彼の仕事のため、家計のため、

がまん、がまん…そしてついに!

ドラマティックなクライマックスへ。

私が面白い人物として

注目したのは、画家の妻の母親。

ジュディ・パーフィットが演じています。

内心、ヒロインに一目置いてる

娘夫婦の仲を壊さぬよう釘をさし、

画家の一時の情熱に期待しないよう

若いグリートをたしなめます。

 

 

  感想

芸術がわからない画家の妻

美術を見る目がある使用人

 

6人の子をもうけ、

さらに7人目を妊娠中の妻が

若い使用人グリートに危機感をおぼえる。

タイル職人を父に持つグリートは

切った野菜を美しく盛り付けるのが好き。

彼女はフェルメールの絵が

アトリエの暗さでくすんでいることに気づく。

「窓を拭いてもいいですか?

光が変わってしまうけど…」

ガラスを拭くと

光と影のコントラストが際立った。

窓辺に立つ彼女の肌が光に照らされると

画家の瞳に喜びが広がる。

(これだ!私が求めていたのは…)

さらに、彼女は

構図の盛り込みすぎに気づく。

知識がなくても確かな目を持つ女性。

なかなか出会えない逸材です。

君に色の調合を任せたい。

専属モデルを頼みたい。

屋根裏部屋で絵の具をすりつぶすうち

2人の距離が近づき、手と手が重なる。

ルビー色、孔雀石、群青、

キラキラした七色に囲まれ

創ることの心地よさを一緒に味わう。

肌がふれるか、ふれないか、

その絶妙な距離感にドキドキし

意識しあうけれど

フェルメールは自制します。

 

彼女に触れたい誘惑を

退けるように目をふせる。

 

一方、敏感で賢い娘コルネーリアは

父の関心を奪う使用人に嫉妬し、

母のべっ甲の櫛を隠すことで

盗みの濡れ衣をきせる。

ところが普段は物静かな画家が

荒々しく家中を探しはじめた!

無言で手当たり次第に

物をひっくりかえし、

乱暴にシーツをはいでいく。

彼なりの妻子に対する抗議です。

(彼女を追い出す奴は許さん!)

コルネーリアの寝床から櫛がみつかり…

妻は激しく憤る夫の姿に驚き

悔しさと悲しさを噛みしめる。

さらに妻のプライドが傷つく出来事が起こる。

夫からリクエストされた真珠のイヤリングを

喜んで装着すると

夫はグリートを振り返り、

「みてごらん。絵に真珠が必要だ」

(君の肖像にこのイヤリングが必要だ。

たのむから耳に穴をあけてくれ)

妻は茫然。

(酷い!私は単なるマネキン扱い。

私の宝飾品を使用人につけさせる気?)


夫は理想の画づくりで頭が一杯。

妻の苦しみもグリートの立場も目に入らない。

そして、ついに絵が完成すると

妻は一目見るなり衝撃をうける。

淡い恋心を抱いた少女の姿は、

これまでみたどの肖像画より美しく

夫のピュアな想いが詰まっている!

 

大粒の真珠の光沢と、

ぽってりとした少女の唇の艶。

 

愛しい思いが伝わってきた。

色欲ではなく精神的な結びつきだ。

 

「けがらわしい!!」

彼の子を産むことはできても

彼との間に芸術を生むことができない自分。

 

「なぜ私じゃなくてこの子なの?」

 

鬱積していた妻の怒りが大爆発!

 

パレットナイフを振りかざし、

少女の画に襲い掛かるのだった…

 

 

屋敷を去ったグリートへ

画家から小さな包みが届きます。

包みをひらくと

い布と黄色い布

真珠の耳飾り

(君への想いを断ち切るよ)

 

彼のメッセージを握りしめ、

毅然と顔をあげるグリート。

 

(私もあなたへの未練を断つ)

 

ピアスの穴をあけたときより

ずっと痛い、心の痛み。

 

別れの痛みと引き換えに永遠に輝き続ける

「真珠の耳飾りの少女」でした。