こんにちは、内科医 ひとちゃんです
6月最後の休日の午後となっています。そして、明日からは7月になりますね。
まさに「光陰矢の如し(こういんやのごとし)」という感じでしょうか。すべての出来事(できごと)がすぐに過去のことになってしまうことに気がつきます。。
英語では、’’Time flies like an arrow.”
「時は矢のように飛ぶ」と言われるようですね。
ちなみに弓矢(ゆみや)を使うスポーツ競技に「弓道(きゅうどう)がありますが・・・
弓道の矢の速度は、装備や弓の強さにもよりますが、時速200Kmとされていますので・・・
いかに速いかが、お分かりいただけると思います。
皆さまの体調は、いかがでしょうか?
(筆者が人工知能 A Iで作成)
ヘリコとは「らせん」とか「旋回」という意味となります。ヘリコプターのヘリコと同じです。ひげの部分も回転させて移動します。
バクターとはバクテリア(細菌)。ピロリとは胃の出口(幽門)をさす「ピロルス」からきています。
名前が示すように、この菌は胃の幽門部から初めて見つかったのですね。時は、ロイヤルパース病院の病理医だったウォーレンは1979年、胃炎患者の胃粘膜に小さな曲がった未知の細菌(ピロリ菌)を発見し、その後消化器内科研修医マーシャルとの共同研究により、1982年にはピロリ菌の分離培養に成功し、1983年に報告しています。
マーシャル自身がピロリ菌を飲む実験により急性胃炎が起こることを確かめたエピソードは有名な話ですので、ご存知の方もいっらっしゃると思います。
西オーストラリア大学の名誉教授になったロビン・ウォーレン氏と同じように同大学教授となったバリー・マーシャル氏は、「ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)」を発見した功績から、 2005年のノーベル医学生理学賞を受賞しています。
(ヘリコバクター ピロリ菌;写真はお借りしました)
この「ヘリコバクター・ピロリ菌」が、なぜ重要なのか??・・・と言いますと・・「ヘリコバクター・ピロリ菌」の感染は、「胃がん」の発症リスクを高める主要な要因の一つと考えられているからというのが、そのとなります。
国際がん研究機関(IARC)と世界保健機関(WHO)は、「ヘリコバクター・ピロリ菌」をグループ1の発がん性物質に分類しており、ヒトにおける発がん性が確実であると認識されているのですね。
疫学研究では、「ヘリコバクター・ピロリ菌」感染者は、非感染者と比較して胃がんリスクが約2~6倍高くなると報告されています。
では、どのような機序により、「ヘリコバクター・ピロリ菌」は、胃癌病変を発生させていくのでしょうか?
それは、次のようなメカニズムが感が考えられています。
「ヘリコバクター・ピロリ菌」は、粘膜に慢性的な炎症を引き起こします。
この慢性炎症は、胃粘膜の萎縮、腸上皮化生、異形成といった段階を経て、最終的に「胃癌」へと進行すると考えられています。
特に、H. pyloriの中には、細胞毒素関連遺伝子A「CagA(キャグエー)」を持つ菌株が存在し、この菌株はより強い炎症反応を引き起こすことが知られている。「CagA陽性」株は、この菌株はより強い炎症反応を引き起こすことが知られています。
「CagA陽性株」は、胃がんリスクをさらに高めるとされているリスクをさらに高めると考えられているのですね。
では、菌に感染しているか?・・・は、どのような検査を施行すればよいのでしょうか?
よく行われる検査は、以下のようなものになります。
1)血液検査:「ヘリコバクター・ピロリ菌」に対する抗体の有無を調べる。
2)呼気テスト:尿素呼気試験で、「ヘリコバクター・ピロリ菌」の有無を判定する。
3)便検査:便中の「ヘリコバクター・ピロリ菌」の有無を検出する。
4)内視鏡検査:胃粘膜の生検を行い、病理組織学的に「ヘリコバクター・ピロリ菌」を確認する。
しかしながら、日本へリコバクター学会は、上記の1)の抗体検査について、「血清抗体価は、現在のピロリ菌感染状態を反映するものではない」としており、「除菌治療前には、血清抗体法だけではなく現感染診断に適した検査を実施し、陽性であることを確認する」ことが必要であるとしています。
つまり、H. pyloriに対する抗体が陽性だったからといって除菌治療を行うことは推奨されない・・・という見解を出していますので、実際には、上記2)〜4)の検査が必要になってくるということになりますね。
JTKクリニックでは、主に2)の「呼気テスト」を施行しています。
さらに胃癌ばかりでなく、「ヘリコバクター・ピロリ菌」の感染が原因になることがあると分かっている疾患には、次のようなものがあります。
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慢性胃炎
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胃潰瘍、十二指腸潰瘍
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胃ポリープ
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胃MALT(マルト)リンパ腫
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特発性血小板減少性紫斑病(ITP)
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機能性ディスぺジア
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鉄欠乏性貧血
<ブログ後記>7月2日
晴れ間が見えるのは良いのですが、なんとも蒸し暑い1日となりましたね。
今回は、主に胃癌の原因となる「ヘリコバクターピロリ菌(以下はピロリ菌)」に関連するお話をさせていただきました。
「ピロリ菌」は、グラム陰性微好気性細菌といったものでありまして、正真正銘(しょうしんしょうめい)の「細菌」ということになります。
細菌が胃酸の中で育つのか?・・・と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、「ピロリ菌」は、胃のなかで生存するために
尿素をアンモニアに変換する酵素である「ウレアーゼ」を産生し、胃の過酷な酸性環境で生き延びていくことが可能になっているのですね。
さらに「ピロリ菌」は、免疫応答を回避して排除を防ぐためのさまざまなメカニズムを進化させています。
「細菌」の感染で、癌病変が生じる・・・と言いますと、そんなことがあり得るのかと思われるかもしれませんが、「細菌感染」もDNAに障害を起こす外因的な要因のひとつと考えられています。
ほとんどの「発癌物質」は、DNA損傷や突然変異を誘発することによって作用するものであることが知られているわけですが・・・
「ピロリ菌」感染は、一般的な「発癌物質」と同様に・・・DNA損傷変化を及ぼすとされています。
では、「ピロリ菌」感染は、どのようなメカニズムで、ヒトのDNAにどのような変化を及ぼす(およぼす)のでしょうか?
そのメカニズム的は、次のようなものであると考えられています。
「ピロリ菌」が感染しますと・・・局所的な炎症を引き起こし、ヒト細胞において「酸化的損傷」や「二本鎖切断(DSB)」などのDNA損傷が引きおこされると考えられています。
「酸化的損傷」とは、「活性酸素」の関与する組織の傷害ですね。
さらに、各種の遺伝子発現に関与するプロモーターという部分のメチル化やヒストン修飾の阻害など(エピジェネティクス)、さまざまなメカニズムを通じて、DNA修復機構の連携が損なわれ、この修復機構にも障害などを起こしたりして、不正確なDNA修復を生じさせます。
また、「ピロリ菌」は胃の表面細胞に感染するだけでなく、胃腺の奥深くまで侵入し、幹細胞領域にまで達することが知られています。
これにより、幹細胞を活性化し、幹細胞を異常に増加させたりもします。
上記にあげた、さまざまな要因により、「ピロリ菌」感染後には、DNA修復経路の障害やゲノムの不安定性が増したり、染色体異常が容易に生じるなどの異常が蓄積して、最終的には「胃癌」の発生につながっていくというわけです。
「ピロリ菌」が誘発する胃がんにより、世界の中では2018年には約783,000人が死亡していると報告されています。
このような状況から、国際がん研究機関(IARC)は、ピロリ菌をクラスI 「発がん物質」に分類しているというわけです。
(図はお借りしました)
上の図に示すように・・・日本国内では「ピロリ菌」は幼年期に衛生環境が良くなかった年代に感染している人が多く、環境の整った現代では、感染している人の数が低下しています。
しかしながら、まだ一定の数の「ピロリ菌」の感染者もいることが予想されているために・・・健康診断などで「ピロリ菌」感染の有無をチェックする検査が含まれているのも、このためということになりますね。
今回も最後までお付き合いいただきまして
誠にありがとうございました
参考)
1.Genome Instability & Disease (2020) 1:129–142
REVIEW ARTICLE
Helicobacter pylori infection induced genome instability and gastric cancer
Xiangyu Luiら など
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理事長、院長
小笠原 均 (Hitoshi Ogasawara)
医学博士, 内科医
(総合内科、リウマチ専門医)
新潟大医学部卒
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