こんにちは、内科医 ひとちゃんですニコニコ

 

最近の暖かさで桜は生長し、いよいよお花見シーズンに突入していきそうな気配ですね。

桜ばかりでなく、街でさまざまな花を見かけることも多くなりました。

 

"To plant a garden is to believe in tomorrow."
「庭に花を植えるということは、明日を信じるということである」

 

女優であり人道活動家でもあったオードリー・ヘプバーンの言葉です。

 

一粒の種を土に埋める。水をやり、日の光に託す。それは、まだ見ぬ未来に向けて信頼の手を差し伸べる行為です。花が咲くかどうかはわかりません。しかし、それでも種を蒔く(まく)。その行為そのものが、希望の表現であると解説がされています。

 

私たちの人生の日々も、そうした小さな種蒔きの連続であるのかもしれませんね。来月、来年、あるいは何年か先に花を咲かせる。

 

春はそのようなことを思い出させてくれる季節であるのかもしれませんね。

皆さまの体調は、いかがでしょうか?

 

(AIで画像を作成)

 

今回「エピジェネティクス・クロック(エピジェネティック時計)

について、お話をしてみようと思います。

 

「加齢(aging)」は、細胞・組織・臓器レベルにおける機能低下が、時間とともに蓄積(ちくせき)していくプロセスであり、がん、心血管疾患、神経変性疾患などの「加齢関連疾患」の最大のリスク因子であるとされています(参考1)。

 

ヒトの身体を構成する細胞のDNAには、「メチル基」と呼ばれる目印がついており、DNAのメチル化が低下すると、DNA→mRNAという遺伝子の「転写(てんしゃ)」が促進され、その逆にDNAのメチル化がが強くなると、この転写はストップされるわけです。

 

このようなDNAの配列に無関係に遺伝子の発現状態が変化するメカニズムを「エピジェネティクス」を呼ぶことは、以前のブログ内でもお話をさせていただきました。

 

近年、DNAメチル化パターンをもとにした「エピジェネティクス・クロック(エピジェネティック時計)の開発により、

「暦年齢(chronological age)」とは異なる「生物学的年齢(biological age)」を定量的に評価することが可能となったと報告されています(参考2.3)。

 

ところで、加齢によるDNAのメチル化の状態は、どのようになっていくのでしょうか?少し詳しくお話をしておきたいと思います。

 

「DNAメチル化(DNA methylation)とは、DNAを形づくる塩基のうち、「シトシン(C)」のピリミジン環5位にメチル基(−CH3​)が付加される化学修飾を指します。

 

この修飾は主に「CpGジヌクレオチド部位(CpGモチーフ)」で生じ、遺伝子の発現調節に関与するわけです(参考4)。

 

加齢に伴いまして、ヒトのゲノム(DNA)全体では

「低メチル化(global hypomethylation)」が進行する一方、特定のプロモーター領域では「高メチル化(promoter hypermethylation)」が生じ、重要な遺伝子のサイレンシングが引き起こされることが分かっています(参考5)。

 

この変化は「エピジェネティック・ドリフト」と呼ばれ、ゲノム不安定性やミトコンドリア機能障害といった加齢の特徴(hallmarks of aging)と相互に作用し、老化の表現型を決定づけると考えられています(1,5)。

これは、若い頃は似ていた「DNAメチル化パターン」が、高齢になるにつれて個人間でバラバラになる(ドリフトする)ことを示している

とされています。

 

           (参考文献より抜粋)

 

上記の図を見ていただくと横軸は、生まれた年から数える「暦の年齢」となりますが、これが同年齢であるとしても・・・

「エピジェネティクス・クロック(エピジェネティック時計)を測定してみると・・・

 

「暦の年齢」とは異なり、「細胞レベル」での老化の進み具合、つまり、身体が実際にどれくらい老化しているか(=生物学的年齢) を数値で推定することができるというわけです。

この「暦の年齢と生物学的年齢のズレ」を「エイジギャップ」と呼びます。

 

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                                    (AIを用いて画像を作成)

 

最近の研究では、生物学的年齢が高いほど病気になりやすかったり、死亡リスクが上がることも明らかになってきました。

 

そのため、「エピジェネティクス・クロック(エピジェネティック時計)は、「老化を客観的に測る新しいものさし」として、注目されているわけです。

 

「運動」や「食事改善」などの生活習慣介入によって、エピジェネティックな老化指標や代謝関連のメチル化異常が「部分的に巻き戻る/進行が遅くなる」ことを示す論文レベルのエビデンスは増えています。

 

例えば、前回の「内臓脂肪型肥満」のお話に関連づけるわけではありませんが・・・

 

肥満などに関わる「DNAメチル化」などは動的かつ可逆的であり、運動や減量、食事改善で「より正常なプロファイル」に近づきうると報告がされています(参考6,7)。

 

では、抗老化作用があるとされている「NMN ((ニコチンアミドモノヌクレオチド)」や「NAD+((ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)」、そして、「iPS細胞由来エクソソーム」などは、「エピジェネティクス・クロック(エピジェネティック時計)に影響を与えるのでしょうか?

 

続きは、後日の話題にしたいと思います。

 

素敵な1週間をお過ごしくださいキラキラ

それでは、またバイバイ

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<ブログ後記>3月24日

 

今回は、実際の「暦年齢」ではなく、「生物学的年齢(biological age)」を示す「エピジェネティクス・クロック(時計)のお話をさせていただきました。

 

本文内でもご紹介をしましたが、DNAの修飾「メチル化」のパターン

より、生物学的な年齢を示すものとなっています。

JTKクリニックでも「エピジェネティクス・クロック(時計)の測定検査は行っています。

 

現時点では、さまざまな「抗老化医療」が多くの施設で施行されており、「エピジェネティクス・クロック(時計)の測定のみを施行したいという方も、時にはいらっしゃいます。

 

しかしながら、注意をしなければいけないのは、「エピジェネティクス・クロック(時計)に変化を及ぼさない「抗老化医療」も存在するという事実です。

 

いったい、どのようなことなのでしょうか?

 

例えば・・・「NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)」は、点滴による投与が世界的に施行されているものです。

 

「NAD+」は、エネルギー代謝の中核を担う補酵素であり、「加齢」に伴いそのレベルは著明に低下していくことが知られています。

 

その主な要因として・・・「加齢」に伴い、DNA損傷が過剰になると「修復酵素PARP1」が活性化(PARP活性化)し、大量の「NAD+」を基質として消費することが知られています(ポリADPリボシル化)

(参考8)。

さらに「NAD+」分解が亢進→「 NAD+枯渇 →ATP産生低下 →細胞のエネルギー危機→細胞死となることもあります(参考8.9)。

 

さらに「NAD+」レベルの低下は、ゲノム安定性を維持する「サーチュイン(SIRT1-7)」の活性低下を招き、広範な細胞機能不全を引き起こすことが報告されています(参考10)。

 

 

では「NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)」は、どうでしょうか?

「NMN」は、ビタミンB3から作られる体内の物質で、老化制御や長寿遺伝子(サーチュイン)を活性化するNAD+に変換される物質ですね。

マウスモデルにおいての話ですが・・・「NMN」補充は、ミトコンドリア機能を改善し、健康寿命を延長させることが示されています(参考11)。

 

ヒト臨床試験においても、高齢者の歩行速度や睡眠の質に対する改善効果が報告されていますが、心血管機能等への劇的な効果については依然として議論があります(参考12)。

 

こうした「NAD+」の点滴や「NMN」が「エピジェネティック・クロック(時計)」に影響を与えるのか?・・・と言いますと・・・

 

に関しては、「NAD+」点滴や「NMN」の単独投与によって既存の「エピジェネティック・クロック(時計)」が体系的に巻き戻る」という決定的な「エビデンス」はないとされています。

 

一方で、カロリー制限・運動・生活習慣介入は、「エピジェネティック・クロック(時計)」を明確に減速させうることがランダム化試験で示されています(参考13) 

 

カロリー制限・運動・生活習慣介入などはNAD⁺代謝やサーチュイン活性に影響するため 、「NAD+」の点滴や「NMN」が「エピジェネティック・クロック(時計)」に関わる可能性は高いわけですが、

直接的な因果関係はまだ証明されていない・・・と言えるかもしれませんね。

 

最後に「iPS細胞由来エクソソーム」は、「エピジェネティック・クロック(時計)」を巻き戻す・・・つまり、、「生物学的年齢(biological age)」を若返らせるのか?・・・ということになりますね。

 

「iPS細胞(人工多能性幹細胞)」自体は、4つの転写因子(山中因子)の導入などにより、細胞を「リプログラミング」して作成されるものでしたね。

 

「リプログラミング」とは、すでに分化した細胞からこの固定化されたメチル化などの標識を消去して「未分化」の状態に戻し、体を構成するあらゆる種類の細胞に分化することができる多能性を持った幹細胞を作り出す現象のことでしたね。

 

この「リプログラミング」は「エピジェネティック・クロック(時計)」年齢をゼロにします。そして、細胞分裂によって短くなっていく

「テロメア」の長さも0歳(胎児)と同様の長さまで回復します。

 

しかしながら、どの細胞になればよいか?・・・が分からなくなる「細胞アイデンティティ」の喪失というリスクを伴うわけです。

そのため、一過性の「部分的リプログラミング」による若返り研究が進んでいるのだそうです(参考14)。

 

これに対して、「iPS細胞由来エクソソーム」は、リプログラミング因子の直接導入に伴うリスクを回避しつつ、細胞若返りシグナルを届けるセルフリー療法として期待されています。

 

残念ながら、現時点では・・・

 

iPS細胞由来エクソソームが「エピジェネティック・クロック(時計)」を若返らせる、またが、進行を遅らせるという決定的なヒトのデータは、現時点では存在しません。


ただし、「エピジェネティックな老化状態」に影響しうる間接的なメカニズムや前臨床データは十分に想定されています。

 

例えば、「老齢マウス」への投与実験により、齢マウスに「iPS細胞由来エクソソーム」を3ヶ月間静脈注射すると

 

  • 大動脈リングの血管新生能が若齢マウスレベルまで回復
  • 腎・皮膚・筋・肝・肺・脳・脾など多臓器でp53・p16発現が有意に低下
  • 抗酸化能(TAOC)や骨髄細胞増殖も改善
    が報告されています(参考15)

 

また、同時に若いマウスに投与してもp53/p16には大きな変化がなく、主に老齢個体の老化シグナルを下げる効果と解釈されています

(参考15)

 

また、「ヒトiPS由来エクソソーム」は、老化ヒト真皮線維芽細胞で

  • SA‑β‑Gal活性低下(老化マーカー)
  • p53/p21経路の発現低下
     

を起こし、増殖・遊走能を回復させることも報告されています(参考16)。

 

まとめると・・・現時点では「iPS細胞由来エクソソーム」が、エピジェネティクス・クロック(時計)に直接、影響を与えたという論文はありません。

 

ただし、一般論として・・・

「iPS細胞由来エクソソーム」に搭載されたmiRNAが、受け手細胞のDNMT遺伝子などの活性を変え、プロモーターや広域のメチル化状態を改変しうる」ことは、実証されています(参考17,18) 。

 

以上のことから、直接的な証明はされていないものの、「iPS由来エクソソーム」のみが、「エピジェネティクス・クロック(時計)を若返らせる可能性がある・・・ということになりますね。

 

軽い気持ちで始めた「エピジェネティクス・クロック(時計)のお話が、なかなか、ヘビーなものになってしまいました笑い泣き

 

今回も最後までお付き合いいただき

誠にありがとうございましたお願い


 

参考)

1)Cell. 2023 Jan 19;186(2):243-278. 

Hallmarks of aging: An expanding universe

Charlas López-Otín ら

 

2)Genome Biol.. 2013;14(10):R115. 

DNA methylation age of human tissues and cell types

Steve Horvath

 

3)Nat Rev Genet. 2018 Jun;19(6):371-384.  

DNA methylation-based biomarkers and the epigenetic clock theory of ageing

Steve Horvathら

 

4)Pharmacol Ther. 2019 Mar:195:172-185. d

The role of DNA methylation in epigenetics of aging 

Archana Unnikrishnanら

 

5)MedComm(2020). 2025 Sep 1;6(9):e70369. 

Epigenetic Regulation of Aging and its Rejuvenation

Yongpan An.ら

 

6)Int J Mol Sci. 2022 Jan 25;23(3):1341. 

An Overview of Epigenetics in Obesity: The Role of Lifestyle and Therapeutic Interventions

Abeer M Mahmoudら

 

7)J Nutr Biochem. 2018 Apr:54:1-10. 

Epigenetic reprogramming in metabolic disorders: nutritional factors and beyond.                        

Zhiyong Chengら

 

8)PLos One. 2012;7(7):e42357. 

Age-associated changes in oxidative stress and NAD+ metabolism in human tissue 

Hassina Massudiら

 

9)Antoxid Redox signal.. 2018 Jun 20;28(18):1652-1668. 

Nicotinamide Adenine Dinucleotide Metabolism and Neurodegeneration 

Mariana  Peharら

 

10)Trends Cell Biol. 2014 Aug;24(8):464-71. 

NAD+ and sirtuins in aging and disease 

Shin-ichiro Imaiら

 

11)Cell. 2013 Dec 19;155(7):1624-38. 

Declining NAD(+) induces a pseudohypoxic state disrupting nuclear-mitochondrial communication during aging 

Ana P Gomesら

 

12)Geroscience. 2023 Feb;45(1):29-43. 

The efficacy and safety of β-nicotinamide mononucleotide (NMN) supplementation in healthy middle-aged adults: a randomized, multicenter, double-blind, placebo-controlled, parallel-group, dose-dependent clinical trial

 Lin Yiら

 

13)Pharmacol Ther. 2019 Mar:195:172-185. 

The role of DNA methylation in epigenetics of aging

Archana Unnikrishnanら

 

14)Aging(Albany NY). 2023 Jun 26;15(12):5854-5872. 

iPSC-derived exosomes promote angiogenesis in naturally aged mice

Xingyu Liら

 

15)Nature. 2020 Dec;588(7836):124-129. 

Reprogramming to recover youthful epigenetic information and restore vision

Yuancheng Luら

 

16)Int J Mol Sci. 2020 Jan 5;21(1):343. 

Derivation of Cell-Engineered Nanovesicles from Human Induced Pluripotent Stem Cells and Their Protective Effect on the Senescence of Dermal Fibroblasts

Hyelim Leeら

 

17)Mol Cancer. 2019 Oct 27;18(1):148. 

Exosomal miR-21 regulates the TETs/PTENp1/PTEN pathway to promote hepatocellular carcinoma growth

Liang-Qi Caoら

 

18)Cancer(Basal). 2020 Oct 11;12(10):2922. 

Regulatory Mechanisms of Epigenetic miRNA Relationships in Human Cancer and Potential as Therapeutic Targets

K M Taufiqul Arifら

 

(麻布台ヒルズの'神代曙’の品種の桜)

(筆者撮影)

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こんにちは、内科医 ひとちゃんですニコニコ

 

早いもので、3月も半ばとなっていますね。

東京の桜は、3月18日ごろから開花し、25日頃からは満開になるのだとか。いよいよ、本格的な春の到来が期待できそうです。

 

皆さまの体調は、いかがでしょうか?

 

 

(AIで画像を作成)

 

今回は「肥満」、とくに「内臓脂肪型肥満」について、お話をしてみたいと思います。

 

現代の医学において、「肥満」は最も深刻な健康課題のひとつであるとされています。

WHO(世界保健機関)の報告では、世界中で成人の約39%が太り気味(過体重)であり、その割合は増え続けていることが報告されています。

 

「肥満」は単に「体重が重い」という問題ではなく、心臓病、糖尿病、がん、脳卒中といった命に関わる病気の引き金となり、年間約400万人の死に関与していると推定されています(参考1)。

 

そして、(繰り返しになるかもしれませんが)近年の医学の中で分かってきたことは、「どれくらい太っているか(量)」よりも「どこに脂肪がついているか(場所)」の方が重要であるということです。

 

どのようなことか?・・・と言いますと、お腹の中に脂肪が溜まる(たまる)「内臓脂肪型肥満」は、見た目以上に健康への悪影響が強いことが明らかになっています(参考2)。

 

これまでにも「内臓脂肪型肥満」は、「動脈硬化」や「糖尿病」を発症すやすくなり、また、それらの「病態」を悪化させることは、話題としてきたのですが・・・実は「内臓脂肪」の存在は、ヒトの寿命(じゅみょう)そのものを縮めて(ちぢめて)しまうわけですね。

 

(AIを用いて画像を作成)

体重(kg)を身長(m)の2乗で割った「BMI」と死亡率の関係を調べると、多くの研究で以下のような「J字型」のグラフになることが分かっています。

 

 

約90万人を対象とした解析では、「BMI」が22.5~25.0の範囲で最も死亡リスクが低く、そこから「BMI」が5上がるごとに死亡率は約1.3倍ずつ上昇します(参考3)。

 

特に若い世代や男性において、この傾向は顕著であると報告されています(参考4)。

 

BMIが30~35になると平均余命は2~4年、BMI 40~45では8~10年も短くなると推計されています。

 

なぜ、「内臓脂肪」は、命を短くしてしまうほど、「リスク」が高いものであるのか?・・・という話題になっていくわけですが、続きは後日の話題にしたいと思います。

 

素敵な1週間をお過ごしくださいキラキラ

それでは、またバイバイ

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<ブログ後記>3月17日

今回は、「内臓脂肪型肥満」について、お話をさせていただきましたが・・・

「内臓脂肪型肥満」はなぜ、生命を脅かす(おびやかす)ほどリスクが高いのでしょうか?

その理由は、「内臓脂肪」は単なる脂肪の塊ではなく、全身の炎症や動脈硬化・心筋梗塞・脳卒中リスクを高める多数の物質(アディポカインやサイトカイン)を分泌する「内分泌臓器」とみなされる・・・からという理由になります。その特徴をみますと、以下のようなものになります。

 1)内臓脂肪は「活発すぎる」


 内臓脂肪は、ホルモンなどの刺激に敏感で、脂肪を分解して「遊離脂肪酸」という物質を放出しやすい性質があります(参考5)。

2)肝臓への直行便


最も重要な点は、内臓脂肪が「門脈(もんみゃく)」という大きな血管を通じて、直接肝臓に繋がっていることです(参考6)。

内臓脂肪から漏れ出した脂肪分や炎症物質は、フィルターを通らずに直接肝臓を攻撃し、全身の代謝を狂わせます。

3)免疫細胞の巣窟


内臓脂肪の中には、免疫細胞(マクロファージ)が集まりやすく、そこが炎症の火種となります(参考7)。

若干、ファンタジックな見出しになってしまいましたが・・・

 

上記のような性質から、「内臓脂肪型肥満」の脂肪は、「毒を出す臓器」に変化するといっても過言ではありません。

以前は「内臓脂肪」は、単なる「エネルギーの貯蔵庫」だと以前は思われていました。

 

しかし、現在では、様々なホルモンを分泌する「人体最大の分泌臓器」であると考えられています。

 

例えば、「内臓脂肪」が溜まると、「ホルモン(アディポカイン)」のバランスが崩れ、低下することが分かっています(参考8)。

この「アディポカイン」は以下のことに深く関与するとされています。

1)糖代謝・インスリン感受性の調節
2)エネルギーバランスの維持
3)炎症・免疫応答の制御
4)血管機能・動脈硬化への影響

このように「アディポネクチン」は、 本来、ヒトの身体を良い状態に保つように働く善玉ホルモンですが、「内臓脂肪」が増えると逆に分泌が減ってしまうわけですね。


このことが、「動脈硬化」や「糖尿病」を加速させ、TNF-αやIL-6といった「炎症を引き起こす物質」であるサイトカインが大量に放出されます(参考9)。

そして、これらのサイトカインが血液に乗って全身を巡り、血管や臓器を傷つけます。

さらに「内臓脂肪型肥満」が寿命を縮める最大の特徴は,「慢性低グレード炎症」にあると言われています(参考10)。

 

このメカニズムは、次のようなものになります。

さらに過栄養により脂肪細胞が「トリグリセリド」を蓄積し、細胞が大きくなりすぎると(肥大化)しますと、これらの細胞が「低酸素状態(虚血)に陥ります(おちいります)。
 

そのような状態になりますと、脂肪細胞にアポトーシスなどの細胞死が起こり、細胞の内容物(脂質・DAMPsなど)が細胞外に漏出します。


これで終わりではなく、死んだ細胞を貪食しようと「M1型マクロファージ」が集まるということになります。
「M1型マクロファージ」 とは、免疫活性型のマクロファージでしたね。
なので、・・・「M1型マクロファージ」は、TNF-α、IL-6、IL-1βなどの炎症性サイトカインを大量に分泌します。これらが血液に乗って全身を巡り、血管や臓器を傷つけるとされています(参考11)。

こうしたことで起こる「免疫応答」が「慢性低グレード炎症」として、各種の臓器を障害していくわけですね。

少しだけ、大きい視点で見てみると・・・これら「炎症性サイトカイン」の高い状態が「細胞老化(セネセンス)」を促進することが多くの研究で示されています。

 さらに周囲の細胞にも老化を波及させる因子と考えられています。
 

従って、これらを慢性的に上げる生活習慣や疾患(肥満・内臓脂肪・慢性感染など)は、老化スピードを高める方向に働く可能性が高いといえます。

実際にIL‑1βは、老化細胞が分泌するSASPの中核であり、周囲細胞を「老化細胞」を起こす鍵となる分子とされていますし(参考12)、
IL‑1βとTNF‑αは、ともに他臓器(脳・肝・椎間板など)の老化・機能低下を促進することが報告されているのですね(参考13,14)。

このような観点から考えますと、中年太り(内臓脂肪型肥満)であるにも関わらず、「健康長寿」を夢見ていることが
いかにナンセンスなことであるかがお分かりいただけるのではないかと思ったりもしますね。

 

今回も最後までお付き合い頂きまして

誠にありがとうございましたお願い

 

参考)

1)Lancet Diabetes Endocrinol. 2018 Dec;6(12):944-953. 

Association of BMI with overall and cause-specific mortality: a population-based cohort study of 3·6 million adults in the UK Krishnan Bhaskaranら

 

2)Lancet Diabetes Endocrinol. 2019 Sep;7(9):715-725. 

Visceral and ectopic fat, atherosclerosis, and cardiometabolic disease: a position statement 

lan J Neelandら

 

3)Lancet. 2009 Mar 28;373(9669):1083-96.

Body-mass index and cause-specific mortality in 900 000 adults: collaborative analyses of 57 prospective studies

Gary Whitlockら

 

4)Lancet. 2016 Aug 20;388(10046):776-86.  

Body-mass index and all-cause mortality: individual-participant-data meta-analysis of 239 prospective studies in four continents

Emanuele Di Angelantoniaら


5)Front Cardiovasc Med . 2023 Jul 27:10:1187735.
Visceral adipose tissue and residual cardiovascular risk: a pathological link and new therapeutic options
Arturo Cesaroら

6)Diabetol Metab Syndr. 2011 Jun 22:3:12.
Visceral adiposity, insulin resistance and cancer risk
Claire L Donohoeら

7)J Clin Endocrinol Metab. 2004 Jun;89(6):2548-56.
 Adipose tissue as an endocrine organ
Erin E Kershawら

8)Front Cardiovasc Med. 2020 Feb 25:7:22.
Adipose Tissue Distribution, Inflammation and Its Metabolic Consequences, Including Diabetes and Cardiovascular Disease
Alan Chaitら

9)Nutrients. 2020 May 3;12(5):1305.
Obesity, Bioactive Lipids, and Adipose Tissue Inflammation in Insulin Resistance
Iwona Kojtaら

10)Biomed Pap Med Fac Univ Palacky Olomouc Czech Repub. 2019 Feb;163(1):19-27.
 Visceral fat and insulin resistance - what we know?
Karolina Janochovaら 

11)Front Cardiovasc Med. 2020 Feb 25:7:22.
Adipose Tissue Distribution, Inflammation and Its Metabolic Consequences, Including Diabetes and Cardiovascular Disease
Alan Chaitら

12)Aging (Albany NY). 2012 Dec;4(12):932-51.
 IL1- and TGFβ-Nox4 signaling, oxidative stress and DNA damage response are shared features of replicative, oncogene-induced, and drug-induced paracrine 'bystander senescence'
Sona Hubackovaら

13)Biomed Pharmacother . 2020 Nov:131:110660.
The role of IL-1β and TNF-α in intervertebral disc degeneration
Yongjie Wangら

14)Int J Mol Sci. 2023 Mar 9;24(6):5217.
 Secretory Factors from Calcium-Sensing Receptor-Activated SW872 Pre-Adipocytes Induce Cellular Senescence and A Mitochondrial Fragmentation-Mediated Inflammatory Response in HepG2 Cells
Lautaro Briones-Suarezら

 

(夜の東京駅舎の風景)

(筆者撮影)

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こんにちは、内科医 ひとちゃんですニコニコ

 

青い空は広がっていますが、強い風が吹いています。

天気図を見てみると、西高東低の気圧配置で、日本海側を中心に雪や吹雪となっているのだとか。このあと、風のやや強い状態が続くのだそうです。

 

まだ、本格的な春は来ないのか?・・・と気持ちは落ち着かない気がします。

 

米国の思想家であり、哲学者、作家、詩人、エッセイストでもある

ラルフ・ワルド・エマーソンの言葉に次のようなものがあります。

 

"Adopt the pace of nature: her secret is patience"

自然のペースに従え。その秘訣は忍耐である 

 

植物が無理に開花させずに着実に成長するように、急ぐのをやめ、

ストレスを減らし、「今この瞬間を大切にせよ」という呼びかけなのだそうです。

 

皆さまの体調は、いかがでしょうか?

 

(AIで画像を作成)

 

前回は、「IPS細胞」についてお話をさせていただきました。

 

今回は、最近、話題になることに多い「腫瘍溶解ウイルス療法(Oncolytic Virus:OV療法)」が注目されています。

 

この「腫瘍」とは、「癌」のことですね。

 

今回は、この「腫瘍溶解ウイルス(OV)療法」が、どのようなメカニズムにより、「癌の治療」に役立つのか?・・・というお話をしてみたいと思います。

 

初めて、この言葉を聞く方もいらっしゃるかもしれませんね。

 

実は「癌細胞」に「ウイルス」を感染させることにより破壊する治療法の開発は、20世紀後半からずっと行われていました。

 

「癌細胞」では、よく増殖し、「正常細胞」では増殖しにくいように

細工した「ウイルス」が使われ、これまでに多くの「腫瘍溶解ウイルス(OV)」が開発されているのですね。

 

ただ、いくら「癌特異的」と言っても、全ての癌細胞に感染し全て殺してしまうことは至難の業(しなんのわざ)であったわけです。

 

このような理由から、その開発が停滞した時期もあったわけですが、最近になり、癌に対する「免疫細胞」の力が再認識(さいにんしき)されることで、再び、注目されるようになったわけですね。

 

 

(AIを用いて画像を作成)

 

では、「腫瘍溶解ウイルス(OV)」は、どのようなメカニズムにより、「癌細胞」に侵入することができるのでしょうか?

 

「癌溶解ウイルス(OV)」が、正常細胞を傷つけずに「癌細胞」で特異的に増殖できる理由は、「癌細胞」における幾つかの「分子異常」を利用しているためであるとされています。

 

以下に「癌細胞」に特異的な分子異常をご紹介したいと思います。

 

1.抗ウイルス応答(IFN経路)の欠損

 

正常細胞には、ウイルス感染を検知すると「インターフェロン(IFN)」を産生し、「PKR(プロテインキナーゼR)」の活性化を介して翻訳を停止させ、増殖を抑制するメカニズムがあります。

 

しかしながら、多くの「癌細胞」では、この「抗ウイルス経路」が破綻(はたん)しており、ウイルスが複製が優位になることが分かっています(参考1,2)。

 

2.Rasシグナルの恒常的活性化

 

「Ras(ラス)遺伝子」変異を持つ細胞では、PKRが抑制されるため、ウイルスの増殖が促進される。

 

「Ras遺伝子」は、細胞の増殖・分化・生存を制御するタンパク質をコードする「がん遺伝子」のグループ(KRAS、NRAS、HRAS)ですね。

 

通常は一時的に活性化し増殖を管理しますが、変異すると活性化状態が持続し、異常増殖(がん)を誘発するとされています。

 

このような状態になると、「癌溶解ウイルス(OV)」が癌細胞のなかに侵入しやすくなり、その後のウイルス複製が活発になります。

 

3.p53機能喪失と細胞周期制御異常

 

「細胞周期」が常に回っている「癌細胞」は、ウイルス複製に必要なDNA合成系が活性化していることが分かっています。

 

「p53遺伝子(TP53)」は、「癌抑制遺伝子」でして、細胞の癌化を防ぐため「ゲノムの守護者」と呼ばれていましたね。

 

通常の場合は、「DNA損傷」や「ストレス」を検知し、細胞周期の停止・修復、またはアポトーシス(細胞死)を誘導して異常細胞の増殖を防ぎます。

「p53遺伝子(TP53)」が変異すると・・・細胞は「癌化」しやすくなるとされています。

 

実際に・・・ヒト悪性腫瘍の約50%が、「p53遺伝子(TP53)」の変異を持つことは、これまでにも繰り返し報告されています(参考3,4)。

 

さらに遺伝子工学的には、ウイルス表面の「外被タンパク」を遺伝子改変で「癌に特異的受容体」への結合を高めたり、癌細胞でのみ作動するプロモーターを使って「侵入後にだけ」増えるよう設計されているのですね。

 

 

「癌溶解ウイルス(OV)」は、癌細胞のなかに侵入し、増殖を始める

わけですが・・・名前のとおりに「癌細胞を」を破壊してしまうわけですね。

 

その後、ヒトの「免疫細胞」が総動員されて、一気に「癌細胞」を破壊する戦闘体制になっていくわけですが・・・

お話の続きは、後日の話題にしたいと思います。

 

素敵な1週間をお過ごしくださいキラキラ

 

それでは、またバイバイ

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< ブログ後記 >3月10日

今回は、今話題の「腫瘍溶解ウイルス(OV)療法」について、お話をさせていただきました。
JTKクリニックも臨床研究レベルですが、ある種の「腫瘍溶解ウイルス(OV)」の投与を依頼される機会も多くなってきています。

感染後、ウイルスは癌細胞内でコピーされ、最終的には「細胞膜破壊(ウイルス誘導細胞死)」→ウイルス放出が起こるとされています(direct oncolysis)(参考5)、

さらに癌細胞を破壊(溶解)すると同時に、強い「抗腫瘍免疫」を誘導することが特徴であるとされています(参考6)
 

 

免疫細胞について、その動きを見ますと・・・
 

「NK細胞」も活性化するのですが・・・


「NK細胞」は、MHCクラスI分子の発現が低下した(免疫逃避を図る)癌細胞を直接攻撃するとされていますので重要です。
 

「腫瘍溶解ウイルス(OV)」療法下では、以下のメカニズムにより NK細胞の活性が最大化されます。

1)リガンド発現の上昇:

 

「腫瘍溶解ウイルス(OV)」の感染により、細胞表面にNKG2Dリガンド(MICA/Bなど)やDNAM-1リガンドが誘導され、NK細胞の認識能が高まります。

2)サイトカインによる活性化

 

感染細胞や周囲のマクロファージから放出されるIFN-α、βやIL-12が「NK細胞」を強力に活性化します。

3) IFN-γ(インターフェロン・ガンマ)の産生

活性化NK細胞は多量のIFN-γを分泌し、後述する樹状細胞の成熟やCT「細胞障害性T細胞(CTL ,CD8+T細胞)」の動員を強力にバックアップします。

CTL(細胞傷害性T細胞,CD8+T細胞)については、次のようになります。

「腫瘍溶解ウイルス(OV)療法」の最終的な目標は、癌特異的な「細胞障害性T細胞(CTL,CD8細胞)」の誘導であるとされています。

1)多様な抗原認識:

 

ウイルスによる「多焦点的な」細胞溶解により、単一の抗原標的ではなく、複数の腫瘍抗原に対するCTLが誘導される(Antigen Spreading)。

2) 腫瘍浸潤の促進

 

TMEにおけるケモカイン(CXCL9, CXCL10など)の発現上昇により、全身を循環するCTLが腫瘍内に効率よく集積する(参考7)。

次に「癌関連線維芽細胞(CAF)」についてですが・・・

 

臓器の癌、つまり「固形癌」が難治性である最大の問題点は、以前にもブログ内でお話をしたように癌の周囲や癌の組織内に存在している「癌関連線維芽細胞(CAF)」であろうと考えられます。

「癌関連線維芽細胞(CAF)」の存在する癌組織では、次のような問題が起きてきます。

「癌関連線維芽細胞(CAF)」の最も顕著な特徴は、大量の細胞外マトリックス(ECM)を産生することです。これにより、以下に示すようなころが問題になってきます。

1線維化(デスモプラジア)

「癌関連線維芽細胞(CAF)」は、コラーゲンやヒアルロン酸を過剰に分泌し、組織を「線維化」させます。これにより、癌組織は非常に硬くなります。

2,薬剤送達の阻害

 強固な線維化は組織内の圧力を高め、血管を押しつぶします。その結果、抗癌剤などの治療薬が癌細胞まで届きにくくなる「物理的なバリア」として機能します。
 

3.癌細胞の増殖と転移の促進

「癌関連線維芽細胞(CAF)」は,癌細胞に対して「肥料」を与えるような役割を果たします。その理由は、

1)成長因子の放出: HGF(肝細胞増殖因子)やEGF(上皮成長因子)などを分泌し、癌細胞の増殖を直接促します。

2)上皮間葉転換(EMT)の誘導:「癌関連線維芽細胞(CAF)」が放出するTGF-βなどのシグナルにより、癌細胞は移動能力の高い性質(EMT)を獲得し、血管やリンパ管へと浸潤しやすくなります。

この上皮間葉転換(EMT)をした癌細胞は、血管壁を通り抜けますので、遠方に転移することが
できる細胞ですね。癌が画像で確認できる3~5年前から、血液中の確認できる「血中腫瘍細胞検査
(CTC検査)のType2.の細胞ということになりますね。

4.免疫逃避のメカニズム

「癌関連線維芽細胞(CAF)」は、本来癌を攻撃するはずの「免疫システム」を抑制する環境(免疫抑制的微小環境)を作り出します。

1)免疫細胞の排除: 「癌関連線維芽細胞(CAF)」は線維の壁を作ることで、「細胞障害性T細胞(CD8+細胞」や「NK細胞」などの免疫細胞が「癌細胞」に接触するのを物理的に阻害します。

2)癌組織自体を免疫抑制状態する
 
免疫抑制状態の癌の組織は、T細胞などの免疫細胞の浸潤が少ない「Cold Tumor(冷たい腫瘍)」と呼ばれており、その組織内部の「マクロファージ」がM2型(免疫抑制)になっていることが報告されています。

「免疫治療」として、NK細胞や細胞障害性T細胞を投与しても、「Cold Tumor(冷たい腫瘍)」の状態では、これらの細胞が「癌組織」の前を素通り(すどうり)すると報告されるぐらい、免疫抑制状態になることもあるとされています。

この状態は、免疫抑制性の「腫瘍微小環境(TME)」と呼ばれます。


3)代謝のリプログラミング

 「癌関連線維芽細胞(CAF)」と癌細胞の間では、特殊な栄養のやり取りが行われています。

「癌関連線維芽細胞(CAF)」は自らの代謝を変え、乳酸やピルビン酸などのエネルギー源を癌細胞に供給します。これにより、酸素が少ない過酷な環境下でも「癌細胞」が生きていけるようサポートをするとされています。

上記の「Cold Tumor(冷たい腫瘍)」を 「癌関連線維芽細胞(CAF)」が覆い尽く(おおいつく)し,癌組織内にも混在しているわけですが、「腫瘍溶解ウイルス(OV)」の投与しますと・・・癌細胞を壊すだけでなく、 「癌関連線維芽細胞(CAF)」にも影響を与えることが報告されています。

上記の状態に対して、「腫瘍溶解ウイルス(OV)」は、癌細胞を溶解するだけでなく、「腫瘍微小環境(TME)」の主要構成要素である「癌関連線維芽細胞(CAF)」なども標的になり得ることが、近年明確になってきています。

「癌関連線維芽細胞(CAF)」は、癌の増殖・浸潤・免疫抑制に深く関与するため、「腫瘍溶解ウイルス(OV)」による「癌関連線維芽細胞(CAF)」は治療成績向上の重要な戦略と考えられています。

 

つまり、「腫瘍溶解ウイルス(OV)療法」 は、免疫抑制性の「腫瘍微小環境(TME)」に対しても、以下のような作用を示すことになります。

 

  (1) 免疫抑制性「腫瘍微小環境(TME)」の解除
    

 炎症性サイトカイン・I型IFN誘導により、抑制的な「腫瘍微小環境(TME)」が免疫活性化型へ変化
  

(2)癌組織内のマクロファージが、活性型のM1型になり、「細胞障害性T細胞(CTL,CD8+T細胞)」が浸潤するようになる。
 

このような状態を「Hot Tumor(熱い腫瘍)」と呼び、腫瘍内部に免疫細胞、特にT細胞が豊富に存在し、活発な免疫応答が起こっている腫瘍です。


「腫瘍溶解ウイルス(OV)が、癌細胞に感染すると、癌に対する抗がん剤などの「薬剤抵抗性」を改善する可能性があることが報告されています。

「腫瘍溶解ウイルス(OV)療法」は、抗がん剤治療においても、当院のように抗がん剤治療+NK細胞+「細胞障害性T細胞(CTL,CD8+T細胞)」の混合療法でも期待が持てる可能性がありますね。

 

今回も最後までお付き合いいただきまして

誠にありがとうございましたお願い

 

参考)

1)Front Oncol. 2017 Sep 8:7:195. 

Oncolytic Viruses-Interaction of Virus and Tumor Cells in the Battle to Eliminate Cancer

Anwen Howellsら

 

2)Front Immunol. 2024 Oct 4:15:1473288. 

Oncolytic virotherapy against lung cancer: key receptors and signaling pathways of viral entry 

Wenxun Dongら

 

3)J Intern Med. 2025 Aug;298(2):78-96. 

The TP53 tumor suppressor gene: From molecular biology to clinical investigations 

Panagiotis Baliakasら

 

4)Cancer Cell Int. 2021 Dec 24;21(1):703. 

p53 signaling in cancer progression and therapy 

Hany E Mareiら

 

5)Nat Biotechnol . 2012 Jul 10;30(7):658-70.
 Oncolytic virotherapy
Stephen J Russellら

 

6)Int J Mol Sci. 2025 Oct 7;26(19):9770.
Mechanisms of Oncolytic Virus-Induced Multi-Modal Cell Death and Therapeutic Prospects
Jinzhou Xuら

 

7)Trends Cancer . 2023 Feb;9(2):122-139.
The emerging field of oncolytic virus-based cancer immunotherapy
Rui Maら

 

 

 

(ホテルニューオータ二東京:春の予感)

(筆者撮影)

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こんにちは、内科医 ひとちゃんですニコニコ

 

3月最初の休日の午後となっています。

これまでよりも陽射し(ひざし)が強くなっているような気も致します。

今朝は、鳥のさえずりで目を覚ました朝でした。

 

『ウォールデン 森の生活』の著者で知られるアメリカの作家・思想家であったHenry David Thoreau(ヘンリー・デイヴィッド・ソロー)との調和、シンプルライフの重要性を強調していたそうです。

 

彼は、次にような名言を残しています。


“The first song of a bird is the herald of spring — a voice that says the world is awakening.”


「鳥の最初の歌は春の先触れ——世界が目覚めていると告げる声だ。」
 

皆さまの体調は、いかがでしょうか?

 

(AIで画像を作成)

 

最近、話題となっている「IPS細胞」について、お話をしてみたいと思います。

 

あらゆる細胞に変化できる「iPS細胞」を使った2つの再生医療製品について、厚生労働省の専門家部会は2月19日、国内での製造販売承認を了承していますね。


2006年に京都大の山中伸弥教授がマウスの細胞を使って「iPS細胞」を作製して20年となります。

 

「iPS細胞」を使った製品として世界で初めて実用化されるわけですね。承認が了承されたのは、大阪大発ベンチャーのクオリプスによる重い心不全治療に使う心筋シート「リハート(商品名)」と、住友ファーマによるパーキンソン病治療のための神経細胞「アムシェプリ(商品名)」。

 

これらの2つの製品は、京都大学iPS細胞研究財団がストックする第三者のiPS細胞を使ってつくられたのだそうです、

 

どちらの製品も再生医療製品をいち早く患者に届けるための、「条件・期限付き承認制度」での承認が了承されたわけですが、これは、

通常の薬の治験よりも少ない数の患者のデータで安全性や効果を判断され、有効性は効果があると推定できればよいのだそうです。

 

本承認されれば、「iPS細胞」を用いての新しい治療が、今後、多くの

患者さんを救えるようになるわけですね。

 

そこで、この「iPS細胞」の分子機構、臨床試験の現状、そして将来の課題について、2025年時点までの最新知見をお話をしてみたいと思います、

 

「iPS細胞(人工多能性幹細胞)」は、どのように作成されたのか?・・・という話題から始めてみたいと思います。

 

山中先生は2007年に、ヒト線維芽細胞にOct3/4、Sox2、Klf4、c-Mycの4因子(山中因子)を導入することにより、「iPS細胞」を樹立することに成功しました(参考1)。

 

この4つの因子は協調して、細胞のエピゲノムを再構成することができるのですね(参考1)。

 

4つの因子は協調して細胞のエピゲノムを再構成する性質を持ちます。

 

「エピゲノム」とは聞き慣れない言葉であるかもしれませんが・・・

DNA配列そのものは変えずに遺伝子の発現を制御する化学的な「修飾(しゅうしょく)」の総称ということになります。

 

具体的には「DNA」のメチル化や「ヒストン」の修飾(アセチル化、メチル化など)、クロマチン構造の変化などが含まれます。

 

つまり、「エピゲノムの再構成(リプログラミング)」とは、こうしたDNAやヒストンの修飾のパターンをリセットしたり、別の状態に書き換えたりすることを指します。

 

(AIを用いて画像を作成)

 

次に4つの因子を詳しく、見てみたいと思います。

 

1)Oct3/4 (POU5F1)

 

多能性維持の中核をなす。Sox2と複合体を形成し、Nanog等の多能性遺伝子ネットワークを活性化する。


2) Sox2

 

パイオニア転写因子として機能し、閉じた状態のクロマチンに結合して構造を開き、他の因子が結合できるようにする。

3)Klf4

細胞増殖に関与するとともに、体細胞特異的な遺伝子の抑制を助ける。

4) c-Myc

クロマチンリモデリングを広範囲で促進し、初期化効率を飛躍的に高めるとされています。

 

この「c-Myc」は、癌増殖遺伝子でして、発癌リスクに関連するため、現在は「L-Myc」への代替や「c-Myc」を除いた手法も一般化しています(参考1)。

「エピゲノムの再構成(リプログラミング)」は、DNAメチル化の解消やヒストン修飾の変化を経て、その後期には、更なる外部からの因子(外因性因子)を必要とせず、多能性ネットワークが持続的に転写を

開始されるわけですね。

 

つまり、ある細胞にOct3/4 (POU5F1), Sox2, Klf4, L-Mycを導入しただけで、DNAなどのメチル化、アセチル化という修飾が変わり、どのような臓器にも分化可能な「多能性幹細胞」に変化するということに

なりますね。

 

なんとも摩訶不思議(まかふしぎ))な話ではありますが、「iPS細胞」を使った2つの再生医療製品による治療成績が良ければ、さらに多くの方の病状を改善していくことが期待できますよね。

 

素敵な1週間をお過ごしくださいキラキラ

 

それでは、またバイバイ

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<ブログ後記>3月3日

今日は、ひな祭りですね。「桃の節句」と呼ばれるのは、旧暦の3月3日が「桃の花」の咲く季節にあたるからと聞いたことがあります。
 

ひな祭りは、平安時代の宮中行事「上巳(じょうし)の節句」に由来するのだとか。長い歴史を感じますね。

今回は「iPS細胞」についてのお話をさせていただきました。

こちらは、これからの歴史を作り出していくものかもしれません。

 

本文内の2社以外にも、iPS細胞から作成した「神経のもととなる細胞」を脊髄(せきずい)損傷患者に移植する再生医療製品の実用化に向け、慶応大発ベンチャー「ケイファーマ」が、2027年中にも臨床試験(治験)を開始すると発表しておりまして。脊髄損傷が対象の「iPS細胞」を使う治験は世界初であるそうです。

当クリニック(JTKクリニック)は、既に(すでに)自分自身の細胞から作成した「iPS細胞」を保存する事業の窓口になっています。


「iPS細胞」の保存といっても、もちろん「JTKクリニック」内で保存するわけでなく、「I Peace, Inc(アイ・ピース、本社:米国カリフォルニア州)」社の管理のもと、米国と日本国内の専用施設内で保存されることになっています。

「IPS細胞」の歴史を見てみると、その発見は、数十年にわたる「発生生物学」の研究積み重ねの上に成立していることが分かります、

その歴史を見てみますと・・・

1962年、クローン研究の第一人者であるジョン・ガードン氏はアフリカツメガエルの腸上皮細胞の核を、核を除去した卵母細胞へ移植し、正常なオタマジャクシが発生することを示しました。

ちょっと難しいのですが・・・これは「体細胞核移植(SCNT)」により、分化した細胞の核であっても全遺伝情報を保持し、初期化(リプログラミング)が可能であることを証明した画期的な実験であったとされています。


ジョン・ガードン氏は、残念ながら92歳でお亡くなりになりましたが、2012年にノーベル生理学・医学賞を山中伸弥教授と共同受賞しています。

繰り返しになるかもしれませんが・・・「リプログラミング(細胞初期化)」とは、簡単に言うと「細胞がそれまでに蓄積してきた『役割の記憶』を消去し、受精卵のような何にでもなれる状態(多能性)に戻すプロセス」のことですね。

専門的な話をするとすれば、その仕組みは「エピジェネティクス」の書き換えということになります。

DNAの塩基配列(A:アデニン, T:チミン, G:グアニン, C:シトシンの並び方)自体に変更を加えることはありません。


変化するのは、その上に付着している「エピジェネティックな標識」ということになります。

 

その標識とは、DNAメチル化や DNAが巻き付いているタンパク質(ヒストン)の状態(アセチル化などのヒストン修飾)を変え、遺伝子の読み取りやすさを調節する・・・ということになるでしょうか。

つまり、ある細胞に「リプログラミング」が起こると、DNAのメチル化、アセチル化などの修飾が、リセット(消去)され、

細胞は「特定の役割(皮膚など)」を忘れてしまい、再びどんな細胞にもなれる「白紙の状態」に戻るということになりますね。

その後、1981年にはマウス「ES細胞」が樹立され、1998年にはThomsonらによって「ヒトES細胞」が樹立されました(参考2)。

「ES細胞」は多能性を持つのですが、受精卵(胚)を破壊して作製するため、倫理的課題が常に伴っているというのですね。その理由は、受精卵(胚)は、子宮に着床すれば、胎児になるからです。

こうした状況の中で、山中伸弥教授らは「ES細胞」に特異的な「転写因子」に着目し、24種類の候補遺伝子から、1つずつ因子を除外していく「ドロップアウト法」によって、最終的に本文内で
ご紹介をした「Oct3/4」,「Sox2」,「Klf4」,「c-Myc」の4因子を特定したわけです。

 

サラっと書いてしまいましたが、とても時間のかかる、血のにじむような実験の連続であったものと想像します。


これらの4因子は、「転写因子」でして、現在「山中因子」と呼ばれています(参考1)

さらに2007年には、山中伸弥教授らは、Oct3/4, Sox2, Klf4, c‑Myc の4転写因子をレトロウイルス導入することで、まずマウス線維芽細胞からiPS細胞を樹立し、その後、c-Mycを用いない改良プロトコールを開発しました。

この改良法を用いて、成人皮膚線維芽細胞から「ヒトiPS細胞」の樹立にも成功し、Myc除去により腫瘍形成リスクが低減することを示しています(参考3)。

その後、「山中因子」のうち、Oct4 と Sox2 の2因子だけで「iPS細胞」へと再プログラムできることが報告されたり(参考4)、成人の「線維芽細胞」から作製した「ヒトiPS細胞」をバルプロ酸という薬剤の投与下に、Oct4とSox2の2つの因子だけを用いて、ヒト線維芽細胞を安全かつ効果的に作成したりすることが可能であることも報告されています。バルプロ酸(バルプロ酸ナトリウム)は、てんかん薬などに用いられる薬剤となります。


線維芽細胞→iPS→線維芽細胞の往復で機能的線維芽細胞が得られるこというわけですね(参考5).

「iPS細胞」が、今後、どのような歴史を作っていくのか?
とても楽しみですね。またの機会にお話をしてみたいと思います。

 

今回も最後までお付き合いいただきまして

誠にありがとうございましたお願い

 

参考)

1)Cell. 2007 Nov 30;131(5):861-72. 

Induction of pluripotent stem cells from adult human fibroblasts by defined factors 

Kazutoshi Takahashiら・・Shinya Yamanaka

 

2)Science. 1998 Nov 6;282(5391):1145-7.
 Embryonic stem cell lines derived from human blastocysts
J A Thomsonら

 

3)Nat Biotechnol. 2008 Jan;26(1):101-6.
Generation of induced pluripotent stem cells without Myc from mouse and human fibroblasts
Masato Nakagawaら・・Shinya Yamanaka

 

4)Nat Biotechnol . 2008 Nov;26(11):1269-75.
Induction of pluripotent stem cells from primary human fibroblasts with only Oct4 and Sox2
Danwei Huangfuら

5)PLoS One. 2011 Feb 28;6(2):e17128.

Epigenetic and phenotypic profile of fibroblasts derived from induced pluripotent stem cells
Kyle J Hewittら

 

(千鳥ヶ淵の桜: これから訪れる春の風景)

(筆者撮影)

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自分の皮下脂肪から組織を採取し、「間葉系幹細胞」を培養して、自分自身の組織内に投与する「幹細胞治療」を開始しました。

 

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こんにちは、内科医 ひとちゃんですニコニコ

 

朝から気持ちの良い青空が広がっていますね。

暦を見ますと、その七十二候は「土脉潤起(つちのしょううるおいおこる)」となっています。

 

「土脉潤起(つちのしょううるおいおこる)」の意味は、温かい春の雨が凍てついた大地を潤し、土が柔らかく蘇る時期意味します。冷たい雪から雨に変わり、地中の草木が芽吹く準備を始めるというものだそうです。

 

フランスの詩人であり、作家でもあった「アナトール・フランス(Anatole France)」は、次のような言葉を残しています。


All changes, even the most longed for, have their melancholy; for what we leave behind us is a part of ourselves; we must die to one life before we can enter another.

 

「あらゆる変化には、たとえ最も待ち望んだものであっても、哀愁が伴う。なぜなら、私たちが置き去りにするものは、自分自身の一部だからだ。新たな人生へ踏み出す前に、まず一つの人生に別れを告げねばならないのだ。」

 

なるほど・・・そのとおりであると私は思います。

すべてを携えながら、長い道のりを歩いていくことはできませんからね。
 

皆さまの体調は、いかがでしょうか?

 

(AIで画像を作成)

 

前回に続き、「痛みの増幅(ぞうふく)」のメカニズムの後半について、お話をしてみたいと思います。

 

前回のブログでは、風が吹くなどの些細な刺激で、ヒリヒリ・ピリピリとした激しい痛みを感じるという症状が、この「アロディニア(異痛症)」と呼ばれる状態について、お話をさせていただきました。

 

このような現象がなぜ起こるのか?・・・は、これまで謎(なぞ)であったわけですが、最近の世界各国の研究者の報告から、新しいこと

が分かってきたのですね。

 

その内容は、「末梢神経系」と「中枢神経系」における免疫反応とに分かれ、「アストロサイト」と「ミクログリア細胞」の異常な活性化が深く関わっていることが分かってきたというのです。

 

この2種類の細胞は単独で機能するだけでなく、互いに絶えず信号を送り合い、相手の活性化状態を制御するという密接な「クロストーク(相互対話)」を行っていることが知られています。

 

この「クロストーク(相互対話)」は、健康な脳では恒常性の維持に欠かせない一方、特定の疾患においては、「炎症」を増幅させる負の連鎖(れんさ)をもたらすことが知られています。

 

では、この2つの細胞「アストロサイト」と「ミクログリア細胞」とは、どのような細胞なのでしょうか?

 

A)ミクログリア

 

「ミクログリア」は、脳全体に分布する常在性免疫細胞で、脳内の変化を常時監視しています。中枢神経系(CNS)実質細胞の約5–12%を占める単核貪食細胞で、マクロファージのような働きをします(参考1)

 

病原体、細胞の破片、異常なタンパク質の蓄積などを感知すると速やかに活性化し、炎症性サイトカインの産生や食作用(異物の取り込み・排除)を通じて脳を守る「第一応答者」として機能します

(参考2)。

 

 

B)アストロサイト

 

「アストロサイト」は、シナプス・血管・免疫・代謝を結びつけて脳の環境を精密に制御するとされていますが、損傷後に「反応性アストロサイト」となり、増殖・形態変化して瘢痕形成と神経修復・再編成に関与するとされています。

 

「アストロサイト」は、損傷や炎症などで環境が変化すると「反応性アストロサイト(reactive astrocytes/astrogliosis)」へと変化し、形態・遺伝子発現・機能が大きく変わることが知られています。

 

(AIを用いて画像を作成)

 

では、これらの「アストロサイト」と「ミクログリア」のクロストークとは、どのようなものなのでしょうか?

 

「慢性神経障害」などの多くの病態では・・・「ミクログリア」が先に活性化し、IL-1α、TNF-α、C1qのサイトカインなどが放出されます。

そうしますと「A1型アストロサイト」を誘導し炎症を増幅するというわけです。

 

補足になりますが、「アストロサイト」が活性化した時に2つの機能表現型があります。先にお話をした「A1型アストロサイト」は、毒性型と呼ばれているものでして、炎症性サイトカイン(ITNF-α,など)により誘導されるものです。

 

この「A1型アストロサイト(毒性型)」は神経変性疾患(アルツハイマー病など)の病態を悪化させることが知られています。

 

それに対して、「A2型アストロサイト」というものがあり、虚血や脳損傷の急性期に反応して発現するもので(保護型)と呼ばれています。

この「A2型アストロサイト(保護型)」の機能としては、「神経栄養因子(TGF-βなど)」を放出し、神経の修復や保護、血液脳関門の強化に寄与するというわけです。

 

整理しますと・・・「ミクログリア」が活性化すると、TNF-α、IL-1α, C1qを放出し、静止期の「A2型アストロサイト」を神経傷害性の「A1型アストロサイト」へと誘導するのですね。

 

一方、反応性の活性化された「A1型アストロサイト」から放出される

小分子タンパク質(ケモカイン)cxcl10やCCL2は、「ミクログリア」の遊走およびさらなる活性化を促進するという悪循環を形成し、改善が難しくなってしまうというわけですね。

 

もちろん、このモデルは多くの神経疾患でのモデルであって、「繊維筋痛症」の疼痛の増悪にピタリと当てはまるものではありません

(参考3)。

 

現状では、「線維筋痛症」のある方の脳や脊髄で、「A1型アストロサイト」のマーカー(C3など)を直接評価した報告はなく、「A1アストロサイト」の存在は推測の域を出ていません。

 

しかしながら、これまでに「PET-CT」で、繊維筋痛症の方の脳組織において、「ミクログリア」優位の活性化があることは確認され、報告されています(参考4)

 

他の慢性疼痛・神経変性で確立した「ミクログリア活性化」→

「A1型アストロサイト」の誘導→「神経毒性・シナプス異常」という

モデルを併せて考えますと・・・

必ず「ミクログリア」の活性化が、最初の段階であるという大原則がありますので、「線維筋痛症」でも「ミクログリア」の活性化から

「A1型アストロサイト」がある可能性は高いとされております。

 

「アストロサイト」と「ミクログリア」のクロストークによる中枢性

感作維持のメカニズムが、十分にあり得るストーリーであると考えられているそうです。

 

ならば・・・「新しい治療法」が考えられるかも・・・となるわけで

すが・・・続きは、後日の話題にしたいと思います。

 

素敵な1週間をお過ごしくださいキラキラ

 

それでは、またバイバイ

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<ブログ後記>2月24日

 

今回は、「アストロサイト」と「ミクログリア」がともに活性化して、「痛み」の増幅が生じる可能性について、お話をさせていただきなした。

この問題が解決できれば、「線維筋痛症」が完全に治りますということではないかもしれません、

なぜなら、「線維筋痛症」には、2つの側面があるからということになります。ひとつの側面は「疼痛」であり、風が吹いても痛いなどといった外部の刺激の異常な増幅というこよになります。

 

もうひとつは「うつ傾向」になります。もちろん、いつも「痛み」などの不調がありますので、それは無理もない・・・ということになるわけですが・・・ね。

 

「線維筋痛症」は、脳神経関連の疾患なのではないか?・・・という説があるのも理解できなくもありませんし、そうなのかもしれません。

しかしながら、近年、適応免疫系、特に「T細胞」が慢性痛に関わることが注目されています。

 

神経損傷後、脊髄後角や後根神経節にT細胞が入り込むことが観察されます。「CD4陽性T細胞(ヘルパーT細胞)とCD8陽性T細胞(細胞障害性T細胞)の両方が、痛覚過敏の維持に関与していることが動物実験で示されています(参考5)。

 

「T細胞」が、IFN-γ(インターフェロン ガンマ)などのサイトカインを産生し、これが「ミクログリア」や「アストロサイト」の活性化を促すというのですね。

 

また、「T細胞」由来の「サイトカイン」は直接的に神経細胞の興奮性を調節することも報告されています。このように、自然免疫と適応免疫の両方が協力して、痛みを慢性化させる複雑なネットワークを形成します。

 

もちろん、さらなる検証は必要であるわけですが・•・自分自身の

T細胞が反応するとすれば、「自己免疫」のメカニズムが働いているということになりますよね。

 

さらに興味深いことには、「痛み」の病態には性差が存在することが明らかになっています。特に、「ミクログリア」と「アストロサイト」の関与には性差があり、雄のマウスでは「ミクログリア」が、雌のマウスでは「T細胞」と「アストロサイト」がより重要な役割を果たすことが報告されています(参考6)。

 

では、どのような薬剤が「ミクログリア」と「アストロサイト」の

活性化による「痛み」の増幅を改善させる可能性があると報告されているのでしょうか?

以下に薬剤と、その作用機序をご紹介しておきたいと思います。

 


プレガバリン(Pregabalin)神経の興奮を抑える


• 作用点: 神経細胞(シナプス前終末)にある「電位依存性カルシウムチャネル(α2δサブユニット)」に結合します。


• 効果: カルシウムイオン(Ca²⁺)が神経細胞内に入るのをブロックし、興奮の伝達物質である「グルタミン酸」の過剰な放出を抑制します。これにより、「痛み」の信号が次の神経に伝わりにくくなります。


デュロキセチン(Duloxetine)痛みを抑えるブレーキを強める


• 作用点: 「セロトニン」や「ノルアドレナリン」といった神経伝達物質を回収する「再取り込みトランスポーター(SNRI)」の働きを阻害します。


• 効果: シナプス間隙(神経と神経の隙間)に、痛みを抑える働きを持つセロトニンやノルアドレナリンが長く留まるようになります。これにより、体が本来持っている「痛みを抑えるシステム(下行性疼痛抑制系)」の働きが強まります。


ミノサイクリン(Minocycline):免疫細胞の暴走を止める


• 作用点: 活性化した「ミクログリア」に直接作用します。
• 効果: ミクログリアの活動を抑制し、痛みを増強する「炎症性サイトカイン」の放出を抑えます。

 

これにより、神経の興奮バランスが崩れる(抑制の脱抑制)のを防ぎ、痛みの慢性化を根本から食い止めようとします。


参考論文は省略しますが・・・このように、それぞれの薬剤は異なるターゲットに作用し、多角的に痛みの増幅システムを鎮静化させようと働くと考えられています。

 

道半ばではありますが、現時点での海外の論文で報告されている「痛み」の増幅のメカニズムをお話させていただきました。

 

今回も最後までお付き合いいただきまして

誠にありがとうございましたお願い

 

参考)

1)Front Immunol. 2022 Oct 19:13:997786. 

Microglia morphophysiological diversity and its implications for the CNS   Andres Vidal-Itariagoら

Vidal-Itriago Aら

 

2)Annu Rev Immunol. 2014:32:367-402.

Microglia development and function 

Debasis Nayakら

 

3)Acta Neuropathol Commn. 2023 Mar 13;11(1):42. 

Roles of neuropathology-associated reactive astrocytes: a systematic review   

Jill M Lawrenceら

 

4)Brain Behav Immun. 2019 Jan:75:72-83. 

Brain glial activation in fibromyalgia - A multi-site positron emission tomography investigation  

Daniel S Albrechtら

 

5)J Neurosci. 2009 Nov 18;29(46):14415-22. 

T-cell infiltration and signaling in the adult dorsal spinal cord is a major contributor to neuropathic pain-like hypersensitivity   

Michael Costigennら

 

6)Nat Neurosci. 2015 Aug;18(8):1081-3. 

Different immune cells mediate mechanical pain hypersensitivity in male and female mice 

Robert E Sorgeら

 

(麻布台ヒルズ: 河津桜から始まる春の風景)

(筆者撮影)

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