サルヒツの温泉めぐり♪【第158回】
滑川温泉 福島屋
℡)0238‐34‐2250
往訪日:2023年7月28日~7月29日
所在地:山形県米沢市大字大沢15番地
源泉名:上の湯源泉ほか
泉質:含硫黄‐ナトリウム・カルシウム‐炭酸水素塩・硫酸塩温泉
泉温:(源泉)54℃(浴場)約43℃
匂味:弱い硫化水素臭、僅かな塩味
色調:無色透明(空気に触れると仄かな灰濁色)
pH:7.2
湧出量:記載なし
その他:自然湧出、非加水、無濾過、かけ流し
■営業時間:(IN)14時(OUT)10時
※冬季休業(11月上旬~4月下旬)
■料金:旧館11,700円(税別)
■客室:25室(旧館・新館・自炊棟)
■アクセス:東北道・福島飯坂ICから国道13号経由、東栗子トンネル出口(板谷)より細い林道8㌔
■駐車場:約15台
■日本秘湯を守る会 会員宿
《析出成分の悪戯で床はまるで唐三彩》
ひつぞうです。まず最初に訪ねたのは山形県の滑川(なめがわ)温泉「福島屋」さんでした。寛保2(1742)年に大沢の郷士斎藤盛房が沢で滑って発見したことに由来するとか。そののち宝暦13(1763)年に上杉藩の許しを得て当館の始祖、笹木正直氏が商いを始めたそうです(HPより)。吾妻連峰の一座、山深い東大巓の北麓に位置し、晩秋から春の初めまで雪に閉ざされる秘湯中の秘湯。ようやく訪れました。以下、往訪記です。
★ ★ ★
七年前のこと。五月の連休に姥湯温泉に投宿した。スイッチバックしないと登れない、急峻かつ細い山道を延々と辿る秘湯感いっぱいの宿だった。滑川温泉へはその手前で逸れていた。落差80㍍のスダレの滑川大滝と、美しいナメ沢が織りなす沢の近傍にポツンと灯りをともす一軒宿らしい。俄然興味が湧いた。
調べるうちに(とある山岳会の記録から)積雪期も湯守が番をしているため、素泊まりできると知った。次の冬、計画を練りに練って電話した。ところが「もうそれはやめた」とつれない返事。釈然としなかったが、断られたものは仕方ない。だが、その山岳会は当季も山スキーで利用していた。技量が判らない一見の客に遭難でもされたら敵わない。そんな判断が働いたのだろう。福島屋への興味は次第に薄れていった。
「今でもHPに冬季利用できるって書いてあるにゃ」
★ ★ ★
今回の異動で東北を遠く感じるようになった。関東に基地があるうちに行かねばと焦りが募る。行くなら物理的にも期間的にも往訪のハードルが高い福島屋だろう。この夏の過ごし方としておサルに提案した。
「行こうぜ!」 温泉♪温泉♪
風呂好きおサルが断るはずもない。こうして、年々暑さが増す真夏ながら滑川温泉(源泉54℃で加水なし)を目指すことにした。郡山市から(これまた遥か以前に)萬世大路の氷柱ツアーで訪れた道を走った。長い新栗子トンネルを抜けた所に分岐があった。
残念ながら五色温泉は廃業。やはり“いつまでもあると思うな温泉とラーメン屋”である。ここから秘湯駅の峠駅を経て、勾配と線形が厳しくなる一方の林道を恐る恐る走り抜けていった。だが、さすがは平日。一台の離合もなく無事福島屋にたどりついた。
チェックインは14時から。少し早かったが部屋の準備はできているという。
「よかった」 ふーろ♪ふーろ♪
本当に良かったのだろうか。降りかかる運命をまだ僕らは知らなかった。
振り返るとどれだけ山深いかが判る。
旧館と新館に挟まれるように階段が続いていた。
「にゃんこがいるにゃ」
看板ネコのゴンベさん(♂)。迷い猫なので年齢は判らない。でもとても愛想よし。触っても嫌がらない。
玄関先に利用時間が記されていた。後ほど触れるが、曜日によって男女の利用時間が変わる。
受付は旧館の一階。スマホの歪曲収差ではなく、実際に柱が傾いている。令和元年に80周年を迎えたそうだ。
配置は御覧のとおり。新館はトイレつきだ。古色を好む僕らは旧館を選んだ。自炊客も結構多かった。
総じてスタッフは若い。まるで山小屋のようだ。いまだ客との接触は控えていて、布団はセルフ、料理は廊下で受け渡しと説明があり、部屋まで案内頂いた。
格子戸には鍵はない。貴重品はセーフティボックス管理で。
沢向きの眺めのいい部屋を予約した。自炊棟ほどではないが、江戸時代から続く建物の風情がそこかしこに感じられる。
だがしかし。
「クーラーないんだ」 扇風機だにゃ
標高850㍍に位置するだけに、気温は26℃まで下がっていたが、体感的にはかなり蒸し暑い。
早めの投宿、失敗だったかも…。
「もう遅いにゃ」
以前は涼しかったんだろうね。とりあえず風呂に入るか…。
調度といえばこれだけだが貴重な黒柿製。
まずは風呂の時間割りをチェックだ。
「今日は金曜だにゃ」
なんと!岩風呂は今清掃中だよ。檜風呂と大浴場は入れるけれど。
「湯あみの持ち込みはダメなんだにゃ」 バスタオルはOKみたい
有料(330円税込)だけどおサルは借りることにした。ちなみに翌日の時間割はこれ。
なんちゅうことだ。岩風呂は朝9時以降女性専用だよ。食事のことを考えると前日夜は飲酒でアウトだし、朝いちに入るしかないね。
「とりあえずおサルは女性専用の内風呂いきゅ」
作戦の難しい宿だった💦
それでは温泉探検に出発!
=福島屋の特徴=
■温泉
・冬期休業かつ酷道経由の秘湯
・硫化水素臭かぐわしい極上泉(3源泉)
■部屋
・宿泊棟(旧館と新館)+自炊棟
・テレビ、金庫あり
・エアコンなし(夏の昼間は厳しい)
■料理
・地元食材で作る丁寧なお膳料理
・アルコール類の自販機あり
=当館の温泉攻略法=
■浴場
・露天風呂(岩風呂、檜風呂)、内風呂(大浴場)は混浴
・露天風呂2箇所には女性専用タイムあり…詳細別添
・女性専用(内風呂)あり
・内風呂入替なし
■泉質
・女性内風呂:上の湯+下の湯混合泉
・それ以外:上の湯
・自然湧出、非加水、無濾過、かけ流し(なので基本的に熱い)
■利用時間
・24時間利用可能
・清掃時間あり
■貸切利用
・檜風呂のみ
・予約制(17:30~21:30)、21:30~翌9:00は予約不要
■日帰り利用
・一般600円(税込み)9:00~16:00
男性客の場合、入浴可能な浴場は全て同一源泉。しかも9時から16時まで日帰り客がいるのでバージン湯は夜間もしくは早朝狙いだ。湧出量はそこそこあるので湯の入替わりも早いだろう。まずはメインの大浴場。そして夕方、おサルと檜風呂を貸切り利用。岩風呂は夜間もしくは早朝に利用することにした。
黒光りする廊下が古い時代の記憶に誘う。
新館の渡り廊下を伝った階下が大浴場だ。
ちなみに新館のロビーはこんな感じ。
「モダンだにゃ」 おサルは風情がある方が好き
階下に降りる。
ここだ。
脱衣場は広く、そして清潔。
おおう。好い感じで灰濁色に。
源泉は無色透明。空気に触れて濁るそうだ。天候や日によって、灰色、白、灰青色と変わりする。
天井も高い。さすがに熱めなので長湯する客は殆どいない。
「結構ヘイキ」
ヘンタイだよ。
まずは汗を流そう。
析出成分が御影石を黒、茶、緑に染めている。唐三彩のようだ。
ちなみに女湯はこんな感じらしい。
「一段低くなっていて半円形の浴槽だったにゃ」
白い湯の花がたくさん浮かんでいた。
(成分表)
圧倒的にナトリウム、硫酸、炭酸水素のイオン含有量が突出している。色だけで判断すると、かなり強烈なイメージだが、硫化水素臭は限定的で、云われればそうかもという程度の塩味がする程度でほぼ無味と言っていい。寒い季節に良さそうだ。これんけどね。
ということで長湯できないので、一旦休憩して、檜風呂に向かった。
左が岩風呂。中央が檜風呂。右の吊り橋を渡って尾根を越えれば大滝に至る(片道40分)。一般客は通行料200円が必要だが、宿泊客は無料だ。
岩風呂を偵察。川沿いを30㍍ほど。
脱衣場は奥。
外気に触れているぶん、暑さは和らいでいた。
ということで檜風呂へ。
「相変わらず慌ただしいのー」 ゆっくりできんのか
激熱だった…。湯揉みしても長く入るのは無理だった…。
滾々と湧いている。
休憩室で本を借りて読むことに。
かたや、おサルはいつもようにスマホいじり。しおらしくしているのには訳がある。
「今日は酷い目にあった」
そう。実は女性タイムを利用して岩風呂に行った帰りのこと。徒然太腿の裏に激痛が走ったそうな。見れば真っ赤に腫れあがっているではないか。アブにしては酷すぎる。ひょっとしてクロスズメバチにやられたのか。
「黒いワンピース着てたし」 クマと間違われた?
強ちおかしな話ではない。おサルは以前北アルプスのブナ立尾根を登っている際に、やはりクロスズメバチに刺されて大変な目にあっている。二回目となればショック症状が出てもおかしくない。そのうち足裏全体は真っ赤に腫れあがり、関節にも影響が出るほどになった。宿から中和剤をもらったが、あまり効果がなかった。
お酒はやめた方が好いかも。
「イヤだ!飲む」
風呂もよくなくない?
「絶対はいゆ」 なんのこれしき
云っても聞くタイプではないので様子を観ることに。そして、あっという間に夕食の時間に。
=夕食=
お膳を廊下で受け取り、自分たちでご飯をよそう。
「山形も鯉食文化なんだの」
米沢鯉の洗いだね。鰆は胡桃味噌仕立て。
お品書きだ。湯治主体の山奥の宿だが、料理は一流だ。
酒もそこそこ。無難に東光の純米酒を頂戴した。
夏酒にぴったり。
「フルーティでやや辛だの」 うみゃい ←結局飲んでいる
鉢物の牛の大和煮がコッテリして美味かった。
蕗味噌の味噌汁。苦味があって大人の味だった。
氷菓も豪勢だった。ご馳走様でした。
ということで酒を覚ましてから、深夜のバージン湯ゲットに向かった。
昼間とはまた違った風情。当然のように誰もこない。
「えーのう。バージン湯」 ←結局入っている
=翌 朝=
山を覆っていた積乱雲も消えて、再び強い朝陽に山あいの宿が照らされ、一日が始まった。
=朝 食=
ご飯が旨すぎて困る。昨晩に続き、朝もお櫃は空に。
食事を終えて、また家族風呂に向かう。
朝のうちは湯の濁りも薄い。二日目も非の打ちどころのない晴天だった。ふと思った。大滝まで往復1時間半あれば行ける。こんな青空のもとで滝を観る機会などそうそうあるものではない。山歩きなど毛頭頭になかったが、行こうと思えば行ける。
行ってみる?
「えーよ」
いつもの二つ返事。心強い妻だった。
チェックアウト前に滑川大滝まで沢歩きすることにした。
(つづく)
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