さて、いよいよシリーズ最終回です。HIVは何故手強いのか、締めくくりはHIVとヘルパーT細胞の
戦いについてお話しましょう。
一応、前回のシリーズその4までを読んでいるのを前提にお話しますので、もしもまだ読んで
いない方がいれば、先にシリーズその1からその4までを読んで下さい。
さて、では実際にHIVが体内に入ってきたら、先に説明した体内防衛軍とどんな戦争になるのか
を見てみましょう。
まず、HIVに限らずウィルスはみな自己増殖機能がありません。感染して取り付いた細胞をうまく
利用してどんどん自分のコピーを作って増えていくのです。でも、ウィルスはどんな細胞にも感染
できるわけではありません。
実は、ウィルスの種類はいろいろとありますが、それぞれのウィルスが感染できる細胞は限定され
ていて、それ以外の細胞には感染出来ないのです。ウィルスが細胞内に入れない、と言ったほうが
いいかも知れません。
ウィルスが感染しようとする細胞の中に入るには、細胞の表面にそのウィルス用の目印、足がかり
となる構造物が必ず必要なのです。例えて言うなら、ウィルスはカギを1個持っています。
そして、細胞にはカギ穴が1個あります。このウィルスのカギで開いてしまうカギ穴を持った細胞に
感染することが出来るのです。カギ穴が合わなければ、細胞内に侵入することは出来ません。
HIVの場合には、免疫部隊の司令塔であるヘルパーT細胞に取り付くのです。ヘルパーT細胞には、
CD4と呼ばれる目印が表面にあって、このCD4 めがけてHIVが襲ってくるのです。HIVのカギは、
CD4と言うカギ穴とピッタリ、合ってしまうのです。そして、ヘルパーT細胞の中にまんまと入りこんだ
HIVは、自分の遺伝物質をヘルパーT細胞の中に挿入します。
HIVはRANウィルスと呼ばれ、遺伝子はRNAしか持っていません。生物はDNDとRNAの2種類の
遺伝子を持っているのですが、ウィルスには RNAかDNAか、どちらか1種類しかないのです。
そしてHIVはRNAだけを持っています。このRNAをヘルパーT細胞の中へ送り込むのです。
そして、HIVのRNA情報をヘルパーT細胞のDNAへコピーします。DNAを持たないHIVはこうして
ヘルパーT細胞のDNAを利用して自分の複製を作ろうとするのです。
HIVの情報を書き込まれてしまったヘルパーT細胞は、どんどんHIVのパーツを作り始めます。
あたかもHIVの遺伝子と言う設計図を与えられた部品製造工場みたいになってしまうのです。
そして、次々と出来上がってくるパーツは細胞内で組み立てられ、新たなHIVが複製されていき
ます。ひとつの細胞から1000個以上のHIVが複製されるのです。そして、それらの複製された
HIVは次の感染先に取り付きます。
従って、この増殖スピードはそら恐ろしいものがあります。感染初期に1日で10億から100億個も
HIVが増えるのはこういった増え方をするからです。
そして、HIVの複製を作らされてしまったヘルパーT細胞は、最後は破壊されてしまいます。
では、司令塔であるヘルパーT細胞のこの悲惨なやられ方を他の免疫部隊は援けに行か
ないのでしょうか。
実は、行きたくても行けないのです。殺し屋部隊のキラーT細胞も、飛び道具が得意のB細胞も、
司令塔であるヘルパーT細胞からの指示が来ないので見殺しにするしかないのです。
こうしてHIVはヘルパーT細胞という司令塔を次々に攻撃し、自分のコピーを作っては増殖しな
がら、侵入した細胞を壊していきます。
しかし、人間の免疫系も、HIVが侵入してから数週間後に抗体を作って対抗します。ヘルパーT
細胞は次々と破壊されるのですが、同時にまた新しいヘルパーT細胞が誕生もします。
こちらも一日に何十億というヘルパーT細胞を作って応戦するのです。
しかし、この戦いはやがてHIVが優勢となり、免疫不全へと進行してしまいます。
5年、10年と長い戦いになることもあるのですが、残念で悲しいことに、最後には必ずHIVが勝って
しまうのです。
HIVとヘルパーT細胞の戦い、お分かり頂けたでしょうか。司令塔を攻撃して前線部隊を使えなく
してしまう・・・
何とも怖い話ではないでしょうか。
HIVは自分の力だけでは増殖することが出来ないため、宿主である人間の細胞を利用して増え
ていきます。
その増える時間を稼ぐため、なかなかエイズを発症させないような気がします。
感染したことに気付かずに、他の誰かにまた感染させてしまう。それがHIVの狙いのような気が
します。こうやって、どんどん自分のコピーを増やし続けていくのです。
HIVが手強く恐ろしいのは、人間の免疫細胞そのものを破壊していくからです。
本来であれば免疫細胞が退治してくれるはずの病原菌が、人間の体内で退治されずに暴れて
様々な病気を発症させます。
これがエイズです。厚生省ではエイズ指標疾患として23種類の病気を指定しています。
HIV患者がこの23種類の病気の、どれか1つでも発症したらエイズ患者と認定されます。
人の体を守っている免疫システム。このシステムが破壊されたら、私達人間は健康に暮らす
ことは不可能なのです。
もっと詳しい情報は⇒HIV(エイズ)検査完全ガイド