こんにちは、内科医 ひとちゃんです![]()
残念ながら、先週末は、雨模様のお天気となってしまいましたね。
空気の乾燥が、和らぐのは良いことなのですが・・・
皆さまの体調は、いかがでしょうか?
(AIで画像を作成)
今回の話題は、「天気痛」にしてみたいと思います。
「雨が降る前は膝が痛む」、また「古傷が天気を予報する」などという話は、よく聞きますね。
これらは、単なる迷信や気のせいだと思われてきました。
しかし、近年の大規模な疫学調査や、最新の神経生理学的な研究により、「天気痛(気象病)」の実態が明らかになりつつあるのですね。
神経痛(神経障害性疼痛)や関節痛が、なぜ「気圧の低下」や「気温の低下(寒さ)」によって悪化するのか?・・・をお話してみたいと思います。
長年にわたり、「天気」と「痛み」の関係を証明することは困難であったそうです。
なぜなら、個人の思い込み(バイアス)を排除することが難しかったからという理由からなのですね。
しかし、「スマートフォン」の登場がその壁を打ち破った・・・というのですから、驚きます。
英国マンチェスター大学のDixon教授らは、1万人以上の「慢性疼痛」のある患者を対象に、スマホアプリとGPSを使った画期的な調査を行いました(2019年報告)。
このプロジェクトは、「Cloudy with a Chance of Pain」プロジェクトと呼ばれています。その方法は、以下のようなものです。
• 調査方法: 患者は日々の痛みをアプリに入力し、GPS情報からその場所のリアルタイムな気象データと照合。
• 結果: 「気圧の低下」「高湿度」「強風」の日には、痛みが悪化するリスクが約20%増加することが判明した」(参考1)。
この研究により、「関節リウマチ」や「神経痛」を持つ人々が天候の影響を受けることは、統計的にも確かな事実として認められるようになったのだそうです。
(AIを用いて画像を作成)
では、「気圧が下がると痛い」といっても、体はどのようにして気圧を感じているのでしょうか?
実は、私たちの体には、「気圧センサー」が備わっていることが分かっています。
実は、そのセンサーがあるのは、耳の奥にある「内耳(ないじ)」なのですね。
「内耳」には、平衡(へいこう)感覚をつかさどる「前庭(ぜんてい)」という器官があります。
外気圧の変化は、まず、鼓膜(こまく)・中耳腔に伝わり、その後、アブミ骨を介して卵円窓→蝸牛・前庭(内耳)へと波として伝達されます(参考2)
中耳の気圧変化は、「外リンパ」と「内リンパ」の間に小さな圧差を生じさせ、前庭神経の発火パターンを変えることが示されています (参考2)
ちょっと、難しいのですが・・・
「内耳」には「気圧計」のような専用器官は確認されていませんが、内耳に存在する「有毛細胞」というものが、内耳液の圧変化・流れを高感度に感知することで、結果的に気圧変化に反応すると考えられるのだそうです。
もうひとつのセンサーが、「冷えると痛い」という現象ですが、これには、別のセンサーがあるのですが、このお話は後日の話題にしたいと思います。
素敵な1週間をお過ごしください![]()
それでは、また![]()
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<ブログ後記>12月23日
天気が悪くなる前には、「関節」などに痛みを感じたり、線維筋痛症などのある方では、体幹部などが痛むことも多いかもそれませんね。
その理由としては、本文内でもご紹介をしたように・・・耳は「気圧計」の役割をしており、「気圧」の変化を敏感にキャッチできるからという理由になるわけです。
そのセンサーが存在するのは、耳の奥にある「内耳(ないじ)」という部分となりますね。
「内耳」には平衡感覚をつかさどる「前庭(ぜんてい)」という器官があります。
グルグルとまわるような回転性の目眩(めまい)が生じたときに、私を含めた医療者は、この「前庭」部分の炎症があるのではないか?・・と疑ったりもするわけです。
この「前庭」という器官は。次のような働きをすることが分かっています
1)気圧の感知
台風や雨雲が近づき気圧が下がると、内耳の気圧センサーがその変化を感知します。
2)交感神経の興奮
センサーからの信号が脳に伝わると、自律神経のバランスが崩れ、「交感神経」が過剰に興奮することが知られています(参考3)。
3)痛みの増幅
交感神経が興奮すると、血管が収縮したり、痛みを感じる神経内で「ノルアドレナリン」 という物質が作用して、普段より痛みを強く感じるようになります。
動物実験では、神経障害を持つラットを「低気圧環境(台風の接近程度)」に置くと痛がる行動が増えますが、内耳を破壊して機能をなくしたラットでは、気圧が下がっても痛みが悪化しないことが確認されています(参考4)。
これらのことは、「内耳」こそが天気の変化を「痛み」に変換するスイッチであることを示していると考えられています。
ところで、「気温が下がる」、つまり、「空気が冷えると痛い」という現象は、どのようなメカニズムがあると考えられているのでしょうか?
この現象には、「温度を感じる特殊なタンパク質(イオンチャンネル)が関わっているとされています。
実は、私たちの神経には、温度を感じ取るセンサーとなる「タンパク質」が存在することが分かっています。
そのタンパク質が、「TRPM8(ティーアールピーエムエイト)」と「TRPA1(ティーアールピーエーワン)」というものになります。
• TRPM8
26℃以下の涼しさや、ミント(メントール)のひんやり感を感じるセンサー
• TRPA1
: 17℃以下の冷たさや、ワサビのツーンとする刺激を感じるセンサー
などと説明されています。
神経が損傷(そんしょう)を受けると、これらのセンサーの量が増えたり、感度が過敏になったりすることが知られています(参考5)。
その結果、健常な人なら「少し涼しい」と感じる程度の気温低下でも、神経痛患者さんの脳には「痛い!」という信号として伝わってしまうのです(アロディニア現象)。
さらに血流の低下によって「酸欠」の状態になることが、「神経痛」などの痛みを増強させることが知られています。
寒さを感じると、体は熱を逃がさないように「血管」を収縮させます。
神経に栄養を送る微細な血管も収縮するため、傷ついた神経が酸素不足(虚血)になり、「発痛物質」が蓄積して痛みが悪化するとされています。
このようにみてきますと・・・天気の悪化により、痛みの増悪することは、気のせいではないとも言えますね、
日々のお天気が、主に「神経痛」の状態に影響を与えるのは、「内耳」による気圧感知と「交感神経の興奮」、そして「低温による神経過敏と血流障害」という明確な生理学的メカニズムが存在するからということになりますね。
今後、医療が発展していくことにより、これらの問題を解決して、
「神経痛」などの痛みを改善させるは、十分に可能なことなのかも
しれませんね。
今回も最後までお付き合いくださり
誠にありがとうございました![]()
参考)
1)NP J Digit Med. 2019 Oct 24:2:105.
How the weather affects the pain of citizen scientists using a smartphone app
William G Dixonら
2)Rep Prog Phys. 2014 Jul;77(7):076601.
The physics of hearing: fluid mechanics and the active process of the inner ear
Tobias Reichenbachら
3)Neurosci Lett. 1999 Apr 30;266(1):21-4.
Lowering barometric pressure aggravates mechanical allodynia and hyperalgesia in a rat model of neuropathic pain
J Satoら
4)Eur J Pain. 2010 Jan;14(1):32-9.
The inner ear is involved in the aggravation of nociceptive behavior induced by lowering barometric pressure of nerve injured rats
Megumi Funakuboら
5) RP Ion Channel Function in Sensory Transduction and Cellular Signaling Cascades.(Chapter13)
RPM8: The Cold and Menthol Receptor
David D.ら
(日比谷ミッドタウンのクリスマスツリー2025)
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理事長・ 院長
小笠原 均 (Hitoshi Ogasawara)
医学博士, 内科医
(総合内科、リウマチ専門医)
(新潟大医学部卒)
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