こんにちは、内科医 ひとちゃんです![]()
シルバーウィークの休暇であるわけですが、残念ながら雨模様のお天気になっていますね。
大型の台風25号が近づいているようで、雨脚(あまあし)が強くなっていくのかもしれませんね。
シルバーウィークの期間のうちに「台風一過(たいふういっか)」の青空が広がれば嬉しいと思ったりもします。
皆さまの体調はいかがでしょうか?
(AIを用いて画像を作成)
「まだまだ自分は元気である」と思っている方が多い年齢、40〜50歳代の年代の方は、多くの人が自らを「まだ若い」と感じる一方で、「健康診断」の各臓器の機能の示すデータが静かに動きはじめる時期でもあるとも言われています。
2026年に Aging Cell 誌に発表された論文は、この年代に「免疫」の要(かなめ)となる細胞の機能が衰えはじめることを具体的に示しています(参考1)。
どのような「免疫細胞」の機能が衰える(おとろえる)のかと言いますと・・・いわゆる「免疫力」に大きく関与するとされている
「NK(ナチュラルキラー)細胞」の機能が低下するというのです。
その原因として、ヒトの中年期における「脂肪蓄積」が、体を守る「NK細胞」の働きを鈍らせ、それが中年期以降に高まる死亡リスクの一因になりうるということを報告しているわけです(参考1)。
「NK細胞」の働きが鈍くなる(にぶくなる)とは、言うまでもなく
「NK細胞」の活性が低下するということになりますね。
このAging Cell 誌に発表された論文のち知見から、「NK細胞」の機能低下・・・つまり「活性」の低下が、なぜ感染症のリスクを押し上げ、さらには老化そのものを加速させかねないことが強調されているのかを医学的な視点から見てみたいと思います。
(AIを用いて画像を作成)
もうひとつの機能低下・・・「NK細胞」が持つ「INF-γ(インターフェロン・ガンマ)」の産生の低下は、ヒトの「免疫応答」のメカニズムに致命的(ちめいてき)なダメージを与えます。
大袈裟(おおげさ)な話である・・・と思われる方も多いかもしれませんね。
実は、「NK細胞」が産生する「INF-γ(インターフェロン・ガンマ)」は、感染早期の病原体排除や抗腫瘍免疫の誘導において重要な主要エフェクターサイトカインでになっていることが知られています(参考4,5)
少し詳しくお話をしますと・・・
「NK細胞」が産生した「INF-γ(インターフェロン・ガンマ)」は、細胞傷害活性と協調して多彩な「免疫細胞」を動員する以下のような働きがあるのですね。
1)抗ウイルス・抗菌(抗細菌)防御の誘導
単球やマクロファージを活性化し、MX1やIFIT1などの抗ウイルス分子発現を誘導して複製を抑制することも報告されています(参考6,7)。
また、「癌組織」に対しても「癌細胞」を破壊するだけでなく、さまざまな働きを持つわけですが・・・
<ブログ後記>9月23日
今回は「内臓脂肪型肥満」がありますと・・・いわゆる「免疫力」であるともされる「NK細胞」の活性が低下してしまうというお話をさせていただきました。
「NK細胞」の活性とは、その「破壊力」と言っても良いかもしれませんね。
もちろん「NK細胞」の活性は、以下の図で示すように20歳ぐらいに
そのピークとなり、以後は緩やかに(ゆるやかに)低下していくとされています。
(図はお借りしました)
「内臓脂肪型肥満」がありますと・・・さらに「NK細胞」の活性は低下していくということになりますね。
「肥満」と「NK細胞」の関係については、免疫代謝学の進展により解明が進んでいきています。
「肥満」の状態・・・その多くは「内臓脂肪型肥満」ですが・・・
この「内臓脂肪型肥満」では、蓄積した脂肪組織が慢性的な微小炎症を呈し、マクロファージなどが炎症性サイトカインを持続的に分泌することが知られています。この微小環境下で「NK細胞」の細胞傷害活性やIFN-γ産生能が損なわれることは、多数の研究で確認されています(参考8)
その分子メカニズムの核心を突いたのが、2018年の先駆的な研究であるとされています(参考9)。
「内臓脂肪型肥満」により組織内や血中の遊離脂肪酸が増加すると、「NK細胞」は脂質を過剰に取り込み、PPARαおよびPPARδという脂質代謝を制御する転写因子が過剰に活性化する現象が起こります。
その結果、細胞の主要なエネルギー源となる解糖系を駆動する「mTOR」経路のシグナルが阻害され、「NK細胞」は深刻な代謝不全(代謝的麻痺)に陥る(おちいる)ことが分かっています(参考9)。
エネルギーと生合成の基盤を絶たれたNK細胞では、グランザイムやパーフォリンの発現が低下するだけでなく、細胞傷害性顆粒を標的細胞との接着面(免疫シナプス)へと輸送する「トラフィッキング機能」が物理的に阻害されてしまうというのですね(参考9)。
重要なのは、この機能不全が不可逆的な細胞死ではなく、環境に由来する代謝的麻痺である点だ。実験的にPPARを阻害したり、ミトコンドリアへの脂質輸送を遮断したりすると、解糖系が回復し、細胞傷害性が元に戻ることが証明されています(参考9)。
「内臓脂肪型肥満」によって「NK細胞」が代謝的麻痺に陥り、ウイルスへの感受性が高まることは、多くの論文でも繰り返し指摘されています。
インフルエンザなどの呼吸器系ウイルスに対して、「内臓脂肪型肥満」のある者が重症化しやすい背景の一つに、「NK細胞」をはじめとする自然免疫の機能低下が存在すると考えられています。
感染症リスクは、高齢者だけの問題ではないわけですね。
「NK細胞」という「防波堤」が中年期の肥満を契機に低くなりはじめることこそが、私たちに突きつける警告であると言えるのではないでしょうか。
さらに・・・ここからが、感染リスクと並ぶ、医学的に極めて重要な論点であると言えます。
「NK細胞」は、病原体やがん細胞だけでなく、「老化細胞」の監視と排除(Senolysis)も担って(になって)いましたね。
「老化細胞」は、は単に細胞分裂がストップするだけでなく、「SASP(細胞老化随伴分泌現象)」を生じ、炎症性サイトカイン、ケモカイン、組織分解酵素などを周囲に放出し続ける。
少数の老化細胞であれば免疫系によって速やかに排除されるが、加齢に伴い各組織に蓄積すると、慢性的な微小炎症(Inflammaging)を引き起こし、動脈硬化、糖尿病、がんなど、様々な加齢関連疾患の温床となるとされています。
この厄介な「老化細胞」を積極的に排除しているのが「NK細胞」である。老化細胞はDNA損傷応答を契機に、細胞表面にMICAやULBPといった「NKG2Dリガンド」を高く発現します。
NK細胞は自身のNKG2D受容体でこれを感知し、パーフォリン・グランザイム経路を介して老化細胞を殺傷・除去するわけですね(参考10)。
ここで、これまでの知見が一本の線でつながりますね。
中年期の「内臓脂肪型肥満」は、脂質代謝の異常を介して「NK細胞」を代謝的麻痺に陥らせる(おちいらせる)わけです。
機能不全に陥った「NK細胞」は、組織に生じた老化細胞を十分に排除できなくなります。
排除を免れた「老化細胞」は蓄積し、「SASP」によって炎症性物質をまき散らします。
その慢性炎症は、脂肪組織の炎症をさらに増悪させ、「NK細胞」の機能をいっそう抑制する・・・という「負の連鎖」が存在することがお分かりいただけると思います。
「老化細胞」の蓄積は「老化の速度」そのものを規定する主要因の一つであると考えられています。
「NK細胞」の機能低下は、単に感染への扉を開くだけでなく、この「老化加速のループ」の引き金を引きうるのである。
また、「老化細胞」の監視と表裏一体の機能として、NK細胞による
「がん免疫監視(Tumor immunosurveillance)」も重要であると言えます。
実際に・・・一般住民を対象とした11年間の長期間にわたり経過を見た(前向きコホート)研究では、末梢血中の「NK細胞」の活性が低い群は、高い群に比べて将来のがん発症リスクが有意に高い(約1.4倍)ことが示されています(参考11)。
「内臓脂肪型肥満」そのものが複数のがんの確実な危険因子であることを踏まえると、肥満による「NK細胞」の機能不全は、中年期以降の癌発症リスクを静かに高めるベースとなるわけです。
免疫監視の綻び(ほころび)は、数年から十数年という長い潜伏期間を経て、がんという形で表面化しうると言えますね。
では、どうすればよいのか?・・・ということになりますね。
もちろん、悲観する必要はないと思います。
先にお話をしたように、「内臓脂肪型肥満」に伴う「NK細胞」の代謝麻痺は不可逆的な現象ではなく、「可逆的」な現象であるからですね。
したがって、積極的に体重・体脂肪の減少させることが、「NK細胞」の機能を回復させうることが複数の研究で示されています。
中年期は、免疫の低下がまだ機能停止(代謝的麻痺)の段階にとどまっているとされ、積極的に体重・体脂肪を減少させて「内臓脂肪型肥満」の解消を行なっていくことによって、「免疫応答」や「老化細胞」の除去能を回復させうる、重要な「分岐点」であると言えそうですね。
「食欲の秋」ですが・・・あなたはどうしますか?
今回も最後までお付き合いいただきまして
誠にありがとうございました![]()
1) Aging Cell. 2026 Sep;25(9):e70707.
Natural Killer Cell Dysfunction Is Emerging During Midlife Obesity
Ruojia Biaoら
4)Crit Rev Immunol. 2016;36(2):131-147.
Metabolic Regulation of Natural Killer Cell IFN-γ Production
Annelise Y Mahら
5)Cell Rep. 2022 Sep 13;40(11):111342.
In vivo G-CSF treatment activates the GR-SOCS1 axis to suppress IFN-γ secretion by natural killer cells
Xiangyu Zhaoら
6)Front Immunol. 2018 Mar 9:9:293.
Regulation of Human Natural Killer Cell IFN-γ Production by MicroRNA-146a via Targeting the NF-κB Signaling Pathway
Hongwei Wangら
7)Viruses. 2022 Jul 14;14(7):1538.
Galectin-9 and Interferon-Gamma Are Released by Natural Killer Cells upon Activation with Interferon-Alpha and Orchestrate the Suppression of Hepatitis C Virus Infection
Ann Paolo Carrecaら
8)Blood. 2020 Dec 24;136(26):3004-3017.
Increased lipid metabolism impairs NK cell function and mediates adaptation to the lymphoma environment
Takumi Kobayashiら
9)Nat Immunol. 2018 Dec;19(12):1330-1340.
Metabolic reprogramming of natural killer cells in obesity limits antitumor responses
Xavier Micheletら
10)Aging (Albany NY) . 2016 Feb;8(2):328-44.
NKG2D ligands mediate immunosurveillance of senescent cells
Adi Sagivら
11)Lancet . 2000 Nov 25;356(9244):1795-9.
Natural cytotoxic activity of peripheral-blood lymphocytes and cancer incidence: an 11-year follow-up study of a general population
K Imaiら
(筆者撮影)
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小笠原 均 (Hitoshi Ogasawara)
医学博士, 内科医
(総合内科、リウマチ専門医)
(新潟大学医学部卒)
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