棚山(1171m)/帯那山(1422m)/水ヶ森(1553m) 山梨県
甲斐百山 山梨百名山 甲斐百山
日程:2021年12月4日~5日
天気:(1日目)快晴 (2日目)快晴
行程:
(1日目)ほったらかし温泉6:47→8:55棚山9:17→10:30太良峠10:33→12:30帯那山12:41→12:50帯那山(三角点)12:57→14:42水ヶ森【幕営】
(2日目)水ヶ森6:30→7:15新弓張峠7:20→8:13帯那山9:07→11:10棚山11:22→12:58ほったらかし温泉
■駐車場:約250台
■トイレ:笛吹川フルーツ公園(2km下にあります)
■登山ポスト:なし
■行動時間:(1日目)7時間(2日目)5時間15分
≪帯那山高原牧場跡から富士を見る≫
こんばんは、ひつぞうです。先週末は関東の太平洋側、それも2000㍍未満の山域に好天の予報。そこでこの二年ほど懸案だった甲斐百山の水ヶ森を目指すことにしました。奥秩父の盟主金峰山の南麓は(先日の八幡尾根でも紹介したように)林道が網の目のように交錯しています。山梨市と甲府市の郡界を成す帯那山から水ヶ森に至る稜線もその例に漏れず、林道水ヶ森線を利用すれば、水ヶ森はわずか50分で登頂可能。帯那山に至っては5分(!)です。ただの山頂収集に興味がない僕は、じっくりテント泊で臨むべく、地図を睨むのがしばらく日課になりました。
★ ★ ★
【棚山~帯那山~水ヶ森(ピストン)】
水平距離=(往復)25.2km 累積標高=1600m
1999年に開業したほったらかし温泉。そのネーミングのインパクトと眼前に広がる富士山の大パノラマで一躍人気スポットになり、今でも夜明け前から100台近い車が玄関前を埋め尽くす。その先に続くのが棚山で、温泉人気にあやかり、訪れるハイカーも増えていると聞く。棚山は『山の本』の読者投稿で記憶に残っていた。わずか2時間半の登りながら侮れないという。これで起点は決まった。
★ ★ ★
話はあちこちに飛ぶが、そもそもこの山域に注目したのは帯那山が始まりだった。「帯野」の転訛と云われるだけあって、山というよりなだらかな尾根の一端という表現が相応しい。にも拘わらず“名山”の呼び声は高い。地理院地図を見れば、麓から古い山道や仕事道が幾つも交差しているが、大半は歩く人も稀で廃道に近い様子。だが、折角目指すのであれば、山麓からじっくり歩きたいではないか。ここで棚山と帯那山を繋ぐ一本の線ができあがった。しかし、『山と高原地図』はつれないことにこの二座を結ぶルートを提供していない。(いろいろ不都合があるのだろう)稜線通しの情報が得られないまま時は過ぎた。
「てかさ。めんどくさくなったんじゃね?」
まさに“ほったらかし”だね(笑)。
などと、莫迦なことを言っている場合はない。このアイデアを放置しているうちに、別のピークに興味は移った。山に関しては異常なまでに浮気性な僕が新たに見初めたのは水ヶ森。
[小楢山から見た水ヶ森](2020年3月)
それは黒富士、小楢山、羅漢寺山と、立て続けにこの山域を漁った去年の春だった。それら稜線にはへこんだ麦藁帽子のような、地味ながらよく目立つ山が常にあった。
[1750㍍のコルから望む水ヶ森](2021年11月)
そして、今回の山行を決定づけたのは、やはり先月の八幡尾根から見た逆光の水ヶ森だろう。その孤峰の佇まいに心が絆されてしまった。ここをゴールに泊りの山旅を計画すれば(多少の不確定要素はあるものの)時間に縛られない気侭な忘年会登山ができるに違いない。さいわい二日間ともに快晴の予報。冬型の低気圧が齎す冷たい風がやや気にかかるが、意気揚々未明に自宅を後にした。
「長いにゃ。イントロが」
忘れるじゃん。なんで地味地味な山で宴会したか。その理由を。
★ ★ ★
往路は(休憩込みで)ざっと8時間半と踏んだ。午後3時に幕営開始するとしても午前7時出発で構わない。途中の笛吹川フルーツ公園パーキングで仮眠したあと、ほったらかし温泉に向かった。ようやく東の空が白々し始める時分だったが、ライトを照らした車が続々と坂道を登っていく。着いて驚いた。
100台は優に止められる駐車スペースの半分が埋まっている。そんなに人気だとは知らなかった。夜明けと同時に開店なので、払暁の富士を拝みにきているのだろうか。加えて昨今のキャンプブームで隣接するキャンプ場も拡大の一途。もこもこに膨れあがった一般客を後目にウールのシャツ一枚で出発する。
ちょうどモルゲンロートに。こうしてみると棚山はただの里山にしか見えないのだが。
多くの仕事道が交錯しているが、こうして丁寧に案内板が出ている。
お次は左か。
「鹿がたくさん居るのかにゃ」
防獣ネットだらけだった。
登山口周辺は標高が低いので、まだ紅葉が残っていた。手前には御坂山塊の黒岳、釈迦ヶ岳が。
まもなく登山道が分岐する。登りは急登の重ね石コースで。
「なんで!きついじゃん」
滑りやすいんだよ。ここの道。だから急な方は登りにあてた方がいいの。
「ほんとかにゃ」
こんな感じで滑りやすい赭土の斜面に枯れ葉がうず高く積もっているから恐ろしくて。
お!これが重ね石??
違うみたいね。すごくインパクトのある岩だけど。
虎ロープが現れると本格的なスリップ街道。
「チェーンスパイク持ってくるベキだった」
持ってこなかったもんね。
(実はおサル、ザックの中に入れているのを忘れていたそうな)
「サルっぽ~い♪」
テープを確実に追えば道迷いはない。加えて案内板も多数ついていた。支尾根をまいて主稜線にタッチ。
そこが重ね石だった。
「おまんじゅうが重なっているみたいにゃ」
そういう意味だったのね。
その先は斜度も緩んで歩きやすい道に。なのにおサル、きょうは激ノロい。どうした?ここ最近の躍進ぶりは。
「久々のお泊り登山でザックが激重いにゃ」
ようやく棚山前こぶ。双耳峰になっているのだね。
なるほど。手強い低山の意味が判ったよ。
「急すぎる~ぅ!」
ようやく棚山山頂に到着。樹林の山だけど眺望スポットがあった。
甲府盆地を挟んで南アルプス。白根三山は雲に覆われていた。
毛無山から富士山まで。登らない日の毛無山は晴れる。登るとガスガス。
眼下にほったらかし温泉。そして甲府アルプス(大菩薩連嶺)。
時間が早いこともあって誰もいない。しばらく休憩して後にした。
三等三角点に別れを告げる。
この先も激くだり。虎ロープに縋ったのに、おサル転倒に次ぐ転倒。
「尻が割れた」
このあと小さなアップダウンが三回ほど続く。地味にきつい。
樹林の陰にこの日のゴールである水ヶ森が見えた。やはり目立つ山だ。
なにやら看板が。
神峰(かんぽう)に着いた。この左に「兜山」の標識があるだけで目指す太良峠の案内がない。方角は間違っていないので右の稜線へ。
暫くすると鞍部に(熊に齧られたのか)ボロボロの標識が。なので全く文字が読めない。この小さなピーク(鷹山)は直進できたのかもしれないが右に巻くことに。左にくだると岩堂峠に続くようだ。
ぐるっと尾根を水平に巻くと、そこだけ白樺が立ち並ぶ空間に出た。一の平というらしい。
朽ちたベンチが侘しさを感じさせる。大量の丸木が整理されていたので、もとは小屋でもあったのだろう。
20㍍ほど坂を登ればこの看板。そう。この直上にDoCoMoの電波塔が立っているのだ。タッチした舗装道路はそこを終点とする管理用。
太良峠までテクテク歩く。樹林から遂に帯那山が見えてきた。
「どれよ?」
真ん中かな(この時点では自信がなかった)。
鞍部は風が抜けて冷たかった。
ゲートに出た。堅固に封じられていて、とても“ふれあい”を勧めている感じではなかった。
太良峠から先は『山と高原地図』にお薦めコースが記されていない。右の林道水ヶ森線を歩いていけばそのうち間違いなくたどりつける。しかし、山旅にきて舗道を延々歩くことくらいバカバカしいことはない。
なんだよ。ちゃんと踏み跡あるじゃん。入ってみることにした。
稜線中央は立派な防火帯になっていた。これなら藪漕ぎなしで安心だ♪
それも呆気なく終了。しかも管理者は猛烈に進入(脱出)を雑木で拒んでいた。ここが旧太良峠らしい。当然峠など影も形もない。再び茨が蔓延る尾根に取りついた。
「痛~い!むきゃー!」
登りつめるとまたまた防火帯。
しかし今度は地面がブルで掘り起こされたばかりでフガフガ。なので心底歩きづらい。いったい何をしているのだ僕らは。直下を走るドライバーは、わざわざ道路傍の足場の悪い尾根を頑張って歩こうとするふたりを、奇妙な思いで見ていたことだろう。
「おしゃれな展望台があるにゃ」
ほんとだ。お城みたいだね。(ふたりともバカ丸出しである。あれもまた電波塔なのだった)
ここで積翠寺からの登山道に合流した。古湯坊とは積翠寺温泉のことである。泉質の良さと旨い手料理で一部のファンの熱い支持を受けてきたが、残念ながら休業してしまった。この少し先で帯那山林道に追い出された。林道と交差しながら登る縦走路は、実は結構あって、伊豆半島横断の旅で歩いた猫越岳から達磨山周辺を思い出す。
道路を横断して懲りずに尾根にとりつくと、今度は広大な山林工事の現場に出た。赤松を伐採して新しい植樹の準備に作業員の方々が当たっている。登山道は尾根の左側に巻いていく。稜線通しでお邪魔しないようにしよう。ここは私有地。
道を巻いていくと二体の石仏が。ここが穴口峠なのだろうか。山道が分岐していた。
西國一番の文字が。どういう意味なのだろう。仏様に無事山頂に着けるように祈願して先を急ぐ。
電波塔を巻いていくと管理用の道路に出る。このあたりから仕事道と登山道が入り組み始める。
ちょうど12時になったこともあり、作業員の皆さんはお昼の準備を始めていた。この日は快晴ではあったが、甲府盆地は霞んでいた。富士山も小さな雪煙を上げていたので上空の風はかなり強かったのだろう。
少し左に視線を移すと、この日辿ってきた稜線が一望できた。
甲府アルプスから道志山塊、御坂山塊の山々がずらり。
大菩薩連嶺も。あれも年末大晦日の二泊の山行だったなあ。
見越山の三角点を通過。ここは登山道がない。三角点は最高点ではなく、やや南側についている。再び林道に復帰して「帯那高原牧場」の看板が付された黄色いゲートの左脇から尾根にとりついた。実はここから這入らなくても、先に帯那山頂に至る分岐があったようだ。
「ひつはせっかちだからにゃ」
心配性だと言ってほしい。
右手に東屋のようなものが見えてきた。このあたりから右に入ってみた。
そこが帯那山だった。その先5分ほど進んだ場所に「奥帯那山」があるが、眺望の良いこの場所を「帯那山」としたために、「奥」に追いやられたという経緯がある。なので、ここには三角点はない。
富士見の山として知られるだけあって、ハイキングと思しき若いパーティとMTBのソロ男性が静かに休憩していた。
「まさか人がいるとは思わなかった」
このすぐ下に駐車場があるんだよ。
少しゆっくりしてしまった。まだ僕らは水ヶ森まで歩かねばならない。時刻は午後1時になろうとしていた。
後背には金峰山、国師ヶ岳、ゴトメキの三座が静かに佇んでいた。いずれもつらい記憶しか残っていない。ハードな山行が思い起こされた。
「早く忘年会しようよう」
(つづく)
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