今回の記事は少しばかり長くなります。
Neutrik NL4MP(スピコンレセプタクル)の圧着端子を考える、で以前書いた内容ではニチフのファストン互換圧着端子を使用する結論でした。筆者は2021年後半にオープンバレル圧着の調査をしており、その一環としてNeutrik NLファストン(AMP 170335-1)への3.5sqケーブルの端末処理の仕方(& NL4MP-UCへの接続)を調べましたのでここにまとめます。
最初に端子と圧着工具の話、次に絶縁保護の考察、最後に圧着手順の3部構成です。
●端子と圧着工具の話
日本のノイトリックのファストン端子は2種類設定されています(2021/9現在、海外ラインナップはAMP-170332-1のみ)。
AMP-170332-1、AMP-170335-1が該当します。推奨圧着端子と記載されているだけで、この端子をどう施工するかの説明は見当たりません。
左AMP-170332-1、右AMP-170335-1。品名はNLファストン。左は被覆クランプの形状が特殊で、通常より太めの被覆に対応している
ノイトリック仕様表より
[AMP-170332-1]
・定格電流:15A※
・適合電線サイズ:18~14AWG(0.7mm²~2.08mm²)
・適合コネクター:NL4MP、NL4MPR、NL8MPR、NL8MPR-BAG、NAC3MPA(B)-1
[AMP-170335-1] 日本サイトのみ記載
・定格電流:25A※
・適合電線サイズ:14~10AWG(1.79mm²~5.4mm²)
・適合コネクター:NL4MP-UC、STXシリーズ、パワコンTRUE1シリーズ
※筆者注:端子に定格電流はありません。接続できるケーブルで決まります。便宜上の記載と考えられます。
調べるうちになんか変だな・・・と根本的な品名の齟齬が判明しまして、AMP-170332-1、AMP-170335-1はファストン端子ではない、という事実です。
ファストン端子の改良品、ポジティブロック コネクタ(マークⅡ)
AMPは圧着端子の老舗で、ファストン(FASTON)の提唱企業でもあります。
現 TE ConnectivityのAMP(エー・エム・ピー)はAircraft-Marine Productsとして1941年にアメリカで設立された会社で、Tyco Internationalに1985年に買収され、2007年にTE Connectivityとして独立した経緯の様です。AMPの名は買収後もブランド名として今も尚、残っています。(TE = タイコ・エレクトロニクス)
ざっと探す限り、A-MP(設立当初はこの表記)のオープンバレル圧着の特許は1954年のUS2809364Aが最古の様です。それでも、1938年創立のMolexと比較すると、AMPの方が新しい会社になるのですね。
Electrical connections
US2809364A
Inventor Bernard J Mescan
1954-05-24 Application filed by AMP Inc
https://patents.google.com/patent/US2809364A
US2809364A
話を戻しますと、このファストン端子の改良版が「ポジティブロック コネクタ」シリーズで、ファストン端子との互換性を持ち、ロック解除レバーを備え簡単に抜き差し出来る製品です。恐らくノイトリックは「ファストン」という名称の知名度があるのを分かっていて、ポジティブロック コネクタ(マークⅡ)をNLファストンと名称をつけ斡旋している様です。
※ノイトリック本家の名称も「NLFASTON」です
このラインナップが非常に分かりづらいので一覧表を作成しました
PDFデータのダウンロードはこちらから。再配布禁止、商用利用可です。
■ノイトリック NLファストン製品別対比表■
http://www.holycater.sakura.ne.jp/zip/pdf/Neutrik_NLFaston_jp.pdf
テキストデータ検索用
AMP 170332-1のニチフ端子工業同等品
差込形接続端子 F形( 端子部が露出)
タブ幅=4.8mm、厚さ=0.5mm(ファストン187)
TMEDV 480509-F (0.75 ~1.25mm²/AWG18 ~16)
TMEDV 480520-F (2.0mm²/AWG14)
指定工具 NH-32
AMP 170335-1のニチフ端子工業同等品
差込形接続端子 F形( 端子部が露出)
タブ幅=6.8mm、厚さ=0.8mm(ファストン250)
●TMEDV 630809-F (0.75 ~1.25mm²/AWG18 ~16)
●TMEDV 630820-F (2.0mm²/AWG14)
★TMEDV 630855-F (3.5 ~ 5.5mm²/AWG12 ~10)
指定工具 ●NH-32、★NH-13(マクセルイズミ 5号 OEM)
差込形接続端子 FA形( 端子部が絶縁)
タブ幅=6.8mm、厚さ=0.8mm(ファストン250)
●TMEDV 630809-FA (0.75 ~1.25mm²/AWG18 ~16)
●TMEDV 630820-FA (2.0mm²/AWG14)
★TMEDV 630855-FA (3.5 ~ 5.5mm²/AWG12 ~10)
指定工具 ●NH-32、★NH-13(マクセルイズミ 5号 OEM)
参考Blog内リンク:
Neutrik NAC3MPX powerCON(パワコン)TRUE1パワーインレット作成方法
大まかにはファストンタブ187が小容量、ファストンタブ250が大容量と住み分けられており、スピコン(NL4MP、NL4MPR、NL8MPR、NL8MPR-BAG、NAC3MPA(B)-1)は基本的に187、パワコンTrue1が250です。但し、大容量対応スピコンNL4MP-UC、STXシリーズは250系で、2.0mm²以上のスケアのケーブルをスピーカで使用する際もファストン嵌合が可能になっています。
左:NL4MP & AMP 170332-1、右:NL4MP-UC & AMP 170335-1
Neutrik NL4MP(スピコンレセプタクル)の圧着端子は推奨品がAMP 170332-1(Positive Lock:FASTON 187)、40A対応モデルのNL4MP-UCがAMP 170335-1(Positive Lock:FASTON 250)です。
NL4MP
定格電流 30A rms
NL4MP-UC
定格電流 40A rms
今回はこの右の端子の話です。
左:NL4MP、右:NL4MP-UC。背面写真
左:NL4MP、右:NL4MP-UC。前面写真
NL4MPの端子部分接写
NL4MP-UCの接点部分の写真。接点形状が異なる
端子AMP 170335-1は圧着するケーブルの太さに応じて圧着工具が変わります。この条件はケーブルのスケアが1.75 ‒ 2.27mm²なのか、3.08 ‒ 5.27mm²なのかですが日本国内の電線規格では2.0mm²の上が3.5mm²ですので、2.0mm²を除外しました。なぜかと言うと、スピコンで2.0mm²を使用する場合はAMP 170332-1(ファストン187サイズ)を使用すれば良いからです。(今回のケースには当てはまりませんが、パワコンTrue1で1.25または2.0mm²を使用する場合にAMP 911775-1が必要になります)
スケア別指定圧着工具
AMP 911775-1
ワイヤゲージ :
15 ‒ 14AWG、 1.75 ‒ 2.27mm²
絶縁体径: 3.1 ‒ 4.0 mm
AMP 911776-1
ワイヤゲージ :
12 ‒ 10AWG、 3.08 ‒ 5.27mm²
絶縁体径: 3.8 ‒ 5.1 mm
今回は3.5sqケーブルを取り上げるのでAMP 911776-1を使用します。
TE Connectivity ポータブル圧着工具 AMP 911776-1
ツール グレード: プレミアム クリンプ ツーリング
公式ページ:
https://www.te.com/jpn-ja/product-911776-1.html
ダイスの接写写真1
ダイスの接写写真2
Neutrik NL4MP(スピコンレセプタクル)の圧着端子を考える、で純正圧着工具が高価だ、と書きましたが、このTE Connectivity ポータブル圧着工具 AMP 911776-1は一丁、20万円します。趣味で手が出る価格帯にありません・・・そして年に1度のメーカ公正。この工具の用意が最大の難関であると言えます。「1圧着端子につき1圧着工具」これが本来あるべき姿です。
なぜこの工具がそこまで高価なのか?AMPの圧着工具のカテゴリ説明と合わせて解説します。
AMPのツールグレード
AMPのカタログでは、ツールグレードがあり、下記の3種類に分けられます。
・サービス・ハンドツール
サービスツールは通常、1枚板で構成されたツールで、仕様を満たすことを意図したものではなく、許容できる結果を得るには、より高いレベルのユーザーの技能が必要です。
・コマーシャル・ハンドツール
コマーシャルダイアセンブリは、該当するTECアプリケーション(114-)仕様に基づくワイヤ圧着高さの要件を満たすように設計されています。その他の機能要件は、満たされている場合と満たされていない場合があります。ダイアセンブリと調整可能なラチェット機能の交換を可能にします。ユーザーは、正しい圧着高さを得るためにラチェットを調整する必要があります。コマーシャル・ハンドツールは、プレミアムハンドツールよりも多くのユーザーの技能を必要とします。
・プレミアム・ハンドツール
プレミアムツールには、適切な圧着ダイスの構成、一体型の位置決め、一体型の矯正機能があります。このツールで圧着された端子またはコンタクトは、適用されるTECアプリケーション(114-)仕様のすべての機能要件を満たすことができます。
ほとんどのプレミアムツールには、調整可能な絶縁体圧着高さ機能と、工場で設定されたCERTI-CRIMPラチェット機能が搭載されています。
これは、電線の圧着部が0.001以内に収まるまで、ラチェットが解除されない機能です。これにより圧着の再現性を高めることができます。プレミアムハンドツールは、ユーザーの技能を最も必要としません。
引用元
つまり、工具が高価な理由は、圧着に技能を最も必要としないからです。安価な一枚板の合わせ工具は手に入りやすいのですが、そのままではほぼ仕様要求を満たさない為、適正圧着を熟知した技能者が作業を行う必要があります。
これは目から鱗でした。「安い工具こそ上級者が使うもの」だという事です。
TE Connectivity ポータブル圧着工具 AMP 911776-1を使用するために確認しなければならない資料は、AMP 911776-1 取扱説明書 411-5392、AMP 取付適用規格 114-5042です。この取付適用規格 114-5042が最も重要な資料です。
取扱説明書公式リンク:
AMP 911776-1 取扱説明書 411-5392
AMP 取付適用規格 114-5042
絶縁被覆圧着のピンがなぜ抜けるのか?絶縁被覆を適切な位置で圧着する為の調整機構です。適正な位置とは、絶緑被覆を損傷せずにしっかりと保持する位置です
AMP 911776-1 取扱説明書 411-5392から、抜粋1
AMP 911776-1 取扱説明書 411-5392から、抜粋2
AMP 取付適用規格 114-5042より抜粋1(本記事後半で取り上げます)
AMP 取付適用規格 114-5042より抜粋2(本記事後半で取り上げます)。圧着可能な電線本数やスケアが確認できる
これらの資料を熟読することにより、オープンバレルの適性圧着・検査の仕方が分かります。
●絶縁保護の考察
スピコンに使用する際、できれば絶縁保護を設けたいので、純正絶縁保護パーツを調べました。
用意した絶縁保護パーツ
上から、
・ポジティブロック コネクタ(マークⅡ)用引抜工具 724659-2
※引き抜き工具がある場合は必ず用意しましょう
・ポジティブロック コネクタ(マークⅡ)専用リセプタクルハウジング
177627-1(自然色)、172076-2(黒)
・ファストン250用絶縁スリーブ 170823-6(透明)
※メーカ非推奨
ポジティブロック コネクタ(マークⅡ)専用リセプタクルハウジング
177627-1(自然色)、172076-2(黒)
ファストン250用絶縁スリーブ 170823-6 ※メーカ非推奨
ポジティブロック コネクタ(マークⅡ)専用リセプタクルハウジング 177627-1(自然色)、172076-2(黒)、ファストン250用絶縁スリーブ 170823-6(透明)※メーカ非推奨
純正のリセプタクルハウジングは非常に良くできていて、ハウジングを持って引き抜くだけで内部のロックラッチを自動で押し込み簡単に引き抜くことが可能です。ケーブルにテンションが掛かる場合はロックラッチは閉じたままですので簡単には引き抜けません。これは実物を見て実際に触るまでその機能は分かりませんでした。
但し、そんな純正リセプタクルハウジングですが、NL4MP-UCには適合せずでした。ハウジングが大きすぎるのです。
177627-1(自然色)1つなら刺さるが・・・
177627-1(自然色)は2つ入らない
172076-2(黒)はそもそも刺さらない
メーカ推奨組み合わせではありませんが、ファストン250用絶縁スリーブ 170823-6(透明)が丁度良かったです。
NL4MP-UCにNeutrik NLファストン(AMP 170335-1)を刺した状態。端子間の距離が一見離れているように見えるが・・・
寄せると絶縁被覆のクランプ部分がここまで近づきます。せめてケーブルクランプ部分は絶縁したいところです
既に写真に写りこんでいましたが、ファストン250用絶縁スリーブ 170823-6(透明)が丁度良いです
ファストン250用絶縁スリーブ 170823-6(透明) & Neutrik NLファストン(AMP 170335-1)。繰り返しますが、メーカ非推奨だという事は認識してください
※プッシュラッチ部分が干渉するから非対応なんですかね?
これで材料は揃いました。
●圧着手順
オープンバレルの適正圧着の道のりは険しい
ここまで調べてやっと圧着作業に取り掛かれます。オープンバレル圧着の道のりは大変険しいですが一度手順をマスタしてしまえば、なんだそんなものかと振り返れる事でしょう。
まず、用意したのが3.5sq×2のケーブルです。勤務先で3.5sqのケーブルが欲しい・・・とウロウロさまよっていた所、少し切り分けてもらいました・・・筆者は普段この太さのケーブルを扱っていません・・・
3.5sqのケーブル。この手の電工用ケーブルは熱収縮チューブを使用せず、ビニールテープでの根本保護となる
AMP 取付適用規格 114-5042を参照し、被覆を規定寸法の6.0mm剥きます
ファストン250用絶縁スリーブ 170823-6(透明)を圧着前に差し込んでおきます
Neutrik NLファストン(AMP 170335-1)をロケータにセットし、圧着ペンチを少しだけ閉じます
芯線端末突出し長さ0.7mmを意識し、圧着します
圧着が出来ました。
※この写真は適正寸法として恥ずかしくないように後日撮り直したものです・・・
写真では伝わりにくいですが3.5sqのオープンバレル圧着はかなり大きく感じます
圧着が終わりましたら、以下の項目を確認します。
1.電線被覆むき長さ:6.0mm
2.カットオフタブ長さ(手動工具用端子では適応しない為、除外)
3.前側ベルマウス長さ:0.5mm以下
4.後側ベルマウス長さ:0.7mm以下
5.ベンドアップ:5°以下
6.ベンドダウン:5°以下
7.ツイスト:5°以下
8.ローリング:10°以下
9.芯線端末突出し長さ:突出しており0.7mm以下である事
手動工具の場合の圧着データ
芯線圧着部の圧着高:2.10~2.27mm
被覆径仕上がり外径:3.8~5.1mm
その他、複数本圧着の可否や注意事項などがありますのでAMP 取付適用規格 114-5042を熟読しましょう。こんなの確認している余裕は現場にはないよ、では無くて、ここまでの規定をクリアした上にオープンバレル圧着が成り立っている事実を認識する事が大切です。
※プレミアム・ハンドツールではなく、サービス・ハンドツール(1枚板のプレス組み合わせの安価な圧着工具)を使用する場合は潰し加減で上記項目が達成できているかを確認する必要があります。
確認が終わったら、絶縁スリーブをはめ込みます
差し込んで完成です!!
以前より、ノイトリックのNLファストンの適正圧着をどうやるのか?と質問を受けることが度々ありました。毎度聞かれるのは本家のサイトの説明が足りていないからだと思い、手短に出来る方法としてサウンドハウスの端子販売ページのレビューにニチフの端子を使うと良いと書いておきました。以後、問い合わせは無いのですが、当のレビューやその他Webサイトで正規の方法の紹介をせずに「オープンバレル圧着を電工ペンチで行う」事を推奨する方々が多数いる事が確認でき、これはまずかろうと今回の記事の執筆に至りました。
オープンバレル圧着は工具こそ高級な物を使用すれば簡単に行えますが、安価な工具では適正圧着の道のりが険しいことが今回の記事で伝わったのなら本望です。
素敵な圧着ライフを送りましょう!
続編はこちら!