~From.裕~ -78ページ目

『空の色は…』

偶然を装ってかどうかは解らないが茜は藤本と何度となく会った。
たわいも無い会話とお茶。
気の合う楽しい時間を過ごし、何となく季節が過ぎる中、藤本に惹かれていたのも事実だった。そんな人だったからこそ本当の自分に嘘を付いてはいけない。でも断る理由にも気持ちの嘘が付けないと思い、昂太を彼氏に見立てた。
『慣れたもんだよな…中学から何回彼氏になった?時にはヒーローのようにピンチに駆け付け悪を退治ってなッ!昂太君』
回して来た腕を欝陶しい顔で受け
『面白がって後押ししてたのは誰だよ。調子乗せるからアイツまでその気になって…』
『大切な姉ちゃんを性も無い男や質の悪い男から守れたんだからいいじゃねぇか。他にも色々騒ぎ起こしてくれましたよね君の姉上は』
毎回3歳下のガキ扱いの自分が何処まで信じて貰えるか、何処まで太刀打ち出来るか、そして何故か強気な茜に半端なく緊張していた。
あの強気は何処から湧き出るのか本気で解っていないのか、それとも照れ隠しのポーカーフェイスか
『藤本さんにどんな風に話したんですか?弟だってばれなかったんですよね。まさかやり合ったとか』
『そう!一人の女を巡り男二人体を張り拳を交わし、やがて切れた唇に当て紅く染めた拳が交差、まるでジョーと力石のように』
『あの藤本さんが~』
蒼井までが乗り出したのが可笑しくて必死で笑いを抑える晃のイタズラ。
二人は良いカモなのだ。
『ばぁか…そんな訳ねぇだろ。あの人は至って大人の男だったよ…そんな顔しても話さねぇよ!言っとくがコイツの話しを鵜呑みにして信じるなよ。からかわれてるのいい加減学習しろ』
どうしても晃に最後は信じさせられてしまう事を反省するが、仔犬と同じで相手されると不信感忘れ乗ってしまう可愛い後輩なのだ。
確かに藤本と会った時は一番緊張、いや恐怖心があった。
今までの男とは違う強い覚悟のような物を感じ、茜もいつでもより想いが揺れ不安を抱えているような気がしていた。
藤本に本当は惹かれている…
言葉にしない茜の様子がいつもにない不安を昂太に抱かせ、そんな想いが一瞬、本気で向き合わせたのかも知れない。
気付けば24時を回り店内は他の客は居なく静かになっていた。

『空の色は…』

 遅い夕食を用意してくれているマスターの手際をカウンターから興味津々に見つめる子供達に、満更でもない顔で不慣れながら相手をするマスター。
それを見ている恵子もまた嬉しそうだった。
脅かす様な言い方をされて来たが、過なり大袈裟に話をした晃に「この野郎」っと思いながらも。
『藤本さんだって自分から話すような事はしないよな…安心したろ?』
姉が居る事も藤本と入社以前の知り合いだった事も、単に話す機会が無かっただけハッキリ言って面倒臭いのだ。
それでも、藤本との出会い話しは、しなくてはいけない雰囲気だと聞かされた。
今から8年前の事になる。
茜は大学でも本人の意思に反して何かと目立って居た。容姿もさることながら、真っ直ぐでサッパリした性格にもあり、そのお陰で昂太は何かと巻き込まれ後始末が大変だった。
よくある『ミス〇〇大学』の推薦を断り難くなった3年の学園祭。エントリーしない代わりに、入場者の少ない演劇サークルの公演に2日間3公演に出演する事。
『まあ。あの茜さんが客寄せパンダみたいな事解っててOK出す訳ないもんな…お蔭様で俺まで飛ばっちり喰らったけど』
『ガキの頃からアイツの尻拭いは色々させられたけど…でもあの時は難だかんだ言ってお前楽しんでたろうが』
『まあな…ちょっと癖に成りそうだったかも』
昂太と晃だけが懐かしそうに話すのを今一つ盛り上がれずいる蒼井達の様子に気付いた。
『茜が出した条件は、俺が一緒だと言う事だ。大学も違う未経験者を引っ張り出すのを認めた方も方だけどな』
『一人恥をかくのが嫌だとか言って、俺を巻き込んだんだよな昂太君!…お前はその場限りだから良いけど、同じ大学の俺は一時大変だったんだからな。茜さんの事で色々追われて』
二人が演じた舞台観たかったなと残念そうな蒼井達に、思ってねぇだろと、ヘットロック。苦しそうな声で藤本の直感の男って
『知るか!藤本さんが誰を観て思ったかなんて解る、か、よッ!』
『はぁ~…成田さん手加減知って下さいよ』
『悪い!ちょっと力入った。溝口は嬉しそうだな。Mか?』
『アイツは松浦さんからならドMになって喜びますからね』
ちょっと賑やかな気配をカウンターから気にしながらマスターの夕食を楽しむ青と空。
マスターも恵子も珍しい可愛いお客に目尻が下がり付き切り。そんな楽しそうな姿を嬉しそいに見守る他の客達は諦め自ら動き出していた。
『藤本さんが気にしていたのは俺って事もあるか』
それは無いとあからさまに解る顔をする二人
『あの時居た人で、役者やってる人もいるしな。でも、多分…お前のこと、いや。…ただ者じゃ無い人だよな』
『えッ?…そうですよね。本人じゃ無いと…あれ?ってことは成田さんも知り合いだったって事ですよね』
『俺があの舞台に居たなんて知らないだろ。直接会ったわけじゃないし、昂太は彼氏として会ったけどな』

『空の色は幸せの色』

晃が紹介しようとすると
『松浦青(せい)。こっちは空。双子の6歳です。いつも昂太がお世話になってます。茜、じゃなくて、ママあっ、母が海外転勤になったので昂太と暮らす事になりました。よろしくお願いします』
しっかりとした挨拶の後きちんと頭を下げる二人。
『え~。あの綺麗な人は人妻?しかも子供~』
『だから!黙れって!』
思わず立ち上がり皆で頭を下げ溝口の頭を思い切り下げた。
感心のため息の言葉が飛び交う中、頭を抑えられたままの顔を覗き込み
『あの~。子供はいますが、夫はいませんから』
『えっ?』
しっかり淡々と話す青に言葉が出なかった。
そんな状況を無視するように昂太の事を聞くと
『お姉さんに捕まってる!』
怒り口調の空が話し出すとフォローするように
『知り合いの人みたいだったな。絡まれそうだったから空と先に来たんだ。そのうち来るよ』
『そ、そうか』
しっかりした6歳だと改めて感心。お前より賢いと、蒼井に肩を叩かれ反抗せず納得し座る溝口に皆が笑った時
『いらっしゃい…待ってたわよ』
やけに早く逃げられたなと、ちょっと嫌味な笑顔で出迎えられた。
二人が昂太に向かってピースで笑う姿を見て。企みやがったな!と飽きれ顔の晃だった。
『忘れてたのは悪かった。けど、こっちの都合も聞かず直ぐ来いとか言うから。置いて来る訳にもいかねぇし…どうよバパって呼ばれて』
『ば~か。覚えがないのに焦るかよ…まあ、かなり驚かせて貰いましたよ』
『きゃッ』
捕まりくすぐられる空が、昂太に助けを求めしがみ付き隠れた。
改めてて二人を前に出す昂太に、挨拶は青にしっかりして貰ったからいいとマスターに言われ、何を言ったのか覗くと皆から褒め言葉が出て満更でもない青だった。
『そう言う訳で。長くて1年、コイツ等も宜しくお願いします。』
子供達の頭を両手で押しながら頭を下げる姿に6歳の子供以下だとからかわれた。
付け加える事として、4月生まれの青と空は6歳だがまだ幼稚園児。そして茜は未婚の母だと伝えた。
『えッ?未婚~』
『ハモるなよ…』
大概の人の反応は似たような状態になる。慣れたもので青と空はタイミング良く耳を塞ぎ作り笑いをした。