バランスとインピーダンス・バランスの違い | 音響・映像・電気設備が好き

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「ヒゲドライバー」「suguruka」というピコピコ・ミュージシャンが好きです。

インピーダンス・バランスの話がSNSで反響があり、以下に調べたことをまとめます。

 

音響のバランス接続と言うと仕組みから説明できる方が多数かとは思います。では、インピーダンス・バランス接続についてはどうでしょうか?

 

参考リンク:

バランス接続(伝送)・平衡接続について

 

ヤマハ株式会社

【MGシリーズ共通】「バランス型」と「インピーダンスバランス型」とはどのように違うのでしょうか。

 

上記にリンクを貼りましたが、インピーダンス・バランス接続とは疑似的なバランス接続であり、安価にバランス接続の利点である「線路間に混入したノイズを打ち消す」事ができる方式です。

 

 

YAMAHA MG10XUはSTEREO OUTはバランス、MONITOR OUTはインピーダンス・バランスアウト

 

 

YAMAHA MGシリーズの仕様

 

 

上の写真はYAMAHA MG10XUですが、この機種はSTEREO OUTはバランス、MONITOR OUTはインピーダンス・バランスアウトという仕様になっています。この両者の方式を、オペレータ側が普段気にすることはまずないかと思います。

 

以前、NTi ML1 ハンディオーディオアナライザの仕様を調べている時に気になることがありました。それは、バランス接続時最大入力+20dBu、アンバランス接続時最大入力+14dBuという項目です。

なぜ6dBの差があるのでしょうか?答えは簡単で、アンバランスの状態ではバランスに比べて波形振幅電圧の半分しか入力できない為です。※HOTとCOLD間の電圧は、HOTとGND間にくらべて半分 = 6dB低い。

と言う事はCOLDに何も音声信号が乗っていないインピーダンス・バランスは、バランス接続に比べて信号レベルがー6dB低いと言う事になります。ただ、低いと困るので、インピーダンス・バランスは一般的にHOT側の電圧を+6dBすることでバランス接続との信号レベルの差異を無くしています。

 

 

バランス伝送とインピーダンス・バランス伝送

 

 

模式図を作成しました。繰り返しますが、インピーダンス・バランスはバランスに比べてHOT側の電圧が+6dB高いのです。

HOT側が+6dB高いと言う事は、NTi ML1 ハンディオーディオアナライザにインピーダンス・バランスを入力する際は最大入力のー6dBまでしか測定できないと言う事です。

 

 

NTi ML1ではインピーダンス・バランス接続時は最大値のー6dBまでしか計ることが出来ない

 

 

実際に入力している状態。左はインピーダンス・バランス接続で、-14.7dBuで頭を打ち、これ以上はオーバ・ロードとなるが、下側にあるレベルインジケータは約6dBのマージンを残している。しかし、このレベルインジケータはインピーダンス・バランス接続ではこれ以上右には行かない。レベルインジケータをフルに振る(+20dBu表記にする)にはバランス接続(写真右)を行う必要がある。

 

 

バランス入力は最大入力のー6dB受けが2極

 

 

つまり、バランス入力と言うものは規定最大入力のー6dBした値がHOTとCOLDの最大入力であると定義が出来ます。

 

NTi ML1 ハンディオーディオアナライザに起きている事象を模式図にしました。

 

 

バランスで最大入力は問題ないが・・・

 

 

インピーダンス・バランス接続で規定最大入力は歪む(HOTの電圧が規定より+6dB高いため)

 

 

(歪んでも最大入力電圧のー6dBのままなので)この歪はピーク・インジケータを逃れる

 

 

つまり、バランス入力にインピーダンス・バランスを接続する場合は、規定レベルのー6dBのマージンを設定する必要があり、ピークインジケータは役に立たない、と言う事です。

 

この結論まで出した所で、では実際の音響機材で確認してみよう・・・・・・と意気揚々と試してみると、どれもこれもインピーダンス・バランスでも最大入力が可能でした。どうやら入力の段階である程度のマージンをあらかじめ取っておくのが普通の様です。そうでもしないと、RCA→XLRでマイク入力に接続するなんてケースでピークが検知できませんからね・・・

なんだNTi ML1 ハンディオーディオアナライザだけか・・・そっか~・・・・と思っていたら、fixerさんから、RME Fireface UCの入力1/2がその挙動をする、と教えて頂きました。

 

筆者はRME Fireface UCXを所有しているので、似たものだろうと試してみる事にしました。

 

 

YAMAHA MG10XUのインピーダンス・バランスとバランスをNTi XL2で計ったところ

 

 

まず、YAMAHA MG10XUでインピーダンス・バランスとバランスアウトを作ります。0.1dBまでレベルを合わせてあります。

繰り返しますが、インピーダンス・バランスのHOTの電圧は、バランスに比べて倍、つまり6dB高い状態です。

この2つをRME Fireface UCXのマイク入力1/2に入力し、クリップが点灯するまでレベルを上げます。すると、インピーダンス・バランスはクリップ・インジケータが一向に点灯しません。

 

 

RME Fireface UCXのマイク入力1/2にインピーダンス・バランスを接続するとクリップ検知されない

 

 

TotalMixFx上でのレベルの推移

 

 

TotalMixFx上でのレベルの推移を見ると、インピーダンス・バランス接続では-1.7dBFSで頭打ちしてしまいます。これ以上入力レベルを上げても、クリップ・インジケータは点灯しません。

※仕様の確認ですが、RME Fireface UCのクリップ・インジケータ点灯はー2dBFS、Fireface UCXのクリップ・インジケータ点灯は0dBFSです。

 

 

ピーク・インジケータは点灯しないが歪んでいる状態

 

 

インピーダンス・バランス接続で規定最大入力は歪む、そしてその歪はピーク・インジケータを逃れるという実例機材がまさかこんなところにあるとは・・・・・・・・

但し、予想していた6dBも差はありませんでした。THD+Nを計測し、どのレベルまでなら入力が可能なのかを調べました。

 

 

計測結果

 

 

上のキャプションで既に書いてありますが、RME Fireface UCXは仕様上+10dBuまで受けられるはずがインピーダンスバランスの場合は+7.9dBu(ー2.1dBFS)までしか受けられない事が分かりました。これは仕様に偽りあり、ですね。

そしてfixerさんから、なぜかこの症状はGainが0.0の時のみ起き、Gainを+10以上に変更すると起きない、と教えて頂きました。試すと、その通りでした。

 

以前に、RME Fireface UCXのバランスアウトレベルが偏っているという記事を書きましたが、今度は入力側です。(本件、日本代理店に聞いてもきっとスルーでしょう)

 

記事の話の流れから、インピーダンス・バランス接続では~としていますが、これはアンバランス入力でも同じ事です。結論、RME Fireface UCXは仕様上+10dBuまで受けられるはずがインピーダンスバランスまたはアンバランスの場合も+7.9dBu(ー2.1dBFS)までしか受けられないと言う事です。

 

この様に、バランス入力にインピーダンス・バランスを接続する場合は、規定レベルのー6dB(理論値)のマージンを設定する必要があり、ピークインジケータは役に立たない場合が稀にある、と言うのが本記事の結論です。(想像ですが、問題なく受けられる機材の方が多いと思います)

何の気なしにインピーダンス・バランスで接続して、フルビット振らせた方がS/Nが良いと思いマージンを詰めレベルを振らせたら、ピーク検知されないのに音源が歪んでいた、なんて事故が想像できますね・・・。

 

もし何かありましたら、コメント欄までお願いいたします。