名建築を歩く「大阪広域環境施設組合 舞洲工場」(大阪市・舞洲) | ひつぞうとおサル妻の山旅日記

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ひつぞうです。
おサル妻との山旅を中心に日々の出来事を綴ってみます。

大阪広域環境施設組合 舞洲工場

℡)06‐6463‐4153

 

往訪日:2023年7月21日

所在地:大阪市此花区北港白津1‐2‐48

見学開催:(日曜以外可能)

・10時/13時/15時スタート(1日3枠)

・10日前までに応募(先着順)

見学時間:90分

見学料:無料

見学者数:9人以下

アクセス:JRゆめ咲線・桜島駅から舞洲アクティブバス乗車「環境施設組合前」下車

駐車場:あり

※オープンデーあり:10時~16時(予約不要)

 

《USJじゃないよ清掃工場だよ》

 

ひつぞうです。7月中旬に此花区の舞洲工場を見学しました。外観からは想像できませんが、ここ、ごみ処理施設なんです。意匠設計はオーストリアのフリーデンスライヒ・フンデルトヴァッサー(1928—2000)。絵画の他に住宅、協会、美術館など公共デザインを手がけました。ごみ焼却施設としてはウィーンのシュピッテラウ焼却場舞洲工場の二基だけ。大変貴重です。以下、往訪記です。

 

★ ★ ★

 

7月21日。近畿地方で梅雨明けが報じられた翌日だった。ひと月前の予約だったので天気が心配だったが、“登山以外は絶対晴れる”ジンクスをこの日も発揮。雲ひとつない晴天だった。その変わり朝から灼熱地獄だった…。大阪駅でゆめ咲線に乗り繋ぎ、桜島駅で降りる。九州出身の僕には違和感のある駅名だ。

 

事前の調査では、ここからバスで移動する。駅前の2A系統に乗ればひと区間。此花大橋を渡るので10分程度だ。

 

「すぐだにゃ」サル

 

しかし、好事魔多し。JRの遅延が遅延を呼び、ゆとりを持って出発したにも拘らず、連絡バスの出発ギリギリになってしまう。桜島駅はUSJの隣駅なのでバス利用者は多い。すごい行列だ。道路を渡ったバス停のはずだが、あっているのか。タクシーは全て予約車で万事休す。定刻を過ぎて一台やってきた。運転手に訊く。

 

咲洲行きですよね?

 

「いきませんよ。途中で乗り換えてください」👨

 

え?隣のバス停なのに?

 

焦っているし、土地感も怪しい。観念して飛び乗る。暫くして立派な斜張橋を越えると、おとぎの国のような建物が見えてきた。そうか。舞洲咲洲と無意識に間違えたんだ。あっていたよ。

 

「そうだよ。“まいす”だよ」サル バカなんじゃね

 

舞洲と書いて“まいしま”って読むんだよ。

(大阪湾には舞洲と咲洲という人工島が浮かんでいる)

 

二人とも違った意味で間違っていた。どっちもバカだった。

 

 

現在あちこちで万博に向けて工事中だった。本当に間に合うのだろうか。

 

 

舞洲工場はバス停の目の前だった。無事20分前に到着。焦ったね。

 

 

バス停を降りてここから入場する。(関係者以外立ち入り禁止なので)普段は固く閉ざされている。

 

 

すっごいねー!大阪市の市章(澪標)がちゃんとあるよ。

 

「おとぎの国だにゃ」サル

 

玄関で待ち構えていた作業服をきた職員がワラワラと寄ってくる。関西弁丸出しで、ずっと前から友達であるかのように親し気だ。まま、座ってください、熱いでっしゃろ、まだもう一組、いや、もう二組、えーと誰やったかな、まだ来とらん人がおるな、と騒々しい。陽気な犬の群れに入ったような気分だ。

 

 

「とりあえずトイレ」サル

 

 

ひとつとして直線がないし、ひとつとして同じピースがない。

 

 

アントニ・ガウディグエル公園にも似ているが、どこか違う。

 

 

フンデルトヴァッサー氏の略歴はこのとおり。

 

「すごく読みにくい名前だね」サル

 

ドイツ語だけど英語にするとハンドレッドウォーター。つまり“百水”って意味だよ。

 

案内についてくれた職員さんはこう補足する。

 

「覚えにくい名前でっしゃろ?だから僕、水“踏んでるとバッサバッサ”て覚えてます」👨

 

なるほどね。

 

 

なんかクリムトとか分離派のスタイルに似てない?

 

 

ヴァッサー(長いのでこう表記する)氏はウィーン美術アカデミーの出身。エゴン・シーレリヒャルト・ゲルストルと同門だ。ちなみにヒトラーは受験に失敗している。というより(実作を見ると判るが)まったくセンスがない。落ちて当然だ。しかし、根に持った独裁者は、のちにアカデミー出身者たちを退廃芸術だと厳しく排斥する。ヴァッサー氏はそんな独裁者とは真逆に、戦後、環境と平和を旗印に創作に打込む。

 

 

1986年竣工のフンデルトヴァッサーハウス(ウィーン)だ。直線やモダニズム的な構成が大嫌いなヴァッサー氏は「自分は建築に不向きな人間だ」と固辞したそうだ。確かに当初は悪趣味だとウィーン市民に受け入れられなかったが、その後、人気が沸騰。現在でも空室待ちが続いている。

 

「エッフェル塔と同じだの」サル

 

時間になったので案内開始だ。

 

★ ★ ★

 

団体説明が基本のようだが、この日は平日。しかも最初の10時の枠で少ない。なので個別案内してもらえることに。

 

「よかったにゃ」サル 映り込みもないし

 

 

手摺もグニャグニャだね。

 

 

=座学=

 

まずは20分ほど映像で座学。そしてパネルや模型でデザイン誕生までの秘話を聞く。

 

 

側面図だね。建築当初から植生する計画だったんだ。

 

平成9年3月に着工し、4年の歳月をかけて平成13年4月に竣工した。総工費609億円。1日当たりの焼却量900t。粗大ごみ処理量170t。大阪市、守口市、松原市、八尾市が組合を構成する大規模処理施設だ。

 

 

まだ蔦が這っていないな。

 

「取ればいいんじゃね」サル

 

自然の一部として存在する。それがヴァッサー氏のエコロジー理論なんだって。

 

 

中央は最初のデザインだ。(左はお隣のスラッジセンターの煙突。後で紹介)

 

「どうしてダメになったの」サル

 

小部屋がいっぱい付いているでしょ。日本の建築基準ではアウトなんだよ。

 

ちなみに舞洲工場の設計費は6000万円。スラッジセンターは8000万円。

 

 

ちなみにこれが姉妹施設のシュピッテラウ焼却場

 

 

=施設見学=

 

ここから施設見学だ。残念ながら二日前からオーバーホールに入っていて作業してないって。

 

「間がいいのか悪いのか」サル

 

混んでないし。いいんじゃない。

 

 

ごみクレーン操縦室だ。

 

下に見えるのは投入扉から吐き出されたゴミの山だね。

 

「今日は稼働してないので、そんなにない方ですわ」👨

 

「そうなんや」サル

 

いいよ。無理に合わせなくても。

 

 

「あれ?クレーン動いてない?」サル

 

「燃やしやすいように(燃焼しないときも)ゴミは均すんですわ」👨

 

 

「おおー、持ち上げているよ」サル

 

「昔はクレーンの爪も替えとったけど、今は一本一本磨くんでっせ」👨

 

アイゼンみたいだね。

 

 

爪を広げた幅は約6㍍。一度に1㌧のゴミを持ちあげることが可能だ。移動式クレーンとピットの上下移動を巧みに操作して位置を決める。こういう作業者をガンマンっていう。港湾施設のコンテナクレーンもそう。高度な熟練の技が必要なんだ。頑張れ!日本の技能!

 

 

ということでおサルもやってみた。

 

「出来る気がする」サル フフ

 

おサルはUFOキャッチャーが大の得意技なのだ。

 

 

施設の断面模型ね。左から収集車がゴミをピットに投入。クレーンで吊って中央の(赤い階段状になった)焼却炉に投入。ここが心臓部だね。850℃~950℃で燃やす。受け皿には灰出しコンベアがあって、1/20に減容化されたは最終処分場(埋立地)に送られる。

 

「有毒ガスはどうなるのち?」サル

 

焼却炉の上にボイラが接続。燃焼ガスは冷却後に洗浄。塩化水素、硫黄酸化物、NOxを除去する。無害化された排ガスは煙突から放出されるんだ。無色透明で殆ど肉眼では判らない。

 

「怖いダイオキシンは?」サル

 

洗浄前に濾過式集塵器で煤塵を集めるんだよ。再び400℃で加熱分解し、キレート処理を施すんだ。

 

「なに?キレット処理って」サル

 

キレートだよ。そりゃ山でしょ。重金属を薬剤で安定化させるんだよ。たしか。

 

ちなみに大量発生する余熱は施設で再利用されたり、公共施設(温水プールなど)で有効利用されたり、発電システムに使われて売電されたりする。ごみ処分場って“迷惑施設”って呼ばれるでしょ。でも、処分場がなければ、日本はゴミの島になってしまう。だから舞洲工場は市民に広く意義を示している。

 

 

やあ。スラッジセンターだ。大阪市の汚泥処理施設だよ。大阪ってヴァッサー建築が多いんだよ。

 

 

機会があればあれも是非訪ねてみよう。

 

 

これが焼却炉だね。

 

 

スペックはこんな感じ。焼却炉にはメーカー特有のタイプがある。これはストーカ炉。ストーカと呼ばれる階段状の機械が連動して、徐々にゴミを燃やしながら送り出。そうすることで燃料効率も上がるんだよ。

 

 

ゴミ焼却には汚物の安定と減容化のふたつの意味があるんだよ。

 

「よく知っているにゃ」サル 俄か知識だろ

 

まあいろいろと。

 

 

 

ここで燃やした灰を掻き出すんだね。灰は埋立利用したり、コンクリート二次製品の原料にしたりする。

 

「余すところなく」サル

 

だね。

 

 

これは蒸気を利用して発電する蒸気タービン発電機だ。

 

 

=その他いろいろ=

 

 

昭和11年から既にトラックで収集していた事が驚き。

 

「大阪は都会なのちよ」サル 九州の田舎と違って

 

またまた急に大阪人ぶる。確かに九州はトンデモナイ田舎だったよ。

 

 

腰が悪くなりそう…。

 

 

休稼働でも回収はするんだ。

 

「昔は車止めがなかったから、落っこちたこともあるんですわ」👨 ハハ

 

マジか!サル🐏

 

 

粗大ごみは40㌢以下に破砕。

 

「鉄とかリサイクルするよね」サル

 

磁選機アルミ選別機でそれぞれ回収するよ。アルミ選別の原理は大阪市立科学館で見たね。

 

「過電流にゃ」サル 電気で吹き飛ばすやつ

 

 

ということで粗大ごみを回収してみた。

 

「簡単だの」サル

 

あれ?旨く行かん。

 

「下手すぎゆ~」サル どこ触っとんの

 

 

=屋外散歩=

 

最後に屋外へ。ヴァッサー氏は科学技術と自然、そして人間が調和できるように自然公園を設計した。

 

 

「この金の玉、いくらか判りまっか」👨

 

検討つかんよね。

 

「一個百万円でっせ。たった一個で」👨

 

ほんと、おサルもそうだけど、関西の人っておカネの話好きだよね。

 

「一番信用できるもの。それはおカネ」サル

 

ヤなサルだよ。

 

 

廃墟化しているように見えるのは僕だけか。

 

「黄色い筋は炎を表してるって」サル

 

煙突は高さ120㍍。建物は7階建て。外観だけでは判らない。

 

 

ゲートね。収集車の。

 

 

メチャメチャ暑いのでもういいです。

 

 

モニタールームを見学。稼働してないのでのんびりムード。誰もおらんし。

 

 

ということで、90分間あありがとうございました。

 

「このあとどうしまっか?」👨

 

ご飯食べたいけどないですよね。梅田まで戻ろうかなって。

 

「近くいい場所がありますんや」👨

 

徒歩5分圏内にある佐川急便の社食、舞洲食堂が一般開放されてるそうなので行ってみることに。

 

 

スラッジセンターの前を通過。舞洲食堂に到着。12時からの営業と書かれているが、既に外部の人が食事している。そのうち佐川の社員がどっと押し寄せて大行列に。よかったよ。早めに到着して。

 

 

これでワインコイン500円。ご飯は味御飯あるいは白米で大盛り自由。A、B、Cの3セットにカレーや一品料理など目白押しだ。お味もそこそこ。僕らは白身魚の天麩羅定食にした。お腹を空かした若者や家族連れも多かった。

 

まさにおとぎの国のようだった舞洲工場。以前は石井幹子さんの照明デザインで、夜間ライトアップされていた。また、そういう日が戻ってくるといいね。

 

「充実した週末だったにゃ」サル

 

(おわり)

 

ご訪問ありがとうございます。