冬枯れの河原湯に浸る 湯ヶ島温泉「湯本館」再訪(静岡県) | ひつぞうとおサル妻の山旅日記

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サルヒツの温泉めぐり♪【番外編⑤】

湯ヶ島温泉 湯本館(再訪)

 

往訪日:2024年1月19日~1月20日

※温泉詳細データはこちら→湯ヶ島温泉「湯本館」(2021年8月投宿)

 

《建物は裏庭から見るべし》

 

ひつぞうです。日本秘湯を守る会のスタンプが10個集まり、湯ヶ島温泉湯本館を再訪しました。前回は夏。そして今回は冬。季節感の違いを味わってみようと思います。以下、滞在記です。

 

★ ★ ★

 

過去にスタンプ帳で再訪した宿を振り返る。槍見館、貝掛温泉、精廣館、鷹巣館、そして今回の湯本館。泉質、建築、そして食事にホスピタリティ。宿選びの選択肢は幾つもあるが、二回目の宿選びは食事に重きを置いてきた。

 

「季節が違えば旬の食材も変わるしね」サル

 

 

二回目ともなれば勝手知ったるもの。最初の関門はピロティ式駐車場の柱にぶつけずに停車すること。ビビりながらソロ~リとバックしていると、すかさず御主人が飛び出してきて誘導してくれた。

 

 

受付を待つ間、根岸敬画伯の『伊豆の踊子』を主題とした油彩を飽きずに眺める。すると前回気づかなかった新聞の切り抜きに眼がとまった。それによれば、画伯と川端の交流はデパートの骨董品展における文通から始まったらしい。その後、百号の大作《巫女》にいたく感動。だが百号は流石に大きすぎる。購入断念の経緯を川端は書き送った。

 

粋に感じた画伯は小振りな《巫女》に再び取り掛かる。モチーフは処女と白い狼。だが、狼伝説の残る秩父山中に写生に向かった処で誤って滑落。頭蓋骨骨折の大怪我を負い、画伯は生死の境を彷徨う。再び絵筆を握れるまで恢復した時、川端はこの世にいなかった。

 

童謡シリーズ・赤とんぼ(1980年9月発行)

 

1980年に発行された特殊切手の童謡シリーズ。根岸画伯の絶筆はこの切手の原画だった。

 

とまあ、どうでも好いことに矢鱈と眼がいくのが僕の悪いクセ。女将さんに今回の部屋に案内してもらった。部屋毎に意匠が違うのも湯本館再訪の理由のひとつ。

 

 

一階の廊下を歩く。豪華な数寄屋風で舟底天井になっている。

 

 

突き当りのしかの間が今宵の宿所だ。

 

 

扉を開ける。踏み込みまで玉石が敷き詰められ、手前に四畳の前室がついている。

 

 

その右隣りに主室の八畳間が続く。

 

 

前回投宿した二階の八畳一間の部屋は欄間や障子の組子細工が美しい小体な造りだった。今回はややすっきりした意匠。竹を使った落としがけのモダンなデザインに注目したい。

 

 

引き戸下段は雪見障子なのだろう。薄く透けている。一方の欄間障子は吹き寄せ。ベランダにも降りられる。五月頃には藤棚が美しく紫色に染まることだろう。

 

 

角部屋なので明るい。

 

 

実はこの部屋。トイレも風呂もついている。

 

 

「昭和レトロ感満載だにゃ」サル

 

 

では風呂を浴びるとしよう。

 

 

まずは大浴場で汗を流そう。

 

 

平日なのでまったく混雑しなかった。

 

 

さすがに冬場。浴場は水蒸気でモワモワ。

 

「この蒸気が体に良いのちよ♪」サル

 

 

続いておサルと待ち合わせて露天風呂へ。

 

 

テラスでサンダルに履き替えて屋外へ。予約は不要。

 

 

冬枯れた風情もまんざら悪くない。

 

「やっぱり家族風呂が一番だの」サル

 

会話できるしね。

 

 

左端一階が大浴場。二階は食事処。

 

 

その隣りの褐色の建物が和モダン系の部屋。右端の白堊の建物一階が今回の部屋。すべて繋がっているのに独立した造りに見える。五月になればツツジが美しいことだろう。

 

 

川の水量も減って穏やかな風情だった。

 

 

滾滾と足許から湧き出ている。カルシウムが豊富な湯。

 

 

日頃の憂さを晴らして疲労回復することに。

 

「ちょうど良い温度だにゃ」サル

 

ずっと入っていられるね。

 

 

このあと凝りもせずに館内探検。

 

 

川端先生が腰かけた階段。

 

 

老舗の雰囲気だが、適度なリフォームが施されているので意外に古色を感じない。

 

 

先生ゆかりの部屋も二年半前と変わっていないように見えた。

 

そういえば、前回訪れて日を置かずして、軽井沢の川端先生の別荘が取壊しになるというニュースが報じられた。同年二月に養女・政子さんの夫でロシア文学者の川端香男里氏が亡くなったため、財産整理が行われたのだろう。芸術家ゆかりの建築保存に力を入れている軽井沢町はその取得を目指したが不動産会社と折り合いがつかず、取り壊しに至った。古い別荘の管理は大変だし、所詮は個人の所有物。致し方ないことかもしれない。年ふるごとに川端康成という作家もまた、歴史の階層に埋もれていく。

 

「そうだよ。人のモノだし」サル

 

そんな懐旧話はさて置いて。前回足を踏み込まなかった奥の階段を昇ってみた。

 

 

吹き抜けの棹縁天井に杉板を渡している。淡いベージュの土壁とのコントラストも美しい。

 

 

階段を上がると隠し扉のような階段が。きっとこの奥が鐘楼のような部屋になっているのだろう。ということで屋内見学も終わり。夕食の時間が来るのを待つことにした。

 

 

=夕 食=

 

 

座ってみてちょっと違和感が。それはおいおい判る。

 

 

日本酒は地元消費の男酒なので伊豆ゆかりのワインを頂戴することに。

 

シャトーT.S ホワイト 辛口 2022

 

生産者:中伊豆ワイナリー

ヴィンテージ:2022

タイプ:白(辛口)

品種:山梨県産甲州100%

地域:静岡県

アルコール:11.5%

酸化防止剤使用

 

SHiDAXの会長が始めた観光ワイナリーとして知られるが、デイリーワインとして頂戴するには申し分ない。ただし、葡萄液は甲府の農家から仕入れているようだ。比較的軽めで酸味が際立つ味わい。

 

 

ヤリイカの酢味噌 エシャロット 蓮根

 

前回もブログに上げているので相対比較すると判るが(平日ゆえのせいかもしれないが)切って並べる、挟んで並べる、和えて盛る、という具合に、料理の手間が微妙に省かれていた。当然味わいもシンプルになる。料理長が変わってしまったのだろうか。

 

 

ミルクチョコの干し柿サンド 里芋味噌つけ炙り カブ茎の漬物

 

なかなかトリッキーな組み合わせ。ミルクチョコと干し柿は他の料理との親和性がどうも(笑)。

 

 

巻き湯葉とワカメの澄まし汁

 

 

帆立 サーモン ズッキーニ 三浦大根

 

ちょっと寂しい。もう一品欲しいところ。

 

 

猪鍋

 

安心して食べられる名物。

 

 

天麩羅(山芋、さつま芋、マッシュルーム、パセリ)

 

 

鮎の甘露煮、車麩、コンニャク、大根の煮物

 

既成の甘露煮はちょっと甘すぎか。季節は冬だし、塩焼きは無理だもんね。

 

 

でも御飯は正真正銘艶艶。お櫃を空にしたのは言うまでもない。

 

 

アオサ汁

 

風味豊かで美味かった。

 

 

デザートは苺を載せたムースで。チョコスプレーはなくてもいいかも。

 

悪くはなかったのだが、朝夕含めて素材が被りきみで、料理の手間も減った印象だった。人手不足なのかなあ。大変だよ旅館業は。

 

「すみません」サル 正直な感想で

 

 

部屋に戻るなり、またまたスマホをニチるおサル。病気だね。

 

「お風呂にいく!」サル

 

おや。珍しい。そのまま寝てしまうとばかり思っていたら。

 

酔い覚まししたのち、露天風呂に行くことにした。

 

 

やあ。見事な景色だねえ。前回は食事のあと爆睡だった。気温が下がって、ますます長湯に適した湯加減に。と云っても湯当たりは禁物。頃合いを見て出ることに。

 

 

夜の露天風呂にも入っておいてよかったよ。

 

 

=翌 朝=

 

予報通りの雨模様だった。まずは貸し切りの内風呂で寝惚け眼を覚ます。

 

 

そして夕べと同じ食事会場へ。

 

 

そういえば前回も雨に祟れたんだったね。

 

ご飯を装ってもらい、静かに料理を口に運んだ。

 


鮎の開きはここの名物。焼きたては頭まで食べられる。そして旨い。

 

「鮎が一番好き!」サル

 

川魚の女王だよね。

 

 

「でも湯豆腐が一番安心できるかも」サル

 

近頃、胃に優しい食事ばかりに箸が伸びるようになっている。

 

しばらく部屋で寛いだのち、もうひと風呂浴びることにした。施錠して廊下を歩いていくと、早々と荷物を纏めて出ていく客の姿があった。もはや宿にとどまっているのは僕ら二人だけだった。

 

 

実はこの小さな内風呂が一番好きかも知れない。二人で入ると、縁まで満ちた掛け流しの湯が洪水のように流れ、そして、渦を巻いて排水口に呑まれていく。

 

 

新しい浴槽なのだろうが、蛇口に結晶した炭酸カルシウムが時の流れを感じさせた。こうして僕らは名湯・湯ヶ島温泉を満喫して宿を後にした。帳場ではいつものように『伊豆の踊子』の朗読が流れていた。それは冒頭、主人公の一高生が降り始めた雨のなかを天城峠を目指して歩いてゆく場面だった。やはり土地に馴染んだ名文はいい。短篇小説を対象にした川端康成文学賞がある限り、川端という作家が忘却されることはないだろう。

 

「ありがとうございました~♪」サル

 

(おわり)

 

ご訪問ありがとうございます。