吉村弘 風景の音 音の風景
往訪日:2023年8月10日
会場:神奈川県立近代美術館 鎌倉別館
会期:2023年4月29日~2023年9月3日
開場時間:(月曜休館)9:30~17:00
観覧料:一般700円 学生550円 高校生100円
アクセス:JR鎌倉駅から徒歩約15分
駐車場:なし
※先日終了しました
(※写真の幾つかをネットより拝借いたしました)
ひつぞうです。先月の盆休みに、企画展《吉村弘 風景の音 音の風景》に足を運びました。吉村弘さんは環境音楽の草分け的存在で、東京では東京メトロ南北線の発車サイン音《音無川の流れ》、大阪では大阪空港国際ターミナルデッキ、そして、福岡では福岡三越の音と香りのデザイン(噴水階段)など、地元民ならばきっと判る“街の音”を創ったアーティストです。音楽とアートの幸福な結婚。そんな世界が待っていました。以下、往訪記です。
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七月の初めに彫刻家・佐藤忠良の企画展を鑑賞した。その会場となった神奈川県立近代美術館(葉山館)で、ある企画展のチラシを、ふと手に取った。吉村弘。知らない名前だった。神奈川県立美術館内で朝夕流れるサウンドロゴ。その作曲家とある。あの、流れる空気や水のような調べだ。何気なく経歴を見て驚いた。文学部美学科卒業。音楽の専門教育を受けていないのか。俄然興味が湧いた。
まずはおサルのためのおさらいコーナー。
「むきー」![]()
「HOTBREATH地下鉄にひそむ魚たちの熱い吐息 実験室とメディアの箱」より(1977)
吉村弘(1940-2003)。横浜市出身の音楽クリエーター、オブジェ作家、パフォーマンスアーティスト。早稲田大学第二文学部卒。高校在学中にエリック・サティに魅せられて、環境と音楽をテーマに研究。その後、タージマハル旅行団の小杉武久に刺激を受け、サウンドパフォーマンスや音のドローイング(絵楽譜)、サウンドオブジェ(音具)や映像作品の制作など、既成の枠組を超えた作品を発表。のちに公共施設の音響デザインを幅広く手がけた。アルバム『Music for Nine Post Cards』(1982)は環境音楽の金字塔として高く評価されている。
★ ★ ★
この日も暑かった。北鎌倉駅の長いホームに降りて、観光客の群れに混じりながら、鶴岡八幡宮に続く狭い舗道を歩いていく。アスファルトの照り返しで眼も開けていられない。そんな夏の日だった。
神奈川近代美術館鎌倉別館は(企画展会場となる葉山館と対照的に)常設展の位置づけ。そのため小体な造りだ。1984年開館で設計は建築家・大高正人(1923‐2003)。東京大学工学部卒業後に前川國男設計事務所に入社した大高は、黒川紀章、槇文彦らとともにメタボリズム運動を展開した。主な作品として故郷の福島県立美術館がある。今回訪ねた建物も幾何学的構成とコンクリートと化粧タイルのコントラストが美しい名建築だった。
前庭を飾るパブリックアートも素晴らしい。最後に鑑賞しよう。
「なんかムツカシそうな展覧会だにゃ」
サルでも判るかな
摺りガラスのファザードが優しく外光を取り入れている。
では。
Ⅰ.音と出逢う-初期
高校生でサティに傾倒し、大学在学中、すでに詩を書くひとたちと交流。その後、1961年の草月会館ホールで催されたグループ音楽第11回公演『即興音楽と音響オブジェのコンサート』で小杉武久に初対面。1962年に来日したジョン・ケージに衝撃をうけて、新宿の風月堂に通い詰めるようになった。
高橋悠治。鈴木昭男。粟津潔。ヨシダ・ヨシエ。坂本龍一。後に一流と呼ばれた若き日のアーティストたちとの交歓。それはサティが同時代の様々なジャンルの芸術家(例えばピカソやコクトー)と交流した姿と重なる。
1970年代に小杉率いるタージマハル旅行団に参加。行動を共にするようになる。
《July,15,1972》を聴いてみた。読経のような唸り声。弦楽器の旋律。暁の寺が眼に浮かぶ長い振幅のトランペット。協奏しないパーカッションの、道端に潜むような明るい音色。それらが電子エフェクターで独特の世界をかたち作る。即興なのだが構成力のある音楽。吉村さんが心打たれたのはこれだったか。
「現代音楽は苦手」
💦
癖になる音楽だよ。嫌いじゃない。
Ⅱ.音をつくる-作曲
整ったタイポグラフィ。繊細な五線譜。吉村さんの楽譜は美しい。
作曲も演奏も独学。信じられないけれど。
これ以降、図形楽譜や絵楽譜で自らの音楽をイメージとして表現していった。
《絵楽譜FLORA》1950年代
nei cinque linee(五線譜の上で)のシリーズの一枚。五線譜が波、カモメ、入道雲。
「繊細だのぅ」![]()
サン・テグジュペリへの賛辞に添えて、こんな言葉を残している。
“いつも自由に空を散歩できたらどんなにいいだろう。いつか雲に乗れる日を夢見ていました”
《シュウ・ウエムラ メイクアップパフォーマンス》1994/6/4門前中町天井ホールにて
《サウンドプラネット》1990年
立体造形も。惑星を象った楽器だ。六本木のストライプハウス美術館(現:ストライプハウスGallery)の機関誌に、そのデッサンと実際に演奏中の子供の姿があった(写真)。愉しそうに微笑むご本人の姿も。今は美術品。触ることはできない。
耳を傾ける
奏でる
風景に溶け込む
微笑む
髭の青年紳士 吉村弘
《LETTER GARDEN》 1987
1987年。この頃の僕は何をしていただろう。
円。経済。バブル。音楽。夜の街。
狂騒の日本経済。僕は浮足立った世の中から後ずさりしていたような気がする。
「サルは歌って踊ってたにゃ」
べりー愉しかった♪
《SOUND LETTER》 1988
ショップでCDを購入した。吉村さんの音楽に初めて触れた。今もずっと聴き続けている。さびしく温かい音階。最後の曲の奥で男性の囁き声がする。聞き取れない。幾たび聴いても。音はいずれ消える。
それは、今は失われた鎌倉館で流れていたサウンドロゴ。
Ⅲ.音を演じる-パフォーマンス
ただ曲を作って演奏するだけではなかった。
ウォーホルばりに空き缶(廃物)で楽器を作った。
演奏にもこだわった。
円筒を逆さまにすると音の囁きが聞こえる。
音楽(音色と調べ)はまず音として存在する。当たり前の事を気づかせてくれる。
設計図がとても美しい。
「ポップアートみたい」![]()
口を開ける怪物のようでもある。観ていて飽きない。
Ⅳ.音を眺める-映像
映像作品はここには掲載できない。
1972年に吉村さんは音楽芸術の論文で第二席を獲得した。その賞金でアサヒPENTAXの一眼レフを買う。その後、カメラを片手に街歩きの達人になった。
一枚、吉村さんの写真を。
写真とサウンドロゴのコラボレーション。葉山の海にインスパイアされたメロディが象形文字のように流れていく。
吉村さんの日記にこんなことが記されていた。
“(土笛奏者の)鈴木昭男の高輪のペントハウスを訪ねるが留守で、原美術館をたまたま訪れる。リキテンシュタインにワクワクする”
ソール・レーヴットやルエロのタブローに感心したらしい。偶然見つけたこの美術館を“あまり知られたくない夢のふるさと”と表した。残念ながら美術館は近年閉館。夢のふるさとに足を運ぶことはできない。ただ1981年に原美術館で吉村さん最初のサウンドロゴ『Nine Post Cards』が流れたことに注目したい。
Ⅴ.音を仕掛ける-環境
こまごま記すのも何なので。
美術館や公共広場。駅のホーム。至る処で吉村さんの音楽や発車音が流れている。
知らないことばかり。来てよかったよ。
「音に反応してバブルがでてる」
めっちゃおもろい!
食いつく所がサルっぽい(笑)。
★ ★ ★
最後にパブリックアートを。
柳原義達《犬の唄》1983年
忠良の同志、柳原義達の代表作。想像がつかないのでタイトルの意味を調べてみた。普仏戦争において抵抗の唄を歌ったシャンソン歌手がモチーフらしい。なので堂々と胸を張った女性なのか。
井上玲子《カゲボウシ》1988年
不定形な金属彫刻で知られる井上玲子さんの作品。こんな生物いそう。
「サルにはエシャロットに見える」
わりと好物
いろいろ想像してください。
多田美波《時空》1980年
多田さんの作品は原美術館ARCでも鑑賞したね。ステンレスに写りこむ流線形の景色が時空の流れを感じさせる。抽象彫刻多いね。ここ。
渡辺豊重《SWING86-1》1986年
色と形の関係性を強く感じさせる。寄り添うふたりのジャズセッション?
「ただ観て愉しければいいって言ったよね」
どーしていちいち解説する?
言った言った。
湯原和夫《無題》1982年
「これなんかどーよ」![]()
湖面に突き出ている四つの塔かな。なんか説明しちゃうね。やっぱり。
植松奎二《浮くかたち-軸》1994年
抽象彫刻に具体を読むのは無粋というもの。だが、足高な草食動物をつい想像してしまう。
真板雅文《静思空間》1994/2009年
静かに瞑想したいと思います。次こそようやく具象かも。
本郷新《わだつみのこえ》1950年
本郷新らしい写実彫刻。リアル過ぎてカメラ向けづらいね。
筋骨隆々。本郷先生は健康美好き。それと比べて…
柳原作品はどこかデフォルメ気味。だから眼が吸い寄せられる。
企画よし、建築よし、彫刻よしの鎌倉別館だった。
このあとは鎌倉でランチ。取って置きの場所に案内しよう。
「ほんとだろうなー」
嘘だったら承知せん
(つづく)
ご訪問ありがとうございます。

































