サルヒツの温泉めぐり♪【番外編⑥】
出湯温泉 清廣館(三回目)
往訪日:2024年3月15日~3月16日
※温泉データはこちら→出湯温泉「清廣館」
《年ふるごとに味を増す湯小屋》
ひつぞうです。今回向かった宿は出湯温泉の清廣館でした。過去二度投宿しているお気に入りの宿です。二泊目に酒のブラインドテイスティングで惨敗したため、二年間の酒道楽の成果を試しに訪れることにしました。勿論それだけではありません(笑)。以下、滞在記です。
★ ★ ★
最初の往訪は2019年3月初旬。既に5年前になる。五頭連峰登山後の偶然の出逢いだった。古色蒼然たる数寄屋造り。真価は投宿しないと判らないと翌年予約。想像どおり素晴らしかった。そして同じ年の寒の初め。渡り鳥が飛来する季節に再訪した。ちょうど新酒の季節。幻の酒に舌鼓を打った。既に遠い思い出になりかけている。
「そろそろ勉強の成果を試すべきなんじゃね?」
そう?じゃ行ってみるかな。
何のことはない。温泉に行きたいのおサルの策にまんまと嵌まっただけだった。
「けけ」
時は3月15日。雪が多いのか少ないのか判らない。雪山登山から遠ざかって早一年。既に季節感が判らなくなりかけている。
時間前についた。チェックイン厳守なので大人しく待機。
時間になった。変わらない笑顔で若旦那が出向かれてくれた。誰にでもフレンドリーな洋犬のようだ。
今回の部屋は22番。消防法の関係で三階は利用できない。
最初の投宿は26号室。狭い造りだったが隠し部屋にトイレがついた面白い構造。二泊目は21号室と23号室を繋いだ大部屋。いずれも眺めのいい部屋だった。そして今回の22号室。裏に面して眺めはいまひとつだが一番広いようだ。
「いい部屋だよ」
ドアを開けると床の間が前室風に襖で仕切られていた。床柱は桜。床板はケヤキ。落とし掛けはタガヤサンというこだわり。タガヤサンとは東南アジア原産の唐木。稀少銘木として知られるそうだ。
富士を模った欄間の飾り。今は障子で塞いであるが、隣りの(以前泊った)23号室と筒抜けだったのではないだろうか。
とても広い部屋だった。ここは奇抜な稀少木材ではなく、構造で見せる装飾のようだ。
舟から投網をうつ漁師を象っているのだろう。(映っていないが)右隣は大河の河口を模した細工。
床の間の下に明り取り。凝っている。
天袋と地袋は斜に構えている。広さを感じさせる工夫だろうか。
部屋まで若旦那に案内頂いた。
清廣館全室めぐりの旅。坐るなりそんな言葉がつい口から出た。その昔、朽木ゆり子氏の『フェルメール全点踏破の旅』という本が話題になった。それはただのコンプリート癖とは違う、魅力的なアイデアだった。清廣館の部屋にも絵画と同じく一部屋ごとの個性がある。であれば投宿の思い出もそれぞれ全く違うものになるだろう。そんなことを思ったのだ。
「でも残りは小さい部屋ばかりですしね」
若旦那が少し頭を掻きながら笑う。
「お酒も勉強してきました!」 ←いつも唐突
おサルが勉強した訳ではないのだが、やけに自信満々だ。
「そうですか(笑)。今日は良い酒あったかなあ」
(いや。ある。絶対。そのためにこの季節を選んだのだし)
雑談に誘い込んだばかりに人の好い若旦那は座り込んで相手をしてくれた。そろそろ次の客が来る。下では若女将がやきもきしているに違いない。解放することにした。ヘンなプレッシャーかけちゃったかな。
荷物を片付けたのち汗を流すことにした。
廊下を伝って…
階段を降りる。もはや慣れたもの。と言いたい処だがしっかり間違った。
この昭和テイストがいい。若い世代にはどう映るのだろうか。
精廣館は足許から湧く。少量だから利用後はマットで覆うこと。それは今も変わっていない。
暫くすると同世代と思しき男性が入ってきた。地元の客だった。10年近く前に泊まったそうだ。その当時と随分湯小屋の様子も変わったが、料金が変わらないのが嬉しいと笑った。
「なかなかできんことよ」
成分表もそのままだった。
そろそろ夕食の時間だ。旅館では時間があっという間に過ぎてゆく。
=夕 食=
食事は女将(料理長)のお手製。
派手さはないが季節の地産食材がなんとも旨い。
食前酒に鮎正宗の春のにごり《さくらいろ》とは嬉しい。普通の宿は果実酒だ。
鮎正宗 さくらいろ
生産者:鮎正宗酒造㈱
所在地:新潟県妙高市
タイプ:純米にごり酒
使用米:五百万石、こしいぶき
精米歩合:70%
アルコール:10度
定価:1,400円(500ml/税別)
先附(鴨燻製、胡麻豆腐、蛍烏賊)
「酒、酒」 ~♪
全部地元の酒。手造りメニューに酒愛を感じる。いずれも普段飲みクラスの銘柄。全国的には至(いたる)が珍しい。しかし今年飲んだばかりなので他の銘柄を。
蒲原 純米吟醸 無濾過生原酒
生産者:下越酒造㈱
所在地:新潟県蒲原郡阿賀町
タイプ:純米吟醸 無濾過生原酒
使用米:五百万石100%
精米歩合:50%
アルコール:16度
定価:1,513円(税別)
まずは飲んだことのない地元の酒《蒲原》から。キレある辛口。新潟らしいあじわい。造りに合いそう。
自家製刺身こんにゃく
こごみマヨネーズ添え
造里(カンパチ、鮪海苔巻き、サーモン、燻り蛸)
岩魚塩焼き
次は佐渡《真野鶴》の超辛口を。
超・真野鶴 無濾過純米原酒
生産者:尾畑酒造㈱
所在地:新潟県佐渡市
タイプ:無濾過純米原酒
使用米:(麹)五百万石(掛米)こしいぶき
精米歩合:60%
アルコール:17.5度
定価:1,450円(税別)
酒度+20以上だけ出荷する限定品。ガッツリ力強い男酒。普段あまり飲まない酒質だけにパワーを感じる。
「サルには強烈」 むひー
辛口好きでしょ?
「こういうのはちょっと」
いまだ好き嫌いがはっきりしているサルだった。
茶碗蒸し
卵の味で口直し。
無想 厳雪 純米吟醸生原酒
生産者:大洋酒造㈱
所在地:新潟県村上市
タイプ:純米吟醸生原酒(速醸仕込み)
使用米:越淡麗100%
精米歩合:55%
アルコール:15度
定価:1,682円(税別)
茶蕎麦
「サルさー、ワイン飲んでよい?」 日本酒も美味しんだけどさ
ということで白ワインに逃げたのだった。
寄せ鍋
蕎麦でシメかと思ったら鍋がまだでした(笑)。
僕は別の酒を。
結局ブラインドテイスティングはしなかった(笑)。それでよかったかも。
「てか、もうご飯なんだけど」
大丈夫。ご飯でもおはぎでも酒が飲めるタチだし。
山間 純米吟醸 無濾過生原酒 五百万石
生産者:新潟第一酒造㈱
所在地:新潟県上越市
タイプ:純米吟醸 無濾過生原酒 一号中取り直詰め
使用米:五百万石100%
精米歩合:65%
アルコール:15度
価格:1,900円(税別)
新潟に来たら山間(やんま)でしょ。特有の濃厚さとジューシーさのバランスがたまらない。翌日地元の特約店に鬼山間(オニヤンマ)を買いに行ったが、一升瓶だけの季節販売なのだそうだ。冷蔵して自宅まで持って帰ることができずに断念…。
デザート
ちょっと簡単になったね(笑)。それでは最後の酒。
村祐 常盤ラベル
生産者:村祐酒造㈱
所在地:新潟県新潟市
タイプ:非公開
使用米:非公開
精米歩合:非公開
アルコール:15度~16度
価格:2,000円(税別)
新潟が誇るシークレット銘柄の至宝(ちょっと褒めすぎか)。これも家飲みしているけど清廣館で初めて飲んだ記念すべき銘柄だし。開栓して少し経っているのだろう。以前家飲みしたものに較べてややすっきりした印象。
この晩もよく飲んだ。いや飲み過ぎだ。
=翌 朝=
天気はいまひとつ。まずは朝風呂だ。
夜半に暖簾が変わる。
全然変わっていなかった。
サッと入って蓋は閉める。湯がぬるくなるので長時間の開け放しはNG。
あたりを支配しているのは鳥の囀りと断続的に聞こえるボイラー音だけ。静かに日頃の疲れを癒すことができた。
髪を乾かして部屋に戻り、暫く本を読んだ。結局いつも数ページだけ。
=朝 食=
朝ごはんも手作り。
鰊の塩焼きと冬菜のお浸し。さりげない食材のセレクトに季節を感じた。
昭和三年完成した清廣館。間もなく築100年になろうとしている。写真には当時の職人たちが笑顔で軒の上に並んでいた。これから夏を迎えて新潟は暑い季節になる。また時季のいい頃に次の部屋を目指すことにしよう。(※予約の際に特定の部屋を選ぶことはできません)
「ヒツよ。酒の旨い宿をまた見つけた!」
(おわり)
ご訪問ありがとうございます。