名建築シリーズ24
兵庫県立美術館
℡)078-262-1011
往訪日:2023年7月22日
所在地:兵庫県神戸市中央区脇浜海岸通1-1-1
開館時間:(月曜休館)10:00~18:00
アクセス:JR神戸線・灘駅から徒歩約10分
駐車場:80台(9:45~19:00) 2時間以内400円
設計:安藤忠雄+安藤忠雄建築事務所
施工:大林・清水・鴻池・神鋼興産・明和・山田JV
竣工:2001年
《なんだか判らないけどスゴイ庇》
ひつぞうです。ひと月前に兵庫県立美術館で開催中の企画展を観に行きました。実は目的がもうひとつ。ここは安藤忠雄さんが設計した現代の名建築なのです。折角なのでしっかり見学させて頂くことにしました。以下、往訪記です。
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安藤忠雄さんはスゴイ。プロボクサー志望なのに、いきなり建築家に転向した。そして(大学などの)専門教育を受けずに、猛勉強の末に一級建築士の試験をパスした(なんでもそうだが、二級と一級では難易度に雲泥の差がある)。更に更に、海外渡航が一般的でない時代に辺境を放浪した。その後の活躍は御存じのとおり。すべてが糧となり、日本を代表するプリツカー賞建築家になった。
世界が注目する安藤作品。実は出身地の関西に集中している。気づかないだけで、身近な建物がそうだったりする。兵庫県立美術館もそのひとつ。阪神淡路大震災で被災した旧・兵庫県立近代美術館を継承するかたちで、復興のシンボルとして2002年に開館。神戸出身の小磯良平、金山平三のコレクションで知られている。
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往訪当日。この日も暑かった。いつものように開館時間に合わせて阪急・灘駅で降りた。
駅前の緩い坂道をくだれば、美術館まで真っすぐに繋がっていた。
「なんかオブジェがあるにゃ」
見えてきたよ。あれだね。
「建物にカエルが登ってる」
“美かえる”だよ。大天使ミカエルに掛けてるのかな。
企画展を観る前に、建物とパブリックアート広場を回ろう。
まずは二階から内部を拝見。
安藤さんらしいヒンヤリしたコンクリートの質感がたまらないね。
中央の螺旋階段で一階に繋がっている。
「迷路みたいな造りだの」
建物自体を回遊式に鑑賞するというコンセプトなんだ。前庭に出てみよう。
「なんかある」 巨大ミミズ?
元永定正(1922-2011)《くるくるきいろ》2009年
元永さんは神戸で活躍した美術家で、油彩、彫刻、写真、そして絵本などマルチに活躍した。ししいわハウスに飾られていた鷲見康夫と同じ具体美術協会に所属した。なので抽象的な前衛芸術が主体。なんだけど、曲線や暖色が多用され、温かみとユーモアを感じさせる。なんか観ていて心穏やかにならない?
「サルには黄色いウナギに見える」
山口牧生(1927-2001)《日の鞍》1975年
これは第6回現代日本彫刻展出品作だ。
「確かに鞍みたいな形だの」
西宮育ちの山口さんは京大で哲学を勉強したんだけど、卒業後は石の彫刻に目覚めて屋外作品を数多く残した。とりわけ能勢黒と呼ばれる黒御影石に魅せられたそうだ。これもその黒御影だよ。彫刻とその影が織りなす佇まいに、譬えようのない存在感、そして優しさがある。
新宮 晋(1937-)《遥かなリズム》 1979年
“風の彫刻家”として知られる新宮さんも、最初は油彩からスタートしている。風を受けてひと時たりとも同じ形に留まらない金属の翅。静かな時の移ろいを感じるよ。
しかし、暑いな…。
「巨大な人形があるにゃ」
あれ!あれはヤノベケンジでは?
ヤノベケンジ(1965-)《Sun Sister》2015年 FRP、SUS、鉄
阪神淡路の震災復興を願って制作された。手にするのは希望を表す輝ける太陽。やはり福島の復興を祈念した《Sun Child》がパブリックアートとして市内に設置されたけれど、放射能をイメージするとして市民から撤去要請が出たのは(説明を加えても誤解ゼロを担保できない)現代アートの在りようの難しさを表した事件だった。
「でもそういうハプニングも含めてアートなんじゃ?」
良いこと言うね。
元永定正(1922-2011) 《きいろとぶるう》 2011年 FRP
では屋上庭園へ。
コンクリートの庇が巨大なのが判るね。
「よく折れないよ」
突きあたりに青りんごのオブジェがある。行ってみよう。
「なんで青りんごなのち?」
詩人サミュエル・ウルマンの『青春の詩』の一節とともに、安藤さんのメッセージが記されている。
曰く「青春とは人生のある期間ではない。心のありようなのだ」と。そして「目指すは、未熟で酸っぱくとも、明日への希望に満ち溢れた青りんごの精神」だと。青りんごは挑戦の象徴なんだよ。
最近、身体能力や機能の衰えが目立ち始めて、少し気鬱になることもあったけれど、勇気づけられた気がする。何たって安藤さん自身が困難な病と戦いつつ、現役で建築家を続けているんだから。
「甘えんな」
はい。
こういう螺旋構造も特徴的。
デザインもすごいけど、構造的に成り立たせる処がすごい。
「お弟子さんがコンピュータで解析するんじゃね」
コンピュータの進歩がなかったら、設計の自由度は一足飛びに進まなかったかもね。
天井のテラス。
自腹で設計・建設し、2019年に美術館に寄贈したAndo Galleryを訪ねて終わりにしよう。
国内外の建築プロジェクトの模型がお出迎え。
「巨大な建物の中にコンクリートの円筒が入ってる」
パリのブルス・ドゥ・コメルスだね。フランスのモード系企業ケリングの代表フランソワ・ピノーが五年越しの悲願で完成させた美術館だそうだ。
これも安藤&ピノーの作品《プンタ・デッラ・ドガーナ》(ベネチア)。
《直島 一連のプロジェクト》
瀬戸内の島々で手掛けた作品たち。地中美術館は一度行ってみたい。
県立美術館のイメージパース。
《六甲の集合住宅》
どんな住み心地なのだろうか。
《震災復興プロジェクト》
美術館だけではなく、水際広場も含めてデザインしたことが判るね。
そして、一番好きな作品がこれ。
《光の教会》(1989年)
縮尺模型だけどよくできている。
「おう!美しい」
一度心を洗われたいよ。
他にも処女作の《住吉の長屋》(1976年)とか。
「昔の大阪の市街地住宅はみんな長屋だったにゃ」
《水の教会》(1988年)
ここも憧れだな。季節ごとに水上の十字架のイメージが変わるって。
ということで駆け足で見てきた。この後は一階に降りてようやく美術館に入場だ。
「また一日がかり~?」
(つづく)
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