サルヒツのグルメ探訪♪【第205回】
よし乃
℡)06‐6850‐7883
カテゴリ:割烹料理
往訪日:2023年7月21日
所在地:大阪府豊中市中桜塚2‐28‐3
営業時間:(不定休)
(L)12:00~14:00(4名以上)
(D)18:00~22:00
アクセス:阪急宝塚線・岡町駅から徒歩3分
■12席(カウンター6+座敷6)
■予算:10,000円(税別)他
■予約:要(前日まで)
■支払い:現金のみ
■駐車場:なし(コイン式駐車場あり)
《ミシュランが認めた匠の技》
ひつぞうです。舞洲工場見学の日の夕方、阪急宝塚線沿線にある割烹料理の名店よし乃まで足を運びました。以下、往訪記です。
★ ★ ★
「行ってみたいお店があるのち」
今回もおサルのリクエストから始まった。チマチマした努力が報われたのだろう。予約が取れない店に旨く潜り込めるというのだ。
「7時からだったら取れるって」
ベテランの主が一人で切り盛りしているため、こなせる客の数が限られる。実はこの店、ミシュランガイドひとつ星。唯一の懸念事項はその主が職人肌であること。この三百番目の舌を持つ似非グルマンの僕の、聊か落ち着きのない態度を許してくれるかどうか。とても気にかかるところだ。
「怒られそうだのー」 気難しいかもよ
南方駅で阪急電車に乗り換えた。少し混みあう金曜の午後。汗ばむ首筋が気持ち悪い。岡町駅で吐き出されると、人通りの絶えたアーケード街に、仕事帰りの勤め人たちが散っていく。
東口の原田神社の境内脇の狭い路地を抜けていった。飛鳥時代から続く由緒ある社で(江戸時代の再建ながら)本殿は重要文化財に指定されている。大きな白塗りの土蔵を唖然と見あげながら先に進むと…
ここにも感じのいい店があるよと軽口を叩いたが、なんのことはない、そこがよし乃だった。少し早くついてしまったが、6時開店のところを「7時でお願いします」と言われたのだ。10分も早く入っちゃ怒られるだろ。ふつう。
「後から来たお客さん入っちゃったけど」 さーどうする
入っちゃうか。うちも。
予約している旨伝えると普通に通してくれた。カウンター席だった。奥の座敷では団体(勤め人だろう)が食事そっちのけで大盛り上がりしている。少し喧しい。飲み物を訊かれたのでメニューを開いた。
ワインと云えば別メニューが出てくるのだろうが、折角の割烹料理。酒でいこう。
=前菜=
ジャコと青ピーマン
鱧豆腐 なまり節
美しい。割烹の醍醐味だ。青い蔦の若葉が涼味をそえる。
「お酒は?」
お姐さんが奥に隠れてしまったので、恐る恐る店主殿に「あの~。お酒っていただけますか」と訊いた。
だが、非常に残念なことに、完全に無視された(のか、仕事に集中しすぎて気づかなかったのかも)。
止まり木の上の鳥のように、凝然と固まった僕らふたりは、次の句を告げることもできず、椀の上に身を屈めて菜箸を振るう店主を見つめる以外に術がなかった。先に入店し、涼し気にビールを飲んでいる夫婦連れは常連らしく、時折、近況を語っているが、店主殿は軽い受け答えだけで忙しそうだ。そこへお姐さんが戻ってきた。
松の司(本醸造)にした。前菜には優しい酒が似合いだが、ご無沙汰している生酛っぽいコクのある酒が飲みたくなった。
「ほんとだ。ほとんどミリン」 むひ~
=椀物=
汗をかいた梨地の椀が美しい。
開けてみた。
絹ごしにつぶ貝とズッキーニを載せて酢橘で香りづけ。繊細なダシの風味を舌の奥で味わう。
二本目は《作 純米 穂の智》。フルーティな香りと控え目な甘味。
作らしさを和食で味わうなら純米酒だ。
「飲みやすい」 コリなら大丈夫
=お造り=
ネタといい、盛りつけといい、とても豪勢。そして備前の器もいい景色だ。
(左から順に)四葉胡瓜、シマアジ、甘鯛、ケンケン鰹、オクラ、白とり貝、鱧
「甘鯛はねっとり、シマアジは弾力すごい」
ケンケン鰹とは和歌山すさみ沖で続く曳網一本釣り漁法で得られる鮮度抜群の鰹らしい。舟上でしめるので鰹の血の味が苦手なのというサルみたいなナンパな客でも大丈夫。プリプリの弾力が愉しめる。
「旨すぎる」 くれ酒!
そして、特筆すべきは白とり貝。貝の噛んでも噛んでも噛み切れないのが厭なのという客でも問題なし。貝なのにフワフワでトロトロ。どうしてこんな食感が可能になるのかフシギで仕方ない。そして旨い!
=煮物=
枝豆入り真薯の甘鯛饅頭
蒸したうるち米を甘鯛で包み、山椒と本わさで風味を利かせた一品。やはり繊細な関西ダシが光る。
一斉提供なのでカウンター全員に配膳したのち、ご主人が早口に解説する。なので記憶に留めるのに(酒も入っているので)かなり苦労した。多少の思い違いは許して。
=焼き物=
ひと口ステーキ
ロース(上)とフィレ(下)の贅沢な二段重ね。ウィスキーと醤油でじっくり焼き色をつける。脇を固める銀杏は熊本産。軽く粗塩が振られている。まずは肉そのもの、次にマスタードを軽くつけて。使い込まれた角皿は九谷かな。さて次の酒は…
黒龍がきれたらしい。山の上ホテルで飲んだばかりだが、村上の鄙願にした。口に含んでみると先日の染み入るような繊細さよりも、男酒の余韻のような力強さをほのかに感じた。BYが違うのか。それとも気のせい?
「おサル白ワインにすゆ」
ご自由に。どう?
「旨い!」 やっぱ白ワインが好き
ここで奥の団体が出ていき、途端に静かになった。すると、手が空いたせいか、店主殿が少し能弁に語り始めた。なんだ。頑固一徹居士じゃなかったのね。
=強肴=
お蕎麦
あこう(アカハタ)の煮つけ
葱油と醤油の風味が抜群。あこうってなんだろね、と会話していると、店主殿がグイと乗り出して「アカハタですよ」と鮮魚図鑑を厨房の下から取り出して解説してくれた。なに。いつも説明用に図鑑を準備しているってこと?
「クエの仲間だった」 クエも大好物
納豆醤油で頂戴する鰹のたたき
酒の当てがないじゃないと、別誂えしてくれた。店主殿、実は優しくフレンドリーだった。
「コワい人かなと最初ビビってた」
多分僕らとそんなに年恰好違わないじゃない?
=御飯・汁物=
貝汁も粒が大きい。
これが白米に合うのよ。
=冷菓=
交野(かたの)のデラウエア 鳴門金時の餡巻風 黒糖ジュース
久しぶりに食べた。子供の頃は甘酸っぱいだけの種無しブドウだったけれど、さすが特産を謳うだけに旨味、甘味、渋みのコントラストが抜群。ただ酔っているだけかもしれないが。鳴門金時も丁寧な仕事だった。
道頓堀の名店、割烹吉川で修業されて、この地に店を構えたそうだ。訪れるたびに一品として同じ料理は出てこないらしい。もし次回があるとすれば、季節を違えて、旬の素材を味わいたい。そんな贅沢な空想にひたりながら店を後にした。星つきなのがよく判る。
帰りのアーケード街は迷路のようで、方向音痴なおサルに酔眼でつき従い、全然違う通りに出たのは後の祭りだった。
「頼り切るのはやめて」
(おわり)
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