名建築に泊る「ししいわハウス軽井沢」(長野県)①【宿泊篇】 | ひつぞうとおサル妻の山旅日記

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ひつぞうです。
おサル妻との山旅を中心に日々の出来事を綴ってみます。

名建築シリーズ13

ししいわハウス軽井沢 No.1

℡)0267-31-6658

 

往訪日:2023年4月28日~4月29日

所在地:長野県北佐久郡軽井沢町長倉2147-768

滞在時間:(IN)15時~(OUT)~11時

食事時間:(D)18時~(B)7時30分~

■宿泊:【No1】11室 【No2】12室

■アクセス:JR軽井沢駅から車で約10分

■料金:【No1宿泊】ツイン46,000円(税別)+サービス料15%

※部屋ごとに料金が異なります。

※夕食は別料金。朝食のみ宿泊料に含みます。

 

《新しいタイプのラグジュアリーステイ》

 

ひつぞうです。今年のGW初日はSHISHIIWA-HOUSE(ししいわハウス)に滞在しました。ここはシンガポールの投資会社代表フェイ・ホアン氏が2019年に開業した、軽井沢の自然をコンセプトに掲げたラグジュアリー・リゾートホテルです。既に全国に同様な施設を展開中で、おサルが一度は行きたいと言っていたのをメモしていました。特筆すべきはプリツカー賞建築家の坂茂(ばん・しげる)氏がデザインを手がけた点です。現代の名建築に滞在して、大自然を満喫しながら、心のデトックスを図る。愉しそうです。以下、滞在記です。

 

「料理も素晴らしいのち♪」サル たのすぃみ~

 

★ ★ ★

 


追分宿から中軽井沢を越して草津へと続く国道146号を北に向かった。別荘地が集まるセゾン美術館入り口の前にししいわハウス軽井沢(以下SSH)はあった。道を挟んで西に駐車場、東に宿泊施設。ホアン氏が家族や友人を迎えるためのゲストハウスとして構想したのが、そもそものスタートだった。その建物が《No1》。蛇のようにうねった構造が特徴的。

 

 

国道脇に立つレストランとの複合施設が《No2》。どちらも受付はNo2の二階になる。

 

 

建築ツアー(無料)を予約していたので、概要はそこで知ることができた。ざっとメモしておこう。

 

《No2》

 

 

まずは《No2》から。一階がゲストルーム。二階がオフィスと2022年オープンのザ・レストラン。ここを利用せずしてこれからのSSHは語れない。事実WEBでも「今後はレストランに力を入れていく」と宣言している。シェフは渋谷で腕を磨いた岡本将士氏。地産食材を活かした創造性豊かな料理が魅力らしい。レストランのテラスまでスロープが空間を繋ぐ。

 

 

振り返るとこんな感じだ。一階客室が丸見えになってしまうので、スロープ利用は18時まで。

 

 

坂茂先生といえば、昨年開業した淡路島の全長100㍍のウッドデッキつき座禅リトリート&レストラン《靖寧》が話題を呼んだ。いずれの作品も合板や紙管を再利用した軽量素材でできている。

 

 

ここがテラスだ。昼時にはティーラウンジとして利用できる。

 

 

外部の森とシームレスに繋がった空間。自然木のシラビソやコメツガから漂うフィトンチッドがリラックス効果を与えてくれる。

 

「またいつもの妄想が始まっただよ」サル

 

 

フロントとレストランを繋ぐ通路にはオフィス専用ドアがついているが、格子模様を組み合わせることで目立たなくする配慮が図られている。

 

 

御覧のように切妻の天井には大きな梁がなく、また支柱もゼロで伸びやかな空間が広がっている。これはLVL(Laminated Veneer Lumber)と呼ばれる4mm程度の単板積層材を使用しているためだ。角材は天然の木目が綺麗だが、歪みや割れを生じやすく、強度的に脆弱だ。“建材っぽさ”は否めないが、そのぶんLVLは強度で勝る。また、梁部にトラス構造を採用することで耐震性も高まる。結果的に無粋なブレースを減らし、見通しのよい空間が確保できるのだ。

 

「部材一個の見た目よりも全体の美しさが優先されているんだにゃ」サル

 

 

椅子やテーブルも再生材による合板や紙管を多用。ここは好みが分かれるかもしれない。高級素材てんこ盛りのラグジュアリーホテルに慣れた客層からは、やや不満の声も聞こえてくる。ネット上での評価が極端に分かれるのもSSHの特徴だ。今回は《リゾートスティ》《建築》という二つの側面から公平な感想を記していくつもり。

 

 

いずれにせよ、坂茂先生の建築は、構造美強度、そして、今流行りのSDGsに則した設計思想を実現していると言えるだろう。

 

 

というのもLVLは間伐材などの若木の再生素材だからだ。

 

 

屋根の中央に主柱がないでしょ。

 

「ほんとだ」サル すげー

 

 

空間を広くみせるためにオフィス部の目隠しに鏡が嵌め込まれている。工夫が細かいよね。

 

では階段を通じて一階へ。

 

 

螺旋階段も天井が広い。曲線も不均一。自然な感じだ。

 

 

ゲストハウスだ。通路には写真や絵画など現代美術がたくさん展示されている。

 

 

内部も見せて頂いた。

 

《No1》と比較すると《No2》の室内はシンプルだ。目隠しも低い。「外から丸見え。道路脇で騒々しい」というコメントも理解できる。だが、SSHはパブリックスペース比率が50%と高く、ゴルフ、乗馬、トレッキングなど、アクティビティ環境も充実している。そのため、個室は就寝用と割り切れば(騒音に対する反応の差はあるだろうが)これで十分なのかもしれない。つまり、滞在目的に応じて部屋を選んだほうがいいということだ。静かな滞在が目的ならば、《No1》の上層階をお薦めする。

 

ポイント① 宿泊の目的に応じて部屋を吟味しよう

ポイント② イメージとのギャップを感じないように事前調査は怠りなく

 

《No1》《No2》共通だが、LVLで建築されているため、振動や隣室の声は伝わりやすい。

 

《No1》

 

 

いよいよ僕らが宿泊する《No1》だ。

 

 

合板なので建材の素材感はこんな感じ。

 

設計思想を理解しないと「なんだか安っぽいわ」と誤解しかねない。

 

 

《No1》は三つのクラスター(集合)に分かれている。その中心に、ミニキッチンつきのコミュナルスペースが配置され、3~4室の宿泊者が交流できる。実はこれがまた、日本の客層で評価が分かれる点だ。これは(ドミトリーに慣れた)インバウンド想定のコンセプトではないだろうか。山小屋では他人同士和気藹々でも、旅先では家族だけでのんびりしたいというのが大方の日本人客の意見ではないか。気持ちのいい同宿者であればいいが、価値観の異なる客だと…あとは言わずもがなだろう。

 

ネガティブな記述になったので話題を変えよう。

 

この曲がりくねったスタイルは敷地に生える天然樹を避ける工夫から生まれたそうだ。

 

ギュンター・フォルグ《グリッドペインティング》(奥の絵画)

 

ミニマリズムとサステナビリティを意識した特注のインテリア。

 

 

ゴシック様式の教会のようだ。この合掌型の部材はAフレームと呼ばれ、工場製作されたプレファブ材を現地でクレーン架設した。こうすることで現地工程を短縮できるわけだ。軽井沢は(避暑地という地域特性から)条例で工事期間が厳しく規制されている。その意味でも相応しい工法だったんだ。

 

「ふむふむ。そうだったの」サル あんまり判らないわ

 

二階の《ライブラリー》にも行ってみよう。

 

 

高度感あるね…。建築、現代アート、文学などなど。本好きにはたまらない。

 

 

足許スケスケなんだよね。

 

 

吉本隆明、クンデラ、イザベラ・バード。松岡正剛先生のような選書。これは目利きの仕事だ。

 

 

照明も凝っている。釣り竿のようだ。

 

満喫したところで外の回廊を通じて客室へ。

 

 

トウゴクミツバツツジに…

 

 

(堀辰雄を意識したのだろうか)馬酔木に…

 

 

今が盛りのアズマシャクナゲ。本当はまだ早いのだけど…温暖化は進んでいるようです。

 

 

その前に二つ目のクラスターも覗いてみよう。

 

ここは吹き抜けじゃないんだね。

 

山田正亮 《Work C.p96》(右)

 

山田正亮は版画家の浜口陽三先生と自由美術家協会で同人だった画家だそうだよ。

 

「浜口?だれそれ?」サル

 

さくらんぼの色彩版画観たでしょ(というより自宅の壁に飾ってあるのだが…)。

 

「そーいわれてもにゃ」サル あれこれ観すぎ

 

鷲見康夫 《magi 913》

 

戦後に活躍した具体美術協会鷲見康夫(すみ・やすお)(1925-2015)の作品だ。鷲見さんは画家としては変わり種で、関大や立命館で経済を学んで社会科教師になった後、級友の勧めで同人になったという。算盤球で描く抽象画が特徴。もちろん海外でも評価が高い。

 

「ここにあるくらいだからにゃ」サル アジアのすーぱーりっちには適わんよ

 

では僕らの共有スペースへ。

 

 

身贔屓か、ここが一番開放的。

 

 

こーんなに広い!ゴロゴロしてもいい!

 

「でもできないよね」サル 悲しき日本人!

 

急に他の客が来ると思うと…。

 

「いいんだよ」サル コンセプトを活かせないヤツだの

 

今井俊満 《Soleil Revant》 (右壁)

 

二階から見下ろしてみた。

 

 

建物が新しいからより美しく感じるね。

 

「家具にも全然狂いが出ていないって」サル

 

 

どうでしょうか。参考になったかな?

(ちなみにこのスペースは全く利用しなかった)

 

 

靴は右の戸棚に仕舞いましょう。脱ぎっぱなしにすると、不協和音が生まれそう。

 

「外国人は全然気にしてなかったよ」サル

 

中国系の若い客が多かったね。SNSで広まっているんだろう。

 

「ていうか8割は外国人だったにゃ」サル 円安だし

 

確かに夕食抜きで二人で46,000円+サービス料というのは、余程好きじゃないと怯むね。

 

「ありがとーにゃ♪」サル ゴチソーサマ

 

払いは僕らしい…。

 

 

自由に使用できるよ。コーヒーも沸かせる。

ただし、持ち込んだお菓子とかを共有スペースで食べるのは止そうね。

 

 

ささ。自分たちのねぐらへ。

 

ザオ・ウーキー 《The Ink Garden》 (左壁)

 

やっぱりここが一番落ち着くよ~。

 

 

他の部屋はベランダが繋がっているけれど、この部屋は専用なんだ。

 

 

ちょうどシャクナゲが満開。もう少し気温があがると羽虫攻撃に曝されそうだけど。

 

「ベストタイミング♪」サル 朝夕は肌寒いくらいだったにゃ

 

 

バスルームはこんな感じ。トイレは別だった。

 

ただ、ここで問題が。多くの口コミで「水の導線が悪い。びしょ濡れ」とあったが、確かにこれは首肯せざるをえない。カーテンがないので、シャワーを使うとガラスの脇から水がダダ洩れ。そして排水孔までがフラットかつ奥まっているので、全然排水できない。これには参った。確かに最高級リネンのバスマットが二枚あるんだけど、ふかふかなので、一度使うとズッシリ水を含んでしまう。だから二度は使えない。あとシャワーヘッドの結束部が緩くて漏れまくり(笑)。あー、結局、僕も愚痴っているよ。

 

 

トイレは最高だった。

 

 

部材はこんな感じ。どう判断するかはお任せ。テレビ、ラジオは当然ありません。

 

では(SSH No1の代名詞ともいえる)グランドルームへ。

 

 

ここは大満足だった。暖炉の前には現代アートのようなモダンリビング。緩やかに流れるヒーリングミュージック。

 

 

陽が傾けば印象も変わる。

 

天井の放射状の梁を見て「おろ?」と思った。これって何かに似ている。

 

そうだ。F・L・ライトの弟子、軽井沢ゆかりの建築家アントニン・レーモンドの別荘《軽井沢新スタジオ》そっくりだ。構造的には当然の帰結なのかもしれないけれど。でも先行作家へのリスペクトを感じるよ。

 

「ぐーぜんだと思うけどにゃ」サル

 

叩きつぶすね。

 

 

軽食をオーダーしてここで頂戴することもできる。ちょっとお高いけどね。

 

 

テラスはこんな感じ。

 

 

癒されるね。窓は電動式。

 

 

見学中に実演してくれた。

 

 

全てが芸術作品。

 

《No3》

 

ご厚意でオープン間近の《No3》も外から見せて頂いた。

 

 

こちらは、やはりプリツカー賞建築家の西沢立衛氏の設計だ。十和田市現代美術館や瀬戸内海の豊島美術館など、美術館建築の分野で優れた作品を残している。ちなみに奥さんも先般プリツカー賞を受賞した建築家の妹島和世氏。あの金沢21世紀美術館をデザインしたね。

 

 

坂茂先生とは全然コンセプトが違うね。高さ違いの矩形の建物が庇と回廊で繋がっている。

 

 

寝殿造を模したんだそうだ。建材は檜造りで調度も伝統とモダニズムが一体になった作品。恐らくこれまでのコンセプトと違うものを求める意見を取り入れたんじゃないかな。いろいろ勉強になった。なお、建築ツアーは宿泊予約時にネットで申し込む。16時開始で約1時間。きっと新しい発見があるだろう。

 

「笑顔がチャーミングな女性の解説だった」サル オススメ

 

(VOL.2:食事篇につづく)

 

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