新☆ババコ戦記 | BOOGIEなイーブニング!

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れから何年が経ったのか。


20年通っていた東銀座の雑居ビルは立ち退きに会い、会社は潰れ、俺はデザイナーとして独立して自宅の近くに事務所を構えたので、雑居ビルの共同トイレというプレッシャーから解放された。


俺のババコとの闘いは終わった。


人々には平和が訪れ、街にはいたるところに笑顔が戻った


かに思えた。


そんな平和な暮らしもほんの束の間だった。新しい敵がその暗い影を今、またこの世界に落とそうとしている。


俺の職場の新ビル(つきじのほこら)も雑居ビルである。ワンフロアに小さな会社や営業所が5、6社入っているのだが、トイレは各フロアの中間に男子用と女子用がそれぞれ入っている。丸井のトイレ方式であると言っても過言ではない。


男子用は5階と6階の間にある。俺のビルは5階なので階段を半分登らないとたどり着けないのだ。つまり、5階の男子と6階の男子はみんなこのトイレを利用することになる。


色んな猛者がいるもんで、便座にお通夜や披露宴に出てくるバヤリースオレンジみたいなまっ黄色な液体が乗っていた時もあった。まぁ、多分、間違いなくあれはお通夜に出てくるバヤリースオレンジなので俺は石けんを浸(ひた)したトイレットペーパーで丹念にこの何故かトイレの便座に乗ったお通夜のバヤリースオレンジを拭いて事なきを得た。


うんこを流し忘れたヤツもいた。それも目をつぶって流した。


大トイレのドアを閉めないで、ウンコしてるおっさんもいた。俺が来るとサザエ貝のようにパタンとドアの蓋を閉めた。


お前ん家かよ!


これら全てのアトラクションもマックス99まで上げた俺の対ババコスキルがあれば、特になんて事ないさとなるであろう。過去に俺はそれほど壮絶な闘いを繰り広げていたのだ。


ババコ戦記アーカイブス



トイレのノブがびしょびしょである。

ザ・ベストの表紙で女優が水をかけられた写真があるだろう。そのぐらいびしょびしょなのだ。このドアノブだけ舞浜に行ってスプラッシュマウンテンに乗ってきたのかってぐらいのびしょびしょ具合である。しかし落下中の記念写真でみんな万歳してるのに一人だけドアノブがいたら結構笑えるな。


そんなAV女優のようなセクシードアノブに誰がしたのか。一度きりではない。何度も何度もドアノブはびっしょり濡れている。


俺はトイレをすると手を洗いハンケチーフで拭くのだが、拭いたあとにこのドアノブを触るとまた正体不明の水滴が付いて、とても気分が悪くなる。


犯人の手がかりはある。香水である。この雑居ビルに香水をつけて出社している超ナルシストがいるのだ。香水を選ぶ前に通う会社を選んだ方がいい。一度一瞬だけすれ違ったことがあるが、後ろ姿は30くらいのヤンサラだった。


相変わらずたまに例のスメルと超神バシャーンが乗り移ったかのようなドアノブが続いた。


▼超神バシャーン


それから数ヶ月後、俺は逆襲の千載一遇のチャンスを得た。


逆襲のシャアだ。

逆シャアだ。


何気なく小便に入ったあのトイレで大便ボックスから、きゃつのやっすい香水のスメルがもこもこと立ち昇っていたのだ。

すぐさま小便を済ませて、若干フライング気味に吉田工業株式会社のチャックを閉じた。もしこれがチノパンならば500円玉大の染みを作っていただろうが今日はGパンだ。手洗い場に向かい、アライグマラスカルよろしく、猛烈に手を洗った。鏡に映った俺の顔は、多分相当に悪い顔をしていたと思う。


そしてここからだ。


先ずは手を蛇口にくっ付けて水を含ませ、ドアノブ目がけてピュッピュッピュッと水滴を振りかけた。


見よ、このしずる感。



しかし、なんかまだ物足りない。いっそ手で水を掬って上からかけてやった。


これでうんこを終えたヤンサラもこのドアノブを握り、俺と同じ気分の悪い思いをするだろう。


俺のババコ戦記は終わらない。