特別展「不思議の国のアリスと人形」(横浜人形の家) | ひつぞうとおサル妻の山旅日記

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ひつぞうです。
おサル妻との山旅を中心に日々の出来事を綴ってみます。

不思議の国のアリスと人形

℡)045‐671-9361

 

往訪日:2024年1月6日

会場:横浜人形の家

所在地:神奈川県横浜市中区山下町18

会期:2022年10月28日~2024年1月28日

開館時間:9時30分~17時(月曜休館)

観覧料:

(常設企画)一般1,000円 小中学生500円

(常設のみ)一般400円 小中学生200円

アクセス:元町・中華街駅(4出口)から約3分

駐車場:有料(500円/h)

📷撮影OK

※終了しました

 

《限りなくオトメな世界》

 

ひつぞうです。横浜人形の家の常設展と企画展の記録です。

 

★ ★ ★

 

=常設展=

 

1927(昭和2)年。日米友好の証しとして青い目の人形が海を渡ってきた。その数12,739体。宣教師シドニー・ギューリックの呼びかけに応えたアメリカの市民の善意の表れだった。その背景には画家・国吉康雄も悩ませた排斥移民法による日系人への不当な排斥があった。

 

 

三箇月後、サイペリア丸に乗った人形たちは横浜港に上陸。その返礼として58体の答礼人形(日本人形)が送られた。

 

 

資金面で活動を支えたのが渋沢栄一だった。本当にアメリカという国が好きだったんだな。

 

西洋人形と玩具浸透の歴史は絵画にも見ることができる(絵画は複製です)。

 

《銅板絵上彩色》

 

明治初期のものだろうか。人形は西洋式玩具のひとつとして輸入が始まった。その後、ぬいぐるみやキューピー人形、ビスクドールが上流階級の家庭で持て囃されるようになる。

 

蕗谷虹児画「少女倶楽部」第4巻第6号口絵(1927)

 

好い絵だ。抱えているのはテディベアか。「抒情画」という言葉の生みの親、蕗谷虹児の挿絵。竹久夢二に憧れて独学で挿絵画家として成功した。

 

守田かずを画《令女界》創刊号口絵(1922)

 

夢二風のようだが、残念ながらそれ以上は判らない。

 

竹久夢二《令女界》第6巻第3号口絵(1927)

 

その夢二の作。タイトルは「雛節句」。

 

 

ここからは郷土玩具と世界のおもちゃ。

 

「よく集めたね」サル すごい

 

九州・中国地方

 

 

竹田の姫だるま。

 

関東・會津地方

 

 

「やっぱり赤べこでしょ」サル

 

郷土玩具は昔から年賀切手のデザインに選ばれている。判るかな。

(自分で持っているのですが、写真はネットから拝借しました)

 

三春駒(福島県三春町)

 

展示作品、ちょっと小さいけど。判る?

 

赤べこ(福島県会津若松市)

 

これは簡単だね。ちなみの手前の牛は花巻の金べこ

 

佐野土鈴(栃木県佐野市)

 

「ちょっとだけ写っている」サル

 

東北・北海道

 

 

しのび駒(岩手県花巻市)

 

これはすぐ判るね。

 

笹野彫り(山形県米沢市)

 

展示品はオナガドリがモデルになっているのかな。

 

「サルはないのきゃ?」サル

 

あるよ。これ。

 

昇り猿(宮崎県延岡市)

 

「おだてに乗りやすいからにゃー」サル サルってさ

 

延岡の郷土玩具で昇り猿っていうんだ。残念ながら人形そのものは見つけられず。

 

 

次はこけし。全10流派を完全網羅。

(山形系を作並系と区別すると11流派)

 

「またこけしきゃ!」サル 宮城の温泉で散々見たじゃん

 

重なる時は重なるよね。巡り合わせ?

 

 

まずはご存知。鳴子系。胴の菊模様と鬢で判別。デカ頭に小顔も特徴か。

 

弥治郎系(宮城県白石市周辺)

 

おだんご(ないものもある)つきの頭部のロクロ線と鬢の脇にちょんちょんと彩色された髪飾り文様、そして胴部の窪みのついたロクロ線が特徴。

 

遠刈田系(宮城県)

 

とにかく巨大な頭。そして頭髪の赤いハチ割れ文様。細い鼻梁とデフォルメ気味な波目も眼を惹く。

 

「こういう頭に生まれてたら…」サル 親を怨むかも

 

これ人形だから。

 

 

「持ってたなー」サル ドールハウス

 

 

海外からもひとつ紹介。

 

本当はものすごい展示品。キリがないので二階へ。

 

 

このあたりが世代だな。

 

「団地世代だにゃ」サル

 

 

=アンティークドール=

 

オークションで高値売買できそう。

 

「おカネで判断するのは良くないにゃ」サル

 

何でもメルカリで売るくせに。

 

 

ビスクドールのbisqueはビスケットと同じ語源で“二度焼成”という意味らしい。素焼きの頭部に彩色を施して、釉薬をかけて低温焼成。人肌を思わせる特有のマット感が生み出される。特にその代表格ジュモー(制作メーカーの名前)の人気は高い。大きなアーモンド型の瞳にふくよかな頬。優雅に弧を描いた眉、そしてエレガントな衣装は工芸品の域だ。

 

「状態が良ければ100万円はくだらないって」サル

 

もういいって。

 

 

懐かしい!NHK総合テレビの幼児番組で放送されたブーフーウーだよ。デザイナー、土方重巳の傑作だ。イラスト付きのプラトレイを持っていたよ。

 

 

テディベアって一体10万円もするんだねあせ。アンティークだともっと…。知らんかった。

 

「シュタイフのぬいぐるみは高いよ」サル

 

そういえば随分前にPRADAとコラボしたテディベアのキーマスコットをプレゼントしたよね。どーした?

 

「散々使ったあと無事成仏した」サル いつの話よ

 

腕がもげたそうです…。

 

 

クマ(テディベア)は後発で、最初はいろんな動物を発表してたんだね。

 

 

=日本の人形=

 

 

文楽人形を間近に鑑賞できるというので愉しみにしてきた。

 

雛道具(明治22年)

 

日本版ドールハウス。手先の器用な日本人ならでは。

 

御所人形(江戸時代後期)

 

胡粉で塗られた三等身の幼児の人形。幕府の役人への公家の答礼として重宝された。

 

「すっごくリアルな人形がある」サル

 

創作人形だね。

 

平田郷陽《粧ひ》(1931年)

 

昭和11年から帝展に人形部門が設置され、芸術の一分野として評価されるようになる。その後、1955(昭和30)年に堀柳女、鹿児島寿蔵、平田郷陽の三氏が人間国宝に認定された。これら活人形は江戸時代後期から見世物用に制作されてきた。多くは木目込み(木製の芯に切れ込みを入れて衣装を押し込んで制作する)だが、人形本体の完成度を示すために、透け透けの肌襦袢を着せたのだろう。

 

 

髪の毛は人毛だろう。抜けるような白い肌が印象的。エロい視線が憚られる真剣な眼差しだ。箱書きによれば、文化文政期の浮世絵に材を取ったもので、歳の頃は24、5才。丸髷なので商家の若女将というところか。鏡立は更に古い時代のものを敢えて採用したとある。満足いく出来だったのだろう。文面から作家の高揚が伝わってくる。

 

竹山人形「加藤清正」(19世紀前半)

 

1662(寛文2)年に初代・武田近江が大阪道頓堀で始めた人気のからくり人形芝居を竹田芝居という。明治の頃には廃れてしまった。これは竹田人形で拵えた置物。

 

いよいよ、お目当ての文楽人形。

 

文楽人形「お染」

 

お染久松心中事件に材を取った人形浄瑠璃《新版歌祭文》の主役、お染の人形。鑑賞用なので上演用より一回り小さい。新大阪駅コンコースに陳列されている義経千本桜静御前に較べると幾分庶民的。

 

淡路人形「政岡」

 

伊達騒動に材をとった人気狂言《伽羅先代萩》政岡。人形浄瑠璃のルーツとも言われる淡路浄瑠璃は野掛けが基本スタイルだったので、奥の客にも見えるように大きな人形で演じられてきた。

 

「顔も手も大きい!」サル

 

ここから超絶技巧の人気作家、恋月姫(こいつきひめ)氏(1955-)の作品が続く。

 

恋月姫《夜の花園》(2012)

 

「生きてるみたいだの!」サル

 

磁器(ビスク)でできた球体関節人形だね。G・バタイユ『眼球譚』の挿絵でも知られるハンス・ベルメールや、国内では四谷シモンの作品にみられる強烈なセクシュアリティも女性の恋月姫氏の手にかかるとエレガントに。ただ、どことなく儚げな印象をうけるのは僕だけだろうか。

 

恋月姫《月光の華》(2013)

 

頭髪は人毛。衣装は人が着用するドレス素材そのまま。

 

恋月姫《愛の記憶》(2015)

 

そして、要はグラスアイ。作品は高値で売買されている。会場にも抽選の応募用紙が用意されていたが、55㌢大で一体約350万円!。欲しい人にとっては廉いのかも知れない…。人気作には多数応募が集まっていたし。

 

 

=企画展=

 

その恋月姫さんを筆頭に、若手からベテランまで様々なスタイルの作品が展示されていた。

 

 

1月28日まで開催された《不思議の国のアリスと人形》。L・キャロル原作の物語がモチーフ。

 

 

では。会場へ。

 

 

客層は10代後半から30代の若いピンの女性。おっさんには不釣り合いな雰囲気だが、恋月姫作品には以前から関心を寄せていたので興味津々。

 

「どこで知ったの?」サル

 

月刊アートコレクターズよ。まずは大家の作品から。

 

宇野亞喜良画・高橋康也編『アリス幻想』(1976年)

 

70年代サイケ調の文脈。今年90歳を迎えた宇野先生は若い女子にも人気。

 

『金子國義 アリス画廊』(1979)

 

金子先生にも一時期ハマったな。解説ではキャロルの初版挿絵を担当したジョン・テニエルの影響を指摘しているが。判らん。

 

 

「オトメだのー」サル

 

ここから現代作家(気になったものをセレクトして)。

 

MOYAN《After The Tea Party》(2023) オイルペインティング

 

イケメンアーティストのMOYANさんは東京藝大修士課程修了。ドールハウスや人形を用いて人間との“共犯関係”を舞台で試みているそうな。このジャンルは知らん人ばかりだ。

 

ウエノミホコ《蛙召使い・魚召使い》(2023) 羊毛フェルト・ワイヤー・毛糸

 

このカエルは知っているよ。

 

 

これね。

 

ウエノミホコさんはフェルト作家。露出がないので詳しい人となりは不明。『アリス』の“不気味で愛おしい世界觀”を再現したそうだ。

 

陽月《ウサギなアリス》(2023)

 

四谷シモンに続く世代の代表、吉田良(1952‐)主宰のドールズスペース ピグマリオン出身の陽月(ひづき)氏の最新作。アリスらしい無垢なイメージ。注目すべきは手先の表情。

 

陽月《Alice in …》(2004)


こちらは蠱惑的な大人の女性が同居する不思議な作品。

 

 

ガラスアイにすごみがある。妖艶な作例が多いね。このかた。

 

恋月姫《記憶の迷宮》(2023)

 

こちらは伝統的なビスクドールの表情の延長にある。球体関節人形はそのポーズも見所のひとつ。角度によってまったく表情が変わる。文楽人形や能と同じに。

 

(再掲)

 

中央の少女。同じ作品とは思えないほど憂いを帯びていないだろうか。

 

 

この角度だと微笑んでみえる。

 

人形店に勤務する一方で、1980年頃から自ら制作を始めたという。これで独学というから凄すぎる(というより球体関節人形作家は独学者が多い気がする)。

 

 

清水真理さん(1972-)の一連の作品。多摩美術大映像コース卒だが、在学中から人形制作に携わっていた。ゴシックロリータ風のファッションと、その強烈な眼差しに個性を感じた。

 

「ティム・バートンっぽくね?」サル

 

なんとなくね。

 

 

林由未(1979-)さんの一連の作品。東京藝大大学院修了後、チェコ国立芸術アカデミーの大学院で学ぶ。専門は人形劇の舞台人形。訪米各地の人形劇場で活躍しているそうだ。確かにヨーロッパの民藝的な俗っぽさが好い意味で再現されている。

 

井桁裕子《宇宙の夢を見るアリス》(2023) 桐塑・石粉粘土・羊毛・油彩・ステンレス・丸ゴム他

 

1990年生まれの井桁裕子さんは一番若い世代。武蔵野美大卒。社会における自己の身体性を捉え直すために、自分をモデルに制作を続けているそうだ。映画、演劇、舞踏など、異分野の第一人者とのコラボによって、常に新しいスタイルを模索しているらしい。

 

キリがないのでこの辺で。ガーリーな企画だったけれど、人形もいまや立派な立体アートの一ジャンル。オッサンでも見応えを感じる素晴らしい特別展だった。このあと、もう少しブラブラして昼酒を飲んで帰ることに。

 

「酒か!」サル ←すぐ喰らいつく

 

(つづく)

 

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