飼い犬になりさがったのか。
自宅のトイレットにある、すみっコぐらしのトイレットロールカバーを見ながら、自問自答を繰り返していた。俺はこの水色のファンシーなロールカバーのように、可愛さを身にまとってしまったのか。
牙だ。
あの時、確かに持っていた、
野生の牙を失っていた。
*
新☆ババコ戦記1で俺の職場のビルの共同トイレットのドアノブがびちゃびちゃに濡れている話しをした。
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あれから2年。抵抗も虚しくティッシュを片手に濡れたドアノブを拭くという荒技を駆使し、決死の覚悟で闘っていた。しかし、心がポッキリと音を立てて折れてしまった。
ジャンボ鶴田似のリーマンがあろうことか、俺が後ろにいるのに濡れた手でドアノブを握って行ったのだ。さすがの俺もびっくりした。いや、ショックでジョー・ヤブキのように真っ白になったと言っても過言ではない。
ヤツはオー!オー!オー!と腕を上げながらリンクを降り、花道を退場して行った。正確には3階までトコトコ降りていった。すぐ下の2階にも男子トイレがあるのに鶴田(仮名)はわざわざ4階まで上がってオシッコをし、あろうことかドアノブを濡らして帰ったのだ。
絶対にゆるさん!
ただ、残念なことに阿呆につける薬はファイザーやモデルナでもまだ開発されていない。ここは一旦落ち着いて、クールな対策が必要だ。俺はあばれはっちゃく(初代)のように「ひらめけーひらめけー」と逆立ちしながら作戦を練った。
トイレットにA5の貼り紙がある。掃除のおばちゃんが作った貼り紙で犬が便器に座って「みんなできれいに」と書いてあるのだ。
もんちっちに似たおばちゃんはお人好しだから、こんな貼り紙ひとつでみんながキレイにトイレットを使うと思っているのだ。そんなんじゃ、この雑居ビルの不潔な悪党どもには、なんにも届いてないぜ。
いや、まてよ。
これは使えるな。
不意に俺の16bitの脳が閃いた。普段は釈迦の再来とも呼ばれる穏やかで慈悲に溢れた俺が、一度ダークサイドに身を堕とすととんでもなくヤバい。そんなスイッチをオマエが押したのだ。
鶴田よ震えて眠れ!
このショボいワンちゃんのキャラクターを使って貼り紙を作れば、すべて掃除のおばちゃんのせいにできるぞ。
まずはおばちゃんの作ったチラシを撮影してデータを作ろう。
しかし、思いついてから数週間が経ってしまった。そう、スマホを持ってトイレットに行く習慣がないので、撮影しようと思ってもスマホを忘れてたり、逆にスマホを持っていても撮影するのを忘れたりしていた。俺はいつもいつもトイレットのドアノブのことを考えているわけじゃないのだ。つまり、スマホを持っていて、ドアノブが濡れているとすぐに怒りで行動に移せる。そのタイミングに数週間を要したというわけだ。
あの鶴田に掟破りのジャンピングニーをかますべく、俺は掃除のおばちゃんの貼り紙を近接で撮影し、画像データを会社のパソコンに取り込み、新しい濡れノブ防止用の啓発チラシの作成に着手した。まずは、フリー素材であろうの犬キャラのトレース作業である。
通常こんなものは左右対象なので左半分作ってしまえば、あと右半分は反転して済ませるのだが、微妙に左右非対称だった。そこは強引に張り合わせた。さて、問題は手と足だ。(犬だから正確には前足と後ろ足だ)この元原稿だと手は体の前に足は便座に座っている状態になっている。立った状態(犬だから正確にはチンチンだ)で描きたいので、足を付け足し、手は両脇に広げた。そして手の回りに水滴を散りばめ、さらに水しぶきのついたドアノブとドアを描き足した。
文字はこんなダサい書体持ってないのだが、なんとか似てるやつをチョイスし…
濡れた手で
ドアノブを
さわらないでね!
と優しく諭した。
我ながら完璧である。なんて素敵な貼り紙なのだろう。
ともすれば圧にもなるこの文言を犬のキャラクターに言わせることで、ほのぼのとそして的確に禁止事項を表現している。これを見たら鶴田も容易にドアノブを濡らせないはずだ。
この貼り紙をプリントアウトし、誰もいない時を見計らってドアノブの横にセロテープで貼っ付けた。
翌日、早速この可愛いワンちゃんに水しぶきをかける狼藉者もいたが、抵抗はそこまで。あれから一週間経った今もドアノブは水しぶきから守られている。
最近はTwitterでくそポエムをつぶやいてるよ。
ハッチ大阿闍梨 (@Hhb10406770Hhb) / Twitter
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#ハッチのくそポエム