フォーエバー・フレンズ -97ページ目

4、兄貴の心(1)

「あの子は直哉の彼女なのか?」

恵一がそんな事を聞いてくるのは、とても珍しい事だった。いつもは直哉の話題など、これっぽっちも触れようとはしない。なのに今日に限って何故そのような事を聞いてくるのか?

まどかは少し不思議そうな顔をした。

「友達って言っていたよ」

「そうか・・・」

「何?直哉君が女の子連れて来るってそんなに珍しい事なの?」

「いや・・・」

「変なの。ひょっとして詩織ちゃんに一目ぼれ?」

「馬鹿か」

詩織の病状の悪さは、恵一が一番よく知っていた。99%助からないだろう。そのように思っていた患者が、なんと自分の弟の友達とは・・・。

しかし医師としてその事を誰かに話す訳にはいかなかった。患者の個人情報守秘義務というものがあったからだ。


詩織は詩織で、まさか担当医の恵一が直哉の兄であるとは、思いもしなかった事である。



あの後二人でバスに乗って五反田へと帰るものの、恵一の顔を見たとたん急に元気の無くなった詩織。そんな詩織を見て、直哉は少し不思議な気持ちになっていた。






5月に差し掛かると、直哉の足の状況は、更に良くなっていった。しかし、全力で走るとどうしても振動で痛みを感じるのである。

軽く10kmはぐらいは流せるものの、全力で800mを走れなければ、やはり競技選手として走る事は不可能。

さてどうすれば良いか?直哉は部室を掃除しながらそんな事を考えていた。すると尾崎が、部室に入ってきた。

「おう」

「あ、こんにちは」

「お前って、意外に真面目なんだな。まめに部室を掃除するしさ」

「昔からの癖ですかね」

すると尾崎は一枚のチラシを直哉に見せた。




『スポーツ整体 ナカムラ』




そのチラシを見た直哉は、一瞬キョトンとした。「尾崎さん。これ何ですか?」

すると尾崎は自信に満ち溢れたような表情で話し出した。

「これさ、オレの友達のお父さんがやっているんだよ。結構名医らしい。一度見てもらったらどうだ?」

「でも・・・手術するお金なんて」

「誰も手術するなんて言ってない。一度診てもらおうって言ってるんだよ」

「はあ・・・」




そして部活が終わると、直哉は尾崎に連れられ、そのナカムラと言うスポーツ整体に連れて行ってもらった。


川崎駅前にあるこの整体治療院は、雑居ビルの一室にある。いかにも怪しい作りで、本当に名医なのか疑ってしまった。

「ふんふん」

そう言って、直哉の足首をグルグルと回すのは、この治療院の院長の中村である。院長といえど一人しか整体師がいない。勝手に院長と名乗っているだけである。

不安げな顔をしてベッドで寝る直哉の顔を気にする事なく、足首を回したり、アキレス腱を伸ばしたり。すると「また派手にやっちゃったんだね」と言ってきた。

「はい・・・」

「おそらく伸び縮みさせるのは平気なんだよ。問題は縦への衝撃なんだね」

「はい」

「これは手術で直るもんじゃないね」

「そうですか・・・」直哉は少し残念な顔をした。すると中村院長は優しそうな顔をしながら「体重を5kg減らしなさい」と言った。

直哉は身長178cmで、体重65kg。しかし中村院長は、これをさらに5kg減量しろと言う。

「減量ですか?」

「うん。脚力トレーニングをするのはいいけど、減量も平行して行う事。それで上体を骨と皮と筋肉だけに変える」

「は、はあ・・・」

「それともう一つ。フォームを改造しなさい」

「フォームを?」

「そう。あなたは恐らく、大またで、リズムよく走るタイプ。だから足への負担が人一倍大きい。これを、足を高く上げず、小またで地面を滑るようなフォームに変えるのです」

「地面を滑る???」


長距離ランナーにしては、体の大きい直哉。確かに足の長さを利用し、大またで、しかもピョンピョンと跳ねるようなフォームである。

中村院長は、これを、地面を滑るようなフォームに改造しろと言うのである。




整体院を出ると、外はもう真っ暗になっていた。直哉と尾崎は、川崎駅前をぶらぶらと歩いていた。

直哉は半信半疑であった。果たしてそんな簡単にフォーム改造など出来るのであろうか?

そんな事を考えていたら、尾崎が「牧野、走ってみよう」と言ってきた。

「え?今ですか?」

「ああ、やってみようぜ」


直哉は尾崎に付き添われながら、まるで地を這うかの如く走り出した。

そしてしばらく走ると、多摩川の橋へと差し掛かった。

「牧野、どうだ?」

「痛くはありません。でも、何か変・・・」

「そうか・・・明日一緒に考えよう」

「わかりました」

そう言うと二人は蒲田から電車に乗り、それぞれに家へと帰って行った。